範囲図片手にどこまでも
最後は登山の楽しさに目覚め、良く分からない感じで終わったが、範囲図を持ってうろうろすることの楽しさ、少しでも分かっていただけただろうか。
もし「あ、なんか楽しそう」と思っていただけたのなら幸いだ。「何やっているのか分からない」と思った方は、範囲図を手に取って、じっと見つめてみると良いかもしれない。ある時突然、範囲図から何かが浮かび上がってくるだろう。立体視みたいに。それが目覚めだ。
スミマセン、最後テキトウなこと言いました。
文化財保護の一種として、重要伝統的建造物群保存地区という長ったらしい名前の制度があるのをご存知だろうか。通称、重伝建。これは古い町並みをまとまった範囲で残すための制度であり、全国各地の古い町並みがその指定を受けている。
まとまった範囲というのは当然ながら面であり、境界がある。今度はこの町並み保護の対象である範囲と、そうでない範囲の境界を攻めてみたい。
東京から一番近い重伝建は、埼玉県の川越市にある川越重伝建である。蔵の町並みとして有名なこの地区は、観光名所としても有名だ。それゆえ休日の日中は人が多いので、行くなら早朝がオススメである。
さて、川越重伝建へのアクセスだが、西武鉄道本川越駅から歩いていくことができる。JRや東武鉄道の駅からも行けるが、その場合は若干遠くなってしまう。
駅から重伝建地区までは商店街を真っ直ぐ進んでいくのだが、その商店街はまぁ、どこにでもある普通の商店街である。若干レトロではあるが、古い町並みと言うには違うだろう。
しかし10分ほど歩いていくと、突然目の前に「これぞ古い町並み!」とでもいうべき、重厚な建築がずらりと並ぶ界隈に出る。
この川越の町並みは、重厚な蔵造り商家がその特徴。火に強い蔵を店舗とすることで、火災から店を守ってきたのだ。いやぁ、いつ来てもカッコ良いですなぁ。
ちなみにこの町並み、よく江戸時代からのものと勘違いされる方が多いが(小江戸と銘打ってるからだと思うが)、これらは明治26年の川越大火以降に建てられたものがほとんどだったりする。まぁ、どうでも良い豆知識ですが。
町並みを見学しながら通りを歩いて行くと、突然元の普通の町並みに戻ってしまった。普通の商店街から蔵造りの町並みに変わったのもいきなりだったが、蔵造りの町並みからまた普通の町並みに戻るのもいきなりだ。
そう、重伝建の範囲はここまで。古い町並みが残っている場所は範囲内、そうでなければ範囲外。先ほどと比べ、こちらはとても分かりやすい範囲設定だ。
ところで、範囲図を見直してみると、その範囲は今歩いた表通りだけにとどまらず、一本裏に入った通りにまで及んでいるのが分かる。表通りに並ぶ蔵造り商家が凄いというのは分かったが、裏通りはどうなっているのだろうか。
なるほど。裏通りの範囲内は、まぁまぁ昔の建物が残っているところもあれば、そうでないところもある。表通りの範囲設定は非常に明確だったが、裏通りに入るとそれは若干あいまいになっている気がする。範囲から外れているところにも古い建築は結構残っていたりするし、ただ単純に古い建物を手当たりしだい範囲に含めているわけではなさそうだ。
これはおそらく、この川越重伝建の保護対象はあくまで表通りの蔵造りの町並み。その表通りを中心として、範囲を裏通りまで膨らまし余裕を取っているのだろう。
いくら表通りがメインだからと言っても、範囲を表通り沿いだけにしてしまうと、すぐ背後にビルが建ったりして景観が悪化してしまう。そこで裏通りまで幅を持たせ、そのようなことを防いでいるのだ。たぶん。
このように、あれこれ想像(妄想とも言う)しながら境界をめぐるのも、範囲図の一つの楽しみ方だ。
最後は少し規模を大きくして、世界遺産である白神山地の境界を見に行ってみようと思う。
近年、世界遺産という言葉が文化財・自然の保護という本来の目的とは少々離れた、ブランドイメージとして使われるようになっており、安易に世界遺産という言葉を使うのには若干抵抗があったりする。
しかし、範囲図という点では世界遺産の範囲設定はなかなかぐっとくるものがあるので、あえて今回取り上げてみることにした。目指すは東北、白神山地。
白神山地と呼ばれる場所は相当な広範囲に渡るが、実は世界遺産に登録されているエリアはそのうちのごく一部分。白神山地の観光地として有名な十二湖は登録エリア外であるし、暗門の滝も世界遺産の登録エリア(核心地域)ではなくその周囲に設けられる緩衝地域の中だったりする。
それもそのはず、白神山地の世界遺産登録エリアは原則立入禁止なのだ。核心地域へ入るには、何らかの理由をもって許可を得なければならない。
しかし核心地域へ入れずとも、そのすぐ側までは行くことはできる。代表的なのが白神岳だ。白神岳は世界遺産登録エリアとそうでないエリアの境界に頂上がある山。なかなか大変な登山ではあるが、頂上まで登れば核心地域を眺めることができる。
白神岳は標高1235メートル。ただし駅は海の側にあるため、車を持たない私は海抜0mから登ることとなる。登山道は白神山地の特徴であるブナなどが茂りなかなか気持ちが良いのだが、結構険しく非常に疲れた。
何はともあれひたすら登り続けること4時間強。ようやく白神山地の世界遺産登録エリアへ境界へとたどり着いた。
この尾根が境界となっている。ここから東側が世界遺産。西側は非世界遺産。さぁ、その違いはなんじゃらほい。
なるほど。違いは、山が見えるか海が見えるかか。……なんだそりゃ。
マジメに言えば、手付かずの原始林か、人の手が入っている森なのかがその違いなんだろうけれど、この絶景を前にしたら何かもう、そんなことはどうでも良くなってきた。
とりあえず今は、白神岳を登頂できたということだけを喜ぼう。いやぁ、登山って本当にいいものですね~
最後は登山の楽しさに目覚め、良く分からない感じで終わったが、範囲図を持ってうろうろすることの楽しさ、少しでも分かっていただけただろうか。
もし「あ、なんか楽しそう」と思っていただけたのなら幸いだ。「何やっているのか分からない」と思った方は、範囲図を手に取って、じっと見つめてみると良いかもしれない。ある時突然、範囲図から何かが浮かび上がってくるだろう。立体視みたいに。それが目覚めだ。
スミマセン、最後テキトウなこと言いました。
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