特集 2023年2月16日

父親に夜逃げの体験談を聞く

離婚、再婚、島根に転居

父:
その頃には両親が離婚してて親父は島根で働いてた。しばらくしてから、俺の不登校を心配した親父に呼ばれて島根に移ることになってん。
私:
親心はあるっぽいのがまた悲しい
父:
心の中は分からんけど。それで弟とオカンとおばあちゃん、一家揃って島根に移った
私:
離婚してるのにみんなで?
父:
また一緒に住みはじめた。籍入れ直したんちゃうかな

島根時代の1枚

父:
それで、松江で俺は立ち直ってん。周りのみんなに受け入れられて学校にも行けるようになった
私:
農業高校に入ってからか
父:
違うよ!そんときまだ中学生
私:
まだ中学生やったんか。人生濃いなあ
父:
島根に行ったのは中2の秋頃かな。島根に移ったときに「ああ、山に栗とかアケビがある!」って感動したわ
私:
どういうこと?
父:
今まで都会で育ってきたから、栗がなってること自体に感動した。通学路に木があって
私:
本人にしか分からん感情やな

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それでも親父は帰ってこず、借金取りは来る

私:
島根では普通に家族で暮らしてたん?
父:
親父はぜんぜん家に金入れてないから貧乏やったで。だって帰ってこないんだもん。どうやって生活してたんやろ
私:
え!?島根の時も帰ってこんかったん?
父:
うん。ずーっと帰ってこんかった
私:
すげぇな
父:
やから兄妹何人おるか分からへん。一人には会ったことあるけど
私:
めちゃくちゃやん
父:
オカンが「いくら貧乏してもご飯だけはええのん食べよな」って言ってたのが忘れられへんな
私:
悲しい話だ
父:
松江の家もバレて借金取りがくるようになって、家の電気消して鍵を閉めて息を潜めた。借金取りからしか電話がかかってこんからオカンが電話の上に座布団をかぶせてベル音をかき消してな 

座布団で電話の音をかき消すさまを再現してくれた

父:
そのときに住んでた家はボロボロで、風呂が五右衛門風呂やった
私:
それって昭和何年ごろの話?
父:
昭和56年くらい
私:
結構最近やな
父:
離れみたいなところに風呂場があってな。オガライトっていう燃料で湯船のお湯沸かして

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そして就職、京都へ

父:
俺おばあちゃん子やってん。親父はおらんしオカンは働かなあかんかったから、おばあちゃんが家事を全部やってくれてて
私:
父方?母方?
父:
父方。やから俺のオカンは泣かされた旦那のお母さんとずっと暮らしてたんやな
私:
すごいな
父:
おばあちゃんは俺のこと可愛がってくれてたから、就職で京都行くときも「行かんとって行かんとって」ってずっと言うとってん。
父:
それで俺が家を出たら、ずっと元気やったおばあちゃんの体調が急に悪くなって。病院に連れて行ったら急性白血病ですぐに亡くなった。入社してから一週間もせんうちに島根に帰省したよ
私:
ひいおばあちゃん……
父:
それから数年経って弟も関西に出てきて、オカンは島根の家でひとりになった
私:
おじいちゃんはやっぱり帰ってこんのやな。おばあちゃんはなんで一人で島根に居続けたんやろうか
父:
神戸中の知り合いに泥かけまくったから帰られへんかったんちゃうか。最後には親戚たちも見てられんくなって島根からおばあちゃんを神戸に連れ戻して、今に至るまで兵庫に住んでる
私:
最後まで島根のおじいちゃんの立ち回りがアレやな
父:
でもすごい人やねん。給食費が払えなくてお昼には鉄棒にぶら下がるしかなかったくらいの生活から高専と大学まで出てるし。仕事も百科事典の営業販売の成績が全国1位になったり、50歳過ぎてから入社した金融機関で支店長にまでなったりな
私:
お祖父ちゃんはエネルギッシュなイメージあるわ


おわりに

夜逃げなんてマジかよと思っていた自分を恥じる結果となってしまった。

冒頭にも書いたが父は高校を出てからずっと同じ会社で真面目に働いている。駅の近くに居を構え、息子たちが大学を出られるくらい豊かな生活を築いた。

父は「もっと不幸な人はいくらでもおるやろ」と言う。そんなこと僕は一生かかっても言えないだろう。

そして祖母は年相応には元気である。これを書いている前日にも一緒に回転寿司を食べに行った。もちろんこの手の話はしなかった。

久しく会っていないが祖父も生きている。最後に顔を合わせたのは僕が18歳の頃で、「お前童貞か!あかんな!」と急に言われたことを覚えている。父は「あんまり外に出ないから……」と何とも言えないフォローをしていた。

みんなが幸せに過ごせたらいいなと思う。

おばあちゃんはイカが好きなようだった
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