見晴らしのいい場があればなんだっていい感じになる
電車の窓から見えた滑り台が敷地の奥の方にあり、あとはすがすがしいほどに広場。空が広い。
ずんずん奥に向かって歩き、滑り台のあたりへ。
誰もいないタイミングを見計らって滑り台の階段をてっぺんまで登ってみると、ほほう、やはり眺めがいい。
滑り台の階段を下りても景色はほぼ変わらない。ベンチもあって、のんびりくつろいでいけそうな公園である。
では、さっきコンビニに寄って買ってきたこれを。
冬のキーンと澄んだ空気と冷えた缶ビール。よい。「うまいなー!」と飲みながら、私はリュックから一冊のマンガを取り出した。ラズウェル細木『酒のほそ道』の第54巻である。この巻に収録されたコラムに私がラズウェル細木さんと飲んだ日のことを書いていただいており、その喜びをSNSに投稿したくて、それ用の写真を、せっかくだからこの見晴らしのいい場所で撮ろうと思ったのであった。
そうして気づいたのだが、ここで写真を撮ると、空の雲や眼下の街並みが集中線のような役割を果たしてくれるのか、「ジャーン!」という感じが自然に生まれる。これはありがたい。ということはたとえば、こんなものでも。
来る途中に買った炭酸水なのだが、なかなかのジャーン感ではないだろうか。これはもう、結構なんでもいけそうだ。
駅の売店で何の気なく買ったマスクなのだが、この場で撮ることによって、「今までのべ1万枚のマスクを使用してきた筆者が一番気に入った商品はずばりこれ!」という感じが出るではないか。これから、何らかの物をジャーンと見せたい時にはここに来ればいいな。
リュックに入っていたポケットティッシュでもしっかりとジャーン感が出た。間違いないようだ。
いやー、いい場所である。来てみてよかった。
さっきから色々な物や私の顔が邪魔してしまっているが、本当に見晴らしがよくて、正面奥には大阪・天王寺の高層ビル「あべのハルカス」のシルエットが見える。
公園を後にしてあてもなく進む
じっと風景を見て、缶ビールを飲み終えたので歩き出すことにした。敷地の脇に、来た方向とは別に、下へと降りていく道があったのでそちらへ向かってみよう。
階段を下りて住宅が並ぶ路地を抜け、広い道路に出た。
下り坂をどんどん降りていくと、大きな鳥居が見えて、なるほど私はいつの間にか石切神社の近くまで来たようであった。
石切駅の近くから延びる参道とは別のルートで、神社まで来たということか。
石切神社が有名な神社であることは先述の通りなのだが、この神社では「お百度参り」という参拝方法がポピュラーで、境内にある二つの「百度石」の周りをぐるりと歩き、それを何度も繰り返すのが慣習となっている。
多くの人は、境内に“お心持ち”を納めて「お百度紐」という束ねた紐をもらい、それを折り返しながらぐるぐると二つの石の周りを歩く。
一周したら紐を折って、また一周したら折って……と、自分が何周したかがこの紐でカウントできるようになっているわけだ。しかし、これは境内の説明書きにもあることなのだが、絶対に100周しないといけないというわけではなく、自分の体力にあった無理のない程度でいいのだそう。
2つある百度石の周りを一周すると約33メートルの距離になるそうで、それを100回やると約3.3㎞歩くことになるのだ。
私は根性なしなので、1周歩くたびに紐を2本折って、つまりトータル50周してみることにする。前に来た時もそうした。それでも30分ほどかかるのだ。2つの石の片方は本殿の手前にあって、もう片方は、入口付近に建っているのだが、その入口の方へ近づくと、神社の目の前にあるお店からおでんのいい香りが漂ってくる。
一周するごとに美味しそうな匂いがしてくるから、私の脳内は食欲でいっぱいになってしまう。「おでんかー!おでんいいなー!そばもいい、うどんもいいな」とか、そんなことばかり考えながらぐるぐる周って、我ながらこれではだめだ。
お参りが済んだら待望のご飯タイムだ!
50周を終え、本殿に手を合わせて境内を出る。さあ、何が食べるぞ!雰囲気のいい参道を歩きながら、ぎょろぎょろと飲食店の軒先を見やり、この辺り一帯の名物になっているらしい「よもぎうどん」を食べさせてくれるらしき店に入ることにした。
「大和屋」さんという、この辺りでもよく知られる食堂らしい。
よもぎうどんを注文し、壁に貼られた、いかによもぎが体にいいかを記した説明書きを読んでいると、運ばれてきた。
大きなよもぎの天ぷらが乗っていて、美味しそう!と思い、まずはうどんからと、麺を引っ張り上げると、あら
うどん自体にもよもぎが練り込んであるのだ。とはいえクセはなく、ほのかによもぎの香りがして、つるつるした食感で最高。もちろんよもぎの天ぷらも、すごくよもぎ。これは美味しい。
満足して店を出て、石切駅までの坂道を登って引き返す。大阪方面へ戻る近鉄電車に乗って窓からまた外を見たら、当然だけどさっき自分が行った公園がまた見える。
だから何?って自分でも思うような、こういう時間がとても好きだ。今度またあの公園に行く時は友達も誘って、その友達にあえて少し後から来てもらい、あの公園で手を振っている私を写真に撮ってもらおうと思った。
手を振っている自分の姿が小さく映ったその写真を、まだ実際に見たわけでもないのに、なんとなく頭に思い浮かべて愉快な気持ちになった。