鉄道ムードの漂う理髪店
そのお店は西武池袋線清瀬駅から10分ほど歩いたところにある。名前はB.B.つばめ。看板には「鉄道ムードの漂う」とあるが、漂うどころではない。あふれ出ている。
お客さんに描いてもらったという看板
事前の連絡で「すみません。取材に伺いたいのですけど、そのあとに髪も切ってもらいたくて」と取材申し込みとカットの予約がいっぺんにできたのは自分の人生でも稀にみる二枚抜きだったと思う。
博物館ではなく理髪店の待ち合いスペースである
基本的に店内にあるものはすべて実際に使われていたもの
やはりお客さんは鉄道ファンが多く、この日来ていた方も中野区から40分ほどかけて通っているとのこと。なんと北海道や九州から訪れる方もいるそうだ。やっぱり飛行機じゃなくて電車で来るのかしら。
店内の展示も時季によって変えているそうで、この日のテーマは「桜前線北上中」
青函トンネルの石。そういうのもあるんだ
駅長(店長)の渡邉さん。この機材、ちゃんと天井のスピーカーにつながっています
自分は鉄道ファンではないので、見ただけでは何に使うのかわからないものがたくさんある。「これなんですか?」と聞けば教えてくれる。押しつけがましさもなく、ちょうどいい温度での丁寧な説明だ。
理容用品に見えるものも鉄道グッズを再利用していたりするので油断ができない。
タオルやドライヤーを置いている台も元は座席の簡易テーブルや網棚だった
今は理容グッズでぎっしりの台車も元は車内販売用のもの
上着をかけていたハンガーもよくみたら鉄道グッズ。ひー!
渡邉さんは全国の鉄道に乗っているので「沖縄以外はだいたい日本全国訪れたことがある」とのことで、私の出身が帯広市だと伝えると、すぐに「スーパーおおぞらとか」と電車の名前がでてくる。
なんだろう。普通なら地元の人間しか知らないような単語を聞くと、上京してきて出会った人が同郷だったときのような気持ちになる。平たくいえばとても嬉しい。
一番驚いたのは床。昔の車両の雰囲気を再現するためにヒノキを加工し、ネジもこだわりのもの
カットしてもらう
すっかり夢中で鉄道話をきいてしまったが、ここは理髪店だ。髪を切ってもらおう。
カット&顔そりに加えて、「最近頭頂部の薄さが気になる」と相談すると「油抜き」という育毛効果のあるメニューもやってみることになった。
駅長さんの制服も国鉄時代に実際に使用されていたもの
駅員さんの恰好をした人に顔を剃ってもらっている。不思議な光景
店内に飾っているものは渡邉さんが買い集めたものの他にも、鉄道居酒屋から譲り受けたものなど、さまざまな縁があって手元にあるのだという。
鏡の横に『のう』という駅名板があるのが気になったので尋ねてみると「世界で一番短い駅名ってなんだと思いますか?」という問いから始まり「ひらがなだと『津』だけどローマ字表記だと『のう』なんです」と解説があった。
これに思わず「わー、本当だー!」とはしゃいでしまった。合コンなら大成功のテンションだ。おそらく鉄板ネタなんじゃないか。
鉄道グッズかと思ったらダチョウの卵だった。意外!
近いうちにイスもグランクラス風のものに入れ替える予定らしい
「主幹制御器」なる機械。ものすごく価値のあるものらしいが、知らなければそうは見えない
鉄道話だけでなく「本業の腕もあります」との言葉通りに、顔そりの際にはスチームをあて、油抜きもかなりしっかり施術を受けた。
前のお客さんとお話を伺った分も合わせてお店にいたのは二時間ちょっと。理髪店にこんなに長くいたのも初めてだし、こんなに短く感じたのも初めてだ。
さっぱりしたところで一緒に記念撮影
最後に記念の切符をいただいた。つばめ駅!
鉄道ファンでなくても楽しめるお店でした
「取材じゃ取材じゃ」と張り切って行ったものの、慣れていないのが丸わかりなミスを連発。カメラの充電が切れてしまったときは電源ケーブルを貸していただき、設定までしてもらった。
渡邉さんが気さくで親切で、お店が人気なのは物珍しさだけが理由じゃないと納得。
あとで気づいたが「フリーライターのコスプレ」みたいな恰好だった