フュージョン料理は、日本では「多国籍料理」「無国籍料理」とも呼ばれる(真逆の表現で同じ対象を説明してておもしろい)。でも本質はあくまでも「異なる(国や地域の)食文化が融合した料理」。だから日本の「洋食」も、フュージョン料理ではある。
フュージョン料理といえばアメリカ。アメリカ料理は、フュージョン料理のさいたるものだ。そんなアメリカで、日本の牛角が、もっとフュージョンしていた。食べると、まだわかったり、もうわからなかったりした。かれらはいったい何者か。
アメリカでよろしくフュージョンしていた牛角で、フュージョンの正体をあばきたい。これは日本、これはアメリカ、と、ぶんべつしながら食べてみた。
牛角は日本のフュージョンレストラン
日本の焼肉屋は、日本のフュージョンレストランだと思う。キムチはマストみたいになっているけど、韓国料理屋ではない。もし焼肉屋でキムチが売り切れてたら、うちのオカンなら切れはしないけど残念がる。でもべつに、うちは韓国に縁がない。
地元の牛角には、小学校のころから家族とちょくちょく行っていた。当時の牛角は、店員さんをニックネームで呼ぶという新文化を導入していて、なんだここ! お誕生日会みたいで楽しい! と、かるく魔法にかかっていたのを覚えている。
大学を出てからは海外でくらしていた私にとって、牛角は懐かしい母国料理としてインプットされている。一時帰国中に、わざわざ友達に車を運転させて、よその店舗へ食べにいくくらいには、執着がある。
アメリカの牛角は日本のとび地
牛角は、アメリカでは「牛角・ジャパニーズBBQ/Gyu-Kaku Japanese BBQ」となっている。19の州で展開していて、日本で例えるなら、「東京と大阪を中心に19の都道府県で営業中!」のような状態だ。流行っているといってよいだろう。
アメリカのBBQには、たいそうな伝統料理というイメージがある。でも、火で肉を焼けばBBQでOK! というおおらかさも、アメリカにはある。韓国の焼肉、日本の焼鳥、中国の北京ダック、中東のケバブあたりは、BBQとしてNGではないらしい。
入店すると、「いらっしゃいませ〜!」の合唱がわきおこった。えらいもんで、10年以上前のロンドンのビアードパパで聞いたやつより、あきらかに日本寄りの日本語だった。店内のインテリアには、気をてらった日本らしさのようなものが無い。
牛角のフュージョンを、あばいていく
メニューには、食べ放題やセットもあった。単品は豊富で、日本とおなじ! とは思った。でも「ミソ・チリ・ウィング」や「スパイシーツナ・ボルケーノ」など見つけて、異国のニュースを読んでいる気分にもなる。間違いない。牛角はフュージョンしている。
いよいよ冷静になって、フュージョンの正体をあばいていく。「タン」「牛スシ」「ミソ・チリ・ウィング」「牛角サラダ」「チキンガーリックヌードル」「スパイシーツナ・ボルケーノ」の6品を食べる。これらのフュージョンは、徐々に複雑になっていく。
タン/Beef Tongue
まずここから始めたい。タンはアメリカではゲテモノ扱いらしく、人気というにはほど遠い。なのにわざわざタンがあるのは、「われわれはジャパニーズBBQの牛角だ!」という主張なのだと受けとめたい。
アメリカ人として平均的な味覚をもつ友達にたべてもらったところ、「うん美味しい」と言っていた。自らすすんで食べてはいなかったが、肉として受け止めてはいた。
★★★★★ … 日本っぽさ
☆☆☆☆☆ … アメリカっぽさ
☆☆☆☆☆ … フュージョン度
牛スシ/Gyu-Sushi
「アメリカのスシはシーフード」と友達が言っていたから、ネタがビーフの時点でフュージョンではある。でもひねり無しで、直球で日本の牛寿司を出していた可能性もある。この牛スシの「Gyu」は、牛角と牛肉、どっちのGyuなんだろう。そこはちょっとわからない。
★★★★☆ … 日本っぽさ
☆☆☆☆☆ … アメリカっぽさ
★☆☆☆☆ … フュージョン度
ミソ・チリ・ウィング/Miso Chili Wings
ミソ・チリ・ウィングを直訳すると「辛いミソ味のバッファローウィング」。バッファローウィングはアメリカの定番料理で、チキンの手羽に辛めのソースにまぶしたもの。ミソはアメリカでも有名だから、日本料理屋じゃなくても、たまにある。
ようするにこれは、ミソ味の手羽だ。酔っていたら、名古屋の手羽先と勘違いするかもしれない。「Nagoya Style」を宣言していないから、名古屋を意識してるわけではないはずだ。なのに、日本の郷土料理に着地している。フュージョンが一周してた。
ミソ・チリ・ウィングを友達にすすめてみると、「ヤダ」と言った。骨のついた食べ物と、揚げ物がにがてらしい。ミソはべつにどっちでも、という態度だった。そっか。へんに誤解するとこだった。
★★☆☆☆ … 日本っぽさ
★★★★☆ … アメリカっぽさ
★★☆☆☆ … フュージョン度
牛角サラダ/Gyu-Kaku Salad
推しメニューらしく、メニューに「★」がついていた(タン塩にもついている)。とりあえずサラダ、という文化はアメリカにもある。えらいもんで、テーブルに最初に届いたのは、牛角サラダだった。ディスイズ・牛角のスタンス! と言っているように見えた。
ダイコン(の千切り)、ゴマダレ、赤ピーマン、プチトマト、ゆで卵、緑のサラダ、キュウリが含まれる。ダイコンとゴマダレ以外は、ほぼアメリカのおうちサラダ。ダイコンとゴマダレと赤ピーマンが仲良くやってるのが、アメリカならではだと思う。美味しい。
★★☆☆☆ … 日本っぽさ
★★★☆☆ … アメリカっぽさ
★★★☆☆ … フュージョン度
チキンガーリックヌードル/Chicken Garlic Noodles
「ビーフ&ブロッコリー」という有名な料理がある。アメリカン・チャイニーズの典型で、中国には無い料理だと言われている。チキンガーリックヌードルは、そのポジションの日本版を継承しているきらいがあった。
味はというと、めちゃめちゃ美味しい。「ガーリック鶏そぼろウドン」といった感じで、ガーリックが容赦ない。日本の松屋でたべたジョージア料理「シュクメルリ」くらい容赦なかった。ウドンでけん制をかけておきながら、日本を軽々と飛びこえている。
ことウドンに関しては、アメリカで見た、幼児のためのアルファベット学習おもちゃの「U」が「Udon」だったのを思い出した。
★★★☆☆ … 日本っぽさ
★★★☆☆ … アメリカっぽさ
★★★★☆ … フュージョン度
スパイシーツナ・ボルケーノ/Spicy Tuna Volcano
ついに食べものを、食べもの以外で比喩してきた。真打ち登場だ。わざ名みたいになったときのアメリカはつよい。「ネギトロ」が「米のテイタートッツ」の上にのっている。「米のテイタートッツ?」という反応、アメリカサイドでは「ネギトロ」で発生しているはずだ。
テイタートッツは「ミニハッシュドポテト」のことで、アメリカではかなりの定番料理だ。これを米でやっているのが、米のテイタートッツ。でもネギトロは、まだアメリカに本格上陸していない。両国にとって食べごたえのある、フェアなフュージョンだと思う。
味は、揚げた米と辛めのネギトロ。端的に言えば、マグロのスシだ。でもかっぱ寿司のネギトロが軍艦なら、スパイシー・ツナ・ボルケーノは戦闘機。スシとして食べるとさらに美味しさが上昇し、食べごたえがほんとうにあった。
友達にすすめてみると、やっぱり揚げ物がにがてなのと、あと、辛いのもにがてだったみたいで、丁重におことわりされた。ツナは好きらしいけれど、シーフードのペーストには抵抗があるみたいだった。
★★★★☆ … 日本っぽさ
★★★★☆ … アメリカっぽさ
★★★★★ … フュージョン度
アメリカにあればアメリカ料理
牛スシならまだしも、ボルケーノに国籍でジャッジを下すのには、正直むりがある。だってそもそも、火山を食べたことがないし。でもこの、前例のない問いをつきつけられている感じ、アメリカを食べていると感じる。だから結局、アメリカの料理なんだと思う。
アメリカじゃなくても、フュージョン料理というのは往々にして、その国の料理になりえる。日本のマクドナルドのてりやきバーガーとか、サイゼリヤのたらこソースシシリー風とか、日本の外から見たら、ジャパニーズフードにみえていると思う。
その国のフュージョン料理は、その国でしかあり得なかった食のミラクルだと、たたえたい。いま、そこで、もちあわせで願いをかなえようとする尊いクリエイティビティこそ、フュージョンの正体だと私は思う。
おまけの3品@アメリカの牛角
ビビンバは数種類あった。店員さんに「スパイシーカルビください」と言うと「今日はすきやき」とオカンみたいなことを言われたので、やるしかなかった。白米にすきやきの残りを混ぜたような美味しさ。日本の夜食がフラッシュバックして、エモくなってまいった。
肉は、アメリカの王道ステーキと同じ名前のやつがいくつかあった。「ニューヨークステーキ」「フィレミニョン」といった具合。もぅステーキハウスだ。ちなみにフュージョン度は、すきやきビビンバもハンガーステーキも、ミソ・チリ・ウィングと同じ2とした。