シリーズ 出奔(しゅっぽん) 2023年11月17日

知らない部屋の台所に立ってしゃぶしゃぶを食べた夜

なぜ自分はこの部屋に帰ってくるんだろう

2時間ほど、大きな音で音楽を聴いた。ライブ会場にはすごく大勢の人がいて、体を揺らす余裕もそんなにないほどだった。

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クラクラするような酩酊感のある音楽だった

すべての演奏が終わって、賑やかな会場を一人でサッと後にする。来た道を引き返し、私が帰るのは天下茶屋の出奔先である。

 

あの部屋の冷蔵庫では牛肉が冷やされている。駅前のスーパーに寄って、しゃぶしゃぶをするのに必要なあれこれを買っていこう。

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まさか天下茶屋のスーパーで晩御飯の食材を買うことになるとは

買い出しを終えて部屋に戻る。エレベーターが開くと、夜景が綺麗だった。

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ここで暮らしたら毎日こんな夜景が見られるんだな

ここで、予想外のことがあった。友人から連絡があり、「これこれこうで出奔してまして」と私が伝えると、それを面白がって天下茶屋まで来てくれるというのである。友人は本当に電車に乗ってやってきた。時間も遅かったのでほんの少ししかいられないとのことだったが、せっかくなので部屋を見てもらった。

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「夜景がすごいでしょ!」と自慢する

缶チューハイを買ってきた友人は、部屋の床に座り、「いや……なんか妙な気分っすね」と、ちょっと気まずそうにそれを飲んでいた。「どうぞどうぞ、ソファに」とすすめたが「いや、大丈夫っす!」と固辞し、本当にすぐ帰っていった。

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私の出奔先を見にきてくれたものの落ち着かなそうな友人
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まさか知らない部屋で友人を見送ることになるとは

友人が帰って行った後、ぞわぞわと寂しさが込み上げてきた。私はなんでここにいるんだろうか。寂しいぞ。そうだ、肉がある!肉を盛大にあっためて食べるぞ!

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台所しゃぶしゃぶで出奔の醍醐味を味わう

さて、私はスーパーで昆布と豆腐とカット野菜と小ネギとポン酢を買ってきていた。事前に包丁が無いことは確認してあったので、切らずに使える食材を選んだ。

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白菜やキノコなど鍋の具材がカットされたパックが便利だった

部屋にあった小さな鍋に水と昆布を入れて熱し、ダシを取る。豆腐は箸の先で切る。

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おりゃー!
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野菜もドサドサ入れます

野菜や豆腐も煮立ったところで、天下茶屋の肉屋で衝動買いした牛肉をしゃぶしゃぶ。

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うまそうだー
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セルフタイマーで撮った自分がちょっと笑っていた

うまい!いい店のしゃぶしゃぶの美味しさだ。あと、アツアツの食べ物を食べているというだけで自分がこの部屋にいる根拠を得たような、強い気持ちにもなった。私はここにいる!うまい肉を食べている!

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めちゃくちゃ真剣に肉を見ている写真も

無我夢中の勢いで300グラムの牛肉を食べ終え、少しベッドに横になろうと思ったら、次の瞬間には明け方になっていた。

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窓を開けたら外は雨だった

「えっ、朝?」とびっくりして窓を開けたら外は雨だった。

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天気がいい日ばかりじゃないのを忘れていた

やばい。私には昨夜中に終えなければならない仕事があって、作業をしようとパソコンも持ってきていたのだった。急いでやろうと思うのだが、作業に最適そうなテーブルの周りにはコンセントの差し込み口がなく、ベッドとベッドの間で仕事をすることになった。

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これが私の仕事場です
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京都に行きたくて仕事を頑張ってるみたい

仕事はチェックアウトのギリギリまでかかってしまった。急いでシャワーを浴び、部屋を片付け、慌ただしく出奔先に別れを告げる。

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お世話になった

部屋を出てしまうと、朝の天下茶屋はもう、私にとってよそよそしい街に戻っていた。この街に私の居場所はなく、ただ、いつものように散歩をしに来た街の一つになってしまったように思えた。

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まあもちろんそれはそれで
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十分に楽しいのだが

少し名残惜しくて、どこかで朝ごはんを食べて行こうと思った。阪堺電車の北天下茶屋駅のホーム脇に「ルンバ」という喫茶店があったので入ってみることにした。

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いい場所にある喫茶店

400円のモーニングセット(色々種類がある中から「チーズトースト」を選んだ)を食べながら、濃くて熱いコーヒーを飲む。

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沁みる美味しさだった

近くのテーブルで「年取って家におったら一日がながーてしゃーないわ」と話す声が聞こえた。「長いでー!なんもすることあらへん。じっとして、やっとそろそろ夕方かおもたらな、時計みたら、まだ12時前やがな!」と、その言葉のテンポがあまりによくて、思わずこっちまで笑いそうになってしまった。

 

たしかに家にいたら一日は長い。出奔した一日はなんだかあっという間だった。でも、短いようでいて後々まで引きずりそうな、不思議な時間でもあったな。

 

昨日の夜に買い物をしたスーパーの2階から天下茶屋の街をもう一度眺めて、私は地下鉄の駅に向かい、いつもの居場所に戻ることにした。

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天下茶屋の街が好きになった
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