特集 2016年5月9日

昔は捨ててたうまいもの

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食文化は移り変わる。昔は捨てていたり、積極的には食べられていなかったのに、調理法や保存技術の確立などによって人気食材になってしまうこともあるのだ。

かつてはゴミとして認識されていたものが、今では高級食材としてもてはやされているなんて凄い。尊敬する。

「昔は捨ててたうまいもの」を、改めて食してみた。
1980年生まれ埼玉育ち。東京の「やじろべえ」という会社で編集者、ライターをしています。ニューヨーク出身という冗談みたいな経歴の持ち主ですが、英語は全く話せません。

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> 個人サイト Twitter (@noriyukienami)

たとえばホルモン

昔は捨てられてた系グルメの最たるものといえば、まず内臓肉(もつ)が思い浮かぶ。現在ではホルモンは焼肉の人気メニューに昇格しているが、かつては「ホルモン」=「放(ほお)るもん」という認識からその名がついたという俗説もあるくらい、食用としての価値は低かったようだ。
こちらは甲府名物「鳥もつ煮」
こちらは甲府名物「鳥もつ煮」
それが今では焼肉のみならず、各地のご当地料理にもよく使われるようになった。近年では山梨県の「甲府鳥もつ煮」や神奈川の「厚木シロコロ・ホルモン」などが、ご当地グルメの全国大会「B1グランプリ」でゴールドグランプリに輝くなど、よりメジャー感が増してきている。昔はマジ親に迷惑かけたのに、今じゃ雑誌のカヴァーになってそこら中で幅をきかせている。
鳥もつ煮うまい。ごはんでもつまみでもいける懐の深い味だ
鳥もつ煮うまい。ごはんでもつまみでもいける懐の深い味だ
焼肉屋もホルモン激推し
焼肉屋もホルモン激推し
ホルモンが苦手でもハラミなら食べられるという人も多いだろう。内臓肉特有のクセが少ない人気部位だが、こちらも信じがたいことに昔は捨てていたり、ひき肉として加工されたりしていたらしい。も、もったいない。
それが今や国産の骨付きカルビを50円上回る高級部位に
それが今や国産の骨付きカルビを50円上回る高級部位に
上野の精肉店ではオージーのハラミが国産牛のカルビを値段で上回っていた。「特上」なんて呼ばれちゃって…いらない子からここまでのし上がったのかハラミよ。
うまいものは美しい。捨ててたなんて信じがたい
うまいものは美しい。捨ててたなんて信じがたい
タイムマシンがあったら過去に戻って競馬でひと山稼ぐより、廃棄されたハラミを回収しまくって現代で売りさばくほうが確実に金になるかもしれない。競馬はタイムリープ法的なものにひっかかりそうだが、後者は廃棄ロスが減るしエコだし法的にも抜け穴っぽい。

捨てられがち食材に光を

ともあれ、かつての不遇を乗り越えスターになった先例は多い。では、今もけっこう捨てられがちな食材がこの先、人気食材へのし上がることはあるのだろうか?

たとえば、パンの耳などはどうだろうか?
貧乏には有難い存在だが、今もわりと捨てられがち
貧乏には有難い存在だが、今もわりと捨てられがち
サンドウィッチを作ったあとに残るパンの耳。揚げて砂糖をまぶしてラスクにするみたいなのはよくあるが、スターになるにはややパンチの弱いレシピだ。

ほしいのは甲府鳥もつ煮のような、名物料理としてのインパクト。そこで、とりもつをB1王者にまで押し上げた甘辛煮という手法をパン耳に施してみることにした。
パン耳を、みりん、醤油、砂糖で煮る
パン耳を、みりん、醤油、砂糖で煮る
同じく捨てがちなキャベツの芯も甘辛く煮てみる
同じく捨てがちなキャベツの芯も甘辛く煮てみる
パン耳は5分、キャベツの芯は30分、それぞれ煮てみた。こうなった。
パン耳は煮過ぎた油揚げみたいに
パン耳は煮過ぎた油揚げみたいに
キャベツの芯はタケノコみたいになった
キャベツの芯はタケノコみたいになった
食欲をそそるとまでは言わないが、とりあえず料理っぽい見た目にはなった。やはり甘辛煮は汎用性が高い。

もう少し、生ごみ感の強いものでも試してみよう
左からパプリカのヘタ、バナナの皮、そら豆の皮、鮭の皮
左からパプリカのヘタ、バナナの皮、そら豆の皮、鮭の皮
食材から一気に生ごみ寄りになったが、煮ることでなんとかなるものなのだろうか? いつもの三角コーナーではなく鍋に投入し、しばし待つ。
甘辛く煮込むこと30分
甘辛く煮込むこと30分
茶色づくしのディナーが完成した。見ようによっては上品料理
茶色づくしのディナーが完成した。見ようによっては上品料理
心を強く持たないと涙がこぼれてしまいそうなほど貧弱なおかずが並ぶ、かつてない定食が誕生した。まあでも、最近は健康のために粗食を心がけているのでちょうどいいかもしれない。

さっそく食そう。
いただきます
いただきます
まずはバナナの皮から…むむっ、これは!
まずはバナナの皮から…むむっ、これは!

いける

うん、いけるじゃないか。バナナの皮の甘辛煮は普通におかずになる。野菜の佃煮みたいだ。

その他についても思いのほか普通に食べられるものが多く、結論からいうと4勝2敗。シャケの皮とキャベツの芯はこれからも積極的に食べていきたいレベルで圧倒的勝利。パン耳も汁を吸わせすぎた麩みたいでうまい。まずそうな表現だがうまい。
そら豆、パプリカのヘタは食えたもんじゃなかったが
そら豆、パプリカのヘタは食えたもんじゃなかったが
キャベツの芯はほどよいやわらかさに
キャベツの芯はほどよいやわらかさに
なお、キャベツの芯は見た目だけでなく、味もタケノコっぽくなった。ややキャベツ的な風味は残っているが、タケノコといって出したら100人に5人はダマされそうな味だ。
シャケの皮は普通におかずとして優秀。ごはん1膳はかるくいける
シャケの皮は普通におかずとして優秀。ごはん1膳はかるくいける
甘辛パン耳と白飯。お好み焼き定食を上回る、ダブル炭水化物の最適解かもしれない
甘辛パン耳と白飯。お好み焼き定食を上回る、ダブル炭水化物の最適解かもしれない

マグロの出世っぷり

というわけで、月末の家計を救ってくれそうな貧乏レシピが完成した。これで今月も乗り切れそうだ。いらない人間などいないのと同じで、この世に無駄な食材なんてないのかもしれない。


ちょっと脱線してしまったので、最後に本筋へ戻そう。
やってきたのは行きつけの回転寿司である。
回転寿司。看板スターは脂ののったトロ
回転寿司。看板スターは脂ののったトロ
ご覧の通り、今や寿司における看板ネタのひとつであるマグロ。だが、江戸時代には下魚とされ、傷みやすいトロにいたっては冷凍技術が確立する60年代まで捨てられていたという。

他にも、昔は下魚としてぞんざいに扱われていたり、捨てられていた最下層の身分から寿司界のトップカテゴリーに登りつめたネタは多い。
高価な座布団(皿)に鎮座する、捨てられてたオールスター
高価な座布団(皿)に鎮座する、捨てられてたオールスター
日本では古くから食べられているイクラだが、海外では内蔵とともに捨てられることもあるという
日本では古くから食べられているイクラだが、海外では内蔵とともに捨てられることもあるという
国や時代が変わればネタの位も変わる。そして、それはお皿の色(値段)で明確に格付けされる。回転寿司ほどヒエラルキーの激変がみてとれる世界は他にないのではないか。
脂がたっぷりのった大トロ。1貫360円の至福
脂がたっぷりのった大トロ。1貫360円の至福
えらくなったんだなあ、おまえ
えらくなったんだなあ、おまえ
そんなマグロ様も安くなる、ゴールデンウィーク万歳!
そんなマグロ様も安くなる、ゴールデンウィーク万歳!
さて、昇るものがあれば、逆に大衆化するものもいる。
たとえば鯛
たとえば鯛
江戸時代、最上の魚ともてはやされていた鯛だが、回転寿司では1貫120円とリーズナブルな価格となっていた。大トロの三分の一だ。ここ数百年でとんでもない下剋上が起きているぞ。
貴族(右)と、もと貴族の平民(左)
貴族(右)と、もと貴族の平民(左)
現代のヒエラルキーにならい積み上げた皿の上に大トロ様を鎮座させてみたら、心なしか誇らし気に見えた。まさに出世魚である。しかもヒラから社長へのたたき上げだ。

だが、また数百年の時が経てばこの地位も逆転しているかもしれない。がんばれ鯛。

かつての下魚は、今や祭りが開催されるほどの人気者に
かつての下魚は、今や祭りが開催されるほどの人気者に
食材を無駄にせず使い切る先人の知恵と探求心。そのおかげで僕たちは今日おいしいホルモンやマグロをいただいている。先人ありがとう。

だが、考えてみたら今も捨てているものはけっこうある。卵のカラとか、スイカの皮とか、生ごみ感満載のこれらも、工夫次第でスターの素質を秘めているのではないだろうか。

ともあれ、これからも身体に毒にならない程度に食材を無駄なく使っていきたいと思う。
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