ウィーンのソーセージスタンドは、酔客にも下戸にも親切設計。一人客は店に据えつけられたカウンターでクイッとやり、大人数ならアイランドテーブルに収容される。ウィーンっ子の飲み方はきれいなもので、泥酔客はほとんど見かけないので、どんなに楽しくても酒に呑まれないよう要注意。ソーセージは常に焼かれているので、待ち時間もほとんどない。オペラ座の横は開演前や終演時間などに多少の行列ができるが、それでも数分待てば注文できる。観光客も地元民も老若男女の誰もが「何食べようか?」「一杯呑んでく?」(セリフは想像)と誰もが楽しげ。ウィーンのソーセージスタンドは掛け値なしに最高だった!
もう、国内にやり残したことはないのか
これまで国内でできることはやってきた。こんな本を買い漁ってみたり……。
食べ物雑誌(『dancyu』)でこんな実験を手伝ってみたり……。
はたまたこんな本を書いて、ソーセージの作り方を紹介してみたり……。
と、手当たり次第にウィンナー愛をぶちまけているうちに、とっぷりと首まで沼に浸かってしまった。なんとか本場へ行く手立てはないものか。念ずれば通ず、である。気づけばこんな場所にいた。
成田空港である。ウィンナーと言えば、本場はもちろんヨーロッパ。今年、某国の大使館からとあるミッションでお呼ばれして、裏ミッションとして勝手にこの細長いものを食べまくることに決めた。もちろん、フライト前成田空港での最後の一口もこれである。
本場でなくても全然うまい
ウィーンの街中はスタンドだらけだった
パリッと国内最後のウィンナーを平らげ、フィンランド航空で十数時間かけて、ウィンナーの本場……ウィーンへと飛んだ! 念のため、これはダジャレではない。ウィーンには街中至るところにWÜRSTELSTAND、つまりソーセージスタンドがある。
例えば繁華街のど真ん中ならこんな感じ。
例えば繁華街のど真ん中ならこんな感じ。
"WIENER WÜRSTL"。まさに「ウィンナーソーセージ」と書かれたスタンド
中心地からちょっと離れたバス停近くにもある。
こちらは"WÜRSTELSTAND"。もちろん「ソーセージスタンド」の意
とにかく市内の各所、駅前や公園の入り口近くなどに、必ずと言っていいほどスタンドがある。そして平日の明るいうちから、ウィーンっ子がビール&ソーセージのコンボをキメている。なんとも羨ましく、すばらしい気風である。
ウィーンっ子に聞くと「最近ではケバブ、ピザ、ヌードルを出す店も増えた」というが、人気、歴史とも"Würstelstand"、つまりソーセージスタンドが圧倒的だという。さすがウィンナーの街(という認識が正しいかは知らないが)、ウィーンである。
ウィーンっ子に聞くと「最近ではケバブ、ピザ、ヌードルを出す店も増えた」というが、人気、歴史とも"Würstelstand"、つまりソーセージスタンドが圧倒的だという。さすがウィンナーの街(という認識が正しいかは知らないが)、ウィーンである。
なんかもう風景として違う
さて、ここで「ウィンナー」の歴史をひもといてみる。ソーセージのなかで「ウィンナー」という種の誕生は1805年までさかのぼるという。ドイツはフランクフルト出身の職人がウィーンに渡って牛豚合い挽きのソーセージを考案。「ウィーン風フランクフルター」と名づけて売り出したら、みるみるうちに大人気に。やがて「ウィーン風」という名で世界中に広まった。
ただし食べ物は遠くに来ると原型とは離れていく。現在、日本のソーセージ類、「ウィンナー」の定義は日本農林(JAS)規格で次のように定められている。
・ウィンナーソーセージ……羊腸を(皮に)使用したもの、または製品の太さが20mm未満のもの
・フランクフルトソーセージ……豚腸を使用したもの、または製品の太さが20mm以上36mm未満のもの
・ボロニアソーセージ……牛腸を使用したもの、または製品の太さが36mm以上のもの。
実にざっくりである。基準はほぼ太さだけ。
たまに「海外のSUSHIは鮨ではない」なんてことを言う人がいるが、我々だって人のことを言えた義理ではない。真っ赤なウィンナーを食べたことのない者だけが、「SUSHI」に石を投げなさい。異文化圏に伝播したものが、現地カスタマイズされるのは世の常である。
ただし食べ物は遠くに来ると原型とは離れていく。現在、日本のソーセージ類、「ウィンナー」の定義は日本農林(JAS)規格で次のように定められている。
・ウィンナーソーセージ……羊腸を(皮に)使用したもの、または製品の太さが20mm未満のもの
・フランクフルトソーセージ……豚腸を使用したもの、または製品の太さが20mm以上36mm未満のもの
・ボロニアソーセージ……牛腸を使用したもの、または製品の太さが36mm以上のもの。
実にざっくりである。基準はほぼ太さだけ。
たまに「海外のSUSHIは鮨ではない」なんてことを言う人がいるが、我々だって人のことを言えた義理ではない。真っ赤なウィンナーを食べたことのない者だけが、「SUSHI」に石を投げなさい。異文化圏に伝播したものが、現地カスタマイズされるのは世の常である。
ウィーンのスーパーの惣菜コーナーにもSUSHIやGYOZAがあった
ウィーンは昼飲みも夜飲みも極楽だった!
今回は下調べ&現地在留邦人のご協力を得て、渡航前に市内のスタンドをリストアップ。空いた時間と胃袋のスペースはすべてビールと焼きソーセージに捧げたと言っても過言ではない。
そうして得られた結論は「ウィーンのソーセージスタンドは、どこに行っても極楽である!」だった。
もしもオペラや芸術が苦手でも……
そうして得られた結論は「ウィーンのソーセージスタンドは、どこに行っても極楽である!」だった。
もしもオペラや芸術が苦手でも……
オペラ座前のパブリックビューイング。舞台が無料でLIVE中継されている
ホテルザッハーのザッハトルテが甘すぎると感じる人でも……
"本家"、ホテルザッハーのザッハトルテ。本体は甘いが生クリームは甘くない
ビールとソーセージが好きならば、一度はこの街に来るべきだ。一人だろうとグループだろうと楽しめる。ウィーンのソーセージスタンドはすべての人に開かれている。
疲れがピークに達する滞在5日目の深夜25時にこのテンション。ちなみになぜか伊勢うどん大使でコラムニストの石原壮一郎さん(右)も同行。日本からやわらかい麺とたすきを持ち込み、ウィーンっ子に伊勢うどんをお見舞いしていた
注文のフロー(保存版!)
ソーセージの基本的な注文方法は、まずソーセージの種類を決定して注文する。ちなみにウィーンっ子によると「Bratwürst(ブラートヴルスト/焼きソーセージ)は店で食べるもの、家だと茹でて食べることが多い」のだとか。確かに今回スタンドでは「ゆで」は見なかった。どの店でも鉄板上で、何種類ものソーセージが焼かれていた。
今回の基本的な注文は、もっとも伝統的かつスタンダードなBratwürstに統一。あとはメニューにあるビールを適当に頼むことにした。どの店でも「ブルァアト・ヴルスト! あと××××(ビールの銘柄)!」と言い切って、店員に10ユーロを渡す。
焼きソーセージは安い店で約3ユーロ(約390円)弱、高い店だと5ユーロ(約650円)くらい。直径2~3cm×長さ20cm前後というかなり大きいサイズで、パンがひとつついてくる。小腹なら十分満たせるボリュームだ。ビールは地元メーカーのものなら、500mlのボトルや缶が約2.5~2.8ユーロ(330~370円)程度。店を選べば1000円で巨大ソーセージとビールが1Lくらい飲める。ウィーンのソーセージスタンドはヨーロッパのセンベロだったのだ。
焼きソーセージは安い店で約3ユーロ(約390円)弱、高い店だと5ユーロ(約650円)くらい。直径2~3cm×長さ20cm前後というかなり大きいサイズで、パンがひとつついてくる。小腹なら十分満たせるボリュームだ。ビールは地元メーカーのものなら、500mlのボトルや缶が約2.5~2.8ユーロ(330~370円)程度。店を選べば1000円で巨大ソーセージとビールが1Lくらい飲める。ウィーンのソーセージスタンドはヨーロッパのセンベロだったのだ。
この店のBratwürstは3.2ユーロ、ビールはStiegelが2.5ユーロ。完全に角打ち価格
ちなみに「ブルァアト」の部分は巻き舌っぽくしゃべるとそれっぽく聞こえる(気がする)。
例えば僕の注文はこう。
「ブルァアト・ヴルスト! あと、オッタクリンガー!(ウィーン市内に本社のあるビール会社)」と日本語まじりにカタコトで注文する(だいたい通じる)。すると"Süß oder scharf?"と聞かれる。カタカナにすると「ズュース・オーダー・シャーフ?」というような感じ。意味は「甘いの? それとも辛いの?」。つまりソースはケチャップかマスタードなのかを聞かれる。 ……。と教わったのだが、実はこれマスタードの種類を聞かれていたらしい。
「ズュース」は甘口のマスタード、「シャーフ」は辛口のマスタード。
僕はずっとバカのひとつ覚えで「バイデ(Beides)」――「両方!」と答えていた(正しくは「バイデ(ス)」と小さく「ス」を発音するらしい)が、どうやら"Beides!"と回答するのは"Senf? Ketchup?"――カタカナにすると「ゼンフ? ケチャップ?」という風に聞かれたときの答えなんだとか。
というわけで、スタンドの兄さんの問いかけが「ゼンフ? ケチャップ?」なのか「ズュース・オーダー・シャーフ?」なのかは、なんとか聞きわけたい。前者なら「バイデ(ス)」、後者なら甘口の「ズュース」か辛口の「シャーフ」かを選ぶ必要がある。僕はバカみたいに「バイデ!」と叫んでいたので、店が気を利かせてどちらかのマスタードをつけてくれていたということのようだ。
店によってはソースを聞く前に「ホットドッグ? それとも(つまみで食べられるよう)カットする?」と聞かれるが、ホットドッグの客は明確に「ホットドッグ」と注文する。ともあれ僕は「ブルァアト・ヴルスト!(Bratwurst)」「バイデ(ス)!(Beides)」と繰り返していたら、(用法が間違っていても)こういう素晴らしいものにありつけた。
例えば僕の注文はこう。
「ブルァアト・ヴルスト! あと、オッタクリンガー!(ウィーン市内に本社のあるビール会社)」と日本語まじりにカタコトで注文する(だいたい通じる)。すると"Süß oder scharf?"と聞かれる。カタカナにすると「ズュース・オーダー・シャーフ?」というような感じ。意味は「甘いの? それとも辛いの?」。つまりソースはケチャップかマスタードなのかを聞かれる。 ……。と教わったのだが、実はこれマスタードの種類を聞かれていたらしい。
「ズュース」は甘口のマスタード、「シャーフ」は辛口のマスタード。
僕はずっとバカのひとつ覚えで「バイデ(Beides)」――「両方!」と答えていた(正しくは「バイデ(ス)」と小さく「ス」を発音するらしい)が、どうやら"Beides!"と回答するのは"Senf? Ketchup?"――カタカナにすると「ゼンフ? ケチャップ?」という風に聞かれたときの答えなんだとか。
というわけで、スタンドの兄さんの問いかけが「ゼンフ? ケチャップ?」なのか「ズュース・オーダー・シャーフ?」なのかは、なんとか聞きわけたい。前者なら「バイデ(ス)」、後者なら甘口の「ズュース」か辛口の「シャーフ」かを選ぶ必要がある。僕はバカみたいに「バイデ!」と叫んでいたので、店が気を利かせてどちらかのマスタードをつけてくれていたということのようだ。
店によってはソースを聞く前に「ホットドッグ? それとも(つまみで食べられるよう)カットする?」と聞かれるが、ホットドッグの客は明確に「ホットドッグ」と注文する。ともあれ僕は「ブルァアト・ヴルスト!(Bratwurst)」「バイデ(ス)!(Beides)」と繰り返していたら、(用法が間違っていても)こういう素晴らしいものにありつけた。
トッピングにホースラディッシュを選べる店もある
ちなみにオーストリアの公用語はドイツ語。オーストリア独特の言い回しも多いが、何と言っても日常生活レベルの英語ならどこでもほぼ通じる。頼みたいソーセージの種類とビールの銘柄さえ押さえておけば、注文はまず問題ない。
腹ペコでお腹を満たしたい食事客にはファストフード店として機能し、明るいうちから一杯やろうという不届きな客を歓待し、散々飲み食いした〆の一軒として、酔客までも受け入れる。ものすごい懐の深さである。
腹ペコでお腹を満たしたい食事客にはファストフード店として機能し、明るいうちから一杯やろうという不届きな客を歓待し、散々飲み食いした〆の一軒として、酔客までも受け入れる。ものすごい懐の深さである。
ウィーン最高のソーセージスタンド(独断と偏見による)
さて今回行った中で、めぼしいスタンドはGoogle Mapに金、銀、銅色のピンを打っておいた。一部、外観の画像も添付してあるので、もしウィーンに行かれた際にはご活用いただきたい。もちろん、個人の感想である。ちなみに焦げ茶色のピンは、「評判はよかったが立ち寄れなかったスタンド」。ウィーンに行かれる方にはぜひご確認をお願いしたい。
今回一番通ったのは、6日間の滞在中に4回通ったスタンド。朝食を食べそびれた午前中に一人で立ち寄り、ウィーン菓子とウィーン料理を大量に食べた夕方にも訪れた。かと思えば、近所のビアバーで飲んだ後に4人で流れ、みんなでワインと生ハムを平らげた後に大勢で〆の宴会をした。そう、途中で伊勢うどん大使の石原さんも含めたみんなで、立ち飲み宴会風の画像を撮ったここだ。
「Würstelstand am Hoher Markt(ホーヤーマルクト)」。場所は中心部のやや北側。朝9時から午前4時まで営業していて、いつもウィーン市民が楽しそうに飲み食いしている。ここの「Bratwürst(ブラートヴルスト/焼きソーセージ)が実に肉肉しい。噛むとブシュッと脂が飛び散るのではなく、ギュッとした食感の肉の間から肉のエキスがしみ出してくる。「肉を食っている」という実感が得られる焼きソーセージのお値段は驚きの2.9ユーロ! うまいのにリーズナブルなんだから通わないわけがない。
「Bratwürst」以外も大充実。集団で訪れたときには、「ケーゼクライナー」(チーズ入りソーセージ)、「カリーヴルスト」(ケチャップとカレー粉がけ)、「レバーケーゼ」(ミートローフ)などあれこれ注文したが、いずれも肉の味がしっかりしていて、ビールとの相性も抜群。掛け値なしに最高だ。
「Bratwürst」以外も大充実。集団で訪れたときには、「ケーゼクライナー」(チーズ入りソーセージ)、「カリーヴルスト」(ケチャップとカレー粉がけ)、「レバーケーゼ」(ミートローフ)などあれこれ注文したが、いずれも肉の味がしっかりしていて、ビールとの相性も抜群。掛け値なしに最高だ。
ケーゼクライナー。現地表記では"KÄSEKRAINER"。ウィーンのスタンドを代表する人気のチーズ入りソーセージ
カリーヴルスト。現地表記は"CURRYWÜRST"。ケチャップとカレー粉がけ。第二次大戦後のドイツで生まれたと言われる
正直に申し上げて何をどう飲み食いしてもうまい。ビールもソーセージも進みまくり。飲んでは食べたくなり、食べては飲みたくなる。味はもちろん、空気も雰囲気も記憶がなくなるレベルですばらしいのだ。
しかもどのスタンドも味が違う。国が変われば好みも変わる。ウィーンっ子に聞いてみると、一番人気だったのは「アルベルティーニ広場のビッツィンガー」。オペラ座近くにある、うさぎのオブジェが屋根に乗っているスタンドだった。
しかもどのスタンドも味が違う。国が変われば好みも変わる。ウィーンっ子に聞いてみると、一番人気だったのは「アルベルティーニ広場のビッツィンガー」。オペラ座近くにある、うさぎのオブジェが屋根に乗っているスタンドだった。
「オペラ観劇に来る上流階級の人と最下層の人が肩を並べるスタンド」と言われるウィーンでもっとも有名なスタンド
その他、市民公園の北側、花屋の隣にある"Wiener Würstelstand"もうまかったし、シュテファン大聖堂の近くにある" Zum Goldenen Würstel"も少しお高いが、その分ボリューム満点。中心街にあって客の回転もいいから、いつもコンディションのいい一本にありつける。全世界おいしいもの共通の法則である。
H&Mなども出店する、ウィーンの中心街のスタンドは看板もおサイケな極彩色。日本の飲食店では考えられない色使い
「ウィンナー」の語源となったウィーン。そこには東洋の島国からやってきた旅行者には想像もつかない百花繚乱たる肉厚なソーセージ文化があった。この国のソーセージスタンドは、誰もが気軽に酔えるセンベロであり、空腹を即満たす立ち食いそば店のようであり、路上にある最高の居酒屋なのだ。
結局、帰路でも乗り継ぎのヘルシンキ空港(フィンランド)で総仕上げ。" Bratwürst"とだけ注文したらホットドッグが出てきた。そう、ここはウィーンではない