特集 2015年7月7日

町工場は機械もゴミも作ってるものもかっこいい

メイドイン大田区マシン試乗中。
メイドイン大田区マシン試乗中。
デイリーポータルZの連絡グループ宛に、WEBマスター林さんから「大田区の町工場に見学行けますけど、だれか行きたい人いますか?」という書き込みがあった。

僕もたまに工作系の記事をやってることもあり、なにかものを作ってるところを見るのは大好きだ。しかも本場・大田区(区内に4,000以上の工場がある)の町工場である。

どんな感じなのか、興味本位で見せてもらおう。
1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

前の記事:こわれたまま使ってるもの見せて ~壊れ物に合わせて暮らす生活~

> 個人サイト イロブン Twitter:tech_k

工場アパートってあるのか

今回見学させてもらう事になっているのは、大田区本羽田にある工場アパート『テクノWING』に入居している金属パーツメーカー『ナイトペィジャー』さん。
5階建ての工場施設、テクノWING。羽田だけにWING。
5階建ての工場施設、テクノWING。羽田だけにWING。
最初に「町工場見学」とだけ聞いていたので、現地に着いて驚いた。建物がやけにでかい。

あわててその場でスマホから「テクノWING」を検索すると、どうやら大田区が運営している、中小の町工場が入居できる工場のアパートらしい。
参加者の林さん、ライターべつやくさん、馬場さん、以前巨大ガチャでお世話になったバッタネイションチーム。
参加者の林さん、ライターべつやくさん、馬場さん、以前巨大ガチャでお世話になったバッタネイションチーム。
一階受付にある入居企業の一覧には、なるほど、「○○製作所」や「○○技研」など、いかにも工場的な社名ばかりである。
案内図で消火器やAEDの位置もはっきり掲示。さすが安全対策はバッチリだ。
案内図で消火器やAEDの位置もはっきり掲示。さすが安全対策はバッチリだ。
フロア案内図に表示されてる、この一部屋ずつが工場なのだ。

1フロアにだいたい10前後の工場が稼働しているらしいが、思ったより騒音もない。たぶん壁とか床とかすごい分厚いんだと思う。

さらにテクノWINGのサイトによると、中には合計で9t積める貨物用エレベーターもあるとのこと。どうも建物の構造自体が異常にゴツいっぽいな。

いよいよ町工場に潜入

受付で「なんかスゴい建物だな」「ゴツいな」「でも本当にここに工場あるのか」とざわついていると、今回工場を見せていただくナイトペイジャー社の横田さんが向かえに来てくださった。
ナイトペイジャーの横田さん。ピンクポロシャツのナイスガイだ。
ナイトペイジャーの横田さん。ピンクポロシャツのナイスガイだ。
「この建物のなかに現在45社の工場が詰まってまして、うちのような金属加工だけでなくプラスチック屋さんやゴム屋さんもあります」
「作ったものを同じ建物の中の検査屋さんに持ち込んだりできるので、いろいろと便利ですよ」
「いちおう入居期限があって、15年くらいで出なきゃ行けないんですけどね」


そういう話を伺いながら、貨物用じゃない人間用のエレベーターで5階にあるナイトペイジャー社まで移動した。
学校っぽい雰囲気の廊下。
学校っぽい雰囲気の廊下。
コンクリ壁の雰囲気とか、どこか学校っぽい。

この青い扉の中の一部屋ごとが全部工場のはずだが、それっぽさはあまりない。

もしここが学校だとしたら、全部の教室が図工室みたいなものか。
さすがに扉もゴツくて重かった。
さすがに扉もゴツくて重かった。
ここまで来てなお工場っぽさが無い。このドア開けて本当に図工室だったらどうしよう。
良かった、やっぱり町工場だった。
良かった、やっぱり町工場だった。
もちろん思い過ごしで、中に入るとやっぱり町工場だった。

ナイトペイジャーさんは金属を削り出し、自動車の改造パーツなどを作るメーカーだ。
ごつい旋盤やマシニングセンター(金属を削ったり穴を開ける機械)があちこちにギチギチとひしめき合っていて、とにかくかっこいい。
いかつい旋盤。大量のハンドルとレバーだけで気分がアガる。
いかつい旋盤。大量のハンドルとレバーだけで気分がアガる。
こんなかっこいいレバー、もう重機の操縦席か工場の機械にしかないぞ。
こんなかっこいいレバー、もう重機の操縦席か工場の機械にしかないぞ。
NC旋盤(コンピューター制御の旋盤)の刃の部分。シールドマシンみたいな重厚さでうっとりする。
NC旋盤(コンピューター制御の旋盤)の刃の部分。シールドマシンみたいな重厚さでうっとりする。
ハンドルがいっぱいついたフライス盤の説明をする横田さん。
ハンドルがいっぱいついたフライス盤の説明をする横田さん。
こんな感じで金属を削り出す。かっこいい。
こんな感じで金属を削り出す。かっこいい。
実はいま、自宅で工作をする用に小型サイズのホビー旋盤を買ってしまおうか悩んでいたのだが、今回の見学のせいで気持ちが盛り上がりすぎてまずい事になってしまった。

今後、僕がうっかりボールペンの軸とか削り出しで作り始めたら、この見学のせいだと思って欲しい。
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削ったゴミに興味津々なぼくら

旋盤というのは、削るものを高速で回転させつつ刃物を当てて削る機械だ。ようするに、ごつい鉛筆削りみたいなものだと思ってもらえば良い。

もちろん、削りカスも鉛筆削りと同様に発生する。
これがまたかっこいいのだ。削りカスなのに。
バネみたいでかっこいい。削りカスなのにずっと見てられる。
バネみたいでかっこいい。削りカスなのにずっと見てられる。
とにかく削りカスが気になってしょうがない。
とにかく削りカスが気になってしょうがない。
金属製の花カツオかというぐらい繊細な削りカス。
金属製の花カツオかというぐらい繊細な削りカス。
いろんなサイズの削りカスがあって、とにかく楽しい。
いろんなサイズの削りカスがあって、とにかく楽しい。
薄く削っているので、うっかり触ると手が切れるぐらいシャープなのがまたいい。

あまりのかっこよさに、今回の取材でカメラを持ち込んだ全員が、やたらと削りカスばかりを撮影していた。
なので、今回の取材で一番バラエティ豊富な画像は削りカスである。

0.01mmの加工差がわかるゲージ

ナイトペイジャーの横田さんが、工場見学に来る小学生用に作ったゲージ見本を見せてくれた。

これが、精密加工の微妙なところがわかってとても楽しいのだ。
スーッと入ると超キモチいい。
スーッと入ると超キモチいい。
たとえば、上段の白い丸棒は直径5.00mm。で、それが直径5.00mmの穴に入るかというと、これがあまりにピッタリすぎて入らないのだ。

5.01mmだとちょっと先端がハマるぐらい。5.02mmでようやくねじ込めば入るように。5.05mmの穴に垂直に気をつけて挿すぐらいが、いちばん気持ち良くスーッと収まる感じだった。で、5.1mmはもうだいぶ余裕がある。
「ほんと入んない!なんで?」と入らなさを何度も堪能する林さん。
「ほんと入んない!なんで?」と入らなさを何度も堪能する林さん。
今まであれこれ工作をしていた経験で「ピッタリすぎるとうまくハマらない」というのは分かっていたのだが、それにしても0.01mmでこんなに感覚が変わるという体験は面白い。
0.01mm刻みのドリル。とてもいいものだ。
0.01mm刻みのドリル。とてもいいものだ。
というか、そもそも僕はホームセンターで安く買った0.1mm刻みのドリルしか持ってない。

同じく工作系が好きなライターべつやくさんと
「このドリル、いいですよねー」
「 東急ハンズでは売ってませんよねー」
と0.01mm刻みのドリルをしみじみ眺めていると、横田さんが
「ここにいっぱいありますよ」
と、ドリル棚も見せてくれた。
0.01mm刻みの精密ドリルがこんなに! 夢の棚だ!
0.01mm刻みの精密ドリルがこんなに! 夢の棚だ!
さすがプロの現場。こんなに細かい単位のドリルがいっぱいで大興奮である。

さっき「みんな削りカスの写真ばかり撮ってる」と書いたばかりだが、僕はこの棚の写真だけで10枚以上撮ってた。
興奮しすぎてて恥ずかしい。

町工場連合で作る新しい乗り物

「そういえば、いまこういうのも作ってるんですよ」と横田さんが持ってきてくれたのが、これだ。
折り畳み自転車的なものか。
折り畳み自転車的なものか。
展開すると、キックボード。
展開すると、キックボード。
電車など公共交通機関にも持ち込める、足踏み式のキックボード(的なもの)だと言う。
40代には懐かしのローラースルーゴーゴーのようなチェーンによる足踏み駆動だが、両足でペダルを交互に踏むことで、かなりスイスイと走る。
あそこもここも、メイドイン大田区。
あそこもここも、メイドイン大田区。
「これ、ブレーキユニット以外は全部、大田区の町工場がそれぞれパーツを作って持ち寄って作ったんですよ」

なんと、町工場の力を結集して作られた新しい乗り物だった。
今は年内の市販を目指してプロジェクトを進めている最中とのこと。ただ、オール国産ということでなかなかコストが下げられないのが悩みどころだそうだ。
予想以上にスイスイ走る。これ楽しいぞ。
予想以上にスイスイ走る。これ楽しいぞ。
廊下で試乗させてもらったが、ぐっとペダルを踏むだけで車体がスーッと前に出る。乗り出しこそ少しもたついたが、走り始めると本当にどんどん加速できる。

調子に乗って廊下の角を曲がろうとしたところで、横田さんから「バンク角あまりとれないから、曲がるときは気をつけて!」と聞こえたような気がしたが、まったく気に止めず自転車感覚で体を傾けた瞬間に足を踏み外して転倒した。
なぜか岩沢さんがスローで撮影してた転倒シーン。なぜわざわざスローで撮ってた。
スローで見ると、体重移動しよう→やばい、思ったより車体が傾けられない→ペダルから足を踏み外す→転倒、という流れがよく分かる。

僕が試乗一番手だったのだが、その一番手が要注意ポイントで見事に転倒したおかげで、あとから乗った人たちがみんな転ばずにスイスイ乗ってたのが腹立たしかった。

やっぱり町工場は見所が多い。とくに旋盤やドリルの格好良さは、魂にダイレクトに響く格好良さだ。

今後なにかの間違いで大金を手に入れたら、自宅を町工場にしたいぐらいである。とりあえず小型旋盤から始めるべきだろうか。

あと、テクノWING内でドアをドライバーで開きっぱなしに固定していたのが、いかにも工場風でいい感じだった。あれぐらいから真似していこう。
この大雑把なのがいかにも工場っぽくて、いい。
この大雑把なのがいかにも工場っぽくて、いい。
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