有明北向ちくわぶめしのご紹介
そんなこんなで完成したのがこの『有明北向ちくわぶめし』。トップの写真のとおり有明県の名産を贅沢に盛り込んだ、JR湯島線 北向駅で販売される駅弁だ。
曲げわっぱ型の箱も女性客に人気
いきなり何を言っているかわからないと思うので、以降はここまでに至った経緯を書いていきたいと思う。
はじめに架空の県を考える
架空の駅弁を作るために、まず架空の県を作ろう。TOKIOもラーメンを作るためにまず小麦畑を作っていた。
今回は九州に新しい県を作ることにした。昔福岡に住んでいたのだけど、とにかく九州全域で食べ物が美味しかったからだ。この地ならきっと美味しい弁当が生まれるはず!
舞台を決めたら設定を詰めていく。ここからしばらくのあいだ妄想です。
有明県の歴史(有明資料博物館より)
ーー時は2030年。インターネットを中心に「”九州”なのに、沖縄を含めたとしても8県なのはおかしいんじゃないか?」という声が急速に広まった。有象無象が騒ぎ立て、「政府は何か隠しているんじゃないか」などといった憶測が声を大きくしていく。政府は「旧国名時代に9つの国から形成されただけであって…」と弁明するも「四国は4県じゃないか!」と事態は悪化、全国各地で暴動が起こるまでに発展してしまう。
事態の収束を図るため、国は前代未聞の大ナタを振るう。それが『九州に9つ目の県を作る』というものだった。新しい県名は”有明県”。有明海にいくつかの人工島を浮かべ、それら諸島を有明県と定めることとなった。
赤く色付いた諸島が有明県だ
ない都市を考えていく
上を読み飛ばした人も大丈夫です、一言でいうと有明県ができました。
ない県ができたので次はない都市を考えていこう。元より有明海に存在している湯島という有人島があるため、ここを拡張させ湯島市とし、県庁所在地にした。
湯島を含むいくつかの島はIT産業に力を入れ、大手IT企業の開発拠点として誘致に成功。経済を発展させていく。
北向駅ができるまで
さて、いよいよ今日の話の主役となる北向駅である。有明県はひとつの島がひとつの市となる。北向島の中心に構えるのが北向駅だ(名称は安直に自分の名前だ)。
JR湯島線は有明海の島々を結ぶ海上の路線である
北向駅はJR湯島線の中堅駅だ。湯島は洗練された街づくりと、かつて「人より猫の数が多く、”猫島”と呼ばれていた」というブランドを活かし観光客を集める一方、北向は「まあ大きなイオンがあるから生活には困らないよね」という程度で特色と呼べるものがない状況だった。
そこで議題に挙がったのが「名物となる駅弁で知名度をあげよう」というものだったのだ。
名物駅弁を作ろう
ようやくここで話がスタートにつながった。
いよいよ有明の名物を詰め込んだ駅弁を作るぞ!街の威信をかけて!
有明の未来は北向から始まる
当初は弁当に入れるメニュー全て有明名産で埋めようかと思ったのだけど、駅弁をいろいろ調べてみると、メインとなる品はだいたい1~2品という具合だった。なので今回は目玉料理をふたつ定めることにする。
名物1.ちくわぶを有明の名産にしよう
新しい県の弱みは、圧倒的に歴史がない、ということ。真っ向勝負では到底他の県に敵わない。なので名産品を作るにせよ他とかぶらないもので勝負することにした。
立地を考えよう。有明海は雲仙岳などの山に囲まれ、晴れの日が多い瀬戸内海式気候に近い。
この気候で育てやすい穀物が、小麦。というわけで限られた土地ながらも小麦を育てていくことにした。
ではその小麦を使って何を作るか…うどんでは香川には到底かなわない、パンでは駅弁らしくならない、うんうん唸った結果たどり着いたのが、西ではあまり馴染みのない「ちくわぶ」だった。我が県にはこれしかない!
おでんに入れるあれだ。裏面の原材料を見たら小麦100%だった
さて、ちくわぶをおかずとしてどう活かすか…駅弁製作委員会の調査と審議の結果、ちくわぶのからあげを名物にすることにした。からあげはみんな大好きだからだ。さっそく試作していこう。
切り口もかわいい、これはいけるぞ
一番ちくわぶがかわいくなる厚みで切ったらまるで歯車のよう。カットしたら醤油や酒、にんにくで味付けをして、小麦粉と片栗粉。要は唐揚げだ。
こんな調理風景初めて見る。歯車がいっぱいある
できたー!
完成!おらが町の名物、ちくわぶのからあげ!程よいニンニクと、油でカラッとしつつも芯のある、ちくわぶならではの独特な食感。これは、これは思いのほか良いおつまみだ…。
有明からJリーグ入りを目指すサッカークラブ、湯島ムツゴラーレの本拠地スタジアムでも名物メニューになるに違いない。
上は湯島ムツゴラーレのマスコット、ムツゴラッソだ
名物2.肉は、鴨肉
もう一品は県の魚であるムツゴロウ料理にしようかとも思ったのだけど、あまりに素直すぎるのであえて肉料理に挑もうと思う(正直なところムツゴロウの手に入れ方がわからなかった)。
ではなんの肉にするか、と考えついたのが「鴨肉」だった。福岡の鶏肉、佐賀の牛、熊本の馬肉、鹿児島の黒豚などから逃れた結果である。島の限られた土地でも比較的育てやすい、気もしたのだ。
有明海に浮かび枕草子などにも登場する風流島(たわれじま)にあやかり、風流鴨と名付けよう。
味付けにも県の特産品を使っていく。瀬戸内海式気候は柑橘類が強い。広島のレモン、愛媛のみかんなどなど…ならば我が有明も柑橘類を育てたい!
そう思って調べていると「シラヌヒ」というやたら格好いい名前の果物を見つけた。絶対これがいい!格好いいから!
これがシラヌヒだ!
見た目は完全にデコポンだけど、隣県の熊本で育てたもののみが「デコポン」を名乗れるとのこと。「シラヌヒ」のほうが中学生みたいで格好いいので拝借したい。
いい匂いすぎる。絶対この町の名産になってくれ
鴨肉と柑橘系の相性は抜群のはず。この辺りも踏まえて鴨をチョイスしたのだ。これを、鴨にかけるソースに仕立て上げる。
フードプロセッサーはないので手でつぶす
ジッパーに入れて粗めにつぶし、コンソメと水で煮立て、冷ます。完成したソースはタレビン(よく醤油やソースが入っているあの容器だ)へ入れた。
続けて風流鴨をローストにしていく。シンプルに下味程度の塩胡椒をまぶしたら火を通す。
鴨肉の脂がすごい
フライパンでやれよという作業だが、フライパンは先ほどちくわぶを揚げたため、油をテンプルで固め中なのだ。手際の悪さが際立つ。
最後にブラックペッパーを振ろう
うんうん、弁当の完成が楽しみになってきた。既に有明県も北向駅も本当はあるような気がしてきている。ないのがとても悲しい。
パッケージを作ろう
さて、駅弁に欠かせないのがパッケージ。どの駅弁を見てもメニューと同じくらいみんな力を入れている。我がちくわぶめしも負けちゃいられない。
油性ペンでなんとか筆っぽく書いていく
どの駅弁もだいたい字は筆で書かれていたのでそれっぽく頑張った。躍動感のあるちくわぶだ。
代償としてペンが机に裏移りした
ネットに「油性ペンは柑橘類の皮でこすると落ちる!」とあったのでシラヌヒの皮でこすったところ、汚れは落ちなかったが机がとてもいい匂いになった。
出来上がり図
さておき、いろいろレイアウトしてみたらそれらしくなってきた。ライターを続けていると不思議な能力がついてくるものだ。
日本鉄道構内営業中央会が認定した駅弁には右の駅弁マークがつけられる
公式の駅弁マークをつけたかったのだが、今回は残念ながら公式認定されないので(架空の駅弁のため)せめてと思いDPZマークを用意した。Zくんの収まり具合がお気に入りだ。
とうとう完成!有明北向ちくわぶめし
さぁメイン料理にパッケージも完成した。あとはもう賑やかしだ。"これがあれば駅弁っぽくなる2トップ"である厚焼き玉子と煮物を用意。曲げわっぱの容器に木の板で仕切りをつければ…(仕切りをつけると駅弁っぽさが40上がります)
完成!
さぁおらが町の駅弁がついに完成した!北向駅のほか、有明最大の商業施設、ARIA湯島でも販売決定である。
北向駅に来ました、逆光です
さっそく北向駅で食べることにした。海風が心地よい。右で見切れているオレンジの電車が湯島線だ。
まずはちくわぶを、と頬張った。が、白米の上に直接乗せたのが災いして水分を吸いグニグニになっていた。そうかー、弁当って難しい。でも見栄え的にご飯の上に乗せたかったんだ…。
アツアツの時は美味しかったんだけどな
気を取り直してと風流鴨にシラヌヒソースをかけて食べたところ、めちゃくちゃに美味しく小躍りした。
シラヌヒの甘みと酸味が鴨ローストの塩気と抜群に相性がいい。鴨特有の野性味も柑橘類の香りがうまーくフォローし、最後に振ったブラックペッパーも充分に効いている。
言わずもがなだが、ちくわぶより絶対こっちをメインにすべきだった。まだまだ改善の余地はあるけど、兆しが見えたぞ!
架空の駅弁を作って
と言うわけで架空の駅の架空の駅弁を作った一部始終をお送りした。ここまで読んでいただいた方は全編妄想の記事にお付き合いいただき感謝の一言に尽きる。
最後に有明県のスローガンをご紹介してお別れしましょう。
ぜーんぶアリ!有明。それでは皆様よい架空駅弁ライフを。
さよなら有明
作っているあいだは段々とこの架空の町に感情移入して不思議な高揚感があった。他の人たちの作った架空駅弁も見てみたいな、と鴨を食べながらぼんやり思った。