気づいていた人は多数? 江ノ島の雀
江ノ電江ノ島駅の改札口を出たところに、かわいい雀が?
待ち合わせに急いでいたりすると、ちょっと見落としてしまうかもしれない。筆者もそうだ、何回も通っているはずなのに…。ちょっと心の余裕のなさを反省しつつ、作っている人を探してみようと思う!
キニナル投稿があったのは、この雀さん達のこと
車止めのポールは2つ。全部で8羽。雀が乗ったデザインは時々見かけるけれど、洋服が着せてあるのは珍しい。江ノ電のシャレた遊び心!?とまず思ったが、ちょっと調べたらどうも違うらしい。
どこに聞けばいいのだろう、と思って江ノ島電鉄(株)に聞いてみることに。
心に余裕がある人はちゃんと気づく…!?
すると、雀のポールのすぐ横にある売店に6年前まで勤めていた女性が作っているとわかった。
江ノ島駅の近くに在住しているとわかり取材をお願いすると、江ノ島電鉄から「最近体調があまり良くなく無理かもしれない、一応ご本人に聞いてみます」という返事が。
以前ここに勤めていた女性が雀の衣装を作っていた!
作り始めたのは13年前!
そういう事情なら仕方ないとあきらめかけていた頃、江ノ電の鉄道部営業課の方から電話があった。駅で少しくらいなら大丈夫との連絡だった。
こちらが雀の服を作っていらっしゃる石川カツコさん(73歳)
石川さんが江ノ島駅の売店に勤め始めたのは、約13年前。冬になり、目の前の雀が寒そうに見えたので、何か着せてあげたいと思ったのが始まりだったという。
着替えは月末に月1回。日焼けや雨で汚れることが多い夏は、月2回着替えさせにみえている。
「両面テープでくっつけているので、取り換えるのに時間がかかるんです。だから人のいない早朝に、友人と二人で着せ替えをやっています」と石川さん。はがした衣装は「ください」と声をかけられる時以外は捨ててしまうのだそうだ。
かわいい!マントと帽子の組み合わせ。秋冬は毛糸(写真提供/江ノ島電鉄)
春夏はレース編み。今年5月の服のテーマは「江ノ電カラー」
6年前に定年退職し、一度は作るのをやめた。が、1~2年間たって「なんだかさみしい」と思っているところへ、旅行者からフレームに仕立てた雀の写真が届き、また作ろうと思い立ったという。
売店勤務時代の石川さん(写真提供/ご本人)
もともと家政科出身なので編むのは得意とはいえ、驚いたのは「1年くらい先の分まで作ってあるんですよ」という言葉。いつも目の前の締切りに追われている筆者は耳が痛い。
「だから今、作業テーブルの上は毛糸とレースの両方がぐちゃぐちゃにあるの」と、きっと大変な場面だろうに楽しそうな笑顔をこぼす石川さん。
そうそう簡単にできることではないはずだ。しかも13年間も。なんだか笠地蔵を思い出してしまった。
江ノ電から表彰もされた
そんな石川さんの功績をたたえて、2年前に江ノ島電鉄から「感謝状」と記念品が贈られた。
江ノ電全線開通100周年を記念して、石川さんに感謝状が
実はその頃、地元のインターネットサイトやフリーペーパー、新聞の地方版などでよくその話題が取り上げられたので、ご存知のかたも多いかもしれない。
写真はNGだったが、取材の時も「雀が服を着ているのは知っていましたよ!」という人がいた。そうでなくても、たくさんの人が「かわいい~」と声をかけて通り過ぎて行く。
なでなでして行く人も多数
足を止めて撮影して行く人もいっぱい!
筆者が撮影を終えて去ると、じっと待ち合わせに佇んでいた若い男性も、人の波が途絶えたのを確認しコソッと携帯で撮っていた。雀をめぐる人々の反応を見ていると、そのあたたかい気持ちに癒された。雀に洋服を着せてあげたことで、多くの人の心に一瞬幸せな優しい気持ちが灯るのがわかるような…。
当日、石川さんから大切なアルバムや切り抜きをたくさん貸していただいたので、しばし雀の衣替えギャラリーをご覧ください。
当初は「さわらないでね」と書いてしまい後悔したそう
踏切カラ―?
クリスマスはちょっとドレスアップ!
この写真、桜の季節の空気が伝わって来るようだった
石川さんは大のサッカーファンで、「平成14年ワールドカップ」と書かれたアルバムには、こんな斬新な雀たちがいっぱい登場していた。
ワールドカップの年は、各国のユニフォーム作りに力が入っていた
サッカーファンなのが伝わって来て楽しい
取材は5月だったので、6月分の衣装もそっと見せてくださった。
片瀬目白山にある湘南白百合学園のセーラー服が夏服になるのに合わせ、白に紺色の線が入った衣装と、アジサイをイメージした紫色のものと、2種類が用意されていた。
雀の衣装替えは毎月下旬、夏場は月の半ばにもう1回行なわれる。
6月になったので江ノ島駅に行ってみると…
アジサイをイメージした紫色と、あれ? 白百合学園の帽子?
しーんと静かな雨の日も、濡れた雀たちが出迎えてくれた。残りの4羽は、紫の衣装に紫色の帽子だった。ということは、6月の後半は白い制服と帽子が揃うんだろうか。江の島に行く機会がある方は、ぜひ新しい服のチェックをしてみては!
取材を終えて
笠地蔵はお地蔵さまから見返りがあったが、寒そうな雀さんたちに服を着せても米俵は届かないだろう。ただただ行き交う観光客や地元の人々をしあわせな気持ちにする、そのためだけに作って着せている。
製作者の石川さんの優しい心に感謝して、これからは雀に会うのも楽しみにしたいと思った。
― 終わり ―