光ファイバーのケーブルを探す
光ファイバーで糸電話を試すには、光ファイバーケーブルが必要だ。
しかし、光ファイバーのケーブルなんて見た事もなく、どんなものなのか想像もつかない。試しに近所の電気屋さんに光ファイバーのケーブルを置いてるか聞いてみたが、「この人は何を言っているのか」という顔をされ、家庭用のAVケーブルを差し出された。赤、白、黄色のジャックがついたコード。さすがにこれが光ファイバーケーブルじゃない事は分かったので、丁重にコードを戻して店を出た。
秋葉原に行こう。あそこに行けば大抵の物は手に入る。
そして、秋葉原。駅周辺では某接続業者が「光」への加入キャンペーンを繰り広げていて、キャンペーンガールが道行く人たちを熱心に勧誘していた。「100メガ占有ひとり占め」。確かに「光」に用があってやって来たが、必要なのは「線」そのものであって、回線契約ではない。キャンペーガールを避けて、電気街に入る。
コード類を販売している店舗をいくつかまわるうち、「光ファイバー」という看板を見つけた。
店に入り光ファイバーのケーブルについて聞く。
・ガラス製とプラスチック製のものがある。
・マルチモードとシングルモードがある。
・マルチモードは短距離用で、シングルモードは中長距離用。
用途によってシングルとマルチ、ガラスとプラスチックを使い分けるらしいのだが、「用途は糸電話です」と言える雰囲気ではなかったので、「一般的なもので」と曖昧にオーダー。出て来たケーブルは、マルチモードIEEE802、1000BASE-Xというもの。何の事だか良く分からないが、1ギガのデータを転送出来る光ケーブルなのだそうだ。
つまり、1ギガ占有一人占め、である。
果たしてこの光ファイバーケーブルで糸電話は可能なのか?
林さんに反対側にまわってもらい、会話を試す。
1ギガbpsの光ファイバー糸電話
光ファイバーケーブルでつながった2つのコップ。このケーブルには1ギガのデータを転送する能力がある。
まずは林さんから僕へ。
林「短くないですか?これ」
住「ええ、でも、1メートル4千円もするんです」
大きな声を出すと、ケーブルを通って来た声なのか、直接届いている声なのか分からなくなるので、ささやく様に紙コップの中に声を出す。
林「えっ? そんなにするんですか?」
住「なので、予算的に1メートルしか買えなくて」
林「そうでしたか…」
耳をすますと、ちゃんとコップから声が聞こえる。
1ギガ占有の糸電話は、ある程度成立しているといえる。
僕たちのやりとりを見ていた平岩部長(林さんの上司)が光ファイバー糸電話を手にとり、林さんに問いかける。
上司「大丈夫なのか? 林君?」
平岩部長は7月2日に行われるニフティのイベント、BBフェスタの事を心配しているのだ。
フェスタ当日、デイリーポータルのブースでは、過去の企画を体験出来るコーナーをいくつか用意する予定になっており、その中で長距離糸電話の設置を検討していたのだ。せっかくなのでバージョンアップした糸電話を用意しよう、という事になり今回の企画を思いついたのだった。
会場で糸電話の為に用意されたスペースは30メートル。光ファイバーケーブルを30メートル購入すると12万円かかってしまい、それでは明らかに予算オーバーだ。かといって1メートルでは短すぎる。平岩部長が心配するのも無理はない。
さあ、どうする?
糸電話の責任者は僕。今、その裁量が試されている。
今までの経験上、こういう時は東急ハンズに頼るのがいい。
早速問い合わせると、何と400メートルで2000円もしない光ファイバーケーブルがあると言う。
えっ?ほんとに?
次は光ファイバー糸電話、長距離バージョンです。
光ファイバーだけれども…
東急ハンズにあった光ファイバーは、データ通信用ではなく装飾用のものだった。自由な形に変形させて光源装置に取り付け、お洒落に「光」を楽しむ為の光学繊維だ。
データ転送用のものとは別物なのだが、これも一応光ファイバー。今回はこの光ファイバーを使って長距離の糸電話を実現させたい。
紙コップの底に穴をあけ光ファイバーを通し、あっという間に作業は終わった。
コップに通した光ファイバーは口径1ミリで長さ30メートルのもの。ちょうどBBフェスタの会場で許された長さである。
片方を林さんが持ち、もう片方を僕が持ち、ゆっくりと離れて行く。慎重に離れていかないと光ファイバーがからまってしまうのだ。
光ファイバーは透明なので、写真では確認しづらいが、二人の間にはちゃんと光ファイバーが通っている。
お互い片手を上げて、準備が整った事を確認。
まずは林さんからしゃべる。
林「もしもーし。きこえますかー」
おっ、ちゃんと聞こえる。
2年前の市外通話の時よりも鮮明に聞こえるのは、やはり光ファイバーのおかげだろうか。
今度は僕が声を出す。
住「子供が寄って来てー、危ないですねー」
林「あっ、本当だー。ちょっと線を下げましょー」
林「住さんのー、右側にー」
住「えっ?右側にー?」
林「仕事をー、さぼってる人がー」
住「あっ、本当だー。仮眠中みたいですー」
少し抑え気味に声を出してもちゃんと伝わった。
光ファイバーで糸電話、30メートルバージョンは見事成功した。
これでBBフェスタ当日は何とかなりそうだ。
光ファイバーがまだ残っていたので、最後に光ファイバーの特性を利用した糸電話を作る事にします。
暗くなるまで待って
光ファイバーは光を運んでくれる。
その特性を生かして、光る糸電話を作る事にした。
光る糸電話なので、夜を待たないといけない。近所のコンビニで買ったビールを飲みながら、暗くなるのを待つ。別にビールを飲まなくても良さそうなものだが、手ぶらで夜を待つなんて、夜に対して失礼な気がしたのだ。
ロング缶一本を飲み終えた頃、ちょうどいい案配で暗くなってくれた。
この暗さなら光る糸電話を試す事が出来る。
5メートルの光ファイバー10本で両側を繋ぎ、僕が光の送り手となり、紙コップの中をLEDライトで照らしてみる。
果たして反対側まで光は届くのだろうか?
写真では今ひとつうまく伝わらず残念であるが、現場では相当光っていて、その発光具合に林さんも静かに感動していた。
後から合流した古賀さんも光る糸電話を手に興奮している。
光ってます、光ってますよ!
もちろん声もちゃんと届く。