特集 2015年5月17日

ペン栽の愉しみ ~色の力と生活の力~

美しきペン栽よフォーエバー。
美しきペン栽よフォーエバー。
長らくのおつきあいありがとうございました。私がペン栽道家元、きだてです。
1月より始まりました『ペン栽の愉しみ』コーナーは今回でひとまず最終回となりますが、皆さまはそんなことは気にもせず、今後も思うままにペンを立ててください。
皆さまが自宅で、職場で、好き放題にペンを立て続ける限り、家元もいつかまたここに戻ってくる所存です。

最終回とは言えいつも通り、今回もご投稿いただいたペン栽を、ばったばったと当たるを幸い褒めたおしてまいりましょう。
良い感じのペン栽、いっぱいいただいております。
1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

前の記事:ボールペンに最適なパンは何か

> 個人サイト イロブン Twitter:tech_k

色は力なり

文房具の要素として、「色」は非常に重要です。
色ペン・色鉛筆はもとより、機能に色が直接関係ないハサミやホチキスにも様々なカラーバリエーションが存在するのが、その証拠。
自分の好きな色で身の回りを飾ることでテンションも上がります。
また、仕事で色ペンを使い分ける必要がある方のペン栽も機能色に溢れてかっこいいものです。
荒々しさすら感じさせるピンクの嵐。
荒々しさすら感じさせるピンクの嵐。
自宅の机の上にあるペン立てです。 …それにしても、リップクリームに爪磨き、果たしてこれは「ペン」立てなんでしょうか? 写真では見えませんが、爪用の保湿ジェルも入っています…。
honey ‏@honey8232

おおお。なんと荒々しい女子力。ガーリー野獣と呼びたいほどに力強いピンク。
器や中身だけにとどまらず、デスクマットやふせんまでピンク系で揃えた、見事な統一感。
麻雀で『緑一色』といえば難易度の高い役満ですが、このペン栽は乙女役満確定です。

ただ見た目ガーリーなだけでなく、使い込まれた爪磨きやピンク系のハイテックC交換リフィルなどから、かなり生活に密着した日用ペン栽とお見受けしました。
常在戦場ならぬ常在ピンク。女子の心意気がビンビンにあふれたペン栽です。
カラフルにして隙のない演出。
カラフルにして隙のない演出。
うちの事務所の女子たちの

阿瀬川 孝治 ‏@azekawa63

投稿メッセージから事務用のペン栽とは推測しますが、おそらく業務上必要なんだろうなぁというカラーマーカーの数々が美しい。実用的カラフル。
中にいかにももっさい黒ハンドルのハサミが入っているのも、逆に良いアクセントになっています。

いかにも仕事用といった没個性的なメッシュ器には、色ゴム編みで作ったバンドを巻いて「自分のペン立てですよ」というアピール。文房具を勝手に持って行かれやすい職場ペン栽ならではの工夫でしょう。
一本だけ巻かれた緑色のゴムは、おそらく弁当か何かの包装用。こちらは「手元にあったからなんとなく巻いてみた」という、実用性にふと紛れ込んだ侘び感の演出として施されたものと見ました。
いかにも普通に見えて、実はかなり隙がない。高度なペン栽です。
店頭什器を用いた、本物のプロペン栽。
店頭什器を用いた、本物のプロペン栽。
こちらは、文房具ソムリエールこと菅 未里さんのペン栽。
文房具ライターとしても活動されている菅さんの、いわばプロペン栽です。
廃棄されるBICの文具店頭用什器(よく見ると3色ペン型)をもらいうけて使っているとのことで、とにかく通常の器とは比較にならない本数が入るところに、色分けしたペンを並べています。
色とりどりのペンが流れるようにぎっしり挿さっている様は、さながら色のナイアガラ。壮観の一言です。プロの物量とは、こういうものです。

さらに、鉛筆は鉛筆削り型、万年筆はビーカー(インク洗浄のイメージ)と、それぞれにマッチした器を使用されているのも素晴らしい。
文具好きなら見るだけで身悶えしそうなお洒落さがたまりません。

ペン栽は生活の器なり

さて、色とりどりの美しさも良いのですが、ペン栽と言えばやはり日常の機能美を忘れてはいけません。
文房具だけでなく、身の回りに納め場所がないもの(耳かきや爪切りなど)をなんでも飲み込む度量の深さが、そのままペン栽としての味わいの深みになるのです。
ぴしっと整頓された日常生活。
ぴしっと整頓された日常生活。
まだまだかな…
t @von3791oremirak
リモコン立てには、マーカーセット(使用頻度は低そう)にテレビとエアコンのリモコン、ふせんなど。マグカップには使い切り接着剤にハサミ、予備と思しき油性マーカー。
「器の器」として使われているトレーには常用のかゆみ止めやハンドクリーム、滋養強壮薬。
もう、ザ・日常ですよこれ。
おそらく自宅に帰って「あー、つかれた」って言いながら座ったら目の前にこのペン栽がある、という感じじゃないでしょうか。

その日常性をここまでコンパクトに居ずまい良くまとめられる力量、おそるべしですよ。
常に必要では無いけど、いざという時に探すのは面倒なバンドエイドがきちんとセットされている辺りにも、この方の心構えの正しさにしびれます。
こういうペン栽を揃えておくのが、家元的には「上質な生活」ですよ。
乱雑に見えて、実は美しく整ったペン栽。
乱雑に見えて、実は美しく整ったペン栽。
生けてみたけど…
ひでか ‏@wokowoko
一見好き放題に文房具を投げ込んだぎっちぎちのカオス空間に見えますが、黒の筆記具、カラーマーカー、ハサミ、ホチキスや糊…と用途にあわせてきちんと刈り込んである、使いやすいペン栽なのです。
本気では使わないだろうキャラものペン(写真左下)類をきちんと分けてある辺りからも、実用本位志向なところが窺えます。
このように筋の通ったペン栽は、混沌とした中にも使用者の理念がピシッと輝いて見えるモノなのです。

あと、これは直接関係ないんですが、文具マニアを見分ける比較的簡単な方法の一つとして、ペン栽にささってるハサミの数を数える、というものがあります。
一般的にハサミはペンほどは使い分けの必要が無いものなので、それが3本以上ささってたら「わりとお好きな方」である確率が高いです。
…7本ですね。
上のとは逆方向にすっきりとしたペン栽。
上のとは逆方向にすっきりとしたペン栽。
会社の #ペン栽 。基本3色ペンで全て賄うためスッカスカです。献血で貰ったフリクションは観賞用。上司がホチキスの芯を取るやつを借りるときは「シャッてするやつ貸して」と言ってきます。
けい‏@uzulove
こちらは上で紹介したものとは対極的に、すかすかしたペン栽。
本棚とペン立てに関していえば、ぎちぎちに詰まったものとすかすかに空いたもの、どちらも同じように価値があります。
密度が濃いが素晴らしいのはもちろんのことですが、隙間があるのも「これからいっぱい詰め込める!」という希望に溢れたものとして受け止められるからです。

この方は、使用頻度がペンほどは高くない(便利だけど)ホチキスリムーバーを挿し込んだり、使わないフリクションボールを「観賞用」として残しておくなど、器の容積を無駄に費やす贅沢を楽しまれているんだと思います。空間の使い方がリッチ。
ひたひたからの、飛び出し。これは芭蕉だ。
ひたひたからの、飛び出し。これは芭蕉だ。
同じペンをたくさん入れておけば、咄嗟に使いたいペンが見つからない、なんて事にならないと気付いて。もう何年植え替えてないか分からないけど、当初は各12本くらい植えてたのが流石にだいぶ淘汰されました。
池田ビール乃助IPA ‏@joe_ikeda
ビールグラスとペンの長さがほぼ同じ、という息苦しいまでのひたひたで静謐さを演出しつつ、そこからさらに1本だけペンを飛び出させる事で、より強い躍動を表現しています。
松尾芭蕉が「古池や蛙飛び込む水の音」という句において、自然の閑寂と蛙の飛び込んだ音で静と動を対比させ、侘び寂びの世界を描いたのに近い世界を感じませんか。
なんという美しい世界。文具界の俳聖ですよ、この方。「ペンを淘汰していった」というコメントからも、不要な言葉を極限まで削ぎ落とす俳句マインドが。

普通に考えれば、このひたひたっぷりはペンが選び出しにくいだろうと思います。
しかしそこは、同じペンだけ入れてあるから咄嗟にも色だけ見て取りだしたら使える、というわりとオリジナルな手法で解決されているようです。

すでに100件以上の投稿をいただいている『ペン栽の愉しみ』。まだまだ家元としても褒めたいペン栽がたっぷり残っているのですが、ひとまず半年近くやったしひとまず休憩、ということにさせていただきます。
とはいえ、ちょっと休んだらまた褒めにもどってまいります。その間も、ぜひ家元の褒めゴコロをくすぐるようなナイスペン栽を引き続き #ペン栽 でご投稿いただければ嬉しいです。
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