特集 2014年12月3日

ローマ時代のダムを造ってみた

ローマ時代と(ほぼ)同じ構造のダムを造った
ローマ時代と(ほぼ)同じ構造のダムを造った
個人的な興味で、このところダムの進化の歴史について調べていた。

ダムは紀元前のピラミッドの時代から既に存在していて、ローマ帝国時代の遺跡にも残っているものがあるらしい。その頃のダムは切り出した石を重ねて造っていたという。

切り出した石で本当に水がせき止められるのだろうか。そこで、実際に造ってみることにした。
1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
(動画インタビュー)

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石をつくる

造ってみると言っても、本物のダムを造れるような土地も水利権も持っていないので当然ミニチュアである。

あと材料になる石も切り出す技術もないので、2000年後の現代の技術を使って代用品で造ってみる。

そこでまず用意したのがこちら。
江戸時代に開発されているので1700年後くらいの技術か
江戸時代に開発されているので1700年後くらいの技術か
ローマ時代のダムの造るには、まずは鍋に水を入れて火にかけたら寒天を入れて溶かす。今回はなるべく固くしたいので通常の2倍の量の寒天を入れた。
どばー
どばー
白っぽく濁ってゆるい糊のようになった
白っぽく濁ってゆるい糊のようになった
続いて色付け。別に色はつけなくてもいいのだけど、見て分かりやすくするために今回はグレープジュースを投入した。
ぷーんと立ち昇るいいにおい
ぷーんと立ち昇るいいにおい
寒天が溶けてから1~2分沸騰させ、全体が混ざったら火を止めて、粗熱が冷めたところで中身を適当な容器に移す。しばらく置いて冷めれば固まっているはずだ。
耐熱性の保存容器に入れた
耐熱性の保存容器に入れた
冷やさなくても常温に冷めるだけで固まった
冷やさなくても常温に冷めるだけで固まった
ギュッと引き締まった固さ
ギュッと引き締まった固さ
さて、ここまでで出来上がったのはつまり固めのグレープゼリーだ。これをどうやってローマ時代のダムにするか。
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石を切り出す

とりあえずこの容器からゼリーを出そう。使わない端の部分を切り落として、まな板の上にその巨体を落とした。
丸くなっている端の部分を切り落とす
丸くなっている端の部分を切り落とす
ものすごい存在感といいにおい
ものすごい存在感といいにおい
この大きなグレープゼリーの固まりを細かく切り出して石の代わりにしようと思ったのだ。つまりいまの状態は採石場、ダム用語で言えば原石山である。
難しいと思うけどこういう状態だと思ってください
難しいと思うけどこういう状態だと思ってください
現代のダムはセメントと石と水を混ぜた硬いコンクリートを積み重ねて造られるけど、ローマ時代は石工が切り出したブロック状の石を積み上げて、石と石の間をモルタルのようなもので埋めて造られ、メーソンリーダムと呼ばれている。

というわけでこれからダムの材料となる石を切り出していく。
まずは薄く板状に切って...
まずは薄く板状に切って...
これがマグロの刺身だったらなー
これがマグロの刺身だったらなー
細かくブロック状に切っていく
細かくブロック状に切っていく
どんぶり1杯分できた
どんぶり1杯分できた
なるべく大きさを揃えて直方体状に切った。このブロックを積み上げてダムを造るのだ。その造る場所は、深い皿を川に見立ててその上にした。
ここにダムを造ります
ここにダムを造ります
それでは、記念すべき最初のブロックを置いてみる。
このダムの礎となる最初の1ブロック
このダムの礎となる最初の1ブロック
続いて、なるべく間を開けずにブロックを横一列に並べていく。さらに、その奥にも隙間を開けずに1列並べる。強度と見た目を考えて、3列くらいは並べたいところだ。
お箸でちまちま細かい作業
お箸でちまちま細かい作業
意外とブロックの大きさがまちまち
意外とブロックの大きさがまちまち
並べてみると、ブロックの大きさがひとつひとつバラバラだった。これでは綺麗に並べるのに苦労する。そう言えば、以前見学させてもらったダム建設工事現場でも、材料の品質には細心の注意を払っている、と言っていた。

本当の現場ならこの石工はきっとクビである。
3列並べてこれで1段目はだいたい完了
3列並べてこれで1段目はだいたい完了
1段分並べ終わったら、2段目を並べ始める前にブロックとブロックの隙間を埋めなければならない。本物だとモルタルが使われている部分だけど、ここでは狭い隙間に浸透する液体でありつつ、時間が経つと固まる存在でなければならない。そこでこんなものを使った。
ゼラチンを準備したけどそれだけだと固まるまで水っぽいので
ゼラチンを準備したけどそれだけだと固まるまで水っぽいので
とろみをつけて糊のように使う
とろみをつけて糊のように使う
いい感じに重たい液体ができた
いい感じに重たい液体ができた
ゼラチン(ここではセメントと読んでほしい)と片栗粉をお湯に溶いたら、ちょうど良い感じにトロッとした液体ができた。これを並べた1段目のブロックの上から隙間に流し込む。
隙間に流し込んで、あと2段目と接着するため上にも塗った
隙間に流し込んで、あと2段目と接着するため上にも塗った
続いて2段目のブロックを組んでいく。徐々に慣れて、無意識のうちに同じくらいの大きさのブロックを探しながら並べていた。作業に没頭してあっという間に並べ終え、ふたたび隙間に接着剤を流し込み、上にも塗った。
接着剤流し込みすぎて下から出てきた
接着剤流し込みすぎて下から出てきた
これを繰り返し、5段目まで組み終えたときお皿の縁とほぼ同じ高さになった。これで完成にしよう。というわけで、これがローマ時代のメーソンリーダムだ!
まずそうなシズル感、そして思いのほかガタガタである
まずそうなシズル感、そして思いのほかガタガタである
さて、ではこのメーソンリーダムが水をせき止めることができるか、実際に水を入れて試してみようと思う。でもその前に、材料のブロックも余っているので、ここからもう1段階進化したダムも造ってみることにした。
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粗石コンクリートダム

ローマ帝国が滅びると、メーソンリーダムの技術も途絶え、ダム技術的には1000年近い空白期間があるという。

19世紀半ば、現在「セメント」と呼ばれている「ポルトランドセメント」が発明されると、ダムも外側は相変わらず石積みながら、内部にコンクリートとそれを人力で突き固める際の足場にもなる大きな石を入れた「粗石コンクリートダム」が登場する。
日本の粗石コンクリートダムの例:千刈ダム(兵庫県)
日本の粗石コンクリートダムの例:千刈ダム(兵庫県)
積み上げたブロックがコンクリートの型枠の役割をしている
積み上げたブロックがコンクリートの型枠の役割をしている
というわけで、粗石コンクリートダムを造ってみたいと思う。
上流側と下流側にブロックを並べて...
上流側と下流側にブロックを並べて...
その間にコンクリートを注ぐ
その間にコンクリートを注ぐ
カラフルなフルーツゼリーは足場の巨石のつもり
カラフルなフルーツゼリーは足場の巨石のつもり
今回は高さを揃えたり、小さいゼリー片を作って隙間を埋めたり、お皿と接する斜めの部分はゼリーも斜めに切るなど、見た目と機能を両立させた。

僕の技術的にも1000年以上経過したかのようである。
1段目が固まったら2段目のブロックを並べて
1段目が固まったら2段目のブロックを並べて
2段目に高さまでコンクリートを流し込む
2段目に高さまでコンクリートを流し込む
ブロックを並べてはその間にコンクリートを流し込み、固まったらブロックを並べてコンクリートを流し込み...を繰り返し、こちらも5段目の高さまで造った。
見た目はだいぶ進化した
見た目はだいぶ進化した

いよいよ貯水!

ついに両ダムが完成。ではきちんと水が貯まるか、試験湛水をしてみたい。

漏れたら分かりやすいように、貯める水にも着色してみた。
黒に見えるけど青です
黒に見えるけど青です
いよいよ貯水池に水が注がれる!
いよいよ貯水池に水が注がれる!
..大丈夫なのか!?
..大丈夫なのか!?
満タンまで貯めても1滴も漏れず!!
満タンまで貯めても1滴も漏れず!!
ガタガタな見た目だけど、メーソンリーダムは漏れなかった。割と適当に造ったのに粘度の低い水が漏れないなんてちょっと感動した。ちゃんとブロックの隙間に接着剤が入って止水できているのだ。

では続いて粗石コンクリートダムの試験湛水。こちらはミッチリしている真ん中のコンクリート(ゼラチン)部分が厚いのでメーソンリーよりは安心だと思うんだけど。
注水開始!
注水開始!
無事に満水到達ー!
無事に満水到達ー!
というわけで、メーソンリーダム、粗石コンクリートダムを造って水が貯まるか試してみた。ゼリーだけど。

さすがにローマ時代のはともかく、ヨーロッパでは500年くらい前のダムがいまだに現役で使われているという。昔の人の技術力にはただ驚くばかりです。

ちなみに、実験が終わってから思いつきで粗石コンクリートダムを縦に切ってみたら思いのほか涼しげな和菓子のようだった。
でも造るとき味を考えなかったので「かすかに甘い寒天とゼラチンの固まり」という非常に喉を通りにくい代物だった
でも造るとき味を考えなかったので「かすかに甘い寒天とゼラチンの固まり」という非常に喉を通りにくい代物だった

アーチダムも造ってみたい

このところ調べた「ダムの構造の進化」をみんなにも知ってもらいたくて始めた企画なのだけど、石やセメントの代わりに何で造るかものすごく悩んだ。

でも造っている最中は没頭できるくらい楽しかったので、もっと規模の大きなアーチダムとかを造ってみたいと思う。ゼリーで。
固まってないうちに次のコンクリート注いで内側から決壊したりもしました
固まってないうちに次のコンクリート注いで内側から決壊したりもしました

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