特集 2021年1月15日

スリッパ専門店でこの冬最高に暖かいスリッパを買うのだ

どっちを向いてもスリッパ、何を履いてもスリッパ。それが専門店。

ライターという仕事は、基本的に家の中に引きこもってポチポチと原稿を書く仕事である。

ただ、その生活が快適かと言われるとちょっとアレで。家が古くて断熱性が弱いため、妙に寒いのだ。特に足元がかなり冷えるのが厳しく、このままじゃ原稿作業にも支障が出そう。

なので、とりあえず暖かいスリッパとか買いたい。スリッパ専門店で。

1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

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冷え性からのスリッパ専門店探し

もちろん自宅が冷えるのは今年に始まった話じゃない。ここに引っ越してから5年ずっと毎年冷えてるし、なんならスリッパだって暖かいのを毎シーズン探して買い求めてるぐらいだ。

ただ、いつもネットで買ってるので、「なんか期待してたほど暖かくない」とか「暖かいけどすぐヘタって履き心地が悪くなる」の繰り返し。

これはダメだ。一回ちゃんと専門家にいいスリッパを案内してもらうとかしないかぎり、俺の暖かいスリッパ探しの旅は永遠に終わらないのではないか。

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昨年11月に「暖かそうだな」とネット購入したスリッパ。もう中敷きもペタンコで暖かみが薄い。

そう思って検索してみたら、ちゃんとあるんだ、スリッパの専門店。なんでも「○○ 専門店」で検索してみるもんだ。

ということで、代々木上原にあるスリッパ専門店「Tomy's」(トミーズ)さんにお邪魔してみたという次第である。

(※取材は1月の緊急事態宣言発令前に行っています)

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困ったときはだいたい専門店に任しとけばいいんですよマジで。

駅を出てわりとすぐに「スリッパ専門店」という看板が目に入った。今までの専門店巡りからの経験上、看板から堂々と専門店を謳っているお店は、だいたい間違いがない。

店先にも暖かそうなスリッパが並べられていて、いきなりもう「おっ、これかなり暖かそうだな。欲しいな」って感じになったが、気が早い。たぶん店内にはもっと暖かいのがあるはずだ。

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暖かそうなスリッパとともに並ぶ流行り物。「今話題の市松和柄」もシーズン商品と言えなくはない。
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子ども用はやはりアンパンマン。アンパンマン号スリッパがかわいい。

“スリッパ専門店”というワードだけだと、店内がどんな雰囲気なのかいまひとつ想像できてなかったんだけど、なるほど、身も蓋もない言い方をすれば、靴屋さんのスリッパバージョンだった。同じ履き物だから当たり前っちゃ当たり前なんだけど。

そして、なによりこれまでの人生で、スリッパに対して「品揃えのボリューム」を期待したことが無かったことに気が付いた。ネット以外でスリッパを買うとしたら、ホームセンターとかに行って、棚に並んでる数種類ほどの中から適当に買うぐらいだったし。

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店内の様子。今までの人生で最も単位面積あたりのスリッパ密度が濃い光景だ。

でも専門店なら、好きなスリッパをボリューミーな品揃えから見て選べるのである。

おおー、これだけでもすごいことな気がしてきたぞ。俺は今からスリッパを選りすぐって買うのだ!(めっちゃ気分が高まってる)

意外なルートで始まったスリッパ専門店

とはいっても、まずは取材である。お店の人に聞きたい話とかもあるじゃないか。

「そもそもなんでスリッパ専門店なの?」とか、そういうやつ。

なので、対応していただいたトミー工芸(Tomy'sの運営元)の川辺さん・高田さんに伺ってみた。

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左の男性が川辺さん、右の女性が高田さん。事情により顔出しNGとのことで、背中越しに失礼します。

きだて「いきなり失礼な聞き方ですいませんが、そもそもなんでスリッパ専門店というニッチなことを始めたんですか?」
高田「もともとはインテリアとか内装を手がけるお店として45年ほどやらせてもらっていたんですが…20年ほど前にネット展開を始めた際に、これからスリッパ専門店で行こう、と」
きだて「??????」
高田「内装用品の一部として、前からスリッパも扱っていたんですよ。で、他にスリッパ専門店なんてお店も無いし、これは売りやすそうだぞ、という感じですね」

おお、戦略的展開だった。話を聞く前はなんとなく「元々は靴屋さんだったのかな?」と予想してたんだけど、インテリア・内装の業者さんだったとは。

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サイズも専門店ならではの品揃え。相撲の力士が履くレベルの32センチスリッパだって常備してる。僕が履く27センチ(右)と比べてもこの差よ。

川辺「おかげさまで、コロナ禍の前はスリッパを探して関西から来てくださるお客様もおられました」

そういえば、昨年に「歌舞伎揚専門店」を取材した際にも、関西からお客さんが買いに来ていた話を聞いたな。東京の専門店は、関西ぐらい遠方からのお客さんが来るのが、専門店としての実力の目安なのかもしれない。

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一方こちらはヨチヨチ歩き用の14センチ。大人の真似をしてスリッパを履きたがる子どもも多いらしい。

きだて「コロナと言えば、もしかして今ってスリッパの需要が増えてませんか?」
高田「えー、はい、そうですね。少し伸びてるように思います。おうち時間が増えたからか、くつろげる室内履きをお求めのお客さんがおられますね。あと、テレワーク中に足元が寒いから暖かいのが欲しい、とか」

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ほぼボアの塊みたいな超モコモコ。こういうのを今日はいろいろ見せてもらいたいのだ。

はいそれ!まさにそれで!今日!伺った次第です!

そういう話の流れになった以上はもう我慢できないので、店内のスリッパを見せていただきたい。そして暖かくて履き心地のいいやつを紹介してもらうのだ。

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高級スリッパは暖かいし、ブーツタイプも暖かいし

暖かいスリッパといえばボアがもこもこなヤツが多いんだけど、あれ、履いていると意外とすぐに履き心地が悪くなっちゃうのである。特にずっと踏まれている中敷きボアはぺったりと圧縮されて、暖かみも半減。ヘタすると1シーズン保たなかった、なんてのもあったぐらいだ。

高田「暖かいスリッパは消耗品に近いので、ある程度仕方ない部分はありますね。ただ、リアルムートン(羊の毛皮)のスリッパを購入されたお客様は、シーズンごとに皮革専門店でクリーニングされていて、5年間履き続けておられるそうです」

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店内最高額のリアルムートンスリッパ。雰囲気としては、革ジャン履いてるみたいなもんだ。

ちなみにリアルムートンのスリッパは1万3千円で、 Tomy'sで扱ってる商品でも最高額とのこと。
スリッパに1万3千円はちょっとキツい気もするんだけど、5年保つとしたらアリなのか?

高田「とはいえ、お手頃な価格のものをシーズンごとで買い替えていくのが、一番手軽かもしれませんね」

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どてらみたいに中綿がぎっちり詰まった分厚いスリッパ。これなら2千円台で買えるし。

うわー、悩ましい。

高田「じゃあいろいろとご紹介しますね。暖かいスリッパでいま一番人気なのが、オーストリア製の「Kitz-Pichler」(キッツピヒラー)です。底まで100%ウールのスリッパなんですが、リピーターがとても多いので、入荷してもすぐ出ちゃうんです」

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高田さんイチオシはウール100%の「キッツピヒラー」。ほんとすぐ売れちゃうらしい。
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あ、なんか予想してたよりはるかに暖かいぞコレ。

他の冬用のモコモコしたやつと比べるとなんだか薄っぺらくて頼りないんだけど、ウールの目がかなりギュッと詰まっていて、手を入れてみると(僕のサイズがなくて試し履きできなかった)思った以上に暖かい。

しかしサイズがないのもだけど、防寒対策的には、できればかかとの方まで包んでくれるルームシューズっぽいやつのほうがいいかなー。

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発熱素材の暖かスリッパ。それにしてもヒートウォームって直訳したら「熱い暖かい」みたいな感じだろうか。ダイレクトが過ぎるな。

高田「こっちは“ヒートウォーム”という発熱素材を使ってまして、暖かいですよ」

なるほど、ユニクロの似た名前のやつと同様、湿度を吸収して発熱するものらしい。形も、ちょっとだけかかとまでフォローしてくれるタイプだ。

高田「あとはブーツタイプも人気ですね。イギリス製で、いまもう店頭に残り1点なんですけども」

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実は「履くの面倒そうだなー」と今まで試してなかったブーツタイプ。
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うわー、履いてみたら暖かさのケタが違うぞ、ブーツタイプ。これ買いました。

おおおおお。これは確実に暖かい。くるぶしどころかスネまで完全に覆われているので、冷気を感じる隙がないという感じ。

爪先をズボッと突っ込むスリッパと比べたら、そりゃ脱ぎ履きが面倒なのは間違いないんだけど…一回履いてしまったら「もう脱ぐのやだなー」と思うレベルで暖かいのだ。ソールはゴム製でフローリングでも滑りにくそうだし、裏側の断熱もちゃんとしてそう。

はい、これ買います。

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岩とか衝撃吸収とかお受験用とか、スリッパの世界は広大だ

超絶暖かいスリッパが無事に確保できたので、とりあえず今日のメイン目的は達成といえる。
あとは、なにか面白い機能を持ったスリッパがあれば見せてもらいたいところだ。

川辺「面白いスリッパ…そうですね、機能的にはこれはすごいですよ」

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上からだと「ああ、まぁスリッパだよね」という感じなんだけど……
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側面からソールにかけてが完全にランニングシューズっぽい仕様。お値段も6千円ちょいとスリッパにしてはお高めだ。

といって出してくれたのが、なんか妙にスポーティーな印象のやつ。

ソールがどう見たってランニングシューズ系である。

川辺「フランスのシューズメーカーが作った「Airplum DILIAN」という衝撃吸収に優れたスリッパです。「雲の上を歩くような履き心地」と言われてるんですよ」

いや、スリッパで衝撃吸収て、と軽く半笑いで履いてみたら…わー、雲だ。これ雲です。雲、乗ったことないけど。

ポリウレタンフォームの中敷きがめっちゃモチモチしていて、足を踏み出すとムニッと衝撃を吸収。ずっとクッションを踏み続けているような官能性というか、えー、ぶっちゃけ、足の裏がエロいぐらいの気持ちよさ。うっとりしちゃうわ。

それでいてソールのグリップは完璧なので、不安定な感じはまったくない。

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足踏みした瞬間に思わず「ほわぁ」と気の抜けた声が出るモチモチ感。これはすごいぞ。

川辺「ヒザへも衝撃が伝わりにくいので、足を悪くされた高齢の方にも人気なんです」

なるほど、衝撃吸収スリッパ、そういうメリットがあるのか。でも年齢関係なく「ただシンプルに足裏がエロいスリッパ」として間違いないやつだと思う。
よし、春になって暖かいスリッパを脱いだら、次はこれを買おう。

川辺「こちらも面白いですよ。「からだにいい岩」というものなんですが」

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うん、なるほど、岩。

履くだけでゴツゴツした岩(もちろんプラ製だけど)が足の裏のツボを刺激する、いわゆる健康スリッパである。それにしてもすごい製品名だな。

ひとまず履いてみ…あっ、ダメ痛ダメダメ、あっあっ、痛ダメ、あっ。

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履いた瞬間から、「どうしたら体重が足裏にかからないように立てるか」以外のことが考えられなくなる。

さっきは雲の上を歩いていたのに、一転して地獄の岩歩きである。なんだこれ罰ゲームか。というか、普通に立ってるのも無理な痛さだ。

健康サンダルって、だいたいはゴムやプラの小さな突起(先端が丸い)がいっぱいあって、それがツボ押しをしてくれるものだろう。なんだけど、岩の硬いゴツゴツ感は、あっ、ダメだダメだ痛いって。特に土踏まずの辺りは岩がゴリッと凶悪に盛られていて、おあ、あ、マジでマジで。

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おい見てくれこの土踏まずの岩。凶悪すぎないか。

高田「内臓が悪い方だと、相当に痛いと思います」

うん、岩は無理。今までも何度か健康サンダルを履いたことはあるけど、これが断トツに痛い。
もしこれを履けと言われたら、半年ぐらい静養して体調整えてからじゃないと、太刀打ちできない。

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ちなみにこちらはダイエットスリッパ(かかとがなくて、常につま先立ちを強いられる)+健康スリッパという欲張りコンボ。

高田「変わったところですと、こういうスリッパもあります」

……スリッパ?

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もはや「スリッパとは何か」という概念が揺らいでくる、シックなお受験スリッパ。

高田「スリッパには「お受験スリッパ」というジャンルもありまして、お母さんが子どもの受験付き添いや面接時に履くためのものなんです」

そこそこな高さのヒール(測ったら4センチ以上あった)まであって、もはやスリッパの概念ってなに?と思わなくもない。

それにしても、今までの人生でここまであれこれスリッパを試し履きしたこと無かったし、履き心地の違いを真剣に確認したことも無かったんだけど…でも冷静に考えたら、自宅作業のフリーランスは、1日のうち靴よりもスリッパを履いている時間の方が圧倒的に長いわけで。

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夏場に履きたい「片足で食パン一枚分の重さ」の超軽量スリッパ。確かにほぼ履いてる感ゼロで軽いんだけど、食パン履いたことないからピンとこないな。
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高級チーム代表、牛革の1万円スリッパ。自分で履くには高額すぎるけど、引越祝いなどプレゼントには良さそう。

それなら靴にお金をかけるよりも、むしろスリッパを頑張った方が幸せになれるんじゃないだろうか、という気もする。とりあえず次はあの足裏の感触がエロいやつが欲しい。


ちなみに日本のスリッパは、明治維新のころに来日した異人さんが靴を履いたままでも畳にあがれるように、と作られたものなんだそう。要するに、靴の上から履く用のオーバーシューズだ。

ちなみにこのオーバーシューズタイプは今でも作られていて、それなりに売れているらしい。

どういう用途で売れるのかちょっと疑問だったんだけど、ハッと気が付いた。

ブーツを履いて出かけようとして「あっ、部屋に忘れ物した!」という、お馴染みのあのシチュエーションでめっちゃ便利なのだ。脱がなくてもいいし、四つん這いになってヒザで歩かなくてもいいし。
なるほど、いろんな使い道があるもんだなー。

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これがオーバーシューズスリッパ。玄関に備えておくと助かりそう…欲しい…

取材協力

スリッパ専門店「Tomy's」
〒151-0064 東京都渋谷区上原1-32-17
TEL:03-3469-4551
OPEN 10:00〜19:00
https://www.rakuten.ne.jp/gold/tomys/ 

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