特集 2014年9月26日

街中を流れる天井川、しかも廃河川をたどる

ビルの3階くらいの高さを流れていた川の跡、って言ってる意味分かりますか
ビルの3階くらいの高さを流れていた川の跡、って言ってる意味分かりますか
先日、川が道路の上を跨いでいる光景に出くわした。いわゆる天井川というやつだ。

その後、天井川についていろいろ調べると、西日本に多くあって、特に滋賀県の琵琶湖に流れ込む草津川がすごい、ということを知った。あまりにも天井川すぎて国道1号線やJR東海道線が川の下をくぐっているという。しかも、危ないので新しく川を掘って流れを変えたため、今はその部分は廃河川になっているというのだ。

いろいろダイナミックすぎる。これは見に行かなければ!
1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
(動画インタビュー)

前の記事:農村を走る学園都市線に乗ってきた

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意外とある天井川

天井川とは、川の底が周囲の地面よりも高くなってしまった川のこと。街並みや田畑よりも高いところを流れているので、当然大雨が降って溢れたり決壊したらたいへんな被害が出る。

日本では(と書いて世界にも天井川ってあるのだろうか、いやきっとあるだろう、見たい!世界最高の天井川を見たい!などと想像して30分くらい手が止まった)特に西日本に多く、地図をよく見ると道の上を川が跨いでいるところを見つけることができる。
こんな細い川でも道を跨いでいる(天津神川/京都府京田辺市)
ここは東海道線と道路の間を川が流れている(石屋川/兵庫県神戸市)
特に下の地図の石屋川、今は東海道線が上を跨いでいるけど明治7年の開通当初はトンネルで下をくぐっていたらしい。そして、そのトンネルこそが日本で最初の鉄道用トンネルだという。なんと日本の鉄道トンネルの礎は天井川が築いたのだ!

天井川ができるしくみ

では天井川はどうしてできるのか。

大雨が降ると、山から水が流れ出して川となるけれど、地質が弱いところでは水だけでなく土砂や石も一緒に流れ出す。上流の急勾配のところを水と一緒に流れくだった土砂や石は、流れが緩やかになると川底に貯まってしまう。

それが続くと川が浅くなって、少しの雨ですぐに氾濫するようになるので住民たちは仕方なく堤防を高くする。それでも時間が経つとまた土砂が貯まって氾濫しやすくなる。

なので仕方なくまた堤防を高くして...というのを繰り返していくうちに、気がついたら堤防は見上げるような大きさになり、その中の川はまわりの地面よりもずっと高いところを流れるようになるのだ。

と、言葉で説明するより草津川沿いに立っている看板の図が分かりやすかった。
見よ、これが「百聞は一見に如かず」である
見よ、これが「百聞は一見に如かず」である
つまり天井川は半分人工物。対症療法を続けた結果、取り返しのつかないところまで病状が悪化してしまう見本のようなものだ。僕もバファリン飲んでばかりいないで歯医者に行こうと思った。

草津川は、滋賀県第2の都市である草津市の中心近くで周りの土地から5、6メートルも高いところを流れる天井川だった。昔から何度も氾濫して大きな被害を出していたことから根本的な治療をすることになり、川が山間部から平野に流れ出てきたところで新しく掘った水路に付け替えられた。それまで流れていた天井川部分およそ7キロは廃河川となっているらしい。人間で言えばどこかの臓器を全摘出したくらいの大手術だ。

というわけで草津川最寄りの東海道線草津駅に降り立った。駅前にレンタサイクルがあるので、ここで自転車を借りて川沿いを走ろうと思ったら、なんと全車貸し出し中。ここまで来て計画倒れか、と立ち眩みがしたそのとき、ひとりのおばちゃんが自転車に乗って戻ってきた!

ありがとうおばちゃん!
というわけで駅前から出発!
というわけで駅前から出発!
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天井川よあなたは高かった

草津駅から自転車に乗って、いちばん近い川跡を目指した。するとほんの1分も走らないうちに、目の前に一直線の壁が横切っているのが見えてきた。

地図を確認すると、これが旧草津川の堤防らしい。
いきなり目の前に高くそびえる壁が
いきなり目の前に高くそびえる壁が
東口から左下に走り、いまアーバンホテル草津の前
堤防の上に向かって伸びる道路を登って行こうとするのだけど、これがものすごい急斜面。全身の力をペダルに込めてよろよろと漕いで行く。

天井川を見るためには、まずその上まで登らなければならない。教訓っぽく書いたけどまさにその通りである。
いきなり心臓破りの坂
いきなり心臓破りの坂
息を切らせながらなんとか堤防の上にたどり着いた。すると、目の前には見たことのない不思議な光景が広がっていた。
水のない溝の上に橋が架かっていた
水のない溝の上に橋が架かっていた
川の跡というものをこれまで見たことがないので混乱する
川の跡というものをこれまで見たことがないので混乱する
堤防の中には、およそ幅30mくらいの水のない溝がずっと向こうまで伸びていた。確かにいま登ってきた坂の高低差と比べると、溝の方がぜんぜん浅い。

それよりも、川の跡というものを見たことがなかったので、この光景の違和感がすごい。単に枯れ川なら底に石がゴツゴツしているはずだけど、ここは一面細かい砂のようなもので覆われている。廃止になったあと整備されたのかどうかは分からないけど、これを見ただけで来てよかったと思った。

スロープがあったので川底に降りてみた。川として廃止されてからもう12年も経っているのでぬかるんだりすることもなく、乾いた草原が続いている。でもやっぱり幅と比べて浅く感じるせいか、底が真っ平らなせいか、川というより人類が滅亡したあとの高速道路のような感じがした。
何てことだ、ここは東名高速だったのか!みたいな景色
何てことだ、ここは東名高速だったのか!みたいな景色

東海道線をまたぐ川

そこからやや進んで(水が流れていないので上流下流がどっちなのかわからなかった)、堤防の上から外を眺めるとこんな光景が広がっていた。
これが川の堤防から見下ろした景色
これが川の堤防から見下ろした景色
なんと真下を東海道線が通っていた。先に見える駅は草津駅である。上の川底の写真と見比べて、いかに川が高いところを流れていたか分かってもらえるだろうか。

日本の大動脈である東海道線は開通以来、こんな川の下をくぐっていたのだ。僕も何度か夜行列車で通ったことがあるけど、だいたい寝ている時間なので知らなかった。

さっきの橋を渡って反対側の下を見ると踏切が見えた。あそこに降りて下から眺めてみよう。
これ水溢れたら大惨事ですよ
これ水溢れたら大惨事ですよ
下に向かって伸びる細いスロープを慎重に下って踏切までやってくると、ちょうど走ってきた列車がトンネルに吸い込まれるところだった。
道路をくぐるトンネルのようだけど
道路をくぐるトンネルのようだけど
一見するとよくある道路の下をくぐっているトンネルのように見えるけど、この上は川だったのだ。改めて予備知識を持って見ても、やっぱり素直には理解できない。
水が漏れたりしなかったんだろうか
水が漏れたりしなかったんだろうか
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河口まで行ってしまった

今度はそのまま堤防の下を川に沿って進んだ。どうやら下流に向かっているようで、このまま琵琶湖に注いでいた河口跡まで行ってみようと思った。

下から見ると、堤防というより国道や高速道路の盛り土といった感じ。この上を水が流れていたと思うと、やっぱり怖さを感じる。何しろ民家の2階よりも高いのだ。
高速道路の脇っぽい雰囲気
高速道路の脇っぽい雰囲気
民家の屋根くらいまである高さ
民家の屋根くらいまである高さ
もう少し進むと、その高い堤防がぶっつり途切れている場所があった。新しい道路が横切っていて、堤防も川底部分もまわりの土地の高さまで切り下げられていた。

これはこれで天井川というものの大きさが分かってすごい。
もともと堤防があったところに橋が架けられている
もともと堤防があったところに橋が架けられている
両側の堤防と土砂の溜まった川底がいかに巨大かが分かる
両側の堤防と土砂の溜まった川底がいかに巨大かが分かる
そこから先は堤防の上に戻って河口を目指す。このあたりになると川底はまったく手がつけられなくなり、雑草が伸び放題だった。どうしてこんなになるまで放っておいたの、と医者に説教されるレベル。
草が伸び放題でもう何がなんだか
草が伸び放題でもう何がなんだか
看板の地図にも天井川と書かれていた
看板の地図にも天井川と書かれていた
さらに下流でついに天井川じゃなくなったかも!
さらに下流でついに天井川じゃなくなったかも!
途中で見つけためちゃくちゃでかいキャタピラの重機
途中で見つけためちゃくちゃでかいキャタピラの重機
さらに先に進むと、堤防の上は工事中になり、川跡沿いを走れなくなってしまった。仕方ないので迂回して、農村地帯の1本道を僕はなんでこんなところを自転車で走ってるんだろう、と思いながらペダルを漕いだ。
デイリーポータルやってなかったら絶対一生通らなかった道
デイリーポータルやってなかったら絶対一生通らなかった道
えーと何してたんだっけ
えーと何してたんだっけ
やがて交通量の多い2車線の道に行き当たり、その奥には大きな湖が見えた。琵琶湖だ!

草津川跡の方向に少し走ると、水の流れていない川に架かる橋の上に出た。
奥から手前に流れてきていた草津川跡
奥から手前に流れてきていた草津川跡
河口はいい感じの湿地帯になっていた
河口はいい感じの湿地帯になっていた
橋の下にあった看板。ここがまさに草津川の河口だったことを示している
橋の下にあった看板。ここがまさに草津川の河口だったことを示している
というわけで、日本を代表する天井川、旧草津川を東海道線のトンネルから河口までたどってみた。非日常な光景ばかりで楽しかった。

でもこれだけだと、草津川全体のおよそ半分だ。川を付け替えた場所も見てみたいし、もっと上流まで行ってみたい。

...仕方ない、戻るか。
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国道をまたぐ川跡

というわけでスタート地点、草津川が東海道線をまたぐところまで戻ってきた。今度はここから上流に向かって進んでみる。
この先はどうなっているのか
この先はどうなっているのか
相変わらず街は低かった
相変わらず街は低かった
少し走ると、今度は堤防の下を片側2車線の道路がくぐっていた。地図を見ると国道1号線、つまり東海道である。ここでも堤防から下の道路に降りて、トンネルを眺めてみた。
東海道線のに負けず劣らず立派なトンネル
東海道線のに負けず劣らず立派なトンネル
だけど現役時代はよく水が漏っていたらしい
だけど現役時代はよく水が漏っていたらしい
国道1号線のトンネルも、いまとなってはまさか川と立体交差していたとは思えない立派なトンネルだ。東海道線の場所に比べてさらに高低差がある気がする。

だけどこのトンネル、高さ制限があって通れないトラックがあるため、遠くないうちに壊されてしまうらしい。なので見たい方は早めに行った方がいいと思います。
もうすぐ姿を消してしまうトンネル
もうすぐ姿を消してしまうトンネル

さらに上流を目指す

堤防の上に戻ってさらに上流を目指すと、続いて目の前に現れたのは東海道新幹線の橋だ。さすがに新幹線は上を跨いで行くけど、まわりの住宅地の高架に比べて川底との差は少ししかない。
この川底との差に比べて
この川底との差に比べて
堤防の外側ではこんなに高い
堤防の外側ではこんなに高い
新幹線の高架をくぐると、さっきまで隣にあった川跡がすっかり埋め立てられてなくなっていた。この先が、旧草津川と新草津川の切り替え地点なのだ。
川跡が完全に埋め立てられている
川跡が完全に埋め立てられている
左を流れるのが現在の草津川。以前はこの前を横切るように右に流れていたようだ
左を流れるのが現在の草津川。以前はこの前を横切るように右に流れていたようだ
ここからはわずかに水が流れている草津川を遡って行く。と、よく見ると川底は急角度で上がってゆき、このすぐ上流でさっそく天井川になっていることに気づいた。ちょっと目を離すとこれである。筋金入りとはこういう川を言うのだろう。
写真の奥あたりで既に横の住宅地の地面を超えている
写真の奥あたりで既に横の住宅地の地面を超えている
さらに遡ると、これもさすがに上を越えて行く東名高速をくぐって上流を目指す。ふと横の川に目をやると、少し下流では流れていた水がまったくなかった。まるで下流と同じ廃河川のような光景だけど、ここは正真正銘いまの草津川である。でもほぼ枯れ川だった。
まったく水が流れている様子がない
まったく水が流れている様子がない
底砂がサラサラに乾いている
底砂がサラサラに乾いている
水のない川はところどころにコンクリート製の小さな段差をつけられながら、上流に向かって溝が続いていた。

緩やかな上り坂にペダルを踏む足が重くなってきたころ、隣を流れる川はこんな姿になっていた。
道路との段差もあまりなく、川の中は白い砂だけになった
道路との段差もあまりなく、川の中は白い砂だけになった
川底に降りてみた。白い砂がサクサクと深く積もっているようだ
川底に降りてみた。白い砂がサクサクと深く積もっているようだ
たぶん、草津川が天井川になった理由がこの白い砂なんだと思う。これが川底にどんどん積み重なって、この場所のように堤防との段差が小さくなり、洪水が起きやすくなるのだろう。そしてこの白い砂は上流の山が削られて発生しているに違いない。

川底に溜まっているのはこの砂だから、一見水が流れていないように見えるけど、きっと伏流水となってこの砂の下を流れているのではないか。

それが正しい推理かどうかは分からないけど、その先で水が姿を現した。
上流からこのあたりまでは流れていたけどいつの間にか消えた
上流からこのあたりまでは流れていたけどいつの間にか消えた
さらに遡って、河口からママチャリで走ってきた足もそろそろ限界、というあたりで道の舗装が消え、公園のような場所に入って行った。

道端の看板を見ると、この先に「オランダ堰堤」なるものがあるらしい。
ここから先は公園で自動車が入れない
ここから先は公園で自動車が入れない
オランダ堰堤!ここをゴール地点にしよう
オランダ堰堤!ここをゴール地点にしよう
自転車を押してこう園内を歩くと、草津川が目の前を横切り、その先にこんな立派なものがあった。
これがオランダ堰て...いや違う!
これがオランダ堰て...いや違う!
これがオランダ堰堤!立派な砂防ダムである
これがオランダ堰堤!立派な砂防ダムである
その傍らにはこの人の像が!デ・レーケさんじゃないですか!
その傍らにはこの人の像が!デ・レーケさんじゃないですか!
デ・レーケとは、明治時代にオランダからやってきた土木技師で、日本の砂防や治水技術の父とも呼ばれている。ほとんど平らのオランダと比べて非常に急流な日本の河川を見て「これは川ではない、滝である!」というキメ台詞を残したのはあまりにも有名。

つまりこのオランダ堰堤は、天井川に苦しむ草津川の砂防工事のひとつとしてデ・レーケが造ったものなのだろう。
せっかくなので記念写真を撮ったけど顔に疲れが出ていたり腹が出ていたり、自分の老いを見つめる写真になってしまった
せっかくなので記念写真を撮ったけど顔に疲れが出ていたり腹が出ていたり、自分の老いを見つめる写真になってしまった
ところでこのオランダ堰堤、ひとけのない道路をえっちらおっちら自転車でやってきて、ようやくご対面、と思ったら目の前の河原で大勢の人がキャンプやバーベキューをしていて、小さい子供が水着で川に入っていたりしてとても写真に撮りづらい雰囲気だった。
未開の地の原住民に会ったらTシャツとかラジオとかで現代的な生活してた、みたいなガッカリ感(かなり違う)
未開の地の原住民に会ったらTシャツとかラジオとかで現代的な生活してた、みたいなガッカリ感(かなり違う)
堰堤の脇の坂道を上ってダムの上に出ると、そこには草津川の起点の印があった。これでようやく旧草津川全線走破達成である。いや、天井川は凄かった。
なんだか当初の目的と違う気もするけどここで終わりにします
なんだか当初の目的と違う気もするけどここで終わりにします

天井川を見て歩きたい

言葉では聞いたことがあったけどまじまじと見たのは初めてだった天井川。その存在感はすごかった。

お金と時間があれば川に溜まった土砂を取り除けば良いのだけど、自然相手に正攻法で戦うのはなかなか難しいのだろうと思う。

天井川は自然の猛威みたいなものを割と手軽に安全に見られると思うので、各地の天井川も見て歩きたいと思った。
会えて嬉しかったので顔認証登録した
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