特集 2016年11月7日

“理想郷”が伊豆半島に存在した

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“理想郷”なんて聞くと、現実にはない架空の世界を想像してしまうだろう。

しかし理想郷はある。ここ最近、ぼくはグーグルマップでやたらと理想郷を見ている。理想郷ってあるんだな~という感慨を常に新鮮にしておくためだ。そうしないと、日々のプレッシャーに負けてしまうじゃないか。

さて今回ぼくは、理想郷にようやく行けることになった。
本業は指圧師です。自分で企画した「ふしぎ指圧」で施術しています。webで記事を書くことをどうしてもやめられない。(動画インタビュー)


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> 個人サイト ふしぎ指圧

理想郷は「踊り子号」で行ける

踊り子号
踊り子号
理想郷は静岡県の伊豆半島にある。首都圏から行くとすると必然的に特急「踊り子号」を使うことになる。
ああ、踊り子号!
ああ、踊り子号!
ホームで停車しているところをたまに見る踊り子号! 仕事の移動中にこいつを見ると、強制的に旅情を呼び起こされてなんともつらい気持ちになるものだ。

しかしまあ今回ぼくはこれに乗る側の人間である。今日は平日。仕事中のやつら、おれを見よ。しかも行先は理想郷なんだぜ。
平日の踊り子号はガラガラだった
平日の踊り子号はガラガラだった
ハ~旅情よ……
ハ~旅情よ……
あっ海だ!
あっ海だ!
電車が伊豆半島に入ると海が見える。一瞬喜ぶが、踊り子号はすぐにトンネルに入る。踊り子号はこれの繰り返しだ。
【海が見える!→トンネルでがっかり→海が見える!→トンネルでがっかり】
何回も繰り返しているといい加減疲れてしまうので、踊り子号にご乗車の際にはこの点に気を付けていただきたい(ぼくは疲れた)。

富戸駅で降りる

理想郷に行くには「富戸駅」で下りるのが最短のようだ。いつも見ているグーグルマップがそう表示している。
注:後からわかったんだけど本当は伊東駅からバスで行くのが良いです
富戸。伊豆高原の近くといえばわかりやすいだろうか
富戸。伊豆高原の近くといえばわかりやすいだろうか
こんなところにも、ちゃんと人がいて、日々の暮らしを営んでいるんだなぁ……と思えるタイプの駅
こんなところにも、ちゃんと人がいて、日々の暮らしを営んでいるんだなぁ……と思えるタイプの駅
さて腹が減っている。駅員さんに聞いてみよう。

――昼ご飯を食べるところはありますか?

駅員「けっこう歩いたところに1軒だけありますね」

さっそく教えてもらった方向に歩き出した。
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ところが少し歩いたら駅員さんが追いかけてきた。
駅員「すいません! さっき教えたお店、よく見たら定休日みたいです! もっと歩いたところにお店があるんで、そこでパンとかそういうもの買ってもらうしかないです」
ああー。親切でありがたい。でも菓子パンか……。それなら、もうご飯はもういいや。”理想郷”に行ってしまおう。

――実はここから理想郷に行こうとしていたんですよ……。理想郷ってここから歩くの時間かかりますかね?
「理想郷はここから歩いて40分くらいですかね。ふつうの男性なら。ずっと上り坂ですけどね。理想郷まで行っちゃえば食べるところもありますよ」
“理想郷”という言葉を口に出すの、だいぶ勇気がいる。しかし、全く説明をしないでも”理想郷”が伝わっているのに興奮した。ここから理想郷を目指す人は多いのだろうか?

上り坂がきつい

こういう風景も新海誠のアニメになったらキラキラ輝きだすんだろうな
こういう風景も新海誠のアニメになったらキラキラ輝きだすんだろうな
理想郷までの上り坂はまるっきり登山であった。アスファルトに舗装されていて、たまに自動車が通る道。ぜんぜん面白くない登山である。

あっという間に元気がなくなって下を向いて歩いてしまう。すると気づいたことがある。なぜかチューハイの空き缶がやたらと落ちているのだ。
なんでこんなに落ちてるの
なんでこんなに落ちてるの
写真を撮り始めたのは途中からだが、それでもそれなりの数があった。人気のある飲み物なんだなあ……。それ以上考えないようにする。

国道に合流するとでかいゴリラがいた
国道に合流するとでかいゴリラがいた
今度はサボテンがある
今度はサボテンがある
やがてこんな感じの「地方の観光地」って感じのモニュメントが出現する。ここまで来ると理想郷はすぐ近くのはずだ。

キツくて長い坂。ビー玉置いたら時速100キロを超えて加速するんじゃないだろうか
キツくて長い坂。ビー玉置いたら時速100キロを超えて加速するんじゃないだろうか
また坂か……。”理想郷”という言葉のために、ぼくもよくやるよなあ……。
ここが理想郷
ここが理想郷
さてそれは坂を上り切った先にあった。
「ここは理想郷東口」
「ここは理想郷東口」
そう、”理想郷”とはバス停だったのである。富戸駅から1時間かかったぞ。
注:間違えているので1時間かかっています(後述)

理想郷には人がいた

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バス停には2人連れがいる。ぼくと同じくらいの年齢の男達だ。

――すいません、バス停をバックに写真撮ってもらえますかね?

「はい。いいですよ」
ピース
ピース
撮影してもらった後は自然と雑談になった。
――写真お上手ですねーありがとうございます!

男1「いや。ぼくは動画が専門でして。写真は全く上手ではありません」

――そうですか? きれいに撮れていますよ。

男1「本当に本当に下手なんですよ。専門は動画なんです……」

なんでこんなに否定するんだろう。なにか相手の琴線に触れてしまったようだ。雑談むずかしいな……。
男2「どこから来たんですか?」

――東京からです。実は、このバス停目当てに来ました

男1「ああー。理想郷ね。無いと思っていたけどね、理想郷なんて。本当にあったんだなってことね」

――そうそう、それが言いたくて来たんですよ

男1「ここが理想郷か……」
理想郷は完全に理解された。これだけ素早くわかってもらえるのは、みんな理想郷を渇望しているからじゃないだろうか……なんて思っていると、もう一人の男が妙なことを言い出す。
男2「いや。ここは理想郷じゃないですよ」

なにそれ。この人なんでそんなことを言うんだろう。

男2「ここ、”理想郷東口”ですよ。”理想郷”は別にありますよ」
――えっ?
「ここは理想郷東口」
「ここは理想郷東口」

あっ! 本当だ。バス停にあった地図を見ると、理想郷はさっき上ってきた坂を下ったところにあるようだ。グーグルマップではなぜか理想郷バス停が検索されず、理想郷東口だけが出てくる。それで間違えてしまったようだ。
――気づかずに通り過ぎていた理想郷か……

ボソッと言ったけど、誰も聞いていなかった。

これが本当の理想郷だ

というわけで理想郷東口から坂を下ること5分、こちらが真の理想郷である。
これが理想郷
これが理想郷
「ここは 理 想 郷」って書いてあるし
「ここは 理 想 郷」って書いてあるし
ここが本物の理想郷か……。さっきの理想郷東口よりも殺風景である。こんなところに来たがるなんて、よっぽど日頃疲れているんだな。東京から3時間かけてきて、自分の精神状態がよくわかった。

ところで、なぜここを理想郷というのだろう? そのへんを歩いてた地元住民に聞いてみた。

地元の人「理想郷ってのは住所とか地名じゃないですね。でもバス停とか観光用マップはなぜかこの辺一帯を理想郷って呼んでいるみたいですよ」

いきなり話しかけたのに、RPGの村人みたいちゃんと答えてくれた。でも中身は謎である。

理想郷行きのバスに乗って

理想郷はバス停なので”理想郷行きのバス”に乗ってみたい。ちょっとサニーディサービスみたいじゃないか。さらにバス停を一つ分歩いて、バスを待つ。
お、来た来た。理想郷行きのバス……!
お、来た来た。理想郷行きのバス……!
「次は理想郷」やったね
「次は理想郷」やったね
そしてさっきいた「理想郷」のバス停で降りる
そしてさっきいた「理想郷」のバス停で降りる
バスの運転手が「理想郷です」と停車を伝える声を出したのが印象的だった。地面の底から響くような、全く抑揚のない声だった。

理想郷一帯の様子
理想郷一帯の様子

理想郷とは何なのか

さて、ここまで一途に「理想郷」を連呼してきたが、結局のところ、これはいったい何なのか。市役所に問い合わせてみたが、よくわからない。ただ、ここなら知っているかもしれない、という会社を紹介してくれた。「伊豆総合産業株式会社大室高原別荘管理センター」さんである。(以下、管理センター)さっそく電話してみた。

管理センター 「今から60年前ですね。大室山周辺(この辺りのこと)でリゾート地の開発を行ったときに、地域住民の方々と『ここは将来の理想郷にしよう』というスローガンを作りました。その時の言葉が今でもバス停に残っているというわけなんです」

「理想郷」はそのまんまの意味であった。そして、半世紀以上前の言葉だった。正直ぼくはここを「よくある地方の観光地の姿」くらいにしか思わなかったが、ここを開発した人たちは本気でここを理想郷にしようと思っていたのだ。

そう思うと、なんでもない風景がぐっと目の前に迫ってくるものがある。

なお、近くにはシャボテン公園や、ぐらんぱる公園などの観光施設がある。特にそこには寄らないで次の目的に向かった。
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