アメリカの牛角でフュージョンしていた6品を食べ、その正体をひきはがしていく。
中学のとき、英語の先生が「焼肉はコリアン・バーベキュー」と言っていた。焼肉って韓国のBBQなんだ! と目からウロコだったのを覚えている。とはいえ焼肉は日本の食文化になっているし、日本のフュージョン料理だよな。と思う。
フュージョン料理は、日本では「多国籍料理」「無国籍料理」とも呼ばれる(真逆の表現で同じ対象を説明してておもしろい)。でも本質はあくまでも「異なる(国や地域の)食文化が融合した料理」。だから日本の「洋食」も、フュージョン料理ではある。
日本のフュージョン料理。(ぜんぶ一人で食べた。まあまあびっくりされる量ではある。)
フュージョン料理といえばアメリカ。アメリカ料理は、フュージョン料理のさいたるものだ。そんなアメリカで、日本の牛角が、もっとフュージョンしていた。食べると、まだわかったり、もうわからなかったりした。かれらはいったい何者か。
アメリカでよろしくフュージョンしていた牛角で、フュージョンの正体をあばきたい。これは日本、これはアメリカ、と、ぶんべつしながら食べてみた。
牛角は日本のフュージョンレストラン
日本の焼肉屋は、日本のフュージョンレストランだと思う。キムチはマストみたいになっているけど、韓国料理屋ではない。もし焼肉屋でキムチが売り切れてたら、うちのオカンなら切れはしないけど残念がる。でもべつに、うちは韓国に縁がない。
キムチ盛り合わせは、家族との焼肉では定番。
地元の牛角には、小学校のころから家族とちょくちょく行っていた。当時の牛角は、店員さんをニックネームで呼ぶという新文化を導入していて、なんだここ! お誕生日会みたいで楽しい! と、かるく魔法にかかっていたのを覚えている。
地元の牛角。衣笠(きぬがさ)店。
金閣寺が目と鼻の先にある地域だ。
牛角の100m南には、マクドナルド・金閣寺店がある。中学のテスト期間によく行った。
牛角の呪文。小学生のころの私は、たしかにかかっていたと思う。
大学を出てからは海外でくらしていた私にとって、牛角は懐かしい母国料理としてインプットされている。一時帰国中に、わざわざ友達に車を運転させて、よその店舗へ食べにいくくらいには、執着がある。
地元からはまあまあ離れている、桂川街道(かつらがわかいどう)店。
タン塩は、当時すんでいたイスラエルではふつうじゃなかったので、必死で食べた。
ちなみにイスラエルのBBQだと、こういうのが一般的。ぞくに言う、ケバブ。
アメリカの牛角は日本のとび地
アメリカの街並み。ボストン/マサチューセッツ州。
牛角は、アメリカでは「牛角・ジャパニーズBBQ/Gyu-Kaku Japanese BBQ」となっている。19の州で展開していて、日本で例えるなら、「東京と大阪を中心に19の都道府県で営業中!」のような状態だ。流行っているといってよいだろう。
アメリカのBBQには、たいそうな伝統料理というイメージがある。でも、火で肉を焼けばBBQでOK! というおおらかさも、アメリカにはある。韓国の焼肉、日本の焼鳥、中国の北京ダック、中東のケバブあたりは、BBQとしてNGではないらしい。
牛角・ブルックライン店/マサチューセッツ州。衣笠店とおなじ匂い。
ジャパニーズBBQ・ダイニング、とある。
受付で、店員さんが入店の案内をしてくれる。
入店すると、「いらっしゃいませ〜!」の合唱がわきおこった。えらいもんで、10年以上前のロンドンのビアードパパで聞いたやつより、あきらかに日本寄りの日本語だった。店内のインテリアには、気をてらった日本らしさのようなものが無い。
かといって、アメリカっぽさがあるわけでも無い。
初期装備は日本とおなじ。
おしぼりには、あの呪文がバイリンガルでとなえられていた。
牛角のフュージョンを、あばいていく
牛角のメニュー。ふんいきは日本とおなじ。
メニューには、食べ放題やセットもあった。単品は豊富で、日本とおなじ! とは思った。でも「ミソ・チリ・ウィング」や「スパイシーツナ・ボルケーノ」など見つけて、異国のニュースを読んでいる気分にもなる。間違いない。牛角はフュージョンしている。
よりすぐりの6品。
いよいよ冷静になって、フュージョンの正体をあばいていく。「タン」「牛スシ」「ミソ・チリ・ウィング」「牛角サラダ」「チキンガーリックヌードル」「スパイシーツナ・ボルケーノ」の6品を食べる。これらのフュージョンは、徐々に複雑になっていく。
タン/Beef Tongue
ねぎ塩じゃなくてパセリがのっている。だとしても完全に日本だ。
まずここから始めたい。タンはアメリカではゲテモノ扱いらしく、人気というにはほど遠い。なのにわざわざタンがあるのは、「われわれはジャパニーズBBQの牛角だ!」という主張なのだと受けとめたい。
「いまアメリカにいます」って言っても、信じてもらえなさそうな状態。
アメリカ人として平均的な味覚をもつ友達にたべてもらったところ、「うん美味しい」と言っていた。自らすすんで食べてはいなかったが、肉として受け止めてはいた。
★★★★★ … 日本っぽさ
☆☆☆☆☆ … アメリカっぽさ
☆☆☆☆☆ … フュージョン度
牛スシ/Gyu-Sushi
日本スタイルのワサビつき。
アメリカスタイルのワサビ。「ホット・クリーミー」とある。サンドイッチ屋にて。
なんだったら、サンドイッチ用のワサビもある。ふつうのスーパーにて。
「アメリカのスシはシーフード」と友達が言っていたから、ネタがビーフの時点でフュージョンではある。でもひねり無しで、直球で日本の牛寿司を出していた可能性もある。この牛スシの「Gyu」は、牛角と牛肉、どっちのGyuなんだろう。そこはちょっとわからない。
アメリカのスーパーで買える、平均的なパック寿司。ガリ&ワサビ&醤油パックつき。
★★★★☆ … 日本っぽさ
☆☆☆☆☆ … アメリカっぽさ
★☆☆☆☆ … フュージョン度
ミソ・チリ・ウィング/Miso Chili Wings
白ゴマがなければ、アメリカ料理にしか見えない。
ミソ・チリ・ウィングを直訳すると「辛いミソ味のバッファローウィング」。バッファローウィングはアメリカの定番料理で、チキンの手羽に辛めのソースにまぶしたもの。ミソはアメリカでも有名だから、日本料理屋じゃなくても、たまにある。
名古屋とかにもありそうな雰囲気だ。
ようするにこれは、ミソ味の手羽だ。酔っていたら、名古屋の手羽先と勘違いするかもしれない。「Nagoya Style」を宣言していないから、名古屋を意識してるわけではないはずだ。なのに、日本の郷土料理に着地している。フュージョンが一周してた。
名古屋発の居酒屋「山ちゃん」の手羽先。こっちのほうがよっぽどアメリカ料理に見える。
ミソ・チリ・ウィングを友達にすすめてみると、「ヤダ」と言った。骨のついた食べ物と、揚げ物がにがてらしい。ミソはべつにどっちでも、という態度だった。そっか。へんに誤解するとこだった。
★★☆☆☆ … 日本っぽさ
★★★★☆ … アメリカっぽさ
★★☆☆☆ … フュージョン度
牛角サラダ/Gyu-Kaku Salad
赤ピーマンのみじん切りがのっている。アメリカのサラダという感じ。
推しメニューらしく、メニューに「★」がついていた(タン塩にもついている)。とりあえずサラダ、という文化はアメリカにもある。えらいもんで、テーブルに最初に届いたのは、牛角サラダだった。ディスイズ・牛角のスタンス! と言っているように見えた。
ダイコンは英語でも「ダイコン」。ゴマダレは、ミソよりはるかにめずらしい。
ダイコン(の千切り)、ゴマダレ、赤ピーマン、プチトマト、ゆで卵、緑のサラダ、キュウリが含まれる。ダイコンとゴマダレ以外は、ほぼアメリカのおうちサラダ。ダイコンとゴマダレと赤ピーマンが仲良くやってるのが、アメリカならではだと思う。美味しい。
★★☆☆☆ … 日本っぽさ
★★★☆☆ … アメリカっぽさ
★★★☆☆ … フュージョン度
チキンガーリックヌードル/Chicken Garlic Noodles
焼きウドンのようなたたずまい。ウドンが日本を主張している。
「ビーフ&ブロッコリー」という有名な料理がある。アメリカン・チャイニーズの典型で、中国には無い料理だと言われている。チキンガーリックヌードルは、そのポジションの日本版を継承しているきらいがあった。
白ゴマ=日本、ネギ=日本、赤ピーマン=アメリカ。
味はというと、めちゃめちゃ美味しい。「ガーリック鶏そぼろウドン」といった感じで、ガーリックが容赦ない。日本の松屋でたべたジョージア料理「シュクメルリ」くらい容赦なかった。ウドンでけん制をかけておきながら、日本を軽々と飛びこえている。
松屋の「シュクメルリ鍋定食」。この感じ、フュージョンがはじまっている。
ことウドンに関しては、アメリカで見た、幼児のためのアルファベット学習おもちゃの「U」が「Udon」だったのを思い出した。
UはUdonのU。友達の家でこれを見つけたとき、アメリカで令和を確信した。
★★★☆☆ … 日本っぽさ
★★★☆☆ … アメリカっぽさ
★★★★☆ … フュージョン度
スパイシーツナ・ボルケーノ/Spicy Tuna Volcano
ボルケーノ=火山。白ゴマとネギがかかっている。
ついに食べものを、食べもの以外で比喩してきた。真打ち登場だ。わざ名みたいになったときのアメリカはつよい。「ネギトロ」が「米のテイタートッツ」の上にのっている。「米のテイタートッツ?」という反応、アメリカサイドでは「ネギトロ」で発生しているはずだ。
米のテイタートッツ。
デフォルトのテイタートッツ。(レストランのローストビーフサンドイッチについてきた)
テイタートッツは「ミニハッシュドポテト」のことで、アメリカではかなりの定番料理だ。これを米でやっているのが、米のテイタートッツ。でもネギトロは、まだアメリカに本格上陸していない。両国にとって食べごたえのある、フェアなフュージョンだと思う。
まさかこのネギトロ、ながれおちる溶岩を表現…とか、ふか読みさせるたのしさがあった。
味は、揚げた米と辛めのネギトロ。端的に言えば、マグロのスシだ。でもかっぱ寿司のネギトロが軍艦なら、スパイシー・ツナ・ボルケーノは戦闘機。スシとして食べるとさらに美味しさが上昇し、食べごたえがほんとうにあった。
友達にすすめてみると、やっぱり揚げ物がにがてなのと、あと、辛いのもにがてだったみたいで、丁重におことわりされた。ツナは好きらしいけれど、シーフードのペーストには抵抗があるみたいだった。
★★★★☆ … 日本っぽさ
★★★★☆ … アメリカっぽさ
★★★★★ … フュージョン度
アメリカにあればアメリカ料理
アメリカでテイクオーダーした、どこかのアジア料理屋のスシやウドン。
牛スシならまだしも、ボルケーノに国籍でジャッジを下すのには、正直むりがある。だってそもそも、火山を食べたことがないし。でもこの、前例のない問いをつきつけられている感じ、アメリカを食べていると感じる。だから結局、アメリカの料理なんだと思う。
アメリカじゃなくても、フュージョン料理というのは往々にして、その国の料理になりえる。日本のマクドナルドのてりやきバーガーとか、サイゼリヤのたらこソースシシリー風とか、日本の外から見たら、ジャパニーズフードにみえていると思う。
マクド(ナルド)のてりやきバーガーは、私にとっては、日本のソウルフード。
その国のフュージョン料理は、その国でしかあり得なかった食のミラクルだと、たたえたい。いま、そこで、もちあわせで願いをかなえようとする尊いクリエイティビティこそ、フュージョンの正体だと私は思う。
京都で食べたコッペパンサンド「KINUGASA」。「衣笠丼」とフュージョンしていた。
おまけの3品@アメリカの牛角
「すきやきビビンバ/Beef Sukiyaki Bibimbap」。★つきの、おしメニューだった。
ビビンバは数種類あった。店員さんに「スパイシーカルビください」と言うと「今日はすきやき」とオカンみたいなことを言われたので、やるしかなかった。白米にすきやきの残りを混ぜたような美味しさ。日本の夜食がフラッシュバックして、エモくなってまいった。
「ハンガーステーキ/Bistro Hanger Steak」。タレの選択肢は、ミソorガーリック。
肉は、アメリカの王道ステーキと同じ名前のやつがいくつかあった。「ニューヨークステーキ」「フィレミニョン」といった具合。もぅステーキハウスだ。ちなみにフュージョン度は、すきやきビビンバもハンガーステーキも、ミソ・チリ・ウィングと同じ2とした。
アメリカの直球デザート「チョコレート・ラヴァ(溶岩)・ケーキ」。素直に好き。