特集 2018年5月17日

公園の遊具に遊び方の説明がないのはなぜか聞いてきた

さいたま市の大崎公園。遊具の説明看板はありましたが、使い方はありませんでした。
さいたま市の大崎公園。遊具の説明看板はありましたが、使い方はありませんでした。
運動公園に散歩に行くことがあります。その運動公園には遊具と健康器具があり、健康器具には使い方の説明看板があるのに、遊具には遊び方の説明看板がありません。
気になったので公園の遊具でよく見るメーカー、株式会社コトブキさんに「なぜ遊具の使い方はないのか」聞いてきました。
1987年埼玉生まれの栃木育ち・群馬県在住。
週末は群馬の温泉を巡っています。
漫画やイラストを描いたり、それに付随した講師もたまにしております。(動画インタビュー)

前の記事:自分の実家のゆるキャラをつくる

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遊具に遊び方の説明がないのはどうして?

(左から)株式会社コトブキマーケティング本部の井上さんと一木さんに聞きます。
(左から)株式会社コトブキマーケティング本部の井上さんと一木さんに聞きます。
ぬっきぃ:さっそくですが、公園の健康器具には使い方の説明看板があるのに、遊具の遊び方看板がないのはなぜですか?

一木さん:そうですね…。
遊びは発明されるもの・自由なものなので、遊具メーカーが限定するものではないのです。
あっ!!!!!
あっ!!!!!
この一言で私は衝撃を受けました。「子供の頃の自由な気持ちを忘れていた!」と。「子供のころ自由に遊んでいたではないか!」と。
インタビュー開始1分で【遊具に遊び方の使い方の説明看板がない】理由がほぼ100%わかってしまいました。

まず、なぜ公園と遊具があるのか知ろう

そもそもなぜ遊具があるのか、お話しますね。
そもそもなぜ遊具があるのか、お話しますね。
一木さん:日本の遊具はどちらかというと体育器具で、校庭のアスレチック遊具とか肉体や身体、いわゆるフィジカルを高めるところに発端があると思っています。

高度成長期には三種の神器といわれていた、ブランコ・すべり台・砂場を中心に標準設計が行われていきました。
日本に団地が広がっていく中で団地・マンションの敷地内に小さな公園を設けたり、街中にも公園法の改正で「住居から500m以内に公園を作りましょう」ということで公園が出来て遊具が作られていったのです。(※この法律は平成15年3月28日に廃止されています)


物心ついたときから公園があったので「なぜ公園があるのか」考えたこともなかったのですが、法律で決まっていたようです。
公園は時として災害時避難所にもなります。それも踏まえた上での敷地なのです。

一木さん:コトブキは1980年過ぎの高度成長期終わり頃に遊具事業を始めました。ブランコ・すべり台・砂場は勿論ですが、それだけにとらわれず「もっと複数人が同時に遊べるような複合遊具を作ろう。遊びが連続して展開される遊具を」と、いろいろチャレンジしています。
すべり台は階段をのぼって滑るもの。という概念をとっぱらった両方共すべり台。 「これはすべり台ではなく坂です」と一木さん。面白い!
すべり台は階段をのぼって滑るもの。という概念をとっぱらった両方共すべり台。 「これはすべり台ではなく坂です」と一木さん。面白い!
一木さん:遊具のほうも遊び方の決まった定番遊具とは変わってきていますし、そういう意味で遊びは限定されるものではないんですよね。遊びは子供が発明するものでありその場で生まれるものなので…。

ぬっきぃ:発明しますね。私の小さいころは普通のすべり台でしたが、すべり台を使って鬼ごっこやゲームを考えて遊んでいました。自分たちでルールを作って。

一木:そうです!そうやって自分たちで決めた遊び方で、自分ができることへチャレンジしていくのが大切です。●●して遊びなさいって限定されない、するべきではないかもしれないですね。
そのとおりです。
そのとおりです。
当時は何を言われずとも勝手にローカルルールを作っては遊びまくっていたし、もしそこに「この遊具はこうやって遊べ」って看板があったら違いますよね。
遊具に遊び方看板がないのはなぜか、(胸が)痛いほどよくわかりました。

ユーザー向けではなく管理者向けの取扱説明書はある

遊具の遊び方看板が無い理由がわかりました。
ただ、ユーザー向けには取扱説明書はありませんが、管理者向けの一般公開されていない取扱説明書はあります。いわゆるサービスマニュアルです。特別に見せてもらいました。
図面に近い取付マニュアル。パーツリスト(部品)が記入してあります。専門的で複雑、そして分厚い。点検のチェックリストも!
図面に近い取付マニュアル。パーツリスト(部品)が記入してあります。専門的で複雑、そして分厚い。点検のチェックリストも!
これはバナナスライダーの取付マニュアル(左)。右の本体と見比べてみよう。
これはバナナスライダーの取付マニュアル(左)。右の本体と見比べてみよう。
一木さん:ユーザーは自由ですが、業界として管理はちゃんとやっています。

遊具には安全シールが貼ってある

一木さん:最近は取扱説明書ではないですが、一般社団法人 日本公園施設業協会の遊具の安全に関する規準を表示した【遊具種類別注意シール】というものを遊具に貼っています。
実際の遊具種類別注意シール。遊具によって貼ってあるシールが違います。全然気づきませんでした…。
実際の遊具種類別注意シール。遊具によって貼ってあるシールが違います。全然気づきませんでした…。
これは遊び場安全サイン。公園の入り口にある。
これは遊び場安全サイン。公園の入り口にある。
運動公園にはよく散歩に行くものの、遊具ではやっぱり遊べないので(本当は遊びたいです)こういったシールがあるとは気づきませんでした。
一木さん:小さいお子さんはあまり運動能力がないのでゆるい坂に、ある程度の年齢のお子さんは運動能力・判断能力があるので急降下なすべり台に。など、年齢によって難易度・設定を設けています。
子供は半年で体格がどんどん変わっていくので体力や判断力に応じた遊具を使って自分の力で遊ぶことが大切で、対象年齢を設定して遊具に表記シールをつけています。
対象年齢の設定シール。年齢によって遊具が違うのです。
対象年齢の設定シール。年齢によって遊具が違うのです。
一木さんは繰り返し自分の力・チャレンジと言っていました。
一方で、乱暴にお母さんたちが子供を高いところに乗せたりする場面を見ますが、そうではなくて自分で登っていくのが大切。楽しい範囲のところでやらないと遊びではなくなるので、自分でリスク判断ができるようになるのも遊具の役目だそうです。公園って遊びの場でもあり学びの場でもあるのです。

健康器具に説明書があるのは、やり方・効果の説明がメイン

遊具には遊び方の取扱説明書はないですが、健康器具には使い方の説明書きがあります。
その理由を箇条書きにすると
・ 使い方と効果・効能の説明。
・ 健康器具には大人用。
・ 公園にはあるけど健康遊具ではなく健康器具である。
公園にあったストレッチ器具。大人用のシールと使い方・効果の看板。
公園にあったストレッチ器具。大人用のシールと使い方・効果の看板。
健康器具は大人が使うという前提です。
インナーマッスルの強化・指を使って頭を使う、という健康づくりに重きが置いてあり“遊ぶ”というより “フィットネス”要素が。
健康器具は、ただやみくもに動かすより効果を意識して動かすと結果が違ってきます。そのための使い方の説明看板。健康器具は効かなきゃ意味がない。自由度はいらないのです。

ぬっきぃ:大人用のシールが貼ってあるからという理由もあると思いますが、子供が健康器具を使っているところ見たことないです。

井上さん:あまり子供にはおもしろそうに見えないように色を抑えめにしています。

取扱説明書の話はここまでですが、他にもいろいろと遊具の興味深い話を聞きました。実際の遊具を見ながら続けます!

公園・遊具は時代と共に進化している。

遊具は時代と共に変化・進化してきているそうです。話を聞くと、特に安全面に進化が。
まずは、すべり台です。ゲートと手すりに注目
まずは、すべり台です。ゲートと手すりに注目
一木さん:必ず着座してすべるように、立ったまますべることができないようにゲートをつけています。水筒やかばんが引っかからないように手すりの輪っかをなくしました。

筆者が子供の頃(約15年前)はゲートがないすべり台をすべっていました。手すりの輪っかによくスカートを引っかけた覚えがあります。
次にブランコ。チェーンでなくロープにすることによって指が挟まる問題を解消。
次にブランコ。チェーンでなくロープにすることによって指が挟まる問題を解消。
一木さん:吊橋とおなじ作り方のロープを使用しています。滑り止め作用もあります。

ほつれない・切れない・燃えないザイルロープを使用しているそうです。
セーフティーマット。すべり台の着地地点やブランコの下に敷いてあり衝撃を吸収してくれます。ふかふか!
セーフティーマット。すべり台の着地地点やブランコの下に敷いてあり衝撃を吸収してくれます。ふかふか!
一木さん:遊具の75%が落下事故です。【地面に注意】は浸透してきています。
マットを引かない場合でも、砂地にして衝撃をやわらげるようにしています。
セーフティキャップ。ボルトがむき出しにならないようになっています。私が子供の頃はむき出しで、イタズラっ子が手で緩めていました。
セーフティキャップ。ボルトがむき出しにならないようになっています。私が子供の頃はむき出しで、イタズラっ子が手で緩めていました。

年齢によってゾーニングしている。

以前は1~3歳の小さい子どもが遊べる場所と言ったら、砂場しかありませんでした。
今は遊具の対象年齢の設定もあり、子どもから高齢者まで各年齢でゾーニングされています。

井上さん: 小さい子は高いところに登れないので低い位置にアトラクションを付けています。高いところに乗らなくても遊べるように。
ただ回すだけの低年齢向けの遊具。低い位置についている。
ただ回すだけの低年齢向けの遊具。低い位置についている。
井上さん:最近はパネルを低い位置だけに配置した遊具もショッピングセンター等によくあります。

一木さん:組み合わせ方も様々なのでそこの敷地のニーズに考えて、どういうアイテムを取り入れていこうとか面白そうとか住民参加で決めていくこともありますね。
「この辺は高齢者ばかりなので健康広場にしてください」という要望がでてくることもあるんですよ。

大人になると遊具は怖い?!

取材に同行してくれた編集部の石川さんは、お子さんと一緒に遊具で遊ぶそうです。

石川さん:大人になると遊具はけっこう怖いと感じます。
公園に取材に行って我慢できずに登ってみたけど、案外高くて不安になりすぐ降りる筆者。
公園に取材に行って我慢できずに登ってみたけど、案外高くて不安になりすぐ降りる筆者。
石川さん:子供と公園に行って一緒に遊具で遊ぶのですが、山のすべり台は掴むところがないし怖いです。
さいたま市大崎公園のすべり台。面白そうだけど高い!勇気がいります。
さいたま市大崎公園のすべり台。面白そうだけど高い!勇気がいります。
一木さん:子供は五感(視・聴・嗅(きゅう)・味・触)で体験する刺激のほか、、三半規管で感じる平衡感覚、重力を快感と感じてアドレナリンが出るんです。「高い高い」や、体をブラブラさせてあげるのも喜びますよね、それです。
バランスをとったり加速度・重力を感じたりすることは情緒を安心させ、ストレス解消の役割があるんです。


石川さん:情操教育というか。外で遊ぶって大事なんですね。
埼玉県羽生水郷公園わんぱく広場の高学年用の遊具。怖いと言うか、もはやSASUKEでは?
埼玉県羽生水郷公園わんぱく広場の高学年用の遊具。怖いと言うか、もはやSASUKEでは?

公園で遊ぶと身体がつくられる。

私が近所の運動公園に行くと、子どもたちはすべり台やベンチに集まって携帯ゲーム機で遊んでいます。遊具で遊ぶ子どもはあまり見ないかもしれません。

一木さん:実は子供の体格は年々よくなっているのですが、体の調整能力が弱まっているんです。例えばボール投げは遠投距離が下がってきています。かけっこで変な走り方をする子は筋力が無いのではなくて実は体全体でバランスがとれないなど理由があります。
遊具は色んな身体の使い方、動きが実践できるようになっているので、どんどん遊んで運動調整能力をつけて欲しいです。


さらに、遊具は運動能力以外の面でも子供の成長をうながすようになっています。たとえば、
「エビフライ」と有名なスイング遊具
「エビフライ」と有名なスイング遊具
この遊具の商品名は【ハニー】なので蜂かもしれませんが、特にとらわれなくていいとのことです。こういった抽象的なデザインで想像力も育むことができる。

二人オススメの公園を聞いた

最後に遊具のスペシャリストにオススメの公園を聞きました!
「どれもおすすめですが…」
「どれもおすすめですが…」
一木さん:神奈川県の【大和ゆとりの森】ですね、コトブキの総力が集結されています。今の遊具はココまでできますよと。
実は、大和ゆとりの森のおかげでココらへんは渋滞がすごいんです。

井上さん:静岡県にある白尾山公園です。
公園から富士山が見えるんですよ。ここは地域のお母さん達の意見を聞いて反映しました。コースが3つあり、充実しています!
カタログより静岡県の白尾山公園。
カタログより静岡県の白尾山公園。
ただ「公園があって遊具がある」程度にしか思っていなかったのですが、地域住民の意見を反映して公園をつくっていくとは驚きでした。
私がよく行く運動公園も作るまでにドラマがあったに違いない。

感想

話を聞いたあと、コトブキの遊具が設置されている都内の公園、埼玉県の羽生水郷公園と大崎公園に行ってきました。
都内の公園は敷地が小さいのに、複合遊具が一つあるだけで何種類も遊びができるので狭さは感じませんでした。
コトブキさんからカタログを貰った。カタログに乗っている遊具を見つけるとテンションが上がった。
コトブキさんからカタログを貰った。カタログに乗っている遊具を見つけるとテンションが上がった。
自分が取扱説明書のイラストを描く仕事をしているので「遊具には何故遊び方の説明書きがないのだろう?」とちょっとした疑問だったのですが、答えを聞いてスッキリしました。あの頃の気持ちを少し取り戻せたような気がします。自由に発想して遊び回っていたあの頃を。
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