デジタルリマスター 2022年12月10日

1枚1万円の年賀状をつくる(デジタルリマスター)

気がついたらもう12月である。今年もあと少しで終わってしまう。今年が終われば来年がやって来る訳で、来年になってしまう前に年賀状の準備が必要だ。最近では、 自宅のプリンターでも奇麗な写真付き年賀状を印刷することが出来る。いのししの写真などを年賀状に刷っておけば十分かもしれない。

でも、それだとちょっと味気ない。そんな時は手作りして個性をアピールする、という手もある。
例えば、1枚作るのに1万円かかる年賀状とか。

2006年12月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。

1970年神奈川県生まれ。デザイン、執筆、映像制作など各種コンテンツ制作に携わる。「どうしたら毎日をご機嫌に過ごせるか」を日々検討中。


前の記事:免許証の写真を笑顔にしたい(デジタルリマスター)

> 個人サイト すみましん

日本画用の絵具を使う

1枚1万円の年賀状には日本画用の絵具を使う。天然岩から作る高級な絵具で、10グラムで数千円もするという。その絵具1万円分を1枚の年賀状で使い切り、1枚1万円の年賀状とするのだ。

と、得意気に言ってみたが、このアイデアには元ソースがある。アーティストの村上隆さんである。保守的な日本画の世界に対するアンチテーゼとして、学生時代の村上隆さんは300万円分の絵具をベタ塗りしただけの作品を作った、という話を聞きかじったのだ。面白い話だったので、1万円分だけ、マネさせていただく事にした。

絵具を調達する

横浜は関内にある「絵具屋三吉」というお店で日本画用の絵具を調達する事にした。創業30年の絵具屋三吉は、日本画を中心とした画材を販売していて、オリジナル画材の開発も行っている。何百年も変わらずに使われてきた日本画材の世界で、オリジナル商品を作っているというのだ。今回のような企画に対して、理解が深そうである。

0001_photos_v2_x2.jpg
絵具屋三吉
0002_photos_v2_x2.jpg
豊富なラインナップ

僕は日本画を描いた経験がないので、真っ先にお店の方に相談した。

「一万円分の絵具を使って年賀状を作りたいのですが……」

声をかけた方は店長さんだった。ふざけるな、と一喝されるかと思ったが、そんな事はなく、親身になって相談に乗ってくれた。面白がってくれたのだ。

天然岩絵具が並ぶコーナーに案内していただき、その中から「岩群青」という色を勧めてくれた。15グラムで3900円もする高級な絵具だ。

0003_photos_v2_x2.jpg
岩群青。15グラム3900円
0004_photos_v2_x2.jpg
天然でこの発色

この岩群青は、アズライトという石を砕いて絵具としているという。天然の石からこの色が出るのだ。信じられない。まさに、カンバスの上の宝石たちといえよう。感動したので巧い事言おうとしてみた。

年賀状にはこの「岩群青」だけを使う事にした。鮮やかな青が一面に広がる年賀状である。しかもそれには1万円の価値があるのだ。そんなオリジナル年賀状は見た事がない。が然、やる気が出てくる。

早速、「岩群青」を1万円分譲っていただこうと思ったのだが、この絵具をそのまま年賀状の裏に塗るのではうまくいかないと言われた。一万円分の岩群青だと、紙に対してかなりのボリュームとなるため、紙が反ってしまうらしい。

「どうしたらいいでしょうか?」
「ベニアを使うのがいいんじゃないかな」

薄いベニアをカンバスとして、そこに岩群青を塗るというのだ。しかも、ただベニアに塗ればいいという訳ではなく、ベニアの上にまず下地を塗り、その上に白い顔料を塗り、そこまで準備してようやく岩群青の出番なのだという。

0005_photos_v2_x2.jpg
岩群青を店長さん自ら取り分ける

お店に足を運んで本当に良かった。絵具屋三吉さんはネット通販もやっているので、適当な絵具を1万円分見繕っていただき、送ってもらおうかとも考えていた。もしそうしていたら、年賀状が反ってしまって途方にくれていた事だろう。1万円分の絵具をおめおめと無駄にするところであった。 

0006_photos_v2_x2.jpg
市場末端価格1万円分の岩群青

岩群青は40グラムで1万400円であった。はみ出た400円分と、下地に使う顔料などはサービスしてくれた。本当に親切なのだ。

会計を済ませてお店を出ようとしたら、「作品が出来たら見せに来てくださいね」と声をかけられた。「作品」と言われて急に気恥ずかしくなり、足早に関内の駅へと向かった。

事務所に戻って年賀状を作ろう。

いったん広告です

岩群青の年賀状作り

まずは薄いベニア板をはがき大にカットした。薄いベニアなのでカッターで切れる。

0007_photos_v2_x2.jpg
ベニアをはがき大にカット

この時、はがきよりもひと回り大きめに切るよう、絵具屋三吉の店長から言われていた。ジャストサイズだと縁を塗るのが難しいため、少し大きめに塗っておいて最後にはがきサイズでカットすればいいのだ。

はがきの用意が出来たので、さっそく岩群青の年賀状を作る。
以下、行程を追って作り方を説明します。1万円の年賀状を作る方はご参照下さい。

 

1.下地を塗る。

まずは下地として、アクアガードというシーラー剤をベニアの上に塗る。

0008_photos_v2_x2.jpg
耐水サイズ剤「アクアガード」をベニアの上に塗る
いったん広告です

2.面胡粉を塗る。

更に面胡粉という純白色の下地を3度塗りする。

面胡粉は、アートグルーという絵具屋三吉さんオリジナルのバインダー(接着剤)でペースト状に練り、水で薄めたものを使用する。

0010_photos_v2_x2.jpg
面胡粉とアートグルーをまぜる
0011_photos_v2_x2.jpg
水で薄めてアクアガードの上に塗る
0012_photos_v2_x2.jpg
3度塗りするとほぼ真っ白に
0013_photos_v2_x2.jpg
乾くまで小一時間待つ

3.岩群青の出番。

面胡粉が完全に乾いたら、いよいよ岩群青の出番である。

絵皿の上に岩群青を出す。粒子の細かさはちょうどトリュフチョコレートの表面についてる粉くらいであろうか。かなり繊細である。匂いを嗅いでみたが無臭だった。

粉状の岩群青とアートグルーを指で練り、水で薄める。

0014_photos_v2_x2.jpg
岩群青1万円分
0015_photos_v2_x2.jpg
指で練る

これで1万円分なのだ。ちょっとでもこぼしたりしたらもったいない。緊張して岩群青を練る指に余計な力が入ってしまう。

指先についた絵具も無駄にならないよう、絵皿の縁できれいに削ぎ落とす。

4.何度も塗る。

岩群青の準備が出来たら、後は塗るだけだ。いっぺんに全部塗る事は出来ないので、何度かに分けて塗っていく。

0016_photos_v2_x2.jpg
薄く何度も塗る
0017_photos_v2_x2.jpg
5度塗り後

一度塗っては乾くのを待ち、もう一度塗る。それを5度繰り返したら上の写真のようにテカテカと光るようになった。

5度塗ってもまだ半分くらい岩群青が残っている。思ったよりも沢山塗れるようだ。
また乾くのを待って、更に塗っていく。

0018_photos_v2_x2.jpg
ああ、もったいない
0019_photos_v2_x2.jpg
10度塗りして乾いた状態

結局、すべての岩群青を使い切るのに6時間かけて10度塗った。3mm程度の厚みでベニアの上に岩群青が乗っかった。

0020_photos_v2_x2.jpg
3mmの厚みで

仕上げとして、ベニアを年賀状サイズに切断した。

0021_photos_v2_x2.jpg
表にはイノシシ年用の年賀状を貼った
0022_photos_v2_x2.jpg
裏には1万円分の岩群青

若干ムラがあったり端っこが欠けていたりはしているが、正真正銘、これが岩群青1万円分である。

 

さて、この年賀状、誰に出そう。


皆さまも、特別な相手への年賀状としてこの岩群青を送ってみてはいかがでしょうか?

ベニアを年賀状にしたので50円では届かなくなってしまった訳ですが、そこは1枚1万円もかけた年賀状です。それくらいの待遇を受けてもいいのではないかと思います。

0024_photos_v2_x2.jpg
天然岩絵具を選ぶ女豹

絵具屋三吉:https://www.sankichi.com/

▽デイリーポータルZトップへ

banner.jpg

 

デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」がとどきます!

→→→  ←←←
ひと段落(広告)

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ