自宅で出前がとれるマクドは最寄りの一店舗だけである。よって、記事に登場した略称が全国共通かどうかはわからない。
皆さんも今度マクドを食べるとき、伝票を確かめてみてはどうだろうか。略称にも方言があるかもしれない。
それこそ「マクド」のように。
マクドナルドの出前をとったら伝票がついてきた。注文したメニューの略称が載っている。
その略し方が不思議なので調べてみた。
すっかり在宅ワークにも慣れた、2021年6月某日。
昼ご飯にマクドナルドを出前で注文した。
数十分後。
こんな袋に入って届いたのだが、何やら伝票らしき紙が貼ってある。
何の暗号だ?
この日から約半年間、私は伝票の謎を追ってマクドナルドを注文しまくることになる。
その日、私が注文したメニューはこれだった。
どうやら、伝票にはメニュー名の略称が載っているようだ。照らし合わせてみよう。
Filet-O-Fish。
Chicken Mac Nuggetと、Mustard sauce。
AburiShoyu……あれ? 急にカタカナになった。
「炙り」は日本語だからまあいいとして、「Double」までつられてカタカナになっている。日本文化の影響を受け過ぎた外国人のようだ。
メニューによって、アルファベットになったりカタカナになったり。略し方には何らかの法則があるんだろうか?
おや、なんだかアカデミックな香りがしてきたぞ。ついでに炙り醤油の香りもしてきたぞ。
これは調べ(もぐもぐ)てみると面白そ(もぐもぐ)うだ。
数日後、再びマクドナルドの出前をとった。
前回とかぶらないメニューを注文し、略し方の違いを確かめる実験である。
しかし、ただ注文するだけではない。
届く前に伝票を予想してみよう。
今後いろんなメニューを注文していけば、略称の法則がわかってくるはずだ。その知識を応用して、誰も見たことがない新メニューでさえも、伝票をピッタリ予言できるようになるかもしれない。
まさに神の領域だ。チーズとピクルスをつかさどる神の領域だ。
予想にさきがけて、まずは先日の注文をおさらいしよう。
前回を振り返り、私が立てた仮説はこれである。
前回、唯一のカタカナだった「炙り醤油風 ダブルベーコン肉厚ビーフ」(アブ-ダブル)は、2020年に登場したメニューである。フィレオフィッシュやチキンマックナゲットの方が、はるかに歴史が古い。
推測だが、昔の設備ではアルファベットしか使えなかったのが、技術の進歩によってカタカナもOKになったんじゃないだろうか?
これを踏まえて、今日の注文の伝票を考えてみよう。
予想を記録するため、Twitterに専用のアカウントを開設。
そして、予想をこのようにツイートした。
ダブルチーズバーガー
— マクドナルド伝票予想 (@mcd_voucher) July 11, 2021
⇒DCB
チキンフィレオ
⇒CFO
マックフライポテト(M)
⇒PTT M pic.twitter.com/K7OGqUZ2Do
今回の注文は定番メニューばかりなので、予想は全部アルファベットである。ダブルチーズバーガーは公式に「ダブチ」と呼ばれたりするが、ここは自らの推理に従ってみた。
ツイートから数十分後、インターホンの合図で答が届いた。さて、初日の結果はいかに?
んん?
いろいろおかしいぞ。ひとつひとつチェックさせてくれ。
まず、見事に的中したのはDCB。「ダブチ」に流されなかった自分をほめてあげたい。ご褒美はもちろんDCBである。
だが、私はビギナーズラックをバーガー1個で使い切ってしまったようだ。
「定番」というより「必修」に近いポテトは、意外にもそのままポテトだった。仮説がもう怪しくなってきたぞ。
で、最大の問題がこれ。
なぜそこで切った。「オ」が入るスペースぐらいあるのに。チキンフィレオが泣いてるぞ。
マクドナルドによるチキンへのいたずらじゃないとすると、最大文字数は6文字というルールがあるんじゃないだろうか?
的中率は3分の1だが、伝票の知識は確実に深まっている。転んでもただでは起きないのが伝票予言神への近道だ。
記録として、伝票の写真をリプライしておいた。
— マクドナルド伝票予想 (@mcd_voucher) July 11, 2021
以降の注文も同様に、「届く前に予想をツイート」⇒「実際の伝票の写真をリプライ」を繰り返していく。
これを2021年7月~12月にかけて続けた結果、24回の注文で70種の略称を確認できた。全てを掲載すると長くなるので、一部を抜粋して紹介していこう。全体の履歴はTwitterで見てほしい。
最初に取り上げるのは、このメニュー。
サクサク感がうれしいお手頃バーガーである。
ここで、どうしても思い出されるのはチキンフィレオだ。あれは「チキンフィレ」だったから、今回は……
同じく最後の1字が消えて、こうじゃないか?
イギリスにいる気弱な少年クリスのあだ名みたいになってしまったが、私は法則に従ったまでである。
と、言い訳してたらインターホンが鳴った。さて伝票は?
ただのクリスプだった。
ちょっと待て、チキンはどこ行った? 食感がクリスピーだったら何の肉でもいいのか?
確かに「クリスプ」がつくメニューはチキンクリスプ以外には無いので、これでも最低限の区別はできる。だからって。
どうやらマクドナルドは、略称で全体を表現するというよりは「わかりゃいいんだよ、わかりゃ」とざっくばらんに決めているようだ。新人に雑なあだ名をつける先輩だ。
よろしい。そんなノリでいいと言うなら真似をさせてもらおう。
続いては、2021年に「ハワイアンバーガーズ」の一員として登場した、こちら。
私の予想はシンプルである。
え? 何か問題でも?
だって「ガーリック」がつくメニューはこれだけだ。区別できるんだからいいでしょ?
友人の悪ふざけに乗るような予想でシュリンプには申し訳ないが、恨むならチキンを削除したマクドナルドを恨んでほしい。
さあ、シュリンプは伝票から消えてしまうのか?
が、ガーシュリンプだと? エビ型のモンスターの名前か?
ガーリックを「ガー」に圧縮する豪胆さにも驚くが、それより大きいのは「7文字いけるんかい」という衝撃である。理不尽に尻尾を切られたチキンフィレの立場はどうなるんだ。
というわけで、仮説②は残念ながら却下。
ならば、こっちはどうだ?
同じく「ハワイアンバーガーズ」より、たまごの存在感が抜群なこちらの登場。
名前がちょうど7文字という時点で直感した。
6文字をオーバーできることは確認済み。だったらこうなるだろう。
略すまでもなく「チーズロコモコ」だ!
いやー、今回は簡単だったな。ランチでも食べるか。
7文字使えよ!
チーズをわざわざ「C」にして6文字に踏みとどまっているのを見ると、逆に「ガーシュリンプ」がなぜ許されるのかわからなくなってきた。マクドナルドはチキンに厳しいがエビには甘いらしい。
だが、予想を外すのも悪いことばかりではない。「Cーロコモコ」の登場により、私は新たな仮説を見出したのだ。
夜空にうさぎが躍る秋、地上にはおなじみのメニューがやってくる。
予想に先立って、第3の仮説を発表しよう。
あるある探検隊のリズムが頭に浮かんだ方は一旦忘れてもらって、これを見て頂きたい。
ダブルチーズバーガーは「DCB」
チーズロコモコは「Cーロコモコ」。
そして、省略していたが「チーズバーガー」は「CB」だった。一度として伝票に「チーズ」と書かれたことはないのだ。
つまり、チーズ月見はこうなる!
「チーズツキミ」でもじゅうぶん7文字に収まるのだが、ここは謎のこだわり「C」を優先する方に賭けた。
さあ、どうだ?
当たっ………てない!?
おい、なんだそのダブルハイフンは。どこで覚えたんだそんな技。
的中かと思いきや、予想を紙一重でかわす妙技を見せつけられた。まるで「チーズはCになる」法則がバレるのを見越していたかのようだ。
このあたりで私は自覚する。今やってることはマクドナルドの調査ではない。
マクドとの勝負だ。
野球のバッターが投球を予測してバットを振るように。サッカーのゴールキーパーがシュートの読みを信じて跳ぶように。
マクドがメニューをどう略してくるのか、私は経験と勘をたよりに予想する。無論、こちらが予想を立てていることはマクドも知っている。マクドに連絡とかは特にしてないけど絶対知ってる。それをわかった上で立ち向かうのだ。
高度な心理戦を制するのは私か、マクドか?
次のメニューだ! 態勢を整えろ!
ほう、今までの月見とはひと味違うようだな……
挟んであるチーズに加えて、ソースにまでチーズ要素をプラスした月見。カルボナーラをリスペクトしているに違いない。
ちなみに、この数日前にノーマルの月見バーガーを注文したところ、
ストレートに「ツキミ」だった。チーズ月見は「C--ツキミ」。ならば、今回も「ツキミ」が入るのは確実だろう。
……と見せかけて、
こうだろ?
パターンが見えた! と思わせた上で崩しにかかってくる。その手口を何度くらったと思ってるんだ。今回は「区別がつけばそれでいい論法」で来ると見た。
さあ、濃厚な一球を期待してるぞ。
普通だった。急にまともになるなよ。ドヤ顔で待ち構えてたのが恥ずかしいじゃないか。
自らの策に溺れた私は、チーズの容器と化した月見をほおばりつつ、次の手を模索するのであった。
この時期のマクドは、なぜか「濃厚」をフィーチャーしていたようだ。
次なるメニューはダブルチーズバーガーのチーズマシマシ版である。
予想だが、前回はセオリーを外して痛い目を見たので、今回は真面目にやってみよう。
「濃厚とろ~り月見」が「トローリツキミ」になったのを踏まえれば、
これが模範解答だろう。
マクドにだって、法則に従う良心は残ってるはずだ。
こっちは濃厚なのかよ。
本体のダブチが蒸発して形容詞だけ残ってしまった。濃厚で白いだけならバニラアイスも一緒じゃないか。
奇をてらった予想をすれば直球をぶち込む。正攻法で来ると構えれば搦め手で潜り込む。もうダメだ、マクドが強すぎる。戦略を見失って途方に暮れる私。
そしてマクドは、とどめとばかりに最強の刺客を送り込んできた。
最強だ。
「コク旨」「アンガス」「ビーフ」「ボロネーゼ」「グラコロ」。
要素が多すぎる。どの単語がどう略されるか全く読めない。
考えられる組み合わせの膨大さに頭が発熱しそうである。藤井聡太と対峙する棋士もこんな心境なんだろうか。
脳細胞のタコ足配線をどうにか解きほぐし、私が出した答は、これだ。
マクドのことだ。私が単語をこねくり回してパターンを探ってる様子などお見通しだろう。
その上で「え、コクウマでいいでしょ?」と単純極まりない一撃をかまし、こちらの考察を水泡に帰す。これがマクドの描いたシナリオである。
――――と、考えられるのだが、いかがだろうか。
アンガスビーフもボロネーゼも目くらましにすぎない。大事なのはコクがあって旨いことだ! そうだよな、マクド!
ボロネゼ-グラ!?
誰だよそれ! 中世ヨーロッパの貴族かよ!
何のためらいもなく「ボロネーゼ」を縮め、架空の人物まで錬成するマクドの剛腕。しょせん、伝票予想歴わずか半年の若造が太刀打ちできる相手ではなかったのか。
力の差を目の当たりにした私は、もう「貴族 フリー素材」で検索することぐらいしかできなかった。
およそ半年間の伝票ウォーズを戦ったことで、ある程度の傾向が見えてきた。
最初に立てた仮説だが、100%とはいかないものの、多くのメニューにあてはまるようだ。
「パイ」という単語で見てみよう。
創業当初からあるホットアップルパイは「アップルP」。
2007年に登場した三角チョコパイは「チョコパイ」である。
ただ、同じ三角チョコパイでも「よくばりカスタード」は「カスタードP」と、いまいち一貫してない。
そもそも、ホットアップルパイをアルファベットで略すなら「HAP」の方が自然な気がする。もうマクドはコインでも投げて適当に決めているとしか思えない。
伝票がこんなに自由だと、労基でもないのにマクドの職場環境が気になってしまう。
マクドの厨房では、この略称を使ってるんだろうか? 使ってるとすると、こんなに自由な略称で困らないのか?
マクドで働いたことがあるタダノヒトミさんに聞いてみたところ、このような回答を頂いた。
タダノヒトミさん、ご協力ありがとうございました!
あくまでもタダノヒトミさんの経験上だが、伝票の略称をやり取りに使ってるわけではないとのこと。
つまり裏を返せば、マクドは現場での呼びやすさなど気にせずフリーダムに決められる、ということになる。やりたい放題じゃないか。そりゃボロネゼ-グラも生まれるわ。
と、ここまで推測してきたが、実際マクドはどんな方針で略称を決めているのか? 私の仮説は正しいのか?
確認する手段はひとつ。
マクドを直撃しよう
マクドの公式サイトには問い合わせフォームがある。
しかし、「回答の転載・転送等の二次利用は禁止」とあるので、記事のための取材としては使えない。
そこで、マクド本社に手紙を出すことにした。
略称を調べ始めた経緯、立てた仮説と疑問点、これまでの伝票のコピー。
そしておいしいバーガーへの感謝をつづり、ポストに投函した。「返信はnoteに掲載させて頂く」旨も明記した。
送ってから数週間が過ぎ、マクドからの返信は、無い。
だが、法則などわからないままでいいんじゃないか、とも思うのだ。
マクドは私の対戦相手である。ライバルの手の内など、わからないのが当たり前のこと。
今後もマクドはどんどん新メニューを出すだろう。何度でも予測のつかない勝負をしようじゃないか。そしておいしく食べようじゃないか。
と、言ってるそばから。
2022年1月5日に登場した、これまた重装備の難敵だ。最後にこれを予想して記事を締めくくろう。皆さんもお考え下さい。
私の予想はこれである。あえて説明は省く。
皆さんの予想は決まっただろうか? そろそろインターホンという名のゴングが鳴る頃だ。
さあ、勝負!
8文字ィ!!
自宅で出前がとれるマクドは最寄りの一店舗だけである。よって、記事に登場した略称が全国共通かどうかはわからない。
皆さんも今度マクドを食べるとき、伝票を確かめてみてはどうだろうか。略称にも方言があるかもしれない。
それこそ「マクド」のように。
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