特集 2016年9月16日

摩訶不思議な外観の店は中華料理店だった

!
「鎌倉市笛田にある、「ちんや食堂」。外観からして不思議な食堂なのですが、いったいどんなメニューがあるのか、何がおいしいのか、是非調べていただきたい」という投稿が、higeoyaji3rdさんからはまれぽ.com編集部へとどいた。

表はパリパリ、裏はモチモチの「ギョーザ」が一番の人気!麺類なら「しいたけそば」、定食なら「もつ炒め」もオススメだそうです。

はまれぽ.com 河野 哲弥
はまれぽ.comは横浜のキニナル情報が見つかるwebマガジンです。毎日更新の新着記事ではユーザーさんから投稿されたキニナル疑問を解決。はまれぽが体を張って徹底調査します。

前の記事:麺量1kgのラーメンをすり鉢で食べた


県道沿いでひときわ目を引く、独特の店構え

鎌倉大仏がある長谷から藤沢市内へ抜ける県道沿いに、何だか不思議な建物の定食屋がある。
その名もずばり、「ちんや食堂」。
「ちんや食堂」外観
「ちんや食堂」外観
ひときわ目を引く黄色の物体は、スピーカーのように見えるが、実はランプシェードのようだ。その下の黒い看板には「サンマーメン」とある。「ラーメン」と書かれた赤ちょうちんもあるし、木の切れ端で作ったような白い看板には「ぎょうざ」の文字が見える。

無秩序な色彩の中に独特の文字が躍っている。確かに不思議感が濃厚な店だが、その入り口の赤い暖簾を見ると、どうやら「中華料理」店であることは間違いなさそうだ。

そもそも「ちんや」って何だ。珍しいものが食べられるから「珍屋」なのか。
そんな数々の疑問を抱えつつ店内に入ると、そこには、何とも表現しがたい世界が広がっていた。

店主は80代で現役、その人生が詰まった店内

出迎えていただいたのは、店主の増田一仁(ますだ かずひと)さんと、奥さんの美佐子(みさこ)さん。
まずは、その店内の様子から拝見させて頂こう。
店主の増田さん(奥さんは、写真は遠慮したいとのこと)
店主の増田さん(奥さんは、写真は遠慮したいとのこと)
所狭しと並んだ、さまざまなオブジェたち
所狭しと並んだ、さまざまなオブジェたち
どことなく、仏教の思想も感じられる
どことなく、仏教の思想も感じられる
増田さんによれば、こうしたオブジェの多くは、自分の趣味で作ったものとのこと。
店外のさまざまな手描き看板も、増田さんご自身が「趣味が高じて」書いたものなのだとか。

以前は陶芸に凝っていたらしく、自作の皿や置物なども目に付いた。
仏教は特に意識したことはないが、「自然にそうなってしまったのでしょう」と話していた。
「空」という字をイメージしたという、陶器製の人形(テーブル右側)
「空」という字をイメージしたという、陶器製の人形(テーブル右側)
店外の看板や店内のオブジェの一部にも、このサインが描かれている
店外の看板や店内のオブジェの一部にも、このサインが描かれている
これはskyではなく、「うつろ」という意味の「空」をイメージしているそうだ。
色即是空という言葉にも使われるように、やはり、どことなく仏教感が伺える。

そんなオブジェを眺めていたら、かなり昔の写真を発見した。人力車や着物姿の女性が写るその奥に、「鎌倉ちんや食堂」の文字が確認できる。
いつごろのものなのだろう。この場所の昔の様子なのだろうか。
そこで、増田さんに、お店の歴史や名前の由来を聞いてみた。
いったん広告です

いよいよ明かされる「ちんや」の由来

実は、下の写真にある「鎌倉ちんや食堂」は、今の店の前身なのだそうだ。

昭和ひと桁の頃、鎌倉市にある長谷寺、通称長谷観音の近くに開業したとのこと。増田さんのお父さん(初代)が経営していたのだが、何分昔のことなので、あまりよく覚えていないらしい。
「ライスカレイ二十銭」の表記が、時代を感じさせる
「ライスカレイ二十銭」の表記が、時代を感じさせる
そして肝心の「ちんや」とは、その頃ご縁があった、浅草の牛なべ店の屋号をそのまま使わせてもらったそうだ。正式なのれん分けという訳ではないのだが、「牛なべ」も提供していたとのこと。写真では不鮮明だが、右から3番目に同メニューが記されている。

やがて昭和40年ころになると、神社にお参りするような習慣が次第に廃れ、長谷観音を訪れる参拝客が少なくなってきたという。そこで先代は、現店舗周辺が住宅地化されてきたこともあり、新たな客層を求めて、1kmほど離れた今の地に新店舗を構えた。

現店主は一時期、サラリーマンをしていたこともあったそうだが、これを期に神田の北京亭という中華料理店で修行。新店舗を継ぎ、中華料理屋として現在に至る。
メニューは至って普通の中華料理
メニューは至って普通の中華料理
そんな「ちんや食堂」は、はま旅Vol.26「大船編」でも紹介した松竹の撮影所に通っていた俳優などが、よく利用していたそうだ。映画「男はつらいよ」で主演をしていた故人、渥美清さんも、たびたび訪れていたとのこと。

しかし、時代が移るにつれ来店する人も少なくなり、今では一日30人程度といったところらしい。しかも、そのほとんどが昼食時のお客さんとのこと。実際、取材をさせてもらった14時ごろには、すでに誰もいなくなっていた。

人気料理やオススメは?

では、いよいよ人気メニューを頼んでみよう。

お店の看板商品は「ギョーザ」とのこと。麺類は「サンマーメン」や「しいたけそば」が人気らしい。
店主からは「もつ炒め定食」も薦められた。

朝からご飯抜きで訪問したが、とても全部は食べきれない。
そこで、「ギョーザ」と「しいたけそば」、それに「もつ炒め」の単品を頼んでみた。
まずは、「しいたけそば(800円)」
まずは、「しいたけそば(800円)」
全体的には、しょう油ベースのトロ味がかかった「広東麺」といった感じだ。
そこに、干しシイタケを戻して、甘く煮込んだものが入っている。

シイタケ独特の香りが、湯気に持ち上げられて食欲をそそる。この食感がすごい。
まるで生シイタケのようなシャキシャキした歯ごたえがある。

店主に聞くと、朝早くから手間暇をかけて、4時間ほど仕込むのだそうだ。
続いて「もつ炒め(750円)」と、「ギョーザ(450円)」
続いて「もつ炒め(750円)」と、「ギョーザ(450円)」
舌の上でとろけていくような、柔らかな「もつ炒め」にも感動した。モツ独特の臭いは全くしない。
これも朝からモツを煮込んで、トロトロになったものを炒めているそうだ。味付けは塩味で、よくあるピリ辛味ではないが、ご飯が進みそうな逸品。

「ギョーザ」は大ぶりのものが5個。表はパリパリで、裏側はモチモチしている。皮は薄めのものを使用しているが、一つ一つを離すときに、くっついて破れるようなことはない。かなり弾力性のある生地だった。

なお、これらのメニューの一部は、お持ち帰りも可能となっている。

「ちんや」の敷居は、決して高くはない

どうやら、外観から想像するような、奇をてらった店舗ではなさそうである。
根は至ってマジメな店主が、そのささやかな趣味を展示しているに過ぎないのだ。
昼を過ぎると独り占め状態になる店内
昼を過ぎると独り占め状態になる店内
本当はというのも変だが、増田さんは温かい人なのである。店の敷居は決して高くない。
ほんの少しの勇気さえあれば、同店の歴史のあるメニューが堪能できる。

機会があれば、ぜひ訪問してみてはいかがだろうか。
そして「ちんやワールド」を、直接体験してほしい。

もし訪問された方がいらっしゃったら、その感想なども寄せていただければ幸いである。

ちんや食堂

住所:神奈川県鎌倉市常盤404
電話番号:0467-31-8256
定休日:日曜、第1・3月曜
営業時間:11:00~15:00
▽デイリーポータルZトップへ
20240626banner.jpg
傑作選!シャツ!袋状の便利な布(取っ手付き)買って応援してよう

 

デイリーポータルZのTwitterをフォローすると、あなたのタイムラインに「役には立たないけどなんかいい情報」がとどきます!

→→→  ←←←

 

デイリーポータルZは、Amazonアソシエイト・プログラムに参加しています。

デイリーポータルZを

 

バックナンバー

バックナンバー

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ