ビジネスポータルZ 2018年3月31日

日帰り出張が楽しくなる、ビジネスマンのための「新幹線マイルール」

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ビジネスマンが出張時に利用する新幹線。何度か乗るうち、自分だけの“マイルール”が生まれたりはしないだろうか? たとえば、東京駅から東海道新幹線に乗った場合「新横浜を通過したら弁当を食べる」、「パソコンを使うためコンセントが近い席に座る」など、である。

ちなみに僕のルールは「トイレに近い通路側の席に座る」。そして、「トイレの流水音を最後まで聞く」こと。あの「シュコーー!!」こそ、新幹線の醍醐味だからだ。

それはさておき、頻繁に乗っている人ほどそうしたマイルールを数多く持っていたり、こだわりが洗練されていくのではないだろうか?
そこで、新幹線の達人ともいうべき有識者に、独自の新幹線マイルールを聞いてみた。
1991年生まれ埼玉育ち。編集プロダクション「やじろべえ」所属。服飾大学を出るも服が作れず、ライター・編集者を志す。


> 個人サイト 小野便利屋

「新幹線の車窓から」著者・栗原景さんのマイルールとは?

お話を伺ったのは、フォトライターの栗原景(くりはらかげり)さん。『新幹線の車窓から』『東海道新幹線の車窓は、こんなに面白い!』 など、新幹線とその味わい方に関する著書もある、その道の専門家である。
栗原景さん。自らも招待された鉄道イベント後にお話を伺った
栗原景さん。自らも招待された鉄道イベント後にお話を伺った
結論からいうと、栗原さん、新幹線の乗り方にめちゃくちゃこだわっていた。旅をより楽しむためのマイルールはどれも真似したくなるものばかりで、たぶんこれを読んだら、今すぐに新幹線に乗りたくなるのではないかと思う。

マイルール1:新幹線は「こだま」に乗る

―― さっそくですが、栗原さんの「新幹線マイルール」を教えてください

栗原さん(以下、敬称略):まず、時間に余裕がある旅の場合は「こだま」に乗ります。
東京から新大阪までの所要時間は1時間半ほど長くなりますが、こだまの自由席は空いていてのんびりできるんです。

それから、駅に停車する度に「のぞみ」の通過待ちがあって、各駅だいたい5分程度の待ち時間があるのもいいですね。各駅のホームで駅弁が買えますし、地域ごとの景色も楽しめる。昔の汽車旅の雰囲気が味わえるんですよ。

―― 指定席じゃなくて「自由席」に乗るんですか?

栗原:エクスプレス予約(ネット予約)だと指定席も自由席も同額で、あえて自由席を選ばない限り自動的に指定席になるんですが、こだまの指定席は3両から5両しかないので混雑するんです。

だから、僕はあえて自由席に乗ります。時期や時間帯にもよりますが、発車時刻ギリギリに乗車してもだいたい座れますし、空いています。

―― あえて「こだま」に乗る人って、栗原さんのように「ゆったり旅を楽しみたい」、心のゆとりを持った方が多いんでしょうか?

栗原:そうですね、車内の雰囲気も全然違いますよ。「のぞみ」普通車よりも安い値段でグリーン車に乗れるきっぷもあって、「最高に贅沢な4時間」を満喫できます。一度乗ればわかると思います。
あえての「こだま」。いきなり通っぽいこだわりが飛び出した
あえての「こだま」。いきなり通っぽいこだわりが飛び出した

マイルール2:東京駅では「生ビール」を発車直前に買う

―― 駅弁のこだわりはありますか? 必ずここで買う、とか。

栗原:東京駅の駅弁も好きですが、時間がある場合は大丸の地下でお寿司を買うこともあります。

あとは静岡県の駅弁は好きですね。全体的にレベルが高くて、おいしいんですよ。特に、三島の「港あじ鮨」。駿河湾の鯵を使った弁当なんですが、わさびが茎ごと一本入っているんです。それをプラスチック製のおろし金で擦って食べると絶品ですよ。

―― それは美味しそう! 「こだま」に乗って、各ホームの駅弁を食べ比べるのも楽しそうです。

栗原:こだまは車内販売がない代わりに、各駅の売店を物色する楽しみがありますよね。

でも、東京駅から豊橋駅までは品川駅を除いてホームに売店があるのですが、その先は要注意です。三河安城には売店がなくて、名古屋駅はすぐ出発するので買う時間がない、さらに次の岐阜羽島駅にもない。また、米原駅の下りホームの売店は14時で閉まってしまう。そこを逃すと次は京都ですからね。ホームの駅弁は、豊橋駅までに買うのがいいと思います。


―― ちなみに、栗原さんは車内でお酒は飲まれるんでしょうか?

栗原:飲みますよ。仕事でなければ。東京駅、新横浜駅、小田原駅は新幹線の改札内で「生ビール」が買えるんですよ。先に座席に荷物を置いて確保し、駅の待合室で待機します。そして、発車5分前くらいに生ビールを買って、1分前くらいに乗車するのが理想ですね。

―― けっこうギリギリだ。

栗原:やはり、動き出した瞬間に乾杯して、泡が新鮮なうちに飲みたいですから。「こだま」でゆったり旅する場合はそうします。一方、「のぞみ」に乗るときは缶ビールで、新横浜を過ぎてから飲むことが多いですね。
生ビールは東京駅新幹線改札内の売店で買える
生ビールは東京駅新幹線改札内の売店で買える

マイルール3:晴れの日の午前中は「E席」、雨の日や午後は「A席」に座る

―― 座席はどうでしょう? どの場所に座りますか?

栗原:時間帯によって変わりますかね。

午前中だったら2列シート(D席、E席)の富士山側。
というのも、午前中の3列シート(A席、B席、C席)は日差しが厳しいんですよ。でも、雨で日差しの心配がない時はA席がいいかな。「こだま」の自由席って、3列シートの真ん中に座る人が少ないので、ゆったり過ごせるんです。

あと、午後もA席側は若干日差しが入るんですけど、それを我慢すれば夕焼けを見られることもあります。
日差しをとるか、ゆったりをとるか
日差しをとるか、ゆったりをとるか
―― では、縦はどうですか? 車両の前方、真ん中、後方、どのあたりが好きとかありますか?

栗原:僕は真ん中ですね。揺れが一番少ないので、ゆったりできます。車輪の上にあたる前方、後方は揺れが大きくなるんですよ。

―― 同じ車両でもそんな違いが!ちなみに、車両によっても揺れ方って違うんですか?

栗原:後方の車両ほど揺れは大きいと思います。新幹線の先端に当たった空気って左右に分かれて乱気流になるので、後ろに行けばいくほど揺れる。最新の新幹線は対策が施されていますが、以前の車両はかなり気になりました。

マイルール4:区間ごとの速度を細かく記録して楽しむ

―― 走行中の車内では、どんなふうに過ごしますか?

栗原:必ずやるのは、「区間ごとの速度の計測」ですね。「GPS-Trk3」というアプリを使って、どこを何時何分に時速何kmで通過したか、10秒間隔で記録をとっています。

―― 毎回記録するんですか?

栗原:はい。同じ地点でも、毎回速度や前駅からの所要時間が少しずつ変わるんですよ。前の列車との間隔だったり、天候やブレーキの具合によっても違う。僕の感覚ですが、1分くらいは誤差が出ますね。
10秒ごとに、時刻・速度・高度を記録。何のために、と問われれば「楽しいから」である
10秒ごとに、時刻・速度・高度を記録。何のために、と問われれば「楽しいから」である
―― それぞれの区間の数字を見てニヤニヤ楽しむ感じですか?

栗原:そうですね。たとえば、東海道新幹線だと東京駅から新横浜駅を出て、相鉄線を過ぎたあたりで時速270kmくらいまで一気に加速します。それを見て、「お!本気出してきたな」って思いながら生ビールを飲むのが格別です。
山陽新幹線だと、姫路を通過したところで最高速度の時速300kmが出ます。

―― ちなみに、東海道新幹線が一番本気出すのはどの区間ですか?

栗原:相模川から熱海の手前まで、あるいは三島を過ぎて富士山がよく見えるあたり。それから、米原~京都間は存分にスピードを出してきますよ。

ただ、時速285kmが最高速度なのですが、定時運行をしている時は、本当のMAXに到達することはほとんどありません。だいたい時速280kmくらいが最高です。そういうのを見ながら「お、(MAXに)近づいてる近づいてる、あ、減速した」とか、そんなふうに思いをめぐらすのが楽しいんですよね。

マイルール5:車窓の「野立て看板」を観察する

―― 栗原さんは著書『新幹線の車窓から』の中で、区間ごとの車窓風景を紹介されていますが、東海道新幹線の車窓で「特に見るべきおすすめのポイント」ってありますか?

栗原:たくさんありますが、A席側(海側)でいうと、「プチプチ」の野立て看板ですかね。
荷物を運ぶ際に緩衝材として使われるプチプチです。梱包材メーカーの川上産業さんが、全国に1つだけ出している野立て看板なのですが、大磯の山の中にあって突然現れます。下り列車の場合、トンネルを抜けた先にパッと現れる一瞬を見逃さないでください。「プチプチ」という文字を繰り返し、らせん状に並べたデザインで、味わい深いんですよ。
プチプチがリサイクルされ、ぐるぐる循環していることを表したデザインなのだそう 写真提供:栗原景
プチプチがリサイクルされ、ぐるぐる循環していることを表したデザインなのだそう 写真提供:栗原景
栗原:難易度の高いところでは、E席側(山側)の「名古屋城」ですね。
遠くに一瞬だけ(3秒くらい)見えるポイントがあるんですよ。難易度が高いので、見つけたときはテンションが上がります。名古屋駅を過ぎて、庄内川を超える直前くらいに現れますので、じっと目を凝らしてみてください。

あとは、こちらは最高の難易度となりますが、A席側の「米原のトトロ」。山の岩にペイントしてトトロを描いたもので、地元の人が山の中に作ったものです。夏は緑に埋もれてしまうことが多く、なかなか見えない。僕も何度も何度も目を皿にして探して、やっと見つけることができました。
こちらがそのトトロ。一度見つけると、以降は不思議と「見える」ようになるのだとか 写真提供:栗原景
こちらがそのトトロ。一度見つけると、以降は不思議と「見える」ようになるのだとか 写真提供:栗原景
なお栗原さん、GoogleMapsでお気に入りの車窓風景をマッピングしている。これまでに撮影した写真は数十万カットにもおよび、ピンの数もすごいことになっている
なお栗原さん、GoogleMapsでお気に入りの車窓風景をマッピングしている。これまでに撮影した写真は数十万カットにもおよび、ピンの数もすごいことになっている
というわけで、出るわ出るわ、数々のマイルール。

ちなみに栗原さん、目的地の駅に着き、扉が開くギリギリまで座席を立たないそうだ。そのココロは「新幹線がホームに入り、だんだんと減速していくわずか数秒に旅の余韻を感じるんです。映画のエンドロールみたいなものですよ」とのこと。

大好きな新幹線で過ごす大切なひとときをさらに極上のものとするべく、細部に至るまで抜かりがない。さすが達人である。

栗原さんのメソッドを駆使すれば、日帰りのケチな出張だってちょっとは楽しくなるかもしれない。

新幹線に乗り慣れている人は、仕事ができる感じがする

仕事で新幹線を利用する場合は「速さ」や「電源の有無」などが重要になるだろう。
だが、それに加えて独自のこだわりを持っていると、いかにも「新幹線に乗り慣れた人」=「仕事ができる人」という印象を与えられるかもしれない。単なる移動手段としてではなく、何かしらのマイルールを持って積極的に楽しむ。そういう心のゆとりが、ビジネスマンには必要だ。

あなただけの新幹線のこだわりを教えてください

上着はここにかける、パソコンは膝の上において使う、持ち込むチップスターは塩味にするなどささやかだけど旅情を感じさせるこだりをよろしくお願いします!

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