ライター講座 受講者作品 2019年11月26日

グレートティーマスター利休

変な日本語Tシャツやタトゥーなど、海外の怪しい日本語はインターネットでも大人気だが、日本にも怪しい英語がたくさんあることをご存知だろうか。

怪しいといっても間違っているわけではない。大真面目に伝えようと頑張った結果大変面白くなってしまった英語が、例えば日本にしかない概念を英訳した説明文などで稀に見ることができるのだ。

街の怪文書を探したり、ローカル牛乳を飲んだり、盛大に誕生日を祝ったり、ジモティで無駄なものを引き取ったりする腐女子です。


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”中二病が考えた必殺技”の味わい

初めてそれを発見したのは数年前、名古屋の徳川美術館を訪れた時だった。この美術館は海外からの来客も多く、展示品に添えられた説明書きには日本語と英語が並んでいる。
その時はちょうど千利休の企画展をしていた。そういえば、茶の湯文化って海外にも通じるんだろうか。

英語だとどんな説明になるのか気になって読んでみると、茶の湯を極めた利休が「茶聖」の称号を手に入れた、という流れでとんでもない英語表記が目に飛び込んできた。
これを見つけた時の概念を揺さぶられるような衝撃を、想像して欲しい。

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グレートティーマスター利休である。そんな日本語、いや、英語があったのか。
確かに茶聖ってそうとしか説明しようがない。グレートなティーのマスター、本当にその通りだ。

笑いながら先の展示を見ていると、実物大で再現された黄金の茶室があった。
秀吉の命令で作られた全面金箔貼りの豪華絢爛な茶室、その説明書きにはこう書かれていた。

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画像はMOA美術館サイトより引用

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ゴールデンティールーム。
グレートティーマスター利休の、ゴールデンティールーム。

もう限界だった。豪華絢爛なゴールデンティールームにマスターとして君臨する利休の姿が脳内を駆け巡っていく。その破壊的インパクトは、数年経った今でも同行した友人との間で度々ネタにされているほどだ。

私はこの翻訳を、グレートティーマスター利休に敬意を表して「グレート翻訳」と名付けた。
真摯に訳しているだけに面白い字面になってしまう不思議な現象。国際交流の壁は令和になった今日もジーニアス英和辞典より分厚い。
中二病が考えたオリジナルキャラの技名のようにも見えてよりおかしく、いっそカッコよさすら感じるグレートティーマスター利休。お前は何者だ。

というわけで日本語を無理やり英訳するとめちゃくちゃ面白くなる、今回はそんなグレート翻訳を集めてみた。

播州皿屋敷

これは筆者が姫路城に行った時に見た看板で見つけたものだ。
「1枚、2枚、3枚……1枚足りない…」でおなじみの皿屋敷。実は日本各地でちょっとずつローカライズされた色々なバージョンがあり、そのうち1つが姫路城内のお菊井戸である。
そこにも日本語と英語で皿屋敷の説明が書かれていた。

主人の大切な皿を割ったと疑われ、自分を恨む男に殺され、井戸に投げ込まれたお菊。悲しげな彼女の亡霊が夜な夜な井戸に現れ、皿を数えている。
1枚…2枚……話が最高潮に盛り上がったところで登場したのがこの英語表記だった。

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OMG!!! 9 plates!! Why!?
ありえないわ、頭がケチャップになってるんじゃないの!?

……皿がプレートになった途端、一瞬で激しめのアメリカンドラマになってしまった。両手を広げて地球の終わりのように嘆くミス・オキクの姿が見える。彼女は大人しく皿なんか数えないし、なんなら身投げもしないで犯人を井戸に叩き込む。そんな気概を感じる数え方だ。
言葉は奥が深い。そう、まるでお菊井戸のように。

ちなみにお菊の職業は城で働く下女だが、英語表記では「House maid」と書かれていた。
お殿様、萌え・萌え・キュン♡

竹取物語

これは東京国立博物館の常設展で見つけたグレート翻訳だ。
有名な彫刻家が作った竹取翁像だという。ああ竹取物語の…と思って作品名を見たら

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バンブーカッター物語の誕生である。

確かに竹取を翻訳したらバンブーカッターである、間違いない。今は昔バンブーカッターの翁といふものありけり。野山にまじりてバンブーをカッター、よろづの事につかひけり…
心なしか翁の顔がルー大柴に見えてきた。

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なんてことだ、馬鹿もホリデーホリデー言え。

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獅子舞

同じく東京国立博物館の常設展より、可愛らしい獅子舞の根付だが…

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ライオンダンスデザイン!!

そう来たか。いや、確かに獅子舞だ。獅子舞以外の何物でもない。日本語における獅子も色んな意味があるように、英語のライオンにもおはようからおやすみまで色んな意味があるのだろう。知らんけど。

短冊

次も同じく東京国立博物館の常設展より、短冊をモチーフにした刀の鍔(つば)。
それ自体はSword Guardと普通の英訳なのだが、説明文で吹き出すものがあった。

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タンザク・ポエムカード。

いや、確かに。短歌や俳句というポエムを書く紙だからからポエムカードだ。七夕の日には願い事も書く。
ちなみに短歌はWaka poemと言うらしい。ならば百人一首は100ポエムだろうか。古今和歌集はポエムコレクション?(※普通にKokin wakashu表記でした)
インターネットでこんな記事を見ている人間はきっと乙女の頃、学習ノートという短冊にポエムを綴ったことだろう。私は詳しいからわかる。A6のキャンパスノートに書いて持ち歩いていました!!(自白)
そう、かように、日本人の血にはポエムが流れているのだ。多分。

黒韋肩裾取威腹巻

同じく東京国立博物館の常設展より、甲冑の説明も面白かった。

まず黒韋肩裾取威腹巻(くろかわかたすそどりおどしのはらまき)という舌を噛みそうな名称は、ゆる〜く翻訳すると、肩と裾に黒韋を使って糸を重ねた、前後から腹に巻く甲冑という意味だ。ゆるすぎるが大目に見て欲しい。

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そして、その甲冑に書かれた説明文がこれである。

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ハラマキ・アーマーはねえだろ

黒韋肩裾取威腹巻というカッコイイ名前が急にハラマキ・アーマーになってしまった。いやわかる、「黒韋肩裾取威」なんてどう訳していいのか全くわからない。日本語の説明すら難しいのにいわんや英語をば。
しかし、それにしたってハラマキ・アーマーはグレート翻訳すぎる。世界観が完全にアメコミだ。舞台はネオ・トーキョー、漆黒のハラマキ・アーマーを身に纏ったSAMURAIが満月の夜に参上してしまう。
“柔”のハラマキと”剛”のアーマー、技を感じる逸品である。

一ノ谷・須磨・明石図

そしてこちらは根津美術館の常設展より。

源平合戦の一つである一ノ谷の戦いを描いた日本画だが、その説明文で思わず笑ってしまった。

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画像は根津美術館サイトから引用

今まさに源義経が馬に乗って崖を駆け下り、平家の軍勢に奇襲を仕掛けるシーンであると書かれた説明文。
その「奇襲」の英語表記が、

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サプライズアタック。

歴史的すぎるフラッシュモブ大成功の瞬間であった。これには平家もびっくり仰天、驕れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。
確かに奇襲はサプライズアタックとしか言いようがない。観客が踊り、花が舞い、生演奏のBGMは最高潮。義経は駆けつけるなり指輪の箱をパカリ…ではなく、平家の首を獲ったという。とんでもない血なまぐサプライズである。

夕陽山水図

これも同じく根津美術館の常設展から。
中国の画家が描いたという、湖と、その奥にある山の向こうに夕日が沈んでいく様子。夕陽+山+水図だ。
この画名はグレートな翻訳になっているというより、誠実に訳したがゆえに笑ってしまった。

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画像は文化遺産オンラインサイトから引用

夕陽山水図、その翻訳はなんと…

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マウンテン・ランドスケープ・アット・サンセット。
長ッ!!

日本語で5文字のタイトルが英語で25文字になってしまった。
確かに山はマウンテンだし夕陽はサンセットで間違いない、ないのだが、さっきまで古代中国にいたはずなのに急にマッキンリーを登る外国人登山家がやってきた。夕陽を背景にグッと親指を立てている。英語の呪いだ。
誠実に翻訳しても絵面とのギャップでなぜか面白くなってしまう、これだからグレート翻訳はやめられない。


愛すべきグレート翻訳の世界

この日は2つの美術館を巡ったが、他にもEmperor Go-Daigo(後醍醐天皇)、Five highways(五街道)など、ジワジワ笑わされる英語表記がたくさん落ちていた。異文化の翻訳はどうしてこうもグレートになってしまうのか。予定表はアジェンダだし同意はコンセンサスだし、千利休はグレートティーマスターである。

今後、観光地や美術館に行くことがあったらぜひ案内板の英語表記に注目して欲しい。できれば日本独自の文化で、ちょっと寂れているスポットの方が当たりやすい気がする。
きっと数々のグレート翻訳があなたを癒してくれることだろう。

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