はじめに
はげます会では毎週金曜に、会員限定のメルマガを配信しています。限定コンテンツのコラム「行ってよかった市区町村」が新コーナーとして始まりました。初回は編集部古賀及子からのイチ推しの場所です。
行くだけ行く正月の高知市
(古賀及子)
世間知らずのまま大人になったから、若い頃は反省しながら後付け的に生きる方法を勉強してばかりだった。
「正月、帰省するから高知おいでよ」と友人たちに誘われたのは、ちょうど20歳のことだ。当時わたしは高知市から東京に出てきた友人数人とよく遊んでいた。
年越しを高知でした覚えはないからあれは元旦か2日だったと思う。飛行機のチケットをにぎりしめ、私は羽田から高知に乗り込んだ。
歓待を受け、それは美しく晴れた桂浜で気持ちよく凧揚げをして、友人たちの行きつけの喫茶店でグラタンを食べておいしくて、繁華街を案内してもらい道行く人々からあかぬけたファッションを学び、夜になってトランスのクラブイベントで踊っていたら私たちの好きな曲がかかって泣いて抱き合って喜んで、友人たちの地元の友達もみんな優しくほがらかに接してくれて、ああ、ああ、来てよかったと、感激した私はホテルを取っていなかった。
旅に出たら泊まるための場所が必要であると、それを知らなかったのだ。「おいでよ」と言われたから「行く」。行くことしかしなかったというわけだ。
親切な友人たちは相談して、市内でここから一番近いからと、ひとりが正月の真夜中にもかかわらず実家に上げてくれた。
翌日、喫茶店にみんなでまた集まった。今日あたり帰ろうかなあとぼんやり言う私に「何時の飛行機?」と友人たちは聞くのだけど、私は復路の飛行機のチケットを取っていなかったのだった。
Uターンラッシュでさすがに空席は無いんじゃないかと友人に言われ青くなる。親切なお店の方が空港に電話してくれて、果たして終日満席であった。
どうしようもなく前日とは別の友人が実家に泊まらせてくれた。風呂上がりに綿棒をもらって耳掃除をしたら特大の耳垢が出て盛り上がったのをおぼえている。
翌日、早朝空港に行ってキャンセル待ちの列に並んでぎりぎりその日中の飛行機に乗れたのだった。
あまりにぼんやりした頼りない旅だったけれど高知市は食べ物もぜんぶ美味しくて景色もよくて、人も気さくであたたかく、私にとってずっと好きな場所のままだ。ずいぶん昔のことになってしまったけれど、土地の印象がただあかるい。
つぎ行くときは往復の飛行機のチケットを取って宿もちゃんと手配するし、友人たちへの手土産も絶対に忘れない。
終わってふたたび解説です
天真爛漫な若き日の古賀さんを知って驚きました。エピソードもなかなかですが、写真の姿もインパクトがありますよね。
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