特集 2017年11月9日

スッキリするマンホールと、モヤッとするマンホール

僕らの足下には、スッキリとモヤモヤが落ちているのだ。
僕らの足下には、スッキリとモヤモヤが落ちているのだ。
ちょっとうつむき加減に歩いていると視界に入ってくるのが、マンホール。
そのマンホールに「スッキリ気持ちいいやつ」と「モヤッとするやつ」があるのだけれど、皆さんは気になったことないだろうか。
非常に個人的な話で恐縮なのだけれど、ちょっとそのスッキリ&モヤッとするやつの話に付き合ってください。
1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

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> 個人サイト イロブン Twitter:tech_k

スッキリ気持ちいいマンホールとは

具体的に言うと、タイル貼りの歩道の中央にあって、周囲に合わせてタイル貼りになっているマンホール。あれがスッキリ気持ちよかったり、モヤッとしたりするので、見つける度に写真を撮りためていたのだ。
商店街の入り口にあった、スッキリ気持ちいいヤツ。これすごい好き。
商店街の入り口にあった、スッキリ気持ちいいヤツ。これすごい好き。
おわかりいただけただろうか。
もっと分かりやすく上から見ると、こんな感じ。
完全に周囲に溶け込んだ状態。
完全に周囲に溶け込んだ状態。
つまり、周りのタイルにピタッと合ったタイル貼りマンホールの整合性が気持ちいいのだ。
上の写真で言うと、直線のタイルに加えてアーチ状のタイルまできれいに揃ってハマっている、この「ピタッ」という感じ。
こういうのを見るとつい「あー、気持ちいいなー」と思ってしまう。
よく見ると細部にズレはあるものの、基本的にはスッキリ。
よく見ると細部にズレはあるものの、基本的にはスッキリ。
四角いマンホール(角蓋)の辺に対してタイルが斜めに続いているやつも、いい。
マンホールのフチの幅まで考えて斜めタイルの流れを崩さないように作ってあるのが、とても律儀でいい。真面目でスッキリする。

こういうの、歩道にタイルを貼るときにマンホールの上で位置を合わせてタイルを割って貼って…とかやっているんだろうな。こういうチマチマした仕事がとても好きなので、やらせて欲しいぐらいだ。
この、ちょっぴりとした点字タイルよ!(黄色が剥げちゃってるけど)
この、ちょっぴりとした点字タイルよ!(黄色が剥げちゃってるけど)
これなんか超好きだ。
ほんのわずかにマンホールが点字タイルにかかってしまっているのだけれど、そこで点字タイルに食い込まないように、端っこにちょっぴりと点字タイルを残しているのだ。
点字タイルを幅1ドット分とはいえマンホール上に残す、この几帳面さよ。ほんと、真面目だな。

気持ちよくないマンホールと、その解決法

真面目の結晶みたいなこのタイル貼りマンホールだが、これがほんのちょっと手間を惜しんだ(かどうかは知らないが、たぶん惜しんだんだろう)だけで、一転、モヤッとしたマンホールに変わってしまうのだ。
アーケード街のタイル貼りマンホール。これはスッキリ。
アーケード街のタイル貼りマンホール。これはスッキリ。
うわー、モヤッとする!気持ち悪い!
うわー、モヤッとする!気持ち悪い!
これがモヤッとするマンホールだ。
おそらく、工事の人がマンホールを外して、作業して、戻すときに位置合わせをせずに適当にセットしちゃったのが原因なんだろう。
本来なら見てるだけで気持ちいいタイル貼りマンホールが、モヤモヤの悪魔に変わる。これはマンホールの「堕天」と言えよう。
合わせてくれよ、位置!モヤッとするから!直したい!

…とはいえ、マンホールを勝手に動かすと怒られそうだし、そもそも「マンホールフック」という専用の道具が必要だ。
そこで、申し訳ないのだが、ひとまず自分だけスッキリさせてもらいたいと思う。
画像を切り抜いて回転。
画像を切り抜いて回転。
画像中のマンホールをPhotoshopで切り抜いて、くるっと回転させて位置を合わせ、パチッとはめ戻す。
パチッとハマる。スッキリ!
パチッとハマる。スッキリ!
あー、これだよ。この状態が正しい。スッキリ。
マンホールと路面のタイルが一致したこの爽快感、お分かりいただけただろうか。

もちろん現実には何の解決にもなっていないので、ここを通っている人たちは変わらずモヤッとしているはず。でも、僕は気持ちいいから、いいのだ。

なんか自分だけスッキリしちゃって申し訳ないが、この調子で他のモヤッとマンホールも直していきたい。
どう考えても90°以上のズレがある。心の底から回したい。
どう考えても90°以上のズレがある。心の底から回したい。
これなんか、パッと見ただけだと柄がズレてるのか、もしくはそういう意匠なのか判断しづらいぐらいに回転している。
ここまでくるともうモヤモヤを通り越して「よくもこれだけズラせたな!」と感心してしまうぐらいのレベルだ。
ほら、スッキリ。回転してみると案の定100°ほどズレてた。
ほら、スッキリ。回転してみると案の定100°ほどズレてた。
そしてやってみて分かったことだが、タイルパターンが複雑であればあるほど、元通りにパチッとハマった時の爽快感は大きい。
これなんか縦と横にラインがあって、さらにタイルの大小、色の並びなど要素が多いだけに、きれいに揃った時はちょっとしたパズルを解いたぐらいの気持ちよさがある。
いや、単にマンホール回転させただけだけど。
「モヤッとするマンホール警察だ!お前モヤッとしているな!」
「モヤッとするマンホール警察だ!お前モヤッとしているな!」
一見スルーしてしまいそうなこの角蓋にもモヤモヤ感が潜んでいる。
もちろん、我らモヤッとするマンホール警察は日常に潜む些細な悪を見逃さない。
タイルの目地が一部だけ合っているせいで分かりにくいが、モヤッとしてる。
タイルの目地が一部だけ合っているせいで分かりにくいが、モヤッとしてる。
これなんか、斜めのラインが偶然揃っちゃってるせいで、一瞬、合ってるんだかズレてんだか判断が付かなくて、それがさらなるモヤモヤを生んでいる。罪深い。
180°回転で、この通り正しくスッキリ。
180°回転で、この通り正しくスッキリ。
というか、長方形の角蓋なんだから、円形のマンホールと違って置き方は二択しかない。
置いてみれば一目瞭然なわけで、むしろよく間違えたなと言いたいミスだ。
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点字タイル付きマンホールに潜むモヤモヤ

歩道にはマンホールと並んで点字タイルというものが存在する。
視覚に障害のある人が足の裏や杖で道行きを確認するためにある、あの黄色いデコボコだ。
点字タイルもマンホール、どちらも必ず必要なものだが、歩道のリソースは有限。必ずどこかでぶつかり合ってしまうのだ。
人に優しいマンホール。
人に優しいマンホール。
そこで生まれた解決策の一つが、前ページでもあった「点字タイル貼りマンホール」である。
これならお互いリソースを奪い合うこと無く歩道で共存できるわけだ。
食い込んだ分だけ、点字タイルをちゃんと再現してる。えらい。
食い込んだ分だけ、点字タイルをちゃんと再現してる。えらい。
優しさも相まって、ズレずにパチッとハマっているのを見るといつも以上にスッキリ感がある。とてもいいマンホールだ。
あと、上写真のマンホールは、点字タイルじゃない普通の舗装タイルがアスファルトにはみ出すような形になっている。
これはおそらく、もともとタイル貼りだった歩道を補修する際に、マンホール周囲のタイルを剥がしてアスファルトに舗装し直した結果だろう。要するにタイルの遺跡である。
わずかに漂う、モヤモヤの香り。
わずかに漂う、モヤモヤの香り。
しかし、そんな点字タイル貼りマンホールも、扱う人間の心がけによってはモヤッとしてくることがある。悪に堕ちた点字タイル貼りマンホールだ。
見た瞬間に「惜しい!」と声が出た、モヤッとするマンホール。
見た瞬間に「惜しい!」と声が出た、モヤッとするマンホール。
これなんか、もう、ほんのちょっとなのだ。
しかし、そのほんのちょっとのズレだけに、余分にモヤモヤ感が高まる。
わずか4.5°の回転でスッキリ。
わずか4.5°の回転でスッキリ。
点字タイルが90°とかズレてたらさすがに危険だし「直さなきゃ」という気にもなるが、これぐらいなら、工事の人も「うーん…まぁ、いいか」となってしまうのかもしれない。たぶん、実際にこの程度なら実害は無い気がするし。
でもやっぱりなんか怖いから、点字タイルはモヤモヤさせずに実際に直して欲しい。画像加工だけじゃ無くて。
またしても微妙なモヤモヤ。
またしても微妙なモヤモヤ。
こちらは約10°回転でスッキリ。
こちらは約10°回転でスッキリ。
ただ、もちろん普通のタイル貼りマンホールよりも収集した母数は少ないのだが、点字タイル貼りマンホールは比較的スッキリとハマっているものが多いように思う。
ヘタすると実害が生まれるものだけに、ズレてたらクレームが入ったり、工事の人もちょっと気を遣っているのかも知れない。

スッキリ不可能マンホール

さて、今回の記事のために撮りためたモヤッとマンホールを修正していると、「あれ?」と思うことがあった。
どう回転させてもスッキリしないマンホールがあるのだ。
回転させていきゃどこかで合うだろう、と思えたマンホール。
回転させていきゃどこかで合うだろう、と思えたマンホール。
これなんか、ちょっと回せばどこかで合いそうに思うじゃないか。というか、合うと思っていたのだ。
ところが、何度回転させても合わない。合うところが無い。
ぐるっと回すと…合わない!
ぐるっと回すと…合わない!
確かによく見れば、マンホールのフチにかかっている黒タイルと白タイルの組み合わせが合ってない。
例えば写真の中央上の辺り、歩道側には黒タイルが横並びに2つ続いているが、マンホール上にはそんなパーツが無いのだ。

これこそがどうやってもスッキリできない、「スッキリ不可能マンホール」という存在である。
間違い探しだと思えば楽しいかもしれないが、でもモヤモヤする。
間違い探しだと思えば楽しいかもしれないが、でもモヤモヤする。
なんでこういう妙なものが生まれたのだろうか?
もしかして、この一帯を工事した際にいくつかまとめてマンホールを外したものが、戻すときにシャッフルされてしまったのかもしれない…と考えて、周辺で条件に合うマンホールを探し回ったのだが、残念ながら発見できなかった。

この世のどこかに、この歩道にピタッと合うスッキリマンホールが存在するのだろうか。探し当ててここに戻してやったら、さぞかし気持ちのいいことだろう。
常にどこかで齟齬が生じる不可能マンホールのGIF動画
常にどこかで齟齬が生じる不可能マンホールのGIF動画
この「どう回しても合わない気持ち悪さ」を分かち合いたい一心で作ったGIF動画を置いておくので、皆さんもたっぷりモヤモヤとして欲しい。
どこかが合ったように感じるかもしれないが、必ずどこかが間違っているから。

スッキリかモヤッとか、という視点でタイル貼りマンホールを見ていると、たまに「ははーん、これ最初から舗装タイルに合わす気が無いな?」というものもあることに気がついた。
おそらくマンホール工場で作られたときに最初から適当なタイル装飾が施されているタイプだ。
生まれたときから不可能マンホールの宿命を背負った悲しい角蓋。
生まれたときから不可能マンホールの宿命を背負った悲しい角蓋。
ここまで合わせる気が無いと、むしろそういうものなんだな、という諦めに近い気持ちになって、モヤッとしない。
それとも、世界のどこかには、このマンホールがピタッとハマる約束の歩道的な場所があるのだろうか。ガンダーラにあるのか。あるなら、それは知りたい。
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