かわいいくしゃみをマスターしたい
僕もかわいいくしゃみをマスターしたい。
あのかわいいくしゃみをするためには、一体どんなコツがいるのだろうか。どんな練習をしたら、あのくしゃみはできるようになるのだろう。
そのためにはまず、自分の普段のくしゃみがどんなものだったか確認しておきたい。
ティッシュでこよりを作って、鼻に差し入れる。
くすぐったい。
「へーっくしょ!」
「へーっくしょ」ときた。全然かわいくはない。かわいさのかけらもないと言っていいだろう。だが普通はこうなるはずだ。(人前でするときはもうちょっと抑えるけど。)
ここからどういう練習をしたらかわいいくしゃみになっていくのだろうか。
とりあえず身近な女性陣に聞いてみることにした。まずは編集部の二人から。
編集部・橋田さんの話
練習はしてないけど、自分としてはいいくしゃみはできてると思う
――女性のくしゃみってかわいい感じがしますけど、あれって練習してるんですか?
「してないねえ。できたらいいよね」
――本当に練習してない?
「かわいいくしゃみの練習はしたことないけど、自分ではいいくしゃみができてると思う」
――いいくしゃみ? 何かくしゃみをするときに意識してることがあるんですか?
「意識はしてないけど、『ぶしゅっ』ってならないようには気をつけてる」
編集部・古賀さんの話
家ではおっさんのくしゃみ
――練習したんですか?
「『くちゅん』ってやつだよね。私は練習してないな」
――1回も練習したこともないですか
「したことないなー。したことないし、家ではおっさんみたいなくしゃみしてるよ」
しつこく聞いてみたが、ふたりとも練習はしていないそうだ。でも、くしゃみするとき気をつけてしているとのこと。
あと古賀さんが家ではおっさんみたいなくしゃみをしているという意外な事実も明らかに。くしゃみの使い分けという高度な技もあるのか。
謎は深まるばかりである。
営業・橋本さんの話
デイリーポータルZ担当営業の橋本さんにも聞いてみる。ぼくの記憶では、彼女はいわゆる「かわいいすぎるくしゃみ」をしていたように思う。
かわいいくしゃみはみんなわざと
――どうせ練習してるんでしょう
「かわいいくしゃみの練習したことあります! ある日自分のくしゃみがおっさんっぽいことに気づいて、これはまずいなと」
――どんな練習したんですか?
「漫画みたいな『くちゅんっ』くらいのイメージでやってみました。口は閉じるんです。やってみたらできました」
――変えようと思って2回めでできたんですね。すごい。じゃあ、ほかの女性がすごくかわいいくしゃみしてることをどう思いますか?
「やりすぎはどうかと思います。かわいいくしゃみはみんなわざとですよ。だって男も女も体の仕組みは同じじゃないですか。そんなに違うくしゃみはでないはずなんですよ」
ここではじめて「練習したことがある」という意見が出た。だが、やってみたらすぐできたそうなので、それは単なる使い分けであって練習したとは言えない気もする。
男女で体の仕組みが同じなのだからくしゃみも同じはずだ、という意見はうなずけるが、では実際違う感じがする理由はなんだろう。みんな嘘をついていて、本当は練習してるのだろうか。
コツというところまで捉えられていない気がするので、もうすこし聞いてみよう。
続いてデイリーポータルZで書いているイラストレーターのべつやくさんにも聞いてみる。
イラストレーターべつやくさんの話
「うまくできなくて『ぶふぉー』ってなることがよくある」
――実は血の滲むような練習してるんですか?
「練習はしてないけど、あんまり大きなくしゃみにならないように気をつけてはいるね」
――どうするんですか。コツとかありますか?
「くしゃみを抑えるように口をとじる感じで。でも、うまくできなくて『ぶふぉー』ってなることがよくある」
――家でも同じですか
「家ではおっさんみたいなくしゃみしてるよ。そっちのほうが気持ちいいから。
あとくしゃみするときに『ぬ!』とか『み!』とか言いながらすると楽しいからやってる」
――そうですか
インタビューなのでろくろを回すべつやくさん
――みのまわりにかわいいくしゃみしてる人いませんか?
「私は女子校出身なんだけど、女子校で過ごしてるとかわいいくしゃみをしようっていう発想がなくて、むしろ全然いなかったかな。おとなになってからやっと気がついて、ちょっと苦労した気がする。
あ、でもそういえば友達に男の前だとかわいいくしゃみする子がいた。その子は友達の前だと豪快なおっさんみたいなくしゃみしてたね」
くしゃみの際に口閉じるのがおっさんみたくならないコツのようだ。あと、使い分けができる人もやはり少なからずいるみたいである。
そのほかの人々の話
そのほか女性の友人何人かに聞いてみた。
「どうして女性のくしゃみはかわいいっぽいのか?」という理由について、箇条書きで書くと以下のように。
みんなけっこう詳しく答えてくれた
「くしゃみは口を閉じてするので、鼻が出ないように鼻をおさえるようにするね。それがかわいいと言われたことがあるけど。家では鼻が出てもいいからおさえたりはしない」
「女の子がおっさんみたいなくしゃみをするなんて…っていう世間からの圧力はあるかもしれない」
「口紅をしているときは特に意識して、くしゃみを噛み殺すようにしている」
「元からくしゃみが大きくないのでは」
「私はそもそもおっさんみたいなくしゃみができない」
それなりに詳しく答えてもらったが、そうやればいいのか!と思えるような的確なコメントはなく、ぼんやりとした情報だけが集まる。世間からの圧力を高めたら、男性もかわいいくしゃみをするようになるのだろうか。
ちなみに、「練習しているか?」の質問に対しては全員「ノー」。グラフにまとめるとこんな感じになる。
くしゃみに気をつけている人とあまり意識していない人は半々くらいだった。(そしてごめん、10人にしか聞けなかった)
「ぜったい練習してるはず!」というのは僕の思い込みであった。なーんだ。
しかし女性は練習していないというが、ぼくは練習して「かわいいくしゃみ」をマスターしたいと思う。
女性の中にはおっさんみたいなくしゃみとの使い分けをする人がいるのだから、男性であるぼくも女性みたいなかわいいくしゃみができるはずである。
がんばります
ポイント1 口を閉じろ
ここまでで聞いた話によれば、勢いを噛み殺すように、口を閉じてするのがポイントだったと思う。
対して自分のくしゃみはどうかというと、口からおもいっきり息が出ている。鼻をおさえるよ、という人がいたので息は鼻から出すのだろう。
口を閉じる、ということをまず意識してやってみよう。
鼻にこよりをさして……。
「ぶふぉぉー!!」
「ビシシュゥゥ!!」
全然ダメだ。
ぶふぉぉー!!
くしゃみの際に出てくる呼気の量が多すぎて、どうしても口から出てきてしまう。口を閉じておくなんてとうてい無理である。あれー? 一体なにが違うのであろうか……。
口を閉じるのはコツではなく、なにかのコツを覚えたらできるようになることなのかもしれない。
できる人はできない人にそういう1段階飛ばした説明の仕方すること、ある。
ポイント2 「くちゅん」って言う
営業の橋本さんはマンガみたいに「くちゅん」というのを意識したらできた、と言っていた。口を閉じるのは置いておいて、次はこれをやってみよう。
言うぞ言うぞ…。
「ヒヒュン!!」 (新緑が綺麗ですね。)
すこし近づいたような気がする。だが「くちゅん」とは言えなかったし、相変わらず口から息が漏れてしまっている。
「ヘクチ!」とか思いつくかわいいくしゃみのパターンもやってみたが、どれも無理であった。
難しい
練習に次ぐ練習
できてない以上、いろいろやってみるしかない。正解の見えない中、繰り返しくしゃみを出していく。
どうしても口から息が出てしまうので、女性がよく言っていた「口を閉じる」というのがうまくできない。どういうことなのかもわからない。
鼻が鈍感になってきた
できてない以上、いろいろやってみるしかない。正解の見えない中、繰り返しくしゃみを出していく。
どうしても口から息が出てしまうので、女性がよく言っていた「口を閉じる」というのがうまくできない。どういうことなのかもわからない。
かわいいくしゃみを求めたが故に、深いくらやみの中にに迷い込んでしまったようだ。
どうしたらいいのか。撮るべき写真もない
練習を始めてから、1時間くらい経過。こよりを鼻に入れすぎて鼻が鈍感になってしまったのか、くしゃみがあまりでなくなってきた。こんなに悲しいことがあるのだろうか。
春とはいえ長時間外にいると肌寒く、思ったより過酷である。
おもいっきり息を吐いたらできた
しかし転機は突然訪れる。
何度もやってできないことは、考えてやるしかない。くしゃみをするときに口を閉じるためにはどうしたらいいのか。口が閉じられないのは呼気の勢いがつよすぎるからだ。呼気の勢いをおさえるためには……。
そうだ! くしゃみの直前に肺の中の空気を全部出しておけばいいのではないだろうか。
やってみよう。くしゃみが来そうになったら深く息をはいて……
「チュン!」
やった! ちゃんと口を閉じたままの小さなくしゃみができた。2016年、春。ぼくはかわいいくしゃみをマスターしました。
気がついてみるとあっという間であった。やはり肺活量の問題だったのかもしれない。女性の方が肺が小さそうだし、その分、くしゃみのときに出る息の量も少なそうだ。
とうとうできました。
あとで調べてみると(Wikipedia情報だけど)、肺活量の標準的な値は、男性で4000-4500mL、女性で3000-4000mLだそうである。なるほどけっこうな違いがある。ぼくが感じていた男女のくしゃみの違いは、これが原因だろう、きっと。
どうして質問したときに誰も教えてくれなかったのよ!といういらだちがあるものの、なんとかかわいいくしゃみをマスターした。
なにか技を練習してできるようになるというのは久しぶりな気がする。なんというか、達成感だけはある。ぜんぜん自慢できない達成だが、春の陽気はそれをあたたかく迎え入れてくれた気がした。
今後やるかどうかは迷う
かわいいくしゃみをマスターした。だが、くしゃみのあの「出た!」という爽快感はまったくないので、今後かわいくしていくかは迷うところである。かわいさをとるか、爽快感をとるか。あれか、これか。
とりあえず今回得た息を吐きってくしゃみをすると、静かにできるという知見。生きていればこれが役に立つことが1度や2度はありそうだ。そのためだと思えば、2時間くらいの練習は惜しくない。
ビニール袋を忘れたので、ティッシュは直にリュックにいれました。嫌でした。