アタック25への道
『パネルクイズ アタック25』は、テレビ朝日系列で長年日曜昼間のお茶の間を盛り上げてきたクイズ番組である。
番組自体については今さら説明する必要もないが(知らない人は検索して調べてください)、出場手順については知らない人も多いかと思うので、簡単に説明しよう。
まず予選会に参加するところから始まるが、予選会は出場希望者の中から抽選になっている。もし、応募して予選会の案内ハガキが届かなかったら、再度応募し直してほしい。
そして、予選会に集まったうちの半分は筆記で脱落し、そこからさらに面接で脱落者が出る。
そんな戦いが全国各地で年に3回ほど行われ、およそ400名ほどに『オーディション通過者』として1年間の番組出場資格が与えられる。
図で表すほどでもない手順。
だいたい予選会後の2週間前後で、合格者には予選通過ハガキが送付される。
ここで注意したいのは、これはあくまで「1年間の出場資格が与えられた」というだけであり、本選に必ず出場できるというものではないということだ。
一年間の放送回数を考えると、出場資格を得た者のうち本選に出場できるのは200人ほどなので、半分は本選に出ることなく出場資格を失うことになる。
冒頭で「出場できました~」と軽いノリで書いたが、実は数々の難関を乗り越えた者が到達できる狭き門なのだ。
予選通過のハガキ。
予選会に参加した立場から「こういう感じだと合格しやすいんじゃないか」というのが分かった気がするが、番組出場希望者以外には興味のない話題だと思うのでそれは割愛する。
気になった人は、私に個人的に聞いてください。
出場に当たっての注意点
予選会に通過して、後は番組からの電話を待つだけである。
自分に条件の合った大会(年代別大会、サッカーファン大会等)の開催と自分の都合が合うことを天に祈るだけだ。と思いきや、実は待つ間にも注意することがある。
「アタック25の制作は大阪の朝日放送である」という点を忘れないことである。
見慣れない電話番号からの着信があると、警戒してつい無視してしまうこともあるだろうが、「06」は大阪の市外局番なので勇気を出して電話を取ってほしい。
出場に当たっての注意点
私も2回ほど無視し、後になって「まさかアタック25?」と気付いて折り返したが、担当の方がなかなかつかまらず3回くらい掛け直すことになった。
無事電話を取って出場が決まったら、今度はクイズに備えて予習をしよう。
本買って勉強しました。
しかし、これは失敗だった。というのも、予習したことはことごとく出題されなかったからだ。
番組を見ていると「極端に難しい問題は出ず、一般常識問題と時事的な問題がバランスよく出題される」というのが分かるが、ついつい張切って難しい問題にばかり手を出してしまった。
あと、出場確認の電話の際に「今流行りの歌や映画、本などのエンターテインメント、放送日の前後1週間のできごとなどをチェックしておいてください」とアドバイスをもらえるが、これも広く浅く調べるのがいいと思う。
私はひとつの出来事を深く調べ過ぎたが、結局その問題は出なかった。
昔から、テストでヤマをかけて失敗するタイプである。
勉強ノート。このあたりはちょっとだけ役に立ちました。
そして忘れてはならないのが、出場者に勇気を与える応援席の人員確保。
収録は平日の昼間に行われるので会社勤めの友人には声をかけにくいし、大阪で行われるため関東在住だとさらに誘いにくい。
その上、交通費は出場者分しか出ない。
関西の出場者の出場者の応援は多いが、地方在住は応援が一人だけ、という場面はよくあるが、それも納得である。
幸い、シフト制の仕事をしている友人に声を掛けたら快く了承してくれた。妹にも有休を取って応援に来てもらうことにした。
応援人員を確保できたので、次は応援グッズ。
こういううちわを持って応援してる人いますよね。
無理を言って応援に来てもらう友人と妹に作らせるのは申し訳ないので、自分で作ることにした。
100均で買った応援グッズの材料。
ベースとなるうちわを作る。
ここに、キラキラしたシールを切り抜いて文字を貼り付けていこうと思ったが、文字を切り抜くのはけ難しく、画数の多い漢字や曲線の多いひらがなは私の技術では到底無理だった。
出来上がったのは、こんな感じのものである。
表が『地中海』、裏が『クルーズ』。
少ない画数の中にも、「優勝者して地中海クルーズ挑戦権を得て、正解してクルーズを勝ち取ろうぜ!」という熱い思いを込めたが、現物は帰りの電車に乗る前に駅のごみ箱に捨ててきたので今はない。
ここから当日です。
という万全の体勢で臨んだアタック25、結果は惨敗だった
「優勝賞金から交通費出しますよ!」と言って応援をお願いした友人には申し訳ないことをしたが、傷心の私に気遣ったのか「観覧できて面白かったから気にしなくていいよ」と言ってくれたのがせめてもの救いである。
そんな結果を知った上で、当日の思い出を絵日記風に振り返ります(心の余裕がまったく無くて写真を撮っていないから)。
まず、出場者は収録開始の2時間前に集合する。早く集まるには理由がある。ひとつはメイクだ。
近年、肌の毛穴まで見えるほど高画質化したテレビに対応するため、控室に隣接したメイクルームで美容師さんの手によるヘアメイクが施される。
ざんばら頭が内巻きボブに!!
皿が載ったら河童と間違われるようなTHEおかっぱ頭はキレイめ内巻きボブに、アイラインもばっちり入れてもらって目の大きさが普段の1.5倍になったが証拠の写真はない。
ちなみに、男性出場者もメイクします。
メイクの後は、パネルの取り方やクイズの答え方についてのレクチャー。
基本ルールは、赤・緑・白・青の4色で行うオセロのようなもので、オセロを打つためにはクイズに正解しなくてはならない
最初の問題で正解した人は、必ず真ん中の「13」を選ぶことになっている。
最初は13番からスタート。
選択できるパネルはすでに選ばれているパネルに隣接しているもので、挟んで色を変えられるものがあればそれを優先して選ぶ。
では、自分が青の場合、次は何番を取るべきだろうか。
隣接、かつ挟んで色を変えられるパネルを選ぶ。
考えられる選択肢は4番と14番だが、この場合は14番が望ましい。
これが正解。
何故4番ではいけないのかというと、「隣接したパネルを選べる」「色を変えられる場合はそれを優先する」というルールなので、次の問題で赤、そしてパネルを持っていない緑と白が正解すると角の5番を取れるが、青が正解しても2番や14番、18番の後でないと5番を取れないから。青以外に有利な状況を作ることになってしまうからだ。
これだと、敵に有利な状況になってしまう。
私はこの時間、スタッフさんに「あなたなら何番をとりますか?」と聞かれるたびにダメな方の選択肢を答え続けていた。この時点でダメな予感はしていた。
クイズの答え方講座
『アタック25』の番組独自のルールかもしれないが、クイズの答え方についても一定のルールがある。
たとえば人名を答える問題だと、外国人は名前だけ・苗字だけでも誰を指すのか分かれば正解と認められるが、日本人の場合はフルネームで解答しなければならない。
また、文字ではなく口頭で解答するため、漢字の読み間違いは不正解となる。
レクチャー中。芸能人ってややこしい読みの人多いですね。
あとは、『問題に応じた正しい答え方をする』ということ。
例えば、「エッフェル塔のある国は?」に対して、『フランス』ではなく『パリ』と答えると、知識が正しくても不正解になる。
また、基本的に早押し問題なので、出題の途中で解答することもできるが「漢字三文字で表記する県名は3つあるが、神奈川、鹿児島ともうひとつはどこ?」という問題で、前半だけ聞いて『神奈川、鹿児島、和歌山』とすべてを答えてしまうと不正解になる。
あくまで正解として認められるのは、『和歌山』のみである。
そして最後に、ベテランっぽいスタッフさんから、答え方についてのテクニック的な部分ではなく心構えについてのアドバイスがあった。それは、
・大きな声で
・明るく元気よく
・若干オーバーアクションで
ということ。
『大きな声』は、声が小さくて司会者が聞き直した時に解答を言い直す人が出ないように(過去にはそういうこともあったらしい)。
『明るく元気よく』『オーバーアクションに』は、テレビ慣れしていない人は普通にしているつもりでも不機嫌そうに見えることがあるらしく、不正解の時など本気で落ち込んでるように見えることもあるらしいのだ。
なので、なるべく楽しそうに見せましょうね、ということだった。
こういう感じだと本気で落ち込んでるように見えるそうです。
私は日頃おとなしくテンションが低い。
意識してやらないと、大声で元気よくはならないだろうと思ったので、相当気を遣った。今にして思うと、それが間違いだったのかもしれない。
生まれて初めて「元気いっぱい」と言われたリハーサル
大体の流れを把握し、収録スタジオに移動する。
収録スタジオの配置図。
うっすら透けて見えるのは妖怪ウォッチの落書きだが、他意はないので気にしないでほしい。
応援は妹と友人、そして現在大阪在住の友人の職場の同僚とその旦那さんの4名で、友人の同僚ご夫妻とはこの瞬間に初対面だった。
会ったことも無い私の応援に来てくれて嬉しいやらありがたいやら、その上ダサい応援うちわまで持たせてしまって申し訳ないやら、複雑な思いが胸を去来する。
応援団。半分は知らない人。
現場ではわりとうちわが目立っていが、敗れた私の応援は放送ではほとんど映っていなかったので、申し訳なさがさらにアップした。ほんとすみませんでした。
リハーサルでは番組全体の流れを確認しながら、出場者は発声と細かい手順の練習を、応援は拍手の練習をする。リハーサルとはいえ、クイズもちゃんとした問題が出る。ここで勢いを付けて、本番の優勝を狙いたいところだ。
「声をだす練習をしましょう。赤の方から、パネルの色を変えるつもりで好きな番号を言ってみてください。」
私だけマイクの設定間違ったかのようなボリューム。
「早押しの練習をします。赤の方から順番に問題を出していきますので、ボタンを押して答えていってください。」
声だけじゃなくボタンを押す音もうるさい。
「残念、不正解!緑の方、二問のご辛抱!!」
全部、スタッフに言われた通りにやったことである。
司会の浦川アナウンサーおよびスタッフの方々に「元気いっぱいですね!」と言われたが、それは指示通りにやっただけで本来は暗くておとなしい人間である。
よって、私が出場した回をご覧になって「緑うるせぇ」と不快に思う方がいたとしても、それは番組側の指示であって私の責任ではないことをご考慮頂けると幸いである。
ちなみにリハーサルは、ほぼ赤と緑(私)の一騎打ちだった。
優勝して地中海クルーズにいけるんじゃないかと、この時は半ば本気で思った。
そして、本番
まず言い訳すると、本番の序盤は正答数では赤がトップで次いで緑。パネルの数では一時、緑がトップに躍り出る場面もあった。
しかし、最終的には白が19枚と圧勝で、私のパネルは2枚のみという結果に終わった。
よく「こんな問題、俺なら全問解けるぜ」とか「これに出てたら優勝できるな」とか言う人がいるが、正直そういう奴は何も分かっていない。
本番のスタジオには、甲子園球場レベルの魔物がいるのだ。
まず、緊張による度忘れ、勘違い、言い間違い。
緊張することはある程度想定していたが、度を超した緊張は予想以上に人間を低能にさせる。
そして、「お手付きすると二問答えられない」というルールが、想像以上に大きなプレッシャーとなる。
一度お手付きを経験すると、答えが分かっても「もし違っていたらまた二問のご辛抱か…」という不安が拭い去れず、結局先に誰かが答えてしまう、または時間切れ、ということが何度もあった。
そんな戦いぶりだったので中盤以降さして活躍の機会はなかったが、リハーサルでの実績を買われたのか、自分が答えられない場面で浦川アナから話を振られることがあった。
例えば、白が優勝を決定的なものにしたアタックチャンスの後。
白で決まりだな~終わったな~、と油断していたら。
と言われ、落ち込み悔しがるリアクション。
ラストの問題、白が緑のパネルのどんどん塗り変えていったとき。
パネルがさらに減る…と遠い目をしていたら。
「ああ!緑のおおたさん、落ち込まないで!」
収録後、友人からは「むしろ答えてない場面の方がカメラが寄ってたよ」、妹には「近年まれに見るウザいキャラだったね」と言われた。
私が出場した回の放送をご覧になって「緑うぜぇ」と不快に思われる方がいたとしても、それは浦川アナが話を振ってくれたことに応えたというだけのことだ。
私の自発的な意思ではなく、責任の所在は私ひとりが負うものではないとご考慮いただけると幸いである。
でも、スタッフの方に「おかげで番組が盛り上がりました!」と言ってもらえて、大ファンの浦川アナにも「司会者ポイントがあればあなたに10ポイントあげますよ!」と励ましてもらえて、お世辞でも嬉しかった。
『アタック25』は一度出場するとその後5年間は出場資格が停止されるが、6年後に備えて、今からクイズの勉強をしておこうと思う。
一生の思い出になりました。
なるべく冷静に振り返ろうと思い文体を変えてみましたが、さほど冷静にはなれませんでした。
思い返せば、お手付きを恐れずもっと積極的に行けばよかったという後悔、オーバーアクションにしすぎたという後悔、5年出られないなら今回は見送った方がよかったのかもという後悔、主に後悔しか出てきませんが、長年の夢が叶ってとても楽しかったです。
一生分の運を使い果たして、そろそろ死期が近いのかもしれません。
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応援に来てくれた友人の交通費にもなりませんけども。
浦川アナはもちろん、出題の角野アナがテレビで見るより可愛くてファンになりました!