アイドルグループの人数を数えるのが難しいから熱帯魚屋さんにコツを聞いた

常に数を把握しておきたいと思っている。例えば東京都の推計人口は13,634,685人（2016年10月1日現在）で、日本の人口は1億2679万人（概算値・2017年4月1日現在）で、世界中にいる男の数は35億。これらの数を把握していたところで日常生活に役立つわけではないが、ざっくりとした数を把握することで精神の安定がはかられているように思う。

だから、アイドルグループの人数を把握できないと精神が不安定になってしまうのだ。何としても人数を把握しておきたい。

どうしたらいいのか？

そこで思いついたのが熱帯魚である。以前、熱帯魚を飼育していた時期があり、水槽内の魚の数を数えるのが難しかったことを思い出したのだ。指をさして数えようとしても魚たちの機敏な動きについていけず、いつも数えるのを諦めていた。あの諦めの感情が、アイドルの人数を数えている時のそれと同じであることに気がついたのである。

あの頃は（熱帯魚を）数えるのを諦めてしまったが、今回は（熱帯魚もアイドルも）諦めない。

熱帯魚屋さんから泳ぐ魚の数を数えるコツを聞いてみよう。

新宿サブナードにある「アクアフォレスト新宿店」にお邪魔して、水槽内の熱帯魚を数えるコツを聞いてみた。

店頭に置かれた大きな水槽で作業をしていた男性に声をかけてみた。

「すいません、熱帯魚の数え方のコツを教えてください」

作業の手を止め、僕の質問に答えてくれたのは、アクアリウムアドバイザーの黒澤さん。

「熱帯魚の数え方ですか？」

と、少し戸惑った表情をしている。

「水槽の中の熱帯魚を数えるって、あまりやらないんですよ」

ってことは、数えるコツはないってことになるのだろうか？ それでは困る。

― 水槽の中に何匹いるのか、把握はしていますよね？

黒澤さん「はい、それは把握しています。仕入れた時に何匹で、そこから何匹売れたとか、病気で死んじゃった魚が何匹とか。引き算で数を把握していますね」

そんなことだろうなぁ、とここに来るまでの間に薄々感じてはいた。

しかし、ここで引き下がる訳にはいかない。黒澤さんは熱帯魚のプロである。何かしらノウハウがあるはずだ。

― どうしても水槽の中の魚の数を数えないといけないとしたら？

黒澤さん「そうですね。その場合は…」

お！ コツが聞けるのか？

黒澤さん「10センチ四方で数えると分かりやすいと思います」

10センチ四方？ それはどういうことだろう？

黒澤さん「10センチ四方の枠を設定して、その中に何匹いるか数えるんです。例えば10匹いたとして、あとはその10センチ四方の枠が水槽内の魚群にどれくらい当てはまるかを考えて掛け算します」

なるほど。

例えば次の水槽のテトラの数を数える場合、

10センチ四方にテトラが8匹いるのがわかる。

テトラの群れに対して、10センチ四方の枠が12枠ほどはまるので、

8匹 × 12枠 = 96匹

という計算になる。

黒澤さん「テトラなどの小さい魚は、大体10センチ四方の範囲を大きく外れることがないんです。なので、この数え方は割と正確です。例えばこの水槽に何匹いると思います？」

「50匹くらいですか？」

10センチ四方メソッドを使わずに、まずは勘で答えてみた。

すると、黒澤さんは指で10センチ四方を作りながら数秒、真剣に水槽を見つめた。

黒澤さん「200匹はいます」

え！ ここにそんなにいるんですか！

黒澤さん「そうなんです。思ったよりも多いんです。逆を言うと、たくさん魚を入れないと見栄えがしないということです。例えば45センチ水槽の場合、一般的なお客様だと2～3センチくらいのお魚を10匹くらいで飼ってしまうんですが、実際は50匹くらいは入れないと見栄えがしないんです」

黒澤さん「魚の種類によって、泳ぎ方が激しいものもいますので、その場合は数えるのがさらに難しくなりますね」

― どんな魚が激しいんですか？

黒澤さん「コイ科のお魚は泳ぎが激しくて、さらに動きがランダムです」

黒澤さん「バルブを数えるのは難しいと思うので、この水槽にしましょう。何匹ですか？」

黒澤さんから突然出題される。

黒澤さんから教わった10センチ四方メソッドを駆使して数えてみた。

― 200匹？

黒澤さん「正解です！ じゃあ、これは？」

― えーと、150匹？

黒澤さん「素晴らしい。正解です！」

どうやら10センチ四方メソッドの会得に成功したようだ。黒澤さんも喜んでくれている。

ふと、ガラスに赤い枠がある水槽を見つけた。

― あれってもしかして、お魚を数えるための枠ですか？

黒澤さん「いえ、あれはあの水草が特価って意味です」

なんだ、そうか。よく見たら、下に「大特価」と書いてある。一番最初に、熱帯魚屋さんは水槽内のお魚を数えないって聞いていたのを忘れていた。10センチ四方メソッドに興奮し過ぎて恥ずかしい。

恥ずかしさを紛らすために、黒澤さんに一番好きな魚を聞いてみた。

黒澤さん「僕はベタが大好きでして」

黒澤さん「こいつの虜になってしまって、家でも9匹飼っています。ただ、こいつは気性が激しいので、1つの水槽に1匹ずつで飼わないといけないんです」

ベタは1つの水槽に1匹で飼う。

数えやすい！

熱帯魚の数え方のコツは分かった。そのコツをアイドルグループの人数の数え方に応用するにあたり、アイドルの皆さんがどのように動いているのか知っておく必要がある。

くるくると立ち位置を変えるダンスによって僕は人数が分からなくなるのだが、そのダンスのことをフォーメーションダンスと呼ぶらしい。陣形の変化で魅せるダンスだ。

実際にフォーメーションダンスを踊っている人からお話を伺うことはできないだろうか。

なんと、国民的アイドルグループ、AKB48チームKのメンバーである鈴木まりやさんからお話を伺えることになった。「3時のおやつはまりやんぬ」のキャッチフレーズでお馴染みのトップアイドルである。

AKB48のメンバーは、どのようにしてフォーメーションダンスを踊っているのだろうか。

---フォーメーションダンスについて教えてください。

「まず、ステージでの立ち位置ですが、こっちが客席でこっちがステージだとしたら、板が３つに分かれてるんですよ、劇場って。それを客席側から1セリ、2セリ、3セリと呼んでいて」

---それはAKB48劇場に限ったことですか？

「いえ、他のステージでも床に線が引いてあったりするんです。線がない場合、例えばMステ（ミュージックステーション）のステージの場合だと、横にあるものを目印にしたりします。あの柱があるラインが２列目だとか考えて。常に真ん中がゼロです」

---あ！立ち位置に番号があるんですね？

「はい、人数分の番号が振られます。自分固有の番号があるんですが、私たちメンバーはセリで考えます。例えば上手１セリ３番だったら、ここ」

「『１セリ、２セリ間（あいだ）』というのは、１セリと２セリの線を踏む人です」

「歌のフレーズが変わるごとに、上手３セリの２番から下手１セリの４番まで移動するとか。みんな番号で動きを覚えています」

---音符みたいなものですね？

「そうですね。確かに音符を暗記するのに似ていますね」

---ファンは推しメンのそういった動きを覚えてるってことですね？

「はい。みなさん立ち位置を把握してくれています。AKB48に入りたての頃、ファンの方から『まりやんぬは上手と下手、どっちが多い？』って良く聞かれていました」

---上手が多いとか下手が多いとかってあるんですか？

「どちらかと言えば上手の方が多いとか、そういうことはありますね。それによってファンの人は上手に座るか下手に座るかを決めるようです」

それにしてもアイドルはすごい。歌を覚えて、ダンスを覚えて、さらにフォーメーションの変化を番号で覚えているのだ。そのうちの１つだって、できる気がしない。

さらに、鈴木まりやさんは女優としても活躍していて、現在上映中の「いのちあるかぎり」という映画でヒロインを演じている。多才だ。

そんな鈴木まりやさんであるが、実は今月いっぱいでAKB48を卒業することを発表している。4月30日の卒業公演で約9年間のAKB48での活動にピリオドを打ち、女優としてソロ活動を開始するのだ。

これからはソロだから、数えやすいですね！ と鈴木さんに伝えると「ありがとうございます！」と笑顔で返してくれた。本当は「テトラからベタに変わるわけですね」と熱帯魚にたとえようと思ったが、きっと伝わらないのでやめておいた。

フォーメーションダンスについて、鈴木まりやさんからお話を伺ったが、「10センチ四方メソッド」が通用しそうにないことが分かった。10センチ四方で動く熱帯魚と違い、アイドルの皆さんは上手３セリの２番から下手１セリの４番まで移動したりするのだから。

ゼロベースに戻ってしまった。

こうなったらもう、慣れるしかないのではないか。フォーメーションダンスをたくさん観て動体視力を上げる。それしか方法はない。

早速、AKB48 TeamKの「夢の鐘」という曲の映像を観て、カウントにチャレンジすることにした。

１回観終わり、やはり全くカウントできない自分がいる。

カウントが難しい理由として、以下の項目が挙げられる。

・全員が同じ衣装
・人も動くがカメラも動く
・複数のカメラによる速いスイッチング
・フォーメーションダンスによる大きな陣形の変化。

やはり、人数のカウントは容易ではない。

2回目にチャレンジだ。

カウントのチャンスポイントとして、全員が映る引き画の瞬間があるのだが、その時間がとても短い。1秒もない。

薄目にして観たりするが、それはモザイクの向こう側を見ようとする時の方法だし、それでモザイクの向こう側が見えたことなんてない。

3回目にチャレンジする。

何度観ても分からない。

仕方がないので最後の手段に出ることにした。

映像の一時停止である。全員が映る引き画のタイミングで一時停止。

その結果、16名であることが分かり、僕の夢の鐘が鳴った。