思い出の実家はかなり黄色い
実家のぬり絵を作るため、まずは実家から家の写真を何枚か送ってもらった。
どの部屋を塗るか迷ったが、人に見られるなら客間がいいだろうと思い、「床の間のある客間」の写真をチョイス。
カラー写真をできるだけ見ないようにしながら知人に転送し、白黒の写真に変えてもらう。
この時点ですでに「床の間にこんなにモノあったっけ?」「かけ軸なんかあってたっけ?」という疑問が次々と湧いてきたが、その気持ちを押し殺し、色エンピツでがしがし塗っていく。
こうして出来たぬり絵は...
塗り上がってみると、想像以上にイエベな実家ができていた。人は独り立ちをすると、実家の黄色いところばかりを思い出してしまうらしい。
また、細かいところでもかなり記憶力が試されている。
20年ぐらい住んだのに、床の間のグッズひとつひとつに心当たりがなさすぎる。
あまりにも覚えていなくてだんだん不安になってきたので、「これは住んでいたときにはなかったものではないか」「最近になって両親が追加したグッズなのではないか」という都合のいい解釈をすることにした。
こうして塗りあがった絵を、カラーの写真と比べてみる。
15分ぐらいかけて、「間違ってはいないが決してあってはいない」ぐらいの半端な塗り絵が完成してしまった。
これぐらいの精度であれば、我が家に来たことがない赤の他人でも塗れそうである。
細かいところを見ていくと、かけ軸の色は黒だったし、ふすまはここまで日焼けていない。よくわからなくてピンクに塗りつぶしておいた壺も、写真を見たらめちゃくちゃ見覚えのある壺だった。
ついでにふすまの柄も「絶対に我が家はモノクロのふすまだった」という妙な自信があったのだが、写真を見たらびっくりするぐらいカラーの絵付きふすまだった。何十年も見ていたものでも、人は意外と覚えていないものらしい。
自信満々でぬり絵をすると間違えたときにかなり傷つく
想像の30倍ぐらい実家のことを覚えていないことがわかったが、客間ではなく自分の部屋ならどうだろうか。
実家に住んでいた頃、客間は「家族でたまに使う」ぐらいの部屋だった。しかし、ほとんど毎日使っていた自分の部屋なら、細かいところまでしっかり覚えているのではないか。
実家から送ってもらった机の写真をもとに、知人に再び塗り絵の下絵を作ってもらう。
気を取り直して、かつての自分の部屋をどんどん色エンピツで塗っていく。
自分の部屋をせっせと塗っていて気づいたのだが、さっきの客間に比べるとかなりサクサク塗り絵ができる。
どうやら「よく使っていた場所であること」「自分で選んだものが多いこと」というのが家のぬり絵を成功させるためのポイントらしい。
こうして出来上がったぬり絵がこれだ。
これはかなり自信がある。ところどころわからないところはあったものの、本の背表紙も「これは中学の国語の教科書だから白色のはず」「このファイルはオレンジのはず」などといちいち思い出しながら塗り分けた力作だ。
これで自分がいかに実家をくっきりと覚えているか明らかにしたい。
パッと見るとそれっぽいが、細かく見るとまるで違った。想定外の事態である。
自信を持って塗ったところが全部ちがった。自分の記憶力にどんどん自信がなくなっていく。
実家の様子を目に焼き付けてから塗ってみる
こうとなれば最後の手段だ。
しばらく帰省していないから、こんなに思い出せないのだ。だったら、帰省した直後にぬり絵をすればいいのである。
年末に実家に帰り、そこで自分で撮った写真を白黒にして印刷する。
自分で場所を選び、自分で写真を撮ったうえに、自分で白黒の絵にした写真だ。つまり、2秒前に見た写真を塗り絵にするのである。これできれいに塗れなかったら、ただのぬり絵が下手な人だ。
さすがに2秒前に見た写真の絵は私にも塗れた。カベ・柱・ドアだけの簡単な構成を選んだことも勝利に貢献したと言えよう。
実はこれ以外にもけっこうぬり絵をしてみたのだが、どれもこれも写真と違う仕上がりになり、全体的に塗り絵への自信を失った。
ただ、久しぶりに実家の自分の部屋をじっくり眺めて「そういえば昔これ好きだったな」「これってこんな色だったんだ」と思い出すのは楽しかった。
下絵はAdobe illustratorの「効果ギャラリー」から「スケッチ(コピー)」を選べば30秒分ぐらいで作れるので、試してみたい人にはおすすめだ。イラストレーターがない人は「写真を上からなぞる」という原始的な手法も悪くない。
何かを忘れるおかげで、何かを楽しく思い出すことができるのだ。そう思うと、たまには実家を塗ってみるのも良いと思う。