道路標識の固定方法
そのときはカメラを持っていなくて写真を撮れなかったので、あらためて家の近所の標識を観察してみた。
日本中どこにでもある標識
が、どう固定されてるかなんて知ってた?
ポールにはバンドをボルトとナットで締めつけることで固定
道路に無数に立っている「駐車禁止」の標識。白いポールにくっついている光景はよく見るけど、そのポールにどうやって固定されているかまでは意識したことがなかった。
裏を覗いてみると、標識の板の裏にはリベットかネジか溶接か何かでスリットの開いた凸型のプレートが接着されていて、そのスリットに丸いバンドが引っかけられ、そのバンドが白いポールをボルトとナットで締めつけることで固定されていた。それが1枚の標識に上下2ヶ所。思ったより大がかり!
しかも、標識をポールの真ん中か、左右どちらかに少しずらした位置に固定できるように、プレートに開けられたスリットが3ヶ所ある。設置する場所によってアレンジできるのだ。きめ細やかな設計!
たぶんバンドの標識側は外側に向いたツメがひっかけられているんだと思う
こうなると気になって、同じような標識を何枚も見てみたけど、どれもまったく同じ構造をしていた。これぞ業界統一規格!
長方形の標識も同じプレートがつけられている
これは真ん中に取りつけられている例
標識の裏側を何枚も見ているうち、この規格の名称とか、ほかにも標識の取りつけ金具の規格があるのかとか、この方式が採用されたときに敗れたほかの取りつけ方法があるのかとか、どうでもいいことまで気になってきてしまう。知らなくていいけど。
アームで伸ばしたタイプを発見して「ほぉー」などと声が漏れる
それから何か違う取りつけ方法はないものかと見て歩いていると、アームで伸ばしたタイプを発見した。
標識はポールと同じ太さのアダプター的なパイプに取りつけられ、そのパイプが標識を取りつけるバンドと同じような形のバンドでアームに固定されていた。
アームの断面がアルファベットの「H」の形をしていて、バンドがその溝にぴったりはまるようになっているあたりが美しい。
早くもこういう造形に美しさを感じるようになってしまった
また、アームの根元が白いポールではなく電柱な点にも注目だ。
アームの電柱側にも標識側と同じバンドにアダプター的なパイプが取りつけられ、そのパイプがさらにごついバンドで電柱に巻きつけられている。ごついバンドと電柱の間はゴムかプラスチックのシートで養生され、電柱が痛まないように配慮されていた。
バンドと電柱を1本の長いボルトが貫いているように見えるのだけど、ひょっとしてバンドが回らないように固定されているのだろうか。
太い円柱の電柱に細長いアームを固定するための部分
両側に固定するためのアダプターを発見して「あーなるほどねー」などと感心
さらに別の場所では、両側に向かって標識を固定するためのアダプターを見つけた。
電柱から水平に伸びたパイプ(このパイプと電柱との固定方法を写真に撮ってくるのを忘れて悶えた)に巻きつくバンドと、両側の標識を固定したアダプター的パイプに巻きつくバンド部分がひとつになった、天秤のような形をした機能的な製品である。両側のパイプに巻きつくバンド部分の向きが互い違いになっているところなど、設計した人の心意気を感じられる(少しでもバランスをとるため、とかだろうか)。
こういう製品を作っている工場もあるのだ。世の中にあるすべての人工物は誰かが作っていると思うと、人間社会のシステムの大きさに途方に暮れる。
その後もいろいろな標識の取りつけ部分を観察した。いちばん最初に「本当にどうでもいい」などと書いたけど、ぜんぜんどうでもよくなくなっている皆さんはぜひ「次へ」をクリックしてほしい。
意外と大がかりなカーブミラー
交差点にあったカーブミラーも裏側を観察してみた。
交差点にあるカーブミラー
まずベースが金属のバンドで電柱に固定されている
ベースに支えられたアームから上向きの軸が出ていて、そこに横向きの軸が固定されている
ベースとミラーを直接くっつけてもいいのではないかと思うけど、ミラーの位置や角度を最適にするために、ベースとミラー部分の間に横向きの軸を入れてある。
なんかこう、もっとパーツの数を減らせるんじゃないかという気もするけど、きっと場所によって違うミラーの位置や角度の調整が細かくできるだろうし、汎用性を持たせることで大量生産できるから結果的にコストが下がるのだろう。
注意を引く縞模様の部分もよく見ると別パーツだった。オプションで選択できるのだろうか
この小さな反射板がこんな大げさなパーツで固定されているのもぐっとくる
もっと大きな標識は
車道の上に掲示されるような、もっと大きな標識も観察してみた。
これまでの標識より大きさも高さもあるタイプ
縦のポールから横向きに変える部分の構造と造形がかっこいい!
道路脇に建てた金属製の太くて高いポールから、標識を車道の上に伸ばすために横向きにアームを伸ばす部分の造形が今まで気にしたことないけどかっこいい形だった。
「止まれ」みたいな小さな標識だったら、きっとバンドで止めて、という形でも良かったのだろうけど、大きくて重い標識を安全に固定するために、ポールに穴を開けて横向きの軸を差し込み、何枚かのプレートと一緒に溶接してあった。これで横向きの軸が抜けたり回転したり、下向きの力で折れ曲がったりすることを防いでいるようだ。
また、横向きに変えたあとはすぐフランジになっていて、その先の部分をさまざまな形にアレンジできるようになっている。これぞ拡張性!
標識の裏はわりとシンプル、だけどよく見るといろいろ細かいポイントがある
フランジの先はプレートが2枚溶接された軸が接続され、そのプレートで標識が固定されている。このフランジの先はほかにどんなタイプがあるのか探したい。
標識の裏側には懸垂式モノレールのような溝のついた柱が上下2本通っていて、そこにL字型の梁がボルトで固定され、その梁とプレートもボルトで固定することで標識と軸を接続している。
たぶんうまく説明できてないと思うけど、簡単な構造なので写真を見て理解してください。
角度が少し変えられるようになっている!
アップで写真を撮ってみたら、柱と梁が交差している下の部分がくさび状のゴムのようなもので押さえる構造になっていたり、プレートと梁を固定するボルト穴のうち上の穴が横に長く、標識の角度を変えられるようになっていた。また、フランジを止めているボルトやプレートと梁を止めているボルトはナットが2重になっていて緩みにくいようになっている(振動が多い場所はナットを2重にすることが多いようです)。
角度を変えられる構造はなるほど、と思った。ゴムのようなもので押さえているのは横に滑らないようにだろうか。2重ナットの部分とか、単純な構造の中にこういう作った人の「思惑」みたいなものが感じられると俄然興味がわく。
もっと大きな看板では2本の軸で支えるタイプがあった
軸が2本なので横向きに変えるあの部分も上下2つ!かっこいい!!
そしてすべての溝でくさび状のゴムのようなもので押さえている!
もっと大きな標識では構造ももう少しダイナミックになっていく。だけど、基本的な部品や固定方法は小さいものと同じで、そういうところを見つけるとなぜだか分からないけど嬉しい。なぜだろう。嬉しい。
標識じゃないものの固定方法
道路標識ばかりでなく、ほかのものの固定方法も見てみよう、と思って気がついたのが信号機。
そういえば色以外よく見たことがなかった。アームが四角いこととか知らなかった
根元もごついけどポールへの固定方法はバンドだった
取りつけ部分をよく見るとバネが入っていた。どういう動きを想定しているんだろう!
歩行者用信号機は赤か青かだけ気になっていて、そういえばどんな風に取りつけられているか気にして見たことがなかった。
今回驚いたのは、まずポールから伸びるアームが角パイプだったことだ。そしてポールに取りつける根元はバンド。風でずれたりすることはないのだろうか。さすがに重いのか、角パイプだけではなく上から筋交いで引っ張って支えていたのもそういえば意識していなかった。
なかでもいちばん驚いたのは角パイプのアームと本体をつなぐ金具の中にバネが入っていたことだ。本体が動いても止めている金具が壊れないよう、ある程度動くようにボルト穴が開けられていたので、もし風に吹かれて本体が揺さぶられれても元に戻るように力がかかっているのだろうか。直接触って動かしてみたくなる構造である。
消火栓の看板の鎖と矢印
何かおもしろい固定方法はないか、きょろきょろしながら歩いていて見つけたのは消火栓の標識。この丸い標識もよく目には入っているけど、ボルトで固定された3点のほかに1ヶ所、鎖が繋がれていたのは気づいていなかった。
1本だけ鎖で繋がれている!
このボルトを抜いたらここから上だけスッポリ抜けるのだろうか
調べたところ、もし災害などでボルトで固定した部分が全部壊れても消火栓の標識がなくならないように、1ヶ所だけ鎖で固定してあるという。さすが非常時にこそ必要な標識というわけである。
また、消火栓の標識の下には斜め下の地面を指し示す矢印が飛び出していて、そこには距離が書かれていた。
矢印を追って目線を落とすと、そこには消火栓のマンホールが
こんな仕組みになっていたとは
消火栓の矢印の存在とマンホールの位置関係、そういえば小学校の頃に習ったような気がしなくもないけど、少なくとも30年は忘れていた事柄である。いざというときに生き残るために必要な知識。これぞ真のライフハックなんじゃないか。
フェンスに感動した
いやー、本当にこんなどうでもいいものを集めた記事で4ページ目までご覧いただきありがとうございます。
雲は何にも固定されていないなー
最後に、いままでまったく気にしていなかったけどよく観察してみたら個人的に感動してしまった(この記事ぜんぶそうだけど)フェンスをご紹介したい。
ごく普通のフェンス
建物と建物のスキマを塞ぐようなフェンス。いろいろなところで見かけるタイプだと思うけど、これも構造を細かく見たことがなかった。
そこでとりあえずポールとフェンスの部分がどうやって固定されているのかと観察してみたところ、細かい工夫の設計がしてあったのだ。
何気ないこの金具がすごかった
ポールとフェンス、両方をつなぐ2つの金具をボルト1本で固定できるようになっている
形が複雑すぎて文章で説明できる自信が全くないけど、まずフェンスの網の部分は上と下がそれぞれ円筒状に丸められている。
そして、ポールを掴むように取りつけられたバンド状の金具をその円筒の部分に差し込んで、さらにその上からクリップ状の金具で押さえ、それらすべてを1本のボルトで貫いて、ナットを締めて固定してあるのだ。
横に貫く1本のボルトで固定されているのが分かるだろうか
バンドは2つのパーツに分かれていて、反対側で互い違いにはめて固定するようになっている
これだけなら、まあよくある(のかどうかは知らないけど)というか、感動するほどでもないと思う。でも、よくよく見てみると、このフェンス、組み合わせで高さも変えることができるのだ。つまり次のようになっている。
なんとなく1枚のフェンスに見えると思うけど
実は赤い部分とと青い部分のフェンスは別パーツなのだ!
実はフェンスの基本パーツ(というのかどうか知らないけど)は下から高さ80cmくらいのところまでで、その上の大人の身長くらいまでの部分は別のパーツなのだ。そしてそのつなぎ目はシンプルだけどがっちり固定される仕組みになっている。
上のフェンスのいちばん下の部分は円柱ではなくカギのようになっている
さっき、フェンスの上と下は円柱になっていると書いたけど、延長用のフェンスは下の部分が円柱ではなく縦の柱が折り返してあるカギのような形になっていて、下のフェンスの円柱の中に入り込んで引っかかるようになっているのだ。
下のフェンスの円柱部分は最初に説明した金具でポールに固定されているので、接続部分はボルトなどで止めなくてもがっちり固定される仕組みになっている。
上のフェンスのいちばん上は円柱状になっていて、ポールに止めるパーツでがっちり固定。間を止めるクリップのような金具もあるので、フェンスはポールにかなり強力に固定されている。
言ってる意味わかりますかね。
いちばん上はポールにがっちり固定
まん中へんのグラつきを防止する金具もある
そして、僕がいちばん感動したのはコーナー部分の固定方法である。
コーナー部分の固定方法に感動した
コーナー部分もポールに固定する金具があるのだけど、直線部分の金具を少しアレンジしてあって、ボルトを斜めに貫くことで1本のボルトで両方の辺の金具を固定するようになっているのだ。
それぞれの辺とポールをつなぐパーツ、そして辺同士をつなぐパーツの3つによって固定されている
それぞれの辺とポールをつなぐパーツが1本のボルトで固定されているのだ!
これはどうやって設計したんだろう。あまりの緻密さに現場で観察しながら唸ってしまった。
まったくうまく説明できている気がしないけど、そして改めて書きながら何がどうすごいのかよく分からなくなっている気もするけど、とにかく感動してこれは記事に書きたい!と思ったのは事実なのだ。
ものの固定方法は奥深い(無理やりなまとめ)。
固定するってすごい
何気なく標識がどうやって固定されているか気になったら、街中のありとあらゆるものが固定されている、と気づいて途方に暮れた。その中から特に気がついたものを取り上げたのだけど、人が考えて考え抜いた仕組みを言葉で説明する難しさをひたすら痛感した。
とにかく固定方法はいろいろあって興味深いことが分かったので、これからも観察を続けたいと思う。