Maker Faire Tokyo 2018で、デイリーポータルZのブースにロボットを展示していた。踊るロボットだ。正体は中に人間が入っているはりぼてである。
胸部に軽い気持ちでスイッチを付けたらみんなが押すのだ。なぜ人間はスイッチを押したがるのだろうか。
1994年愛知生まれ。大学であいまいな学部に入ったらあいまいな人間になった。いまわかっていることは、自分はけっこうひげが伸びるタイプだということ。
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ロボットのひみつ
ロボットの様子は動画でご覧いただきたい。
踊るロボットは、スイッチを押すとピロピロが出る
はじめにいうとロボットの胸部についているのはスイッチではない。
100均で売っていたただのマグネットである。
なんならマグネットすら使っていない
飾りにしようと思ってそれをボンドでくっつけたら、みんなが押すようになってしまった。
そんなこと考えてなかったので最初は焦った。なぜなら押してなにも起きないとちびっこが悲しい顔をして去ってゆくのだ。(それはまるで悪役の気分です)
なので踊るだけではなく、ボタンを押すとピロピロの出るロボットになった
記事タイトルは問題提起ではなくてそのときの僕の焦りの気持ちである。
メイカーフェアにはさわると動くものがいっぱいあるので当然のようにみんなスイッチを押すのだった。イベント名を「さわると動くフェア(たまに動かない)」に変えてもいいかもしれない。
スペックは人間
たまたま息を吹くとピロピロが出るようにロボットの頭部を作っていたので、スイッチを押されたときの機能を急遽現地で実装できた。
もともと吹くとピロピロが出る機能はあった
スイッチはどこかに繋がっているわけではないので、押されたら感覚で中身の人間が反応するという仕組みである。仕組みとか言ってるがようは人間が汗だくで頑張っている。
胴体の中にはなにもない
その感覚というのは振動だ。押されるとすこしボディが揺れるのでそのタイミングで吹く。
もうひとつは押している人の目線。胸部をよく見たあとなにかを期待するように別のところへ視線をやったときは「今、押した」と判断してピロピロを吹いていた。テクノロジーのテの字もないアナログさである。古代エジプトでもできる。
首もろくに動かず視界も悪いので、視覚から得られる情報はわずか
イベント中、使い道のないテクニックが僕の中で醸造されていくのがわかった。
ピエロのようなことをしているが、本当はもっと別のことをやろうと思っていたのだった。
なぜロボットを作ったのか
メイカーフェアは世界中で開催されているが、その元祖みたいなのがアメリカ・サンフランシス郊外で開催されている。Facebookでガイコツとロボットがその会場で踊っている様子の動画を見つけて、それが最高だった。
異次元の光景(ロボットからでかい音楽が流れている)
だからそれと似たようなことを東京でもやろうと思ってロボットを作ったのだ。
このロボットはRobot Dance Partyといって向こうではけっこう有名らしい。日本でいう山田勝己くらいの知名度だと勝手に思っている。知る人ぞ知るという感じだ。
そして作ったのがこれ
そのまま作るとコピーになってしまうのでオマージュっぽくなるように、頭を馬にしたり、ピロピロを搭載したり、作るのが難しそうなスピーカー(黒い丸)の代わりに胸部にアクセサリをつけてアレンジをした。
中国が奇妙なドラえもんを生み出してしまうのはこういう流れだろうか。もう指のあるドラえもんを見ても笑えない。
カラーマグネットと、そのへんにあったなにかの基板
もちろんこの基板もただの飾りである。
ただしロボットにおいては、基板があるかないかでタモリのサングラスがあるかないかくらい違う。
でかくて愉快なミュージックを撒き散らす予定だったアイテム
うまくいかなかったのは音響で、既存のスピーカーをそのままボディ内(基板とスイッチの裏の部分)に入れたら、がやがやの会場ではまったく外に聞こえなくて現地で困った。
ただロボットの中身だけガンガンに楽しげな音楽が響いて、そこだけがむだに愉快な空間になってしまった。もったいない愉快である。
このロボットは完成したのが前日で、イベントの前に動かしてみる暇がなかったのだけど、テストもせずになぜか自信たっぷりで会場に向かっていった。
本物のロボットかと聞かれる
結果としては、本来やりたかったミュージックを流してロボットが踊る光景とはやや別のものになった。
でもそれはそれでおもしろいことはけっこう起きていた。
動いていると、たまに近くを通る人に「本当にロボットですか」と聞かれることがあった。誰もいないのに踊り続けているのが人っぽくないみたいだ。外見とか動きではなく健気さという人間くさい要素でロボットらしさが出るとは思わなかった。
人がいるときも踊っている
メイカーフェアには本気でメカを作るような人がたくさんいるから、単調で規則的な動きをしてるとそれはもうロボットだと思われるようである。
思いがけないTIPSだがメイカーフェア限定なので他に役に立つ場面がない。この会場以外でロボットになってもとても蒸し暑いだけである。
周りにまったく人がいないタイミングの写真
こういう瞬間を写真で切り抜かれると寂しい感じが出てしまう。
しかし中身の人間としては15cmの長方形からの前方の景色しか見えていないので、周囲のがらんとした空気感はまったく伝わっていない。むしろ音楽が中で響いていて一人だけ常にパーティ状態なのは知っておいてほしい情報である。
そんなことよりも、ものづくりの祭典において説明したりする人(製作者)が横にいない不思議さのほうがおもしろい。そんなブースはほかにない。(だからこれはのらだ。)
ベイエリアの動画で見たガイコツの方も来てくれた
ガイコツの方が青いのはクロマキー用の衣装なんだろうか。それが逆に目立っていて、ガイコツも合わさってすごいビジュアルパワーになっている。
音響がちゃんできなかったのが悔しかったが、自分はそんなのは関係ないくらいに浮かれていた。
あの夢見た光景に近いものが実際にここにできているという興奮で、このときだけはちびっこのことを完全に無視していたと思う。
音楽がないけど、サンフランシスコに近い映像!
そして「なんとなくここだけサンフランシスコっぽい」と言ってもらえたのはうれしい。自分としてはサンフランシスコを超えて極楽っぽい気分であった。
スターウォーズのキャラクターと一緒に撮影
デイリーポータルZの正面にはスターウォーズのメイカーたちのブースがあって、一緒に写真を撮ってくれた。
作りがすごくて迫力があるのに、僕のロボットのせいでどこか締まらない。(金色じゃないからか)
ふわついたクロスオーバー感
わからないのは向こうの方々がどういう気分でロボットと写真を撮っているかだ。僕は映画の中のキャラクターと写真を撮れてうれしいけど、僕のロボットにはそういうロマンがないのでそのせいで輪郭がぼやけてしまっていないか心配である。
ロボットが人と踊っていると平和な感じがしていいなという気分になるのだけどなぜだろう。
SF映画だとたいていの場合ロボットが人間ともめているからかもしれない。ロボットと人間が仲良く踊ったりしていたら、たしかにそれでは物語が始まる気がしない。
ちびっこに中身を確認される
ちびっこは興味津々に接してくれるのはいいのだけど、作りの甘い部分から中身にアクセスできるせいでアームのすきまから素肌を触られたりした。
ロボットを出て休憩しているときは「壊れたロボットを直している人」になっていたのでバレてないはず
彼らはやはり動くものの中身が気になるようだけど、僕からしたら正直いやだなという感想である。僕だってロボットの気分に浸ってるのに確認されたら人間に引き戻されて冷めてしまう。
ただ、人間が入っているとわかると「中は人じゃん!」と言って笑顔で帰っていくのは微笑ましい。
僕もオカザえもんの中身がプレデターだったらいやなので納得の確認である。
やはりおとなも子どももスイッチを押す
みんな近づいて来ては流れるようにスイッチを押してゆく。
たまにかしこい子どもがスイッチじゃないところを押して来て、それに反応してピロピロが出ることがある。
機械じゃなくて人間が感覚でピロピロを吹いているのがバレる。
疲れるとスイッチを押してもピロピロが出なくなります
ロボットにはなれた
結論を言うと、僕はロボットになれたとはいってもいいだろう。
そしてスイッチっぽいものをつけておくとみんなが押すのでインタラクションが生まれて楽しいことがわかった。
本家のRobot Dance Partyはいろんなメディアで言及されているけど、みんなただ「最高だ」と感想を言っているのがすごい。
僕もそういう頭を使わない感想が出るようなものを生んでいきたい。