特集 2015年2月10日

手が暖かい「こたつペン」を作ってみた

ペンと暖房器具のマリアージュや!
ペンと暖房器具のマリアージュや!
冬場、冷えきった手で文字を書こうとした時、かじかんでしまってまともに文字が書けないという体験をしたことがないだろうか。
あと、金属のペン軸が冷たすぎて握れないとか。

そういう問題を解決できる、『暖かい暖房ペン』というのは無いものか。
無いなら、じゃあ作ってしまえばいいだろう。
1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

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みんなそう思ってた

きっかけは、いま文房具業界で人気の“文具ソムリエール”こと菅 未里さんの「ファンペンとか涼む文房具はあるのに暖まる文房具はないのか」というツイートを読んだことだ。

なるほど、ペンのお尻に扇風機がついて涼しくなる「ファンペン」はある。
でも、暖かくなる「暖房ペン」は無い。
これが扇風機付きのペン。それなりに涼しい。
これが扇風機付きのペン。それなりに涼しい。
暑すぎて文字が書けないということはないが、寒すぎると手がかじかんで文字が書けない。
本当に解決すべきは、暑さよりも寒さのはずである。
文房具メーカー、なにやってんだ。キミらが作らないなら、僕が作るぞ。

暖房器具といえば、あれだ

ペンに装着できそうな温熱機器をネットでいろいろと検索してみると、シリコンゴムのチューブに電熱線を通した「シリコンラバーヒーター」というものが見つかった。
これをペン軸にぐるぐる巻き付けて電気を通したら、暖かくなるんじゃないか。
これが暖かい『こたつペン』。グリップに巻いてある赤いチューブがヒーター。
これが暖かい『こたつペン』。グリップに巻いてある赤いチューブがヒーター。
で、まずは完成した現物を見ていただこう。
シリコンラバーヒーターを使った暖かいペン、『こたつペン』である。
すげぇ、これ暖かいぞ!
すげぇ、これ暖かいぞ!
バッテリーにつないで通電させると、じわじわと加熱されてくる。
体温よりちょっと高いぐらいの温度で指先から暖めてくれる感じだ。

暖かいぞ、こたつペン

いきなり完成形はお見せして「暖かい!」と驚いてみたものの、本当にちゃんと暖かいのが伝わっているだろうか。
はっきりと温度を確認する為、ウェブマスター林さんから私物のサーモカメラを借りてきた。
こたつ布団をかけた状態だと確認しづらいので、布団無しで撮影しよう。
左がこたつペン、右がノーマルのペン。
左がこたつペン、右がノーマルのペン。
おお、ちゃんと暖かくなってる。
おお、ちゃんと暖かくなってる。
ノーマルのペンの軸は気温とほぼ同じで、サーモカメラだとうっすら写る程度。
それに対して見よ、こたつペンは40℃オーバー。これは間違いなく暖かいぞ。
手、冷やしすぎて本当に震えてる。
手、冷やしすぎて本当に震えてる。
こたつペンがどれほど効果的か、あらかじめ外気で手を冷やしきってから試してみた。
こういう時は早くこたつを握りたい。
こういう時は早くこたつを握りたい。
サーモカメラで見ると手の表面は20℃ぐらいか。
ペンがとても魅惑的に暖まっているのが見て取れる。
あー、あったかいわー。しみるわー。
あー、あったかいわー。しみるわー。
ペンを握った瞬間、指先をぬるま湯につけたような、じわーっと、ほわーっとした暖気がしみわたる。
これはまさにアレだ。握るこたつ。もしくは、握る温泉でもいい。
指先からじわーっと暖かい。快適。
指先からじわーっと暖かい。快適。
自販機の「あたたかーい」コーヒー缶がだいたい55℃前後。寒い時に握るとありがたい暖かさだが、ずっと握っているには熱すぎる。低温やけどもありえる。

対してこたつペンは40℃前後と、お風呂とほぼ同じ。暖めながらずっと文字を書いても快適である。
僕的には大成功といっていい。

なぜ、こたつペンなのか

ところで、なんでペンを暖めるために「こたつ型」にしたのか?

ヒーターをペンのグリップに巻き付けるだけでも指は暖かくなるだろうが、それだけではちょっと物足りない気がしたのだ。
手の上からこたつぶとんをかぶせてやれば、ヒーターの熱と体温を逃がさず取り込めるので、より暖まるに違いない。
こんな感じで作ったらいいんじゃないか。
こんな感じで作ったらいいんじゃないか。
作る前に、ひとまずノートに完成想像図を書いてみた。
おお、なんか良さそうだぞ。だいたいこんな感じのを作ってみよう。

製作過程、まずヒーターを探す

さて、完成品はイメージできたが、実際に製作に入るといろいろと問題が出てきた。

まず、ネットで検索して出てきたシリコンラバーヒーターには、抵抗値やらなにやら細かい数値ごとに種類がいくつかあった。
僕は電気工作が得意ではないので、どのヒーターがこたつペンに最適なのかよくわからない。

でも大丈夫。こういう時はプロの人にぜんぶ丸投げして教えてもらえば安心なのだ。
最初からプロに頼ってしまえば解決が早い。
最初からプロに頼ってしまえば解決が早い。
電熱設備といえば、秋葉原の「坂口電熱」さんが有名どころである。
ペンと完成想像図を持参して、店員さんに相談することにした。
オームの法則とか使って計算中。中学の理科でやったなー。
オームの法則とか使って計算中。中学の理科でやったなー。
「暖かくなるペン」という内容を説明するのにちょっと手間取ったが、お忙しいところにも関わらず,最適なシリコンラバーヒーターを検討してもらった。
これがペンに巻くのにちょうどいいヒーター。
これがペンに巻くのにちょうどいいヒーター。
ヒーターを直接握るので、温度は低温やけどをしないように38~42℃ぐらい。
電源はモバイルバッテリーを使うのでDC5V。
さらにペン軸の直径と巻き付ける長さなどいろいろと計算してもらって、ベストなものを購入することができた。

あとはこれを使ってちまちま工作するだけである。
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こたつペン、完成までの道のり

今回は、どこでも暖かく使えるようにモバイルバッテリーからUSB経由で電源を取りたい。

まずは自宅に転がっていた、何に使っていたのか分からない古いUSBケーブルを分解するところから始めよう。
カバーを剥いたUSBケーブル。こうなってるのかー。
カバーを剥いたUSBケーブル。こうなってるのかー。
坂口電熱さんで「USBは外側の2本が電気を流してる線なので、それにヒーターの電熱線をつないでください」と教えてもらっていた。
なるほど、この場合は赤と黒の線がそれだな。
ぼてぼてのダマになった。そういやはんだづけ下手だったわ、僕。
ぼてぼてのダマになった。そういやはんだづけ下手だったわ、僕。
USBの給電線にヒーターの電熱線の両端をじゅっとはんだづけ。
電熱線がものすごく細いのと、電気工作自体が5年ぶりぐらい、という悪条件だったが、何度か失敗を繰り返して、かろうじてはんだづけ完了。
あとは結線した部分をビニールテープで巻いて絶縁すれば、暖房ユニットは完成である。
電気工作から木工にチェンジ。こたつの天板作成中。
電気工作から木工にチェンジ。こたつの天板作成中。
つづいて、こたつの天板になるように板を切り、中心に穴を開けてペン軸を通す。
ちゃんとこたつの天板っぽい色を塗ってみたが、この時点ではまだ「変な板がくっついたボールペン」である。
なんだかよく分からないペン。イメージ通りの完成にはほど遠い。
なんだかよく分からないペン。イメージ通りの完成にはほど遠い。
最初に考えた時は、より「こたつ」っぽくなるよう天板の裏に麻雀卓のような緑のシートを貼るつもりだったのだが、うっかりこの作業をしていた時点で忘れていた。
まあ使っている時は見えないからいいや。あとペンで麻雀やらないし。

最大の難所、シリコンvs金属

さて、いよいよ今回最大の難関、ペン軸にシリコンラバーヒーターを巻き付けていく作業である。

もし手元になにか接着剤があったら、説明書きを読んでもらいたい。
だいたいは「接着できないもの」のところに「ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーンゴム」と書いてあるはずである。
そう、シリコンラバーは「接着できないもの」の代表格。キングオブ接着できない、なのだ。

その上、くっつけるものが細いチューブなので接着面積が極端に少ない。
だいたいのものはくっつく二液混合のエポキシ系接着剤も駄目。ホットボンドも駄目。
PPX、「今までつかなかったものが強力に接着!」という魅惑的なコピー。
PPX、「今までつかなかったものが強力に接着!」という魅惑的なコピー。
2日ほどいろいろ試して諦めかけていたところ、文房具関連の知人から「難接着用のセメダインPPXならいけるはず」という情報をもらった。
ならば試してみようPPX。
ならば試してみようPPX。
シリコンゴム側にプライマーという接着強化剤を塗り、金属側に接着剤を垂らしたら、いっきにグルグルと巻き付ける。
さぁ、どうだ。
やった!すごいぞPPX。
やった!すごいぞPPX。
今までくっつくそぶりすら見せなかったシリコンゴムと金属軸が、あっという間にがっちり接着できている。
今までの苦労はなんだったんだ、というがっちり具合だ。

仕上げとして、こたつに寄せる

機構的なところはこれで完成したので、あとは見た目をこたつに寄せていく作業に進もう。

暖め効果も期待したい布団は、ふかふかしたマイヤー毛布の端切れを買ってきて使用する。
さっきまで接着に苦労していたのが嘘のようなラクさ。
さっきまで接着に苦労していたのが嘘のようなラクさ。
本物のこたつのように布団を敷き込むのは難しいので、天板の四辺に接着してしまおう。
木板と布はホットボンドで簡単にくっつく。

さらに、よりこたつ感を出すために小道具も追加しよう。
こたつには、これも必要だよね。
こたつには、これも必要だよね。
こたつ用みかんセット。
こたつ用みかんセット。
クラフト用の紙テープでカゴを作り、そこに紙粘土を丸めて作ったみかんを盛る。
よし、こたつ感が高まってきたぞ。
これでほぼこたつ。
これでほぼこたつ。
あとはこたつみかんセットを天板に貼り付ければ、こたつペンの完成である。
手にこたつが乗ってるの、すごい馬鹿っぽいな。
手にこたつが乗ってるの、すごい馬鹿っぽいな。
視覚的にもちゃんとこたつだし、暖かさも問題無くこたつ級。
ちょっと寒いところでも、こたつペンで書いているうちに手だけはホカホカしてくる。

あと、油性インクが冷えると、粘度が高まって書き出しのカスレなどが起きるのだが、こたつペンならその心配も無い。常に滑らかな書き心地がキープされる。
唯一の欠点は、自分で書いた文字が見にくいこと。
唯一の欠点は、自分で書いた文字が見にくいこと。
ひとつ問題があるとしたら、天板とこたつ布団のせいでペン先がかなり見づらいことだろうか。
ペンを普段より傾けるか、ペン先を覗き込むような姿勢で筆記する必要があるのだ。

まぁ、本当に手を常時お湯につけているぐらいのホカホカ快適加減なので、その程度の欠点は我慢できると思う。
どちらかというと、書かずに握ってるだけでもいいぐらい。幸せだなー、こたつ。

せっかく持ち歩けるようにバッテリー駆動にしたので、気温の下がる夜の屋外でも使ってみた。
あー、こたつペン、いいわ。握ってる手元だけは確実に暖かい。

冬の屋外でメモを取る必要がある職種の人は、これを標準装備にしてもいいぐらい。
量産したら売れるかもしれない。
手がかじかまずに筆記できる幸せ。
手がかじかまずに筆記できる幸せ。
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