別日に、都営バスへ寄贈椅子の実態の電話で質問してみた。寄贈椅子は全て都営バスを通して寄付されたものではなく、気が付いたら置かれたものだそうだ。つまり、今回の調査結果で見つかった椅子たちは都営バスも知らない椅子なのだ。キャスター椅子が置かれがちな理由は今後見つかるだろうか。
バス停に寄贈された椅子はダメージジーンズだ
バス停にはバス会社が椅子を設置していない場所がある。そんな場所には、たまに寄贈された椅子が置かれている。今回はそれを寄贈椅子と呼んでいきたい。
普段なにげなく見ている、寄贈椅子を改めて観察してみると存外ワイルドだと気づいた。
バス会社の設置した椅子と比べると、とにかく雨風に弱いのだが、その弱さがむしろ味となっている。きっとダメージジーンズと全く同じシステムだ。
しかし、こんなにも味わい深い割には、世の中にどんな寄贈椅子があるか観察したことがない。
東京中をめぐって収集してみようと思う。
取材プランを勢いでたてる
前日まで雨が降っていて心配だったが朝になればきれいな晴天であった。東京のバス停を手あたり次第立ち寄っていこう。普通なら日々の積み重ねで寄贈椅子を収集するんだろうが、あいにく写真の蓄えがなかった。アリとキリギリスならアリ、ウサギとカメならウサギである。
ルートとしては墨田区を手あたり次第まわりいい感じのベンチを収集し終わったら帰宅する心づもりだ。ちなみに実際のルートは以下の通りである。当初の予定の4倍ぐらい歩くこととなった。
第一寄贈椅子の発見
調査開始から30分程度で幸先よく寄贈椅子を見つけることが出来た。
想定していた寄贈椅子はベンチ型だっただけにびっくり、統一性のない2脚の椅子だ。
丸椅子は背もたれのクッションの一部がはがれクッション素材がむき出し。ウエット感。
もう一方はまさかのキャスター付きの椅子だ。乗った瞬間コロコロとどこかに行ってしまう怖さがある。また座ってみると、しっとり濡れている。なぜだか悲しい気持ちになってしまった。
・都営バス:文花二丁目
・キャスター椅子と折りたたみ丸椅子(ダメージあり)
キャスター椅子は思ったより人気
予想外だったのは、イレギュラーと思われたキャスター椅子は寄贈椅子業界では人気ということである。次の場所でもキャスター付きの椅子の発見だ。
まるで切断されたような背もたれだ。屋外向きではない椅子なのに敢えて屋外の厳しい任務に放り出された彼は何を思うのだろうか。
可哀そうだから座ってみると前日の雨を吸っている。もちろんウエット。
・都営バス 亀戸四丁目
・キャスター椅子
椅子の限界を攻めるキャスター椅子
これは、寄贈椅子なのだろうか。
バス停からの距離が離れすぎていて不安になる。太陽と冥王星くらいは離れている。定義によっては惑星から外れそうだ。
街路樹にめり込んでいるのも気になる。椅子も座る箇所がしんなりしていて、しょんぼりして見えるのは私だけではないはずだ。座る箇所ってこんなにも曲がるんですね。
ここまでくると、半日で身に着けた寄贈椅子鑑定力が試されるように感じる。
・都営バス 滝野川二丁目
・キャスター椅子(ダメージあり)
寄贈椅子だった思われるキャスター椅子
次の椅子はもっと寄贈椅子かどうかむずしい。
かつては寄贈椅子だったのかもしれないが、今はいったい何と呼べばいいのだろう。動物園の柵と同じで、見ることが出来ても触ることが出来ない。
座れない椅子は椅子なのかという哲学的疑問を投げかけてくれる。そして案の定キャスター椅子である。この道幅にこの椅子は、かなりリスキーである。キャスター椅子の人気の理由はなぜだろう?
・都営バス 太平三丁目
・キャスター椅子(ダメージあり)
もはや判断がつかないキャスター椅子
ここでクイズです。みなさんは次の椅子を寄贈椅子だと思いますか。
この日およそ60か所のバス停を回り、頭がぼうっとした中でのキャスター椅子の発見だったのもあり、喜び勇んで駆け寄ってしまいました。
しかし、反対側から見てみると。
あっ!粗大ごみだ!
もしかして、粗大ごみと寄贈椅子の見分けはハチャメチャに難しいのかもしれない。丸一日寄贈椅子を見てきたが、そのうえで勘違いしてしまった。
おそらく、調査の最初がこの椅子だったら寄贈椅子だと思わなかっただろう。しかし、あまりにもギリギリを攻めた寄贈椅子の数々のせいで心の中のボーダーラインがかなりずれ込んでしまった。
・都バス順天堂病院前
・キャスター椅子(粗大ごみ)
あまりの悔しさに椅子と記念撮影しました。
ビーチサイドにありそうな椅子
もちろんキャスター椅子以外の寄贈椅子も存在する。
寄贈椅子の中でプラスチック、たちまち周りはビーチサイドだ。この椅子たちは夏の暑さを思い出させてくれそうな匂いを残している。
・都営バス 小松川三丁目
・ビーチサイドっぽいベンチ×4。ビーチっぽい長ベンチ1。
そのうえ、こんなにも多くの椅子が置かれているケースもなかなかない。ただ、本来あるべきバス停のそばから不自然に遠いせいで誰も使っていないのである。
また別タイプのビーチサイド感あるベンチである。防水性を意識したベンチは知らず知らずのうちに水際のオーラを生んでしまっている。水滴がついているならなおさらだ。
・都営バス 東駒形一丁目
・ビーチっぽい長ベンチ1。
同じ団体が複数の箇所に広告を出していたケース
同じところが複数のバス停に広告を出しているケースがあった。バス停が隣り合っているわけではなく、電車で2駅3駅挟んだ箇所にある距離感のバス停同士だったので、不思議だ。
・都営バス 太平四丁目
・広告ベンチ
・都営バス 亀戸九丁目
・広告ベンチ×2
・都営バス 西大島駅前
・広告ベンチ
・都営バス 大島二丁目
・広告ベンチ
同じタイプのバス停広告の場合、経年劣化の違いが極めてわかりやすい。日当たりの違いもあるのだろうか、もとは同じ椅子だったものでも、雰囲気が大きく変わっていることがわかる。
原型を保っているものであれば、赤い字だけが強く浮かび上がっている椅子や全体に黒ずんだ椅子。逆に赤字が薄まり、全体に真っ白になっていく椅子など個性がしらずしらずのうちに生まれている。
実はスタンダードじゃなかった寄贈椅子
バス停に丸椅子である。梅に鶯、竹に雀、バス停に丸椅子。趣は王道だが個数自体は珍しいパターン。
可能な限りクッション部分がはがされた結果木の板同然の状態に陥っている。しかし、逆に雨を吸収しないのでむしろ気にせずに座ることができそうだ。
・都営バス 平野二丁目
・丸椅子(ダメージあり)
ベンチタイプな椅子
巣鴨に行ってみると寄贈椅子が多かった。やはりお年寄りの原宿は膝への気遣いが徹底している。ベンチが群れを成していた。このタイプも廻った結果思ったより少なかったパターンである。
・都営バス とげぬき地蔵前
・ベンチ×2、折りたたみ椅子×2。
寄贈椅子は想像より少ない
調査してわかったことは、想像以上に全然バス停に寄贈椅子が見つからないことである。
「普段見逃しているけれど気づけば色々なところにある」タイプかと思ったら「調べても全然ない」タイプだとは思わなかった。
東京はだれも椅子を寄付していないのだろうか。これが東京なのか。湿ったお尻でスカイツリーを見上げる。スカイツリーは大きい。
ちなみに、2日間で確認した111か所のバス停のうち実際に調べた結果、寄贈椅子ありは23か所で割合は79%であった。
どうりでいくら探してもなかなか見つからない。足が痛いわけだった。
そのうち、ベンチが寄贈されていたのは14か所、キャスター椅子は4か所であった。キャスター椅子が置いてあるなんて予想もしていなかった。