【理由1】ご夫婦の仲がよろしい
「とんがらし」は夫婦二人で営む小さな店だ。妻が注文をとり、その奥で夫が天ぷらを揚げるシステムである。夫婦二人でやっているお店の99%は関係が冷え切っているものだが、ここは例外的な1%に該当する。とにかく仲睦まじいのだ。
JR水道橋駅から徒歩5分
忙しく手を動かしつつも、二人は楽しそうに会話をしており、特に夫が妻に積極的に話しかけている印象だ。それに妻も愛想よく応える。
ただ仲がいいだけじゃなく、お互いに対する敬意がうかがえるのも素敵だ。思い合う二人を見るたび、僕も自分の妻に対してそうありたいし、妻も僕に対してそうあってほしいといつも思う。妻いないけど。
仲良し
東京の立ち食い蕎麦で「ひもかわ」があるのは珍しいと思う
【理由2】旦那がかわいい
天ぷら担当の夫がかわいいのだ。少し腰の曲がった立ち姿で淡々と天ぷらを揚げ続ける、そのたたずまいは職人然としているが、声を発するとこれがもうベリーキュートなのである。
声がやさしく、言葉遣いもやわらかい。僕がとくにかわいいと思うのは、天ぷらが揚がったタイミングで「おドンブリ準備してくださ~い」と妻に声をかけるシーンである。おドンブリ!
おドンブリ片手にスタンバイする妻
【理由3】お母さんもかわいい
もちろん、妻も負けず劣らずかわいい。他人の妻をかわいい、というと語弊があるので「お母さん」と言い換えよう。忙しいときでも愛想がよく、(というか、忙しくない時がないのだが)その笑顔に癒される。
以前、営業時間より早めに暖簾をしまっているときがあって、僕が閉店後の店の前で立ち尽くしていると、「すみませんね~、今日は早めに閉めちゃったんですよ~」と、わざわざ店の外まで出てきてくれた。なんとも心地良い接客だ。居酒屋は大声出す研修とかしないで、このお母さんのところで修行させたらいいと思う。
天かすはとり放題
おろししょうがも入れ放題
【理由4】丼ものは15時から
そばやうどんもオススメなのだが、「とんがらし」のスペシャリテは天丼だと僕は考えている。食レポの際に(特に思っていないときでも)つい使ってしまう「みなさんもぜひ食べてみてはいかがでしょうか?」を心から言える。そんな天丼は15時からの時間限定メニューである。
丼類は15時から(土曜は11時20分から)
平日のランチタイムには出していないので、会社の昼休みがきっちり決まっている人は永遠に食べられないプレミアムな一品。ただ、決して値打ちこいているわけではなく、ランチは忙しくて丼まで手が回らないのだ。
僕はこの天丼が好きすぎて、普通に昼めしを食ったのに、15時にまた「とんがらし」に来てしまったことがある。いま、「うっかり」みたいな言い方をしたが、じつは何度もやっている。もはや、おやつ感覚である。でも確かに、食事というよりおやつ的な特別感があるのだ。
この札がかかったら丼開始の合図
【理由5】天ぷらの盛りが過剰
特に食べてほしいのが「もりあわせ」である。とにかくボリュームがすごく、様々な種類の天ぷらをこれでもかと盛り合わせてくる。
これでもか
天ぷらを端に積み上げると、やっとご飯が出てくる
メニューの張り紙には「いか・えび4個、又はいか・えび3個となす半分」と書いてあるが、出てきた天丼は明らかにそれより多い。いかは申告通り1個だが、えびは6個、なすは3個、また、それ以外の天ぷらもたくさんのっている。いつ頼んでも数が合わず、必ず多めに盛り合わせてくる。なので、「とんがらし」に来る際にはうんとお腹を空かせてきてほしい。言えばご飯は少な目によそってくれるが、天ぷらに関しては手加減なしだ。
えびは小ぶりで食べやすく、ぷりぷりしている
いかはでかくて食べ応えがあり、やわらかい
これで550円はもう、逆にパワハラなんじゃないかと思えてしまう。こっちは850円くらい払いたいのに、頑として値上げしてくれないハラスメントである。
メニュー表に書かれている天ぷらの数より明らかに多い。しかし、これはうれしい裏切りだ
【理由6】味噌汁は自分で作る
個人的には味噌汁を「自分で作る」ところにもぐっとくる。わかめとネギが入ったお椀にインスタント味噌汁のもとを入れ、カウンターのポットでお湯を注ぐ。味噌の香りとあったかい湯気が立ち上り、食欲が増進される。摂食中枢をグイグイ刺激するこの儀式を経ると、最高のコンディションで天丼と対峙することができるのだ。ちなみに、わかめの量もやや過剰である。
味噌汁は自分でお湯を入れるスタイル
味噌汁のもとがほんのりあったかいところにも、お母さんの気遣いを感じる
【理由7】いろいろトッピングしても1000円いかない
「もりあわせ」だけでも十分すぎるほどに満足なのだが、単品で「たまねぎ天」「春菊天」「なす天」「いか天」「「ちくわ天」などをオーダーできるので、それらを駆使してオリジナルの「超もりあわせ丼」を作るのもいいだろう。たとえば「もりあわせ」に入っていない「たまねぎ天」「春菊天」「ちくわ天」を追加してもたった970円。1000円を切ってしまう。
玉子50円も地味にうれしい
たまねぎ天160円。天つゆか塩か選べる
いつもごちそうさま
これほどの良心価格で天ぷら欲を大いに満たしてくれる店がほかにあるだろうか? あるかもしれないが、夫婦やお客さんの雰囲気なども合わせた唯一無二の「味わい」は、他ではなかなかお目にかかれないものだと思う。そもそも名前がいいよね、「とんがらし」。
そうした諸々を含めて、僕は「とんがらし」を愛しているのだ。
ここの子どもになりたい
お母さんに、いつからやっているんですか? と聞くと「もう20年」とのこと。「こんなに続けるつもりなかったんだけどね」と言って笑っていたが、お願いですからずっと続けてください。
もし僕が金持ちになったら、おとうさんとおかあさんごと店を買い取って、自分ちの庭に移転させたい。もしくは二人の息子になって、毎日ここの天丼を食べたい。僕の「とんがらし」愛は、それほどまでにヤバい領域に達している。今日のおやつも、もちろん天丼である。
というわけで、みなさんもぜひ食べてみてはいかがでしょうか?(本心)