デジタルリマスター 2023年7月3日

職人が作る手作り電球とは(デジタルリマスター)

ここから怒涛の職人技です

2ページ目へようこそ。お水の準備はいいですか?少し塩を入れると体への吸収がスムーズらしいですよ。

さて、ここからが職人芸の真骨頂、「封止」と呼ばれるガラスの成型の作業が始まる。

電球の外側のガラス部分、あのガラスの厚みが均一でなかったりすると、できあがった電球の光にムラが出てしまう。検査機器などの精密さが求められる分野では、電球も精度の高いものである必要がある。機械の成型ではそこがうまくできないのだそうだ。

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薄暗い作業場。理由は「炎が見えやすいように」

ガラス管を、バーナーであぶって電球の原型を作っていく。最初はストローみたいな起伏のないただのガラス管。これを熱してスーッと伸ばして、細・太・細の形にするのだ。この太い部分が、後ほど電球になる部分。

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ただのガラス管がこの形になる

目の前でみるみる何かができていく。ついついボーっと見とれてしまって、気づいたらいつのまにか電球のガラスが完成していた。あまりのことに個々の動作が何をしているのかよくわからないと思うので、順に説明していきましょう。

 

まずは電球の頭の部分を作るところから。

細・太・細の形のガラス管から、片方の細を切り離す。このとき、切り離した部分の穴はふさぐ。ひとことで「穴はふさぐ」って言われても…、とお思いでしょうが、僕も同じ気持ちです。目の前で見てても何が起きてこうなっているのか全然わかりませんでした。でも目の前で海が割れたら、「ああ、海って割れるんだ」って納得するしかないと思うのだ。とにかく職人さんはいとも簡単に、穴をふさいでいた。

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そうすると、真ん中の部分だけ少しガラスが厚く残ってしまう。これを除去するのが、「芯を抜く」といわれている作業。

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芯を抜いているところ。ピンセットのような道具で引っ張ると、まるで糸でも入っていたかのようにスーッとガラスが伸びていく。間近で見てると、この辺で思わず口が開いてきます。

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そして口とバーナーを使って形を整える。口で軽く吹くときの息遣いの繊細さたるや、想像しただけで息苦しくなる。

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ここからは少し火力を弱めて、さらに繊細な作業に。今度は逆向きに持ち替えて、電球のお尻というか、電極がつく側を作っていく。

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まずは細い管の取り外し。このとき、頭側と違って、あとでフィラメントを差し込めるように穴を残しておく。「残しておく」ってえらそうに書いてますが、なぜ頭側のときは穴がふさがってこっちは残ったのか、もちろん全然わかりません。たぶん念力だと思います。

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ここでフィラメントの登場。ガラスの中にフィラメントを差し込んで、そのままガラスの口をふさいで固定。実はこのときのフィラメントの状態が超重要。角度がゆがんだりしないことはもちろん、フィラメントの位置によって電球の性能が大きく変わってきてしまうため、電球の先端から何ミリ、と正確に取り付けなければいけない。位置の計測はもちろん目視。経験が定規がわりなのだ。

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で、次がまたすごいんだ。電球の中にはまだ空気が入っているので、その空気を抜くために別の場所に穴を開ける作業。

バーナーでガラスを熱していたと思ったら、「パチッ」って音がして突然穴が開く。熱した空気の膨張を利用して穴を開けているそうだ。職人さんの手にかかれば、穴は思い通り、好きな場所に空けられるという。2回目で恐縮ですが、それってやっぱり念力ですよね?ですよね?

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そして最後に、さっきの穴に空気抜き用のガラス管を接続。接続してからちょっと引っ張ってニュイってかんじで管を伸ばすのだけれども、このときも管の穴がふさがらないように伸ばさなきゃいけないのだ。

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ここまでやるのに1分半かかっていない。ほんとに「みるみるうちに」という印象だ。

職人さんがこれだけの技術を習得するのに、20年はかかるという。今回この封止の作業を見せていただいた職人さんは、45年この仕事をされているそうだ。うへー。もうただただすごい。

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ちなみに大型の電球ならこんな機械があって、もう少し若手の職人さんが作業していました
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空気を抜いて

続いては空気抜きの工程。電球の中に酸素があるとフィラメントが焼き切れてしまうので、先ほど取り付けた空気抜き用の管から空気を抜いて、代わりに別のガスを封入する。ここまでは専用の機械を使用。しかしそのあと、空気抜き用の管を取り外すところは、バーナーを使った手作業だ。

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この機械で空気を抜く。下のほうがガスの配管につながっている。
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一つ一つ、バーナーで切り離していく。
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まもなく完成

ここまでで電球の本体が大体完成。あとは完成まで駆け足でご紹介しましょう。

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電球とソケット部分を接着剤で接着
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くっつけたら干して乾燥(接着剤を乾かす)
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電極を半田付けして
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最後にスタンプを押す。塗料は墨を使用。
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そして完成!

こうしてみごと、「HOSOBUCHI」の印の入った電球が完成した。フィラメントのゆがみがなく、ガラスの厚みも均一。明るさ、耐久性ともに抜群で、光のムラもない。それぞれの工程での経験豊富な職人さんたちの技が積み重ねが、こうやってひとつの電球としていま実を結んだのだ。ピカー!

(ちなみに最初はあんなに小さかった電球が完成時にはものすごく大きくなってしまいましたが、これは電球の種類が違うだけです。すいません。)

さて、こんなに手間のかかった手作り電球。もちろん世の中には機械で大量生産された電球があふれているわけで、そういうのに比べたらそれなりに値段も張る。いったいどんな現場で使われているのか。次のページではその辺のお話を聞いてみます。

⏩ 次ページに続きます

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