特集 2022年9月16日

タンメンの断面を見てみよう

今回はもう、ただ「タンメンの断面」って言えれば満足の記事です。

「布団が吹っ飛んだ」とか「アルミ缶の上にあるミカン」というのは、ダジャレであると同時に、現実にあり得る情景描写でもある。

対して「タンメンの断面」というのは、ダジャレとして言葉の上では成立しているけど、現実にはあり得ない情景だ。だって丼に入っている麺類の断面なんて、普通は見えるはずないんだから。

そうなると、逆に見てみたくない? タンメンの断面。

1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

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断面を見るのは、シンプルに楽しい

そもそも“断面萌え”なんてワードがあるぐらいで、およそみんなが断面というものを好ましく感じているのは間違いないと思う。

例えば最近人気のフルーツサンドなんかは断面のビジュアルあってこそのものだし、タレが染みて黄味がやや凝集した味付け玉子の断面を嫌う人はいないはずだ。

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フルーツサンドの魅力の大部分は、断面にあると思う。
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自家製味玉の断面があまりに魅力的すぎて、しばらくうっとり眺めてたこともある。

僕は幼い頃にウルトラマンの怪獣解剖図で大興奮したクチだが、あれもまぁ断面萌えと言えそうだし。飛行機や車のカットモデルだって、ずっと見ていられるぞ。

つまり、断面にはそれだけ人を引きつけるパワーがある、ということに他ならない。たぶん。

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以前キャンプで焼いた高級肉の断面。肉の魅力(=厚み)を簡単に数値化できるのも断面の良さだ。

普段は見えていない中身が素通しになっちゃう背徳感がいいのか、機構を把握できる知的好奇心の満たされっぷりがいいのか……などと突き詰めて考えれば断面の魅力はいろいろあろう。

単にダジャレを言いたいだけで走り出した企画ではあるが、もしかしたら「タンメンの断面」にも、ものすごい萌え要素が見つかるかも知れない。

タンメンの断面は丼を切って見る

で、「タンメンの断面」なんだけど、シンプルに考えれば、丼を真っ二つにカットすればいけるんじゃないか。

あとは断面に透明のアクリル板を貼り付ければ、断面が見える丼ができそうだ。

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作業前に描いた、お馴染みの精密な設計図。まぁこんな感じでいけんだろ、的な。
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こんな感じに切ろうと作業を始めたけど、陶器の丼はここまで切るのに30分もかかった。これは手間がかかりすぎだ。

ということで、まずは丼の切断である。

最初は何も考えずに陶器の丼を真っ二つにしようと思ったんだけど…ルーターのパワーが強くないため、ダイヤモンドカッターでもめちゃくちゃ時間がかかってしまうのだ。

あまりの面倒くささで即座にプランを変更。すぐさま100均で樹脂製の丼を買ってきた。これなら陶器よりはサクサク切れるだろう。

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線に沿ってルーターの丸ノコでカット。陶器に比べたら確かに切りやすいけど、熱で溶けてささくれた破片がバリバリ飛んでくるのが鬱陶しい。
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バカッと切断完了。そろそろうっすらと「タンメンの断面」が見えてきた気がする。

真っ二つにできたら、切り口をガシガシとヤスって平面を出す。

ここに、断面に合わせてレーザーカッターで切り出した3ミリ厚のアクリル板を貼り付ければOKというわけだ。

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電動サンダーだと調子に乗って削り過ぎちゃうので、何度も確認しながら手作業で地味に削っていく。
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丼の断面に合わせてダンボールを切り出して貼ってみる。よしピッタリ。
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合わせたダンボールからカットパスを作り、レーザーカッターでアクリルを切り出し。

……なんだけど、今回はひとつ、作業上の大きな制約がある。

丼とアクリルは接着剤で貼り合わせたいんだけど、食品衛生法の関係上、一般的な接着剤は食器に使うことができない。

じゃあどうすればいいかというと、もちろん法の抜け道というのはどんなところにもあるもので。

いやそんなグレーな話ではなくて、食品衛生法をクリアした接着剤を使えばいいのだ。

ただし普通の接着剤の3〜4倍ぐらい高い。ぶっちゃけ、こんなダジャレごときに使うにはもったいないお値段なのである。

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食品衛生法対応の瞬間接着剤(右)と、同じく食品衛生法対応のシリコンシーラント(左)。どちらも一般品と比べると「マジかー」という価格だ。
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アクリル板を接着剤で貼り合わせたら、隙間をシーラントでみっちりと埋める。シリンジを使うとやりやすい。

ともかく、これなら口に触れる食器に使っても問題なし。安全性もばっちりだ。

タンメンのスープが接合面の隙間から漏れないようしっかり接着&シーリングをして24時間ほど乾燥させれば、断面の見える丼が完成である。

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試しに水を入れて丼の断面を確認。すでにそこそこバカっぽくて良いぞ。
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なにか妙な不安さを感じさせる、横から見た図。

断面丼、シンプルだけど、思ったよりも見た目が楽しい。

真横や上から眺めて真っ二つ感をじっくり堪能したら、いよいよ次は本題の「タンメンの断面」である。

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ついに実現、これが「タンメンの断面」だ!

ちなみに今さらなんだけど、タンメンというのは関東圏でのみメジャーな食べ物で、それ以外の地域ではあまり見かけることがない。

僕は関西出身なんだけど、確かに東京に出てくるまではタンメンを食べたことがなかったのだ(『美味しんぼ』で読んで、存在だけは知ってた)。

一般的には“たっぷりの野菜炒めを乗っけた塩ラーメン”のことを指すので、要するに、お馴染みのサッポロ一番塩の野菜炒め乗せ=タンメンだと思ってもらえればいい。

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ザザッと豚肉と野菜を炒めて鶏ガラスープと合わせれば、もうほぼタンメン。

ということで断面丼に茹でた麺を盛り、スープを注ぎ、野菜炒めを乗せれば……これが「タンメンの断面」だ!

しょうもないダジャレに長々とお付き合いさせて申し訳ない。懸案のやつ、ご査収ください。

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もっとバカっぽさが勝るかと思ってたけど、意外と美味しそうに感じられる断面。あと、ちょっとハカイダーっぽい。
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タンメンの断面の製作行程。

なんというか……ビジュアル的に予想から外れた感じは全くないんだけど、それでも改めて「ははー、断面はこうなってましたか」という不思議な感慨がある。想像してたよりもいいものを見た気がするというか。

底に沈んだ麺がどっぷりとスープに浸っているのは空腹感をそそるし、野菜炒めのボリュームが可視化されていることで満足感を高める効果もありそうだ。

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なにかしらのイメージ図のようにも見える食事風景。
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「カロリーハーフ」の概念を説明する図としてもお使いいただけます。

とりあえず、ダジャレをきちんと具象化できただけで充分に満足だし、なによりタンメンの断面が意外と魅惑的だということが分かったのも収穫である。

おまけ

あと、先にも述べた通りタンメンというのは関東限定の料理でもあるので、「タンメンの断面」にピンとこない人もいるかもしれない。ここまで突っ走っておいて今さら言うなって話だが。

なので念のために、こちらも用意しておいた。「担々麺の断面」だ。

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担々麺の断面はスープが芝麻醤で濁っているため、タンメンより鑑賞しづらい。

断面の面白みではタンメンよりも一段落ちてしまい、なんか結果として蛇足感が出てしまったのはもったいない。

やはり「ワンタン麺の断面」も準備しておくべきだったろうか。


ただ「タンメンの断面」と言いたいがために作った断面丼だが、実は普通に食器として日常利用しても良さそうなぐらいの実用性もあった。

例えばおでんをいれると「底に大根と玉子が沈んでるな」というのが目に見えて分かるし、酒を飲む際のアイスペールとして使うと、この通り、水族館のペンギン水槽っぽさも出せる。

せっかく高い接着剤で作ったことでもあるし、しばらくは断面を楽しむことにしよう。

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氷を入れておくことでペンギン水槽になる丼。

 

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