はじめに
はげます会では毎週金曜に、会員限定のメルマガを配信しています。限定コンテンツのコラム「無人島には持って行かない、大切にしまっておく自慢の品」を紹介します。3ykさんの大切な品を紹介してもらいました。
ただの古い一枚の板(3yk)
幅30センチメートル、長さ173.5センチメートル、厚み1.5センチメートル。
大きさのわりに軽く、片手でヒョイと持ち上げることができる。
なんでもない木の板だけど、たぶん古いもので、年月によって、角はまるく、少しささくれだっている。
何よりその風合いがいい。
畑を耕していたころの、うちの両親みたいな肌だ。ちょっとカサカサしていて、よく日に焼けていて、汚れや傷をいとわない。
父方のおばあちゃんちのあまり使われない和室、親族の荷物がいろいろと残った部屋の隅に立てかけてあるのを見つけたんだったと思う。
わたしは「おばあちゃんち」にいいものを見つける目を育ててもらった。
母方のおばあちゃんちでは、長い時間をかけて集められた雑貨たちが品よく飾り並べられているのを延々と眺めていたし、父方のおばあちゃんちでは、至るところに使われている木材の、飴色を通り越して濃く煮詰めたような色に胸をときめかせた。
父方のおばあちゃんちで、一年間だけ父と二人暮らしをしていたことがある。記憶よりも二回りくらい小さく、夜中にはこっそりねずみが石鹸をかじり、冬はキンキンに冷える家だったけれど、毎日いい家だとうっとりしていた。
ふたたびおばあちゃんちを出て暮らすことになって、なにか分けてもらおうと選んだのがこの木の板だ。
引っ越し当日の朝、いくつかの家具と一緒に軽トラの荷台に積み込んで、板はわたしの新しい家の一員となった。
ただの板というのは想像する以上に便利で、同じ高さをしたふたつのものの上に板を渡せば、作業台に、棚に、机にと自由自在である。
使わなければ壁に立て掛けておけばいい。ただの板が立てかけられているのは、インテリアとしてはちょっと変でおもしろいし、でもたしかに良い板なのでふとしたときに眺めて表面をさすると満ち足りた気持ちになる。
ホームセンターでも古道具屋さんでも手に入らない、唯一無二のただの古い板なのだ。
今後もずっと捨てずに生活をともにする確信があるが、無人島には持っていかない。ただの板は無人島では便利な「モノ」すぎる。
寒さに耐えかねて薪にしてしまう時が来たら、大海原を板一枚で渡ろうとして、激しい波に真っ二つに折られてしまったら、それはもう悲しい気持ちになるだろう。板はただの板として、そこにあり続けてほしいと思う。
終わってふたたび解説です
おばあちゃんちでいいものを見つける目を育ててもらった3ykさんが選んだのは、一枚の板。確かにこうやって花を飾ったりすると一気に良いものになりますね。すぐに片づけられるのも良い点です。
無人島へ行ったら薪にしてしまいそうなので持っていかない。というのはめちゃくちゃいい理由ですね。(はげます会担当 橋田)
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