脱脂粉乳は、別にまずくはなかった。そして、かなり牛乳に近かった。ヨーグルトを作ることもできた。
ただ、戦後すぐの日本の脱脂粉乳と、現在の脱脂粉乳を単純比較はできないから、たぶん昔の脱脂粉乳は本当にまずかったんだろう。
ところで最近、親父は脱脂粉乳を許せるそうである。戦後すぐの混乱期、命をつないでくれたあの食品を、そんなに嫌うことはないのではないかと、思うそうだ。なるほど。
ありがとう脱脂粉乳。これからは息子の僕が父の思いを後世に伝えたいと思います。
あっさりと買えた
脱脂粉乳は「スキムミルク」という名前で売られていた。言われてみればこれは見たことがある。大学でやった生物学の抗体染色実験でも使った気がする。さっそく開けて、水に溶かしてみた。
歌丸さんや父が言っていた脱脂粉乳の味の感想をまとめてみると、以下のようになる。
- まず色が黄ばんでいて、飲む意欲を失わせる。
- 匂いが非常に悪く、鼻をつままないと飲めない。
- 味もひどく、水に薄く味がついている程度
戦後とはいえ、本当にそんな全五感に総訴えするような激マズ飲料が流通していたのだろうか。
完成品を、同じ森永の牛乳と比較してみた。
確かに、牛乳よりわずかに黄ばんでいる。しかし食欲を失わせるほどでは無い。言われなければ気付かない程度だ。味のほうはどうだろう。
まずくない。
親父や歌丸さんが言うほど、世紀末的な味では全然無い。
むしろうまい。脂肪分が無くても、牛乳独特の温かい甘味は残っているので、十分いける。簡潔に言うと、味は「ミルキー」に似ている。粉をそのまま舐めてみたが、あの独特の強い乳臭さがミルキーにそっくりだった。たぶんミルキーは、脱脂粉乳を押し固めて造っているんだろう。
乳脂肪分を補給すれば牛乳に戻るのか
ところで脱脂粉乳、脂肪分を除いた牛乳ならば、脂肪分を加えれば牛乳に戻るんじゃないだろうか。
てなわけで、これも買ってきた
普通の牛乳が乳脂肪分3.5%ぐらいなので、これを1割弱加えれば、牛乳と同じ味になるんじゃないだろうか。
牛乳と脱脂粉乳の違いを説明してなかった。
脱脂粉乳の味がさらっと口を抜けていくのに対し、牛乳の方はあとにまで味が残る印象を受ける。強くは無いが、深い甘味だ。あ、世間一般ではこの味を「コク」って言うのだろうか?
まあいい。さっそく生クリーム脱脂粉乳を飲んでみる。
うまい! 生クリームが加わっただけで、ぐぐっと味に深みが増し、香りも良くなった。レストランで冷製スープを飲んでる感じに近い。はっきり言って、牛乳よりうまい。牛乳を越えた味へと、脱脂粉乳が進化した。意外とすごい乳脂肪の力だ。
じゃあ、ヨーグルトになるのか、これ
ここまで意外と高いミルクシップ(牛乳らしさ)を示してきた脱脂粉乳だが、もう牛乳と同じようなものなのなら、ヨーグルトにだってなるんじゃないか。市販のヨーグルトを大さじで加えて、一晩お風呂で発酵させてみた。
そして24時間後。仕事から帰ってきてお風呂を見ると、そこには立派なヨーグルトがあった。
喰えなくはない。ヨーグルトの味がする。
ただ決して、うまくはない。ヨーグルトは食べると酸味のあとに旨みがきて、それがおいしい食べ物だと思うのだが、この旨みがいつまで待っても来ない。そしてちょっと無機質っぽい、不思議な臭いがする。もしインドに行ってこれを出されたら、あきらめて喰うかな、ぐらいの味だ。
続いて、生クリーム入りの方を食べてみた。
生クリームが入ると、やっぱりぐっとなじんだ味に近くなる。期待していた旨みも、酸味のあとにやってきてくれる。 ここへ来て、やっと脂肪分の有無の大きさを思い知る。給食で、脱脂粉乳のみのヨーグルトが出ていたら、僕はおそらく残していただろう。けれどこっちの味なら喰える。乳脂肪分の存在は味にやっぱり大きく差を生むのだ。