反省
コンコルドという飛行機があった。今では商用運航されなくなってしまった幻の超音速旅客機である。その終焉の理由を簡単に言えば「別に無理して超音速で飛ばなくてもいいんじゃない?」ということであろう。
技術というのは往々にしてそういうもので、かっこいいからとか、夢があるからといって無理して使っても、いいことはあまりない。しゃべることもないのに、無理してFMトランスミッタで放送をしようとしなくてもよかったわけだ。
つまり僕が伝えたかったのはそういうことなのだ。
夏の浜辺でのあの悪夢からはや数ヶ月。
トラウマを克服しようとしばらくの間、「フジワラFM」というFMラジオのDJ風(?)の話をするというネタをサイト内でやってきた。
しかし、FMとは名ばかりでmp3ファイルをネットで配信しているだけということに気がついた。
そんなときに、世の中にはFMトランスミッタというFM電波を飛ばすものがあることを知った。これがあれば、本物の極小規模のFMラジオ局のDJになれるのではないだろうか。そんな希望を実現させてみようと思った。
※2007年5月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
FMトランスミッタとは、申請や免許を必要としない電波法で定められた微弱な電波を飛ばす機械だ。最近だと自動車で携帯音楽プレーヤの音楽を聴くために、プレーヤ側からFM電波を飛ばしてカーラジオで受信するのに仲介役として使われる。
これを使えば数十メートルの範囲ならFMの電波が飛ばせるので、いわゆるミニFM局ができるのだ。
というわけで、秋葉原まで行って見つけてきたのがこれだ。基盤がむき出しだが、これで完成品である。電源コードとアンテナコードをドライバーで締め付ければ、そのまますぐ使えるようになる。
簡単に機能を説明すると、
これを持って浜辺へ行って放送をしようと思う。
早速やってきたのはニフティの所在地近く、大森にある、ふるさとの浜辺公園だ。 GWにウェブマスターの林さんが記事を書いていた通り、ここには立派な浜辺がある。
天気のいい土曜日ということもあって周りは人が結構いた。太陽に照らされ、白い砂がかなり明るく見えてFMラジオにはとてもいいロケーションです。ときどき波打ち際が泡立ってるけど。
子供達が無邪気に走っているその中で、機材を準備した。いつもデイリーポータルZラジオで使用しているマイクとミキサーに、用意してきたFMトランスミッタを取り付ける。
ラジオのチューニングをすると、なるほど、ラジオから自分の声がしてくる。
では、その様子を完全ノーカットでどうぞ。でも全部通して聴く必要は無いと思います。ぐだぐだな様子を感じとってください。
しゃべることがない。今こうやって原稿を書いている僕が、しゃべるとまるでダメダメなのが手に取るようにわかられてしまうのが恥ずかしい。書くのはいくら時間をかけてもいいけど、しゃべるのはリアルタイムなのだ。
かなり苦し紛れな話題で話をしてみたが、苦しさは紛れない。どんどん苦しくなってくる。うめき声とか聞き苦しいですね。聴き所は風の音と、うっすらきこえる波の音。
リスナーは、今回撮影を手伝っていただいた林さんただ一人だ。しかも林さんは受信した電波を確実に録音するためにだいぶ近くに座っている。しゃべっている人が丸見えなのだが、これでも一応FMだ。
これが自分のやりたかったことなんだろうか? と疑問に思いつつ、場所を少し変えてやってみることにした。移動するFM局。
人がたくさんいる場所が良くないのかも知れないと思い、全然人がいない場所へやってきた。浜辺からすこし歩いた公園の端っこである。景色だけみるとさっきの浜辺の近くとは思えない。
では、そんな落ち着いた雰囲気の場所からのフジワラFMどうぞ。今まで味わったことの無いようなぐだぐだを体験してください。
浜辺で無理して小話をしたことが今になって恥ずかしくなってきて、本当にしゃべることができなくなってしまった。何かしゃべったり、沈黙したり、しゃべろうとしたり、沈黙したり、の繰り返しだ。さっきと比べてとにかく沈黙の時間が長い。
FM電波というのは電波の疎密によって音を伝えるそうですが、今回のFM放送の中身自体にも「しゃべり」と「沈黙」の疎密がある、というメタ構造になっているわけですね…というのは、自宅で落ち着いて原稿を書いている今だからこそ言える表現でしかない。残念だ。
長考に入ってしまうので、ちょっと歩いて移動してみる。
木の下に猫がいるのを見つけたので、さらなる苦し紛れに猫にインタビューなぞしてみた。猫の「ニャ」という泣き声がFMの電波に乗った瞬間である。そしてその後唐突に終わる。いいのかこんなFM。
進退窮まってもうどうすることもできなくなったので、最後にはゲストを呼んだ。ライターで社長の住さんだ。
相手がいることでとても話しやすくなった。というか、住さんがしゃべってくれる。はじめのほうで僕が「ちょっとしたゲスト」だなんて言っているが、そんなことはない、偉大なるメシアである。
今回の企画についての反省について話した。そもそも僕がFMのDJなんかには向いているタイプじゃないということについてだ。
ともかくこうして僕のルサンチマンにまみれた些細な夢は達成されたのだ。付き合ってくださった皆さん、どうもありがとうございました。
コンコルドという飛行機があった。今では商用運航されなくなってしまった幻の超音速旅客機である。その終焉の理由を簡単に言えば「別に無理して超音速で飛ばなくてもいいんじゃない?」ということであろう。
技術というのは往々にしてそういうもので、かっこいいからとか、夢があるからといって無理して使っても、いいことはあまりない。しゃべることもないのに、無理してFMトランスミッタで放送をしようとしなくてもよかったわけだ。
つまり僕が伝えたかったのはそういうことなのだ。
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