なんだか効いたような気がします
ニセ熊はとにかく苦い薬だった。味見も含めてスプーンですくって何度かなめてみたのだが、そのあとはチョコレートとか食べてみてもなぜか苦く感じた。舌がばかになったのかもしれない。しかしこのニセ熊のおかげか、次の日の朝はいつもよりも胃が軽いような気がした。そんなにすぐに効くものではないかもしれないが、こういう気分は大切だと思う。加えて遠く新潟の地で絶えてしまった伝統の技を、ささやかながら継承しようと試みたことにも少しは意味があるんじゃないかと思ったのでした。
それではいよいよ山で採ってきたキハダの皮を使ってニセ熊なる胃薬を作ってみたいと思う。新潟の伝統文化をまとめた本によると、その作り方はざっとこんな感じだ。
・乾燥させたキハダの皮を細かく裁断し、水で煮る
・煮詰まって煮汁が少なくなってきたら水を足してさらに煮る
・これを3回繰り返す
・とろとろになるまで煮詰める
このとろとろになったキハダ汁を当時は壺に入れたり笹の葉に塗ったりして持ち運んでいたらしい。
キハダは採ってきたばかりだったので完全に乾燥していなかったが、その方がエキスが豊富なんじゃないかということで生乾きのまま煮出すことにした。水を注いで沸騰させると一気に水が黄色くなる。見た目沖縄のうっちん茶(うこん茶)みたいなのだが、これが煮込んでいくと本当にとろとろになるのだろうか。
水が少なくなってきたら新たにキハダを追加しつつ、水を加えてさらに煮込む。これをマニュアル通り3度繰り返し、合計で1時間半くらい煮込んだだろうか。黄色い湯気がもくもく出てきて、部屋中が独特の匂いに包まれた。なにかに似ていると思っていたのだが、今朝起きたときに思い出した、新築の家の匂いだ。うちは古いアパートなのだが、いまならば新築の家のにおいがするぞ。
一応どんなものかと味見をしながら水を加えていった。皮をそのまま噛んだときから苦いということはわかっていたのだが、見た目お茶みたいなので水で薄まってちょっと苦いくらいなんじゃないかと思ったのだ。
味の方は写真の表情を見てもらえばだいたい(というか完全に)想像してもらえるだろう。悪魔のような味だ。いま夜中なのだが頬をひっぱたかれたような感じで口内がしびれてぜんぜん眠くならない。
水を加えてどんどん煮込むと、鮮やかな黄色だったキハダ汁は徐々に茶色く変色していった。それに伴いさらさらだった黄色汁がねばっこく茶色い液体と固体との中間物みたいなものに変化してくる。言い伝えによるニセ熊製法はどうやら本当のようだ。
ニセ熊液から木の皮を取り除こうと、こし器を使ったのだが、液体がどろんとしているのでなかなか落ちてこなかった。さらに固めるために冷蔵庫で冷やす。
そしてできあがったのがこれだ。茶色の液体はとろんとして水飴くらいの粘度だ。ニセ熊とはこれで完成なのだろうか。とにかく当時の写真とか記録がないので比較することができないのだが、原料と製法からいって同じようなものにはなったはずだ。
ニセ熊はとにかく苦い薬だった。味見も含めてスプーンですくって何度かなめてみたのだが、そのあとはチョコレートとか食べてみてもなぜか苦く感じた。舌がばかになったのかもしれない。しかしこのニセ熊のおかげか、次の日の朝はいつもよりも胃が軽いような気がした。そんなにすぐに効くものではないかもしれないが、こういう気分は大切だと思う。加えて遠く新潟の地で絶えてしまった伝統の技を、ささやかながら継承しようと試みたことにも少しは意味があるんじゃないかと思ったのでした。
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