デジタルリマスター 2022年2月2日

三角法で高さを測る(デジタルリマスター)

高さなんて住んでる人に聞いたらいい、とは言ったらだめ。

中学生のときに、図のような問題をやった。この建物の高さは何メートルでしょう、みたいなものだ。

距離と角度で目的の高さが計算できるというのは驚きだったが、思い出してみるといつだって問題にははじめから距離と角度が書かれていた。

もし実際に三角法で高さを測る必要があるなら、計算だけではなく距離と角度も自分調べないといけないだろう。その場合、本当にかつて習った計算方法は役に立つのだろうか。

2007年9月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。

1986年埼玉生まれ、埼玉育ち。大学ではコミュニケーション論を学ぶ。しかし社会に出るためのコミュニケーション力は養えず悲しむ。インドに行ったことがある。NHKのドラマに出たことがある(エキストラで)。(動画インタビュー)

前の記事:オセロで負けない方法(デジタルリマスター)

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手作りの測定ツール

知る必要があるのは建物までの距離と見上げたときの角度だ。距離はメジャーを使えばいい。問題は角度だ。

ちょっと考えてこんなものを作った。

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原始的

目標となるものを見定める黒い筒と、拡大した分度器(目盛りは5度ずつ)、そしてそこにぶら下がる紐だ。

あひるのクリップがついた紐は重力に引かれて常に下にぶら下がるので、筒が斜めになればそのまま角度を指し示すのだ。かつてやった算数の問題にはこういうツールの説明はなかった。

それでまずはじめに調べようと思ったのは、近所にあったオブジェ。

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にわかにそびえ立つボート風のオブジェ。
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高さ18メートルって書いてある。

はじめから高さが18mと分かっているので、作った道具が実際に使えるかどうかの確認がしやすい。大きさも適度だ。あと住んでる町のオブジェという設定も数学の問題っぽい。

早速見上げる場所までの距離をとる。

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2mって短いな、と思う。
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2mを3回くりかえして6mを作る。

6mくらいあればいいかな、と思って2mのメジャーをつかって尺取虫のように長さをはかった。

もっと長いメジャーがあれば楽だと思ったが、もっていない。さらに言うと、こういう距離の測定というのはメジャーの両端を手にとって2人でやるものだ。

かつてやった問題にはないリアルが見え始めた。

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筒を使っててっぺんを覗く

 

視界イメージ。

覗く位置を決めたら早速筒を目に当てる。筒の向こうにはオブジェのてっぺんが見える。

しかし何度かは分からない。何故なら目盛りを読んでくれる人がいないからだ。かつてやった問題もひとりで角度を測っている設定だったが、どうやって目盛りをみていたんだろうか。

なんとかケータイのカメラで目盛りを写すことで状況を乗り切ったが、どうもおかしい。あまりに角度が大きすぎるのだ。

そう思ってこんどはデジカメの画像を確認したら、気がついた。

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アヒルがぶら下がってない。

アヒルのおもりがついた紐がちゃんとぶら下がっていなかったのだ。

原因は見上げる高さが高すぎた(オブジェに近すぎた)ために、紐が体に向ってしまったことと、そもそも分度器が体に近すぎたことだ。

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オブジェから遠ざかる。

 

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ひもがあたらないようにする。

オブジェからもう4m離れて、分度器も体から離した。再び角度を測ってみると、目盛りは60°を示している。つまり図にすると下のようになる。

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適当につくった最初の例題と一緒だった。

計算の仕方は、見上げた角度60°から、オブジェまでの距離を底辺とする三角形の高さをだして、それに地面から見上げる人の視点1.7mを足すだけだ。

10(m)×tan60+1.7(m)=10(m)×1.73+1.7(m)=19(m)

というわけで、実際は18mなので1mの誤差になる。地面の形にメジャーをあわせてしまったために、オブジェまでの距離が正しく測れていなかったことが原因と思われる。

つまり実際は10mではなくもっとオブジェに近い場所にいたのだ。その誤差を考慮すると、角度そのものはおおむね正しく測れたと思われる。たぶん。

他にも身近なものの高さを測ってみよう。

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2mの位置から
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21°くらいか。卒塔婆。
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同じく2mの位置から
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お、20°。キヨスク。

計算してみると、道路から見た卒塔婆の高さは246センチで、キヨスクは242センチだ。ほぼ同じ高さなんですね。

身近なものの高さを調べようと思ったのだが、あまりピンとくるものがなくて卒塔婆とキヨスクというチョイスになってしまった。ちょっとセンスが悪いので、目的を変えてみる。

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でかいものを測る

 身近なものでは面白くない、やっぱりでかい建物がいい、と思って新宿にやってきた。目的は都庁だ。

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とちょー第一本庁舎。

都庁ビルはでかい。あんまり近づきすぎるとよく分からなくなることは最初のオブジェに挑戦したときに分かった。ということで距離をとる。

しかし手元には2mのメジャーしかない。どうするか、と思っていたら地図があったのでそれをつかった。

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この地図の親指の辺りに立って
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筒越しに都庁のてっぺんを見る

地図の縮尺は10mが1センチになるようになっていた。250mくらい離れた位置に立って、都庁を見上げる。

遠くにある建物なのでできるだけ角度を正確に測らないといけないと思い、集中してみる。しかし、目盛りを見る度に示す角度が違う。40~45度の間でフラフラしていてはっきりしない。

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あいまいなあひる。
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手作りツールはやめる

やっぱりいい加減に作った道具だと、どう集中しても正確に測ることはできなそうなので、ちゃんとしたのを用意した。

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年季の入った入れ物に収められている
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年季の入った装置

年季が入っているがこれはトランシットという機械だ。よく道路で建設業の人が覗いているアレ。

水平に回転する土台の上に、垂直に動く望遠鏡がついていて、それぞれ角度が読めるようになっている。

かなり重いのに頑張って持ち運んできた。ちゃっちゃと設置する。

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三脚の上に乗っけて固定
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気泡を見ながら土台のねじをまわして、水平をつくる

水平にした状態から、望遠鏡を覗いてビルのてっぺんを見つける。視界には中央を示す線が入っているので正確な角度を測ることができる。

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望遠鏡のピントを合わせた先には……

レンズを見つめていると、背中につめたいものを感じた。と、思ったらあっという間に大降りになっていた。

取材中に面倒なことが起こるのは伝統行事みたいなものだから気にしないが、あとで確認したら新宿以外の場所では雨なんて降ってなかったらしい。

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折りたたみ傘じゃ全然役に立たないくらいのスコール。
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細かい目盛りがあってもぼけてて読めない。

雨はすぐにやんだが全身ずぶ濡れだ。トランシッタを置きっぱなしにして自分だけ雨宿りするわけにもいかなかったので、しかたなく測量し続けた。なんとか測れた、43.5°だ。三脚の高さは、1m強(あいまい)。計算すると、

tan43.5°×250(m)+1(m)=238(m)

となった。帰宅してから調べたところ、実際には243mらしい。5mは距離が測れていなかったせいだろう。あるいは角度が44°と読めば、結果は241mになりより実際の高さに近づく。結構微妙で難しい。

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苦労した運んだ割にはアバウトな結果に。
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身長を測る

でかい建物だと誤差まで大きくなってしまうことがわかった 。あと外にいると雨に打たれる。最後に室内で等身大の人間の身長を測ってみようと思う。

等身大といいつつ、測量するのはいすの上に乗った林さんの高さだ。

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メジャーで直接測ってはいけないません
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気合を入れて照準を合わせる
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目盛りは20°ぴったりを示した
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ホワイトボードに書くと雰囲気が出る

210(cm)×tan20°+123(cm)=199(cm)。

170cmの林さんが48cmのいすの上に乗って199cmということはあるだろうか。50cm^3の水と50cm^3のエタノールを混ぜても体積が100cm^3にならないのと同じ原理か。

どうも解せないので、いろいろ確認してみる。

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三脚の高さを測りなおすポーズ
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今思えばこの位置の決め方は適当すぎる

丁寧にやったはずなのだが、どうしても計算があわない。何がおかしいのか分からないまま、今度は木村さんの身長を測らせていただく。

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木村さんに立って頂く
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改めて集中して測量
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アポロは帰還できるか

もう細かいことは省くが、計算した結果は179.7cmだった。木村さんは184cmくらいのはずだという。

計算はあっているはずだ。知らないうちにいつの間にか縮んだ、その可能性はないのだろうか。ないか。そして僕は途方にくれた。


机上の計算より大切なこと

あとで画像を拡大して確認したら、トランシットの水平を示す気泡が片側によっていた。傾いていたわけだ。そういえば一度調節してから三脚をちょっと持ち上げてしまった記憶がある。本当につまらないミスだが、明らかにそれが原因である。

中学生のとき、紙に書かれた図形の問題は得意だった気がする。しかし、それはただの理論だ。ひもが長すぎてあひるがあごに当たったり、突然雨が降ってきたり、水平の確認を忘れたり、そういうものと格闘するのがリアルな問題なのである。いつだって実践は理論より難しい。

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計算より測量のほうが難しいわ。
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