特集 2018年10月4日

国立感染症研究所でDNAを抽出したり蚊を作ったり

研究機関の一般公開イベントは、行くと確実に楽しい
研究機関の一般公開イベントは、行くと確実に楽しい
普通に生きていると、国立○○研究所、みたいなところには縁が無い人が多いだろう。

そこで何が研究されているのか知らないし、施設に入ったこともない。というか、そもそも基本的に入れないし。

ところが、こういうところは年に一~二回、一般公開日というのを設けている場合があるのだ。

つまり、関係ない我々が堂々と研究所に入っていって、中の人に「どういうことしてるんですか」と聞けるのである。

そんなの、楽しいに決まってるじゃないか。
1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

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国立感染症研究所って、どういうところなのか

ということで先日の9月29日、早稲田にある国立感染症研究所(NIID) 戸山庁舎の一般公開に参加してきた。

ここは厚生労働省の研究機関で、名前通り病気(感染症)の予防や治療に関する研究が行われているところである。

なんでいきなりそんなところに行ったのかというと、この感染研が僕の自転車通勤ルートの近くにあって、折良く一般公開をやるという情報をたまたま知ったのだ。
早稲田の駅から徒歩で10分ぐらいにある、国立感染症研究所 戸山庁舎。
早稲田の駅から徒歩で10分ぐらいにある、国立感染症研究所 戸山庁舎。
以前は、つくば学園都市にある研究機関がまとめて公開される「科学技術週間」にも行ったことがあるので、この一般公開という催しがすごく面白いというのは知っていたんだけど、それにしたって“感染症研究所”だろう。

正直、語感のおどろおどろしさは否めないし、中身を知らないが故に「なんか怖い研究をしてるんじゃないか」という疑念もある。
ご機嫌なテンションでお出迎えしてくれた肝ちゃん。
ご機嫌なテンションでお出迎えしてくれた肝ちゃん。
で、ちょっとドキドキしながら入ってみたら、入口すぐのロビーからこれである。

感染研では肝炎の研究ももちろんしているということで、日本で唯一の臓器ゆるキャラ「肝ちゃん」だそうだ。ゆるい。でもすっごい子どもに囲まれてた。

うっかり写真を取り損ねたのだが、この肝ちゃん、おしりの辺りにちゃんと緑色の胆嚢がぶら下がっていた。その辺はやはり研究機関ならではのリアルを追求したのだと思う。
子どもたちには、ディスポキャップをかぶったペッパーくんも人気。
子どもたちには、ディスポキャップをかぶったペッパーくんも人気。
肝ちゃんの隣にはきちんと感染予防のディスポキャップをかぶったペッパーくんがクイズを出したりしていて、こちらも子どもになかなかの人気だった。

ただ、そのクイズが「肝臓病の原因はお酒の飲み過ぎだけ? 1. お酒の飲み過ぎだけが原因 2. 他にも原因がある」みたいな、やや重たい内容だったのが気になるけれど。
研究者が防護スーツを着るタイプの設備。かっこいい。
研究者が防護スーツを着るタイプの設備。かっこいい。
もうひとつ、ロビーにあった研究施設のミニチュアが妙にかっこよかった。

これは、細菌やウイルスを扱う研究所の格付け…BSLで最高の4に該当する研究(エボラウイルスとか、天然痘。生死に関わって、しかも感染力が強いもの)ができる施設の中でも新しいタイプのものだそうで、実はまだ日本には存在しないとのこと。

同じBSL4研究所でも、もうちょっと古いタイプ(それでも日本に2カ所しかない)のは国立感染症研究所の村山庁舎(武蔵村山)にあるそうで、ちなみに戸山庁舎はひとつ下のBSL3(生死に関わるが、有効な治療法や予防法がある。狂犬病など)とのことだ。
黄色いクルクルは防護スーツ内の気圧を保つエアーホース。このスーツ着てみたい。
黄色いクルクルは防護スーツ内の気圧を保つエアーホース。このスーツ着てみたい。
BSL3でも生死に関わる病原体の研究をしてるんだから当たり前だけど、今日はそういう設備を見せてもらえるわけではない。

その代わりと言っちゃなんだが、一般公開の良いところは、何か展示物を「へー」って言いながら見ていると、どこからともなく研究者の人がやってきて「これはね…」と的確な説明をしてくれるのだ。

こっちがノーハンドでぼんやり参加しても、帰る頃には新しい知識で脳がパンパンになっている、という仕組みである。

もちろん、さっきからのBSLだの設備の話だのも、僕がぼんやり設備ミニチュアを見ていたら、スッと研究者が現れて、レクチャーしてくれたものだ。
ちゃんと着させてもらいました。顔だけ合成したっぽくて、わかりやすい面白写真だ。
ちゃんと着させてもらいました。顔だけ合成したっぽくて、わかりやすい面白写真だ。
で、話をフンフンと興味深げに聞いていると、「じゃあ簡易版で良かったら防護スーツ体験してみる?」みたいなことも言ってくれたりする。

なので、一般公開を楽しむコツは、展示物の前にいる関係者っぽい人になんでも聞いてみることである。

人生初 大腸菌を調べたり、ブロッコリーのDNAを抽出したり

他にも、会場では体験イベントやツアーがあちこちで行われていて、当日に申込をするといろんなことをやらせてくれる。
こういうツアーは人気なので、午前中早めに行って申し込まないとだいたいすぐに埋まってしまう。要注意。
こういうツアーは人気なので、午前中早めに行って申し込まないとだいたいすぐに埋まってしまう。要注意。
上の写真は、菌やウイルスを安全に取り扱う方法を教えてもらいつつ体験する『バイオセーフティーラボ体験』というツアー。

密閉されたガラスケースやビニールテントみたいなのに手だけ入れて菌を検査するやつで、今回はサンプルの大腸菌がどの種類なのかを同定する実験をさせてもらった。大腸菌を調べたの、人生初体験である。

あとは、「ブロッコリーからDNAを抽出してみよう」というツアーにも参加した。
すり潰したブロッコリーから、DNAを取り出すセット。
すり潰したブロッコリーから、DNAを取り出すセット。
45年間生きてきたけど、もちろんDNAを抽出するのだって初体験だ。

というかDNAってそんな簡単に素人が取り出せちゃっていいものなのか。

話を聞くと、どうやらブロッコリーはDNAを抽出しやすいので、こういう実験によく使われるそうだ。先端の花芽(あのもしゃもしゃしたところ)は容積辺りで細胞がいっぱいあるので、つまりDNAが手軽にいっぱい取れるらしい。
15分ほどのツアーで、誰でも簡単にDNAが抽出できます。
15分ほどのツアーで、誰でも簡単にDNAが抽出できます。
手順としては、新鮮なブロッコリーの花芽をしっかりすり潰したら、そこに食器用洗剤と食塩、水を混ぜた抽出液を加える。

10分ほど放置すると洗剤に含まれる界面活性剤が細胞壁を破壊してくれるので、それを茶こしで濾して取れた液に、キンキンに冷やした消毒用エタノールをゆっくり注ぐと…
これがDNA!
これがDNA!
白濁してモロモロとしたヒモみたいなものが、沈殿したブロッコリー液から浮かび上がってくる。これが、DNAなのだそう。

もちろんお馴染みの二重螺旋構造とかは電子顕微鏡で見ないと分からないが、それでも、薬局やスーパーで買えるものだけを使って、なんか知らんけどDNAが抽出できる、というのはなかなかの興奮である。

アテンドしてくれた関係者の方から「初めてにしてはうまくDNAが出てますよ」と褒められたが、言うまでもなくDNAの出し方を褒められたのも人生初だ。

ちなみに爪楊枝を上手に使えば、浮かんできたDNAの端を引っかけてクルクルと巻き取ることもできるらしい。巻き取れるのか、DNA。

飛び出すサルモネラ菌も見られるぞ

さて、体験ツアーで人生初体験をいろいろ味わったあとは、展示物を見てみよう。

まずロビーから続く廊下には、ウイルスや細菌、寄生虫など感染症を引き起こす病原体の写真パネルが飾られている。

ノロやヘルペスなど聞き覚えのあるウイルスだって見放題だ。あー、SARSが騒がれてた時にこのウイルスの写真新聞に載ってたなぁ、とか。
一見よくわからないウイルスの写真でも、聞き覚えのある名前があると「ほほう」と思う。
一見よくわからないウイルスの写真でも、聞き覚えのある名前があると「ほほう」と思う。
これらの写真パネルの近くに赤青の3Dメガネが入った箱があったので何かと思ったら、サルモネラやレンサ球菌、血を吸ってパンパンに膨れたツツガムシなんかの3D写真も展示されていた。
飛び出すサルモネラとレンサ球菌(飛び出されては困る)
飛び出すサルモネラとレンサ球菌(飛び出されては困る)
今回の取材に同行してくれた編集部安藤さんも「おれ、サルモネラ菌を3Dで見たの初めてですよ!」とテンション高めに話してくれたが、そんなの、もちろん僕もである。

特にレンサ球菌は3Dだとやたらとツブツブ感があり、迫力がすごい。
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とれたてピチピチのアニサキスも見放題

ウイルス写真満載の廊下を通って階段を上がり、次は2階の展示スペースへ移動してきた。

こちらは感染症を引き起こす寄生虫や蚊などがたっぷり並べられている場所である。
2階展示スペース。寄生虫とかその手が苦手な人は、ここから次の章まで素早くスクロールして飛ばしてください。
2階展示スペース。寄生虫とかその手が苦手な人は、ここから次の章まで素早くスクロールして飛ばしてください。
ぶっちゃけ、そういうのが苦手な人は叫んで逃げ出す系のやつだ。(実際、部屋に入った瞬間にクルッと引き返す人が何人かいた)
巨大なアカイエカの模型。リアルすぎてさすがにビクッとした。
巨大なアカイエカの模型。リアルすぎてさすがにビクッとした。
WHOの統計によると、1年間でもっとも人を殺している生物は猛獣や人間ではなく圧倒的に“蚊”だそうで、年間72万人が蚊に刺されたことによる感染症(マラリアやデング熱など)で亡くなっているらしい。

つまり、感染症研究所でも蚊は重要な研究テーマなのである。
6~8月の毎週土日はボウフラ退治の日ってご存知でしたか。「土曜日がダメなら日曜日!」という押し方に本気を感じる。
6~8月の毎週土日はボウフラ退治の日ってご存知でしたか。「土曜日がダメなら日曜日!」という押し方に本気を感じる。
本物のアカイエカやヒトスジシマカも生きたままガラスケースで展示されていた。これはさすがに見ただけで全身が痒い。
本物のアカイエカやヒトスジシマカも生きたままガラスケースで展示されていた。これはさすがに見ただけで全身が痒い。
蚊の他には、寄生虫として被害の多いアニサキスについてもスペース多めに展示されていたのだが、その展示方法がなかなかパンチが効いていてすごい。
生きてうねうねしてました。本日のアニサキス。
生きてうねうねしてました。本日のアニサキス。
これまでに採取されたアニサキスの標本などと一緒に、「本日のアニサキス」と題された、生きてうねうねと動いてるアニサキスがいたのだ。

しかも、「都内某小売店の本日のお買い得品(9月28日 ※一般公開日前日) 北海道産秋鮭 切身150円 3枚から13匹出てきました」とのコメント付き。

いるのか!という事実を告げられるだけでも怖いが、さらにその実物がシャーレでうねうねしてるのを見せられるとキツさも倍増だ。鮭、切身の生食なんか絶対するもんじゃないよな。

ゆるくて勉強になるメイン会場

蚊やアニサキス展示で心身共にぐったりしたあとは、いよいよ一般公開でもっとも人が集まるメイン会場へ。

入る手前から子どもたちがワイワイと騒ぐ声が聞こえてくるので、「ああ、ここには楽しいものがあるに違いない」とホッとする。
メイン会場手前のポスター。ここはゆるいぞ!と一目でわかるので安心できる。
メイン会場手前のポスター。ここはゆるいぞ!と一目でわかるので安心できる。
ここは研究所の人も法被を着てたりと、楽しげな感じ。
ここは研究所の人も法被を着てたりと、楽しげな感じ。
実際に足を踏み入れると、案の定なかなかのお祭りムードである。

テーブルでは子どもたちがなにやらボードゲームに興じていたりするので、どれどれ、と覗いてみた。
ぐらぐらパンデミックすごろく。
ぐらぐらパンデミックすごろく。
うむ、さすがは感染症研究所。子どもたちに供するゲームも一筋縄ではいかない感じ。

どういうゲームなのかぜひ混ぜてもらって遊びたかったが、順番待ちをしている子もいたので大人は我慢した。

あとから検索すると、日本公衆衛生学協会がこういう感染症ゲームをいろいろと発売しているらしい。どれも気になるので、機会があったらどれか買ってみたい。

で、ゲームテーブルの隣では、「蚊の模型が作れるよー」と呼び込みがされていた。どうやら蚊の模型はゲームより人気薄のようだ。
なので、参加してみた。
なので、参加してみた。
黒い針金モールやらスポイトやらをチョイチョイとねじって組み合わせていくと、ものの5分で蚊の模型ができあがり。

うん、ゆるい。なんとなく人気薄な事情も察せられたが、でもこのゆるさは全然きらいじゃない。
ゆるい。でも本物の蚊が吸血時に後ろ足を上げるポーズは再現できる(写真参照)
ゆるい。でも本物の蚊が吸血時に後ろ足を上げるポーズは再現できる(写真参照)
身体がスポイトなので、血(っぽい液)を吸うこともできるぞ。
身体がスポイトなので、血(っぽい液)を吸うこともできるぞ。
この他にも、3×3の的にボールを投げて、当たった数字に該当する感染症関連オリジナル缶バッジがもらえる「感染症ストラックアウト」(ゆるい)や、薬剤耐性菌が学べる「魚釣りゲーム」(ゆるい)などの催しも盛りだくさんだ。
ボールを投げて…
ボールを投げて…
感染症缶バッジをゲット。ピロリ菌が楽しそうでややイラつく。あと血を吸って膨らんだマダニの膨張率すげぇ。
感染症缶バッジをゲット。ピロリ菌が楽しそうでややイラつく。あと血を吸って膨らんだマダニの膨張率すげぇ。
こちらは魚釣りゲーム。
こちらは魚釣りゲーム。
抗生物質(バンコマイシン)が効く菌をこれで見分けよう(激ゆる)
抗生物質(バンコマイシン)が効く菌をこれで見分けよう(激ゆる)
こういうゆるすぎる企画の中にもちょっとずつ知見が混じり込んでいるのが面白い。

で、全体的に見ると、ハードに知識が増えるのと、ゆるくちょっと勉強になるのがいいバランスで混じっているわけで、これがまぁ研究機関の一般公開の楽しみと言えよう。
こちらはややハード寄り。大腸菌とマクロファージの関係を同比率の模型で説明してくれる展示。学校の授業よりも明らかに分かりやすくて「へぇー」ってなる。
こちらはややハード寄り。大腸菌とマクロファージの関係を同比率の模型で説明してくれる展示。学校の授業よりも明らかに分かりやすくて「へぇー」ってなる。
ちなみにこういった研究機関の一般公開は全国あちこち、時期いろいろ(わりと春と夏に集中してるけど)で開催されているので、今まで全く興味のなかった世界の話を聞くチャンスとして、ぜひ探して行ってみてほしい。

いま調べたら、10月20日に愛知県岡崎市の分子科学研究所で一般公開(なんと3年に1回!)があるようだ。分子科学、まったく何をやってるのか見当つかなくていいなぁ。行ってみたい。

知らない世界を知らないなりに楽しめるし、またそこで日々研究をしている人から直接に「知識の最前線」を教えてもらったりできるわけで、ほんと、行くといいんですよ。一般公開。

わりとスタンプラリーなんかも定番イベントで、施設によってオリジナルの変なスタンプが捺せたりするのも楽しみなのである。

いつか、研究機関のオリジナル変なスタンプコレクションもしてみたい。
感染研のスタンプラリーは、インフルエンザウイルスとかカンピロバクターが捺せるよ。
感染研のスタンプラリーは、インフルエンザウイルスとかカンピロバクターが捺せるよ。
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