特集 2014年9月16日

背が高くなる靴専門店へ行く

さり気なく7cmアップしたいあなたに
さり気なく7cmアップしたいあなたに
知人で、とても背の高い人がいる。

190cmある彼は、外を歩いていても高いところの看板に気がついたり、探していた商品をコンビニの上の棚から見つけたりするので、「やっぱり背が高いと見えてるものが違うのか」と感心した記憶がある。

そんな感じで漠然と「身長高いのはいいな」と思い続けていたのだが、ある日、東京駅からすぐの所に背が高くなるシューズ専門店ある、とテレビでやっているのを見た。

履くだけで背が高くなる、例のやつだ。

よし、じゃあ高くなってこようじゃないか。
1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

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背が高くなりたい二人で履いてきた

デイリーポータルの企画会議で「背が高くなる靴専門店に行きたい」と話をすると、興味を示してきたライターさんがいた。
町のぶらぶらおじさんこと、ライター西村さんだ。

「え、でも西村さんけっこう身長高いですよね。いくつぐらいですか」
「179.5cmですね」

普通に考えたら、179.5はまあ大きい方だろう。

でも、なんとなくわかる。身長を聞かれて「.5」と小数点以下までいうあたり、微妙なコンプレックスが潜んでいるのではないか。

「いやー、やっぱり180cmにはなってみたいんですよ」
痔の手術を間近に控えてナーバス気味な西村さん。
痔の手術を間近に控えてナーバス気味な西村さん。
179.5なら、もう四捨五入で180って言っても問題無いと思うのだが、そこは西村さんなりのフェアネスなのだろう。
フェアネスと言いつつ、今からズルをして背を伸ばしにいくのだが。

ちなみに僕は175cmだが、やはり、どうせならあと5cm伸びても良かったんじゃないか、という思いはある。
ここに、僕らの足りない身長が売られている。
ここに、僕らの足りない身長が売られている。
バレない!? 5cm~夢の!!12cm 欲望を煽る立て看板。
バレない!? 5cm~夢の!!12cm 欲望を煽る立て看板。
そういう流れで、東京駅八重洲口から歩いて5分の、背が高くなる靴専門店『TALL SHOES』さんにやってきた。

背が高くなる靴しか売ってないお店

特殊な靴を売っている靴屋さんということで、店内の雰囲気が予想できなかったのだが、入ってみればごく普通の紳士靴専門店だ。
値段もそんなに高くない。ふつうだ。
値段もそんなに高くない。ふつうだ。
置いてある靴も、見た目はまったく普通。違和感はまったく無い。

ただ、棚のあちこちに靴のサイズではない「5cm」「7cm」という札がつけられている。これが履くだけで身長アップする数字なのだろうか。
靴流通センターかと思うような価格の紳士靴2足セットは7cmアップ。
靴流通センターかと思うような価格の紳士靴2足セットは7cmアップ。
まったく普通のスニーカーに見えるが、これで5cmアップ。
まったく普通のスニーカーに見えるが、これで5cmアップ。
これなら買ってもいいな、と真剣な僕たち。
これなら買ってもいいな、と真剣な僕たち。
5cmアップの靴を見ながら「これすごい。履いてても絶対バレないですよ」と笑顔の西村さん。

0.5cmを偽らないフェアネスはもう欠片もない。
これが12cmアップシリーズ。
これが12cmアップシリーズ。
店の奥には、夢の12cmアップ靴の棚もあった。

これも見た目は「ちょっとカカトが高いかな?」ぐらいで、違和感はない。

しかし、中には身長をぐっと押し上げる急勾配な中敷きが仕込まれている。
これぐらい急勾配な中敷きがIN。数字にするとすごいな。
これぐらい急勾配な中敷きがIN。数字にするとすごいな。
足のサイズが27cmとしたら、12cmアップするためには、単純計算でなんと傾斜角約24°の中敷きが入っていることになる。

なるほど、これは身長が伸びるはずだ。
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どんな人が背を伸ばしに来るのか

せっかくなので、ここの店長さんにも話を聞いてみることにした。
『TALL SHOES 銀座店』店長の石原さん。
『TALL SHOES 銀座店』店長の石原さん。
「こちらの商品って、いわゆるシークレットシューズってやつですよね」
「あ、うちの靴は『トールシューズ』ね。『シークレットシューズ』はよその商標だから」

いきなり訂正された。そうか、シークレットシューズも商標なんだな。

「まあ、一般的にはそれで通じるんだけどね。海外でもシークレットシューズで通じるから」

「外人のお客さんもうちにフラッと入ってきて「オー、シークレットシューズ!」なんて言いながら買っていくよ」


知らなかった。海外でも『シークレットシューズ』でいいのか。

これで、もし海外に行った時に背を高くしなければいけない事態に陥っても困らないぞ。
気さくな口調で靴の説明をしてくれる石原さん。
気さくな口調で靴の説明をしてくれる石原さん。
「ところで、なんでうちに来たの?身長普通だよね」
「いやー、やっぱり一度は身長が高くなってみたいというか、180cm超えたらどんな感じかなと思って」
「あー、そういう人は多いね。身長がかなり低い人はもう諦めちゃうんだけど。あと一息で何センチに届く、ぐらいなら、うちの靴で背を伸ばしちゃえば簡単だよ」

そんなざっくりとした感じでいいのか。
僕が今まで「シークレットシューズ」とか「靴で背を伸ばす」という言葉になんとなく感じていた薄暗いイメージは全く無い。

「背が高くなったらどんな感じかなー、って思うなら、履いてみたらいいんだじゃない。風景が変わって見えて面白いんだから」

良かった、面白いかどうかで履いてもいいんだ。

じゃあ早速履いてみよう。180cmを超えるのだ。

7cmを足してみる

とりあえずこれぐらいの履いてみなよ、と石原さんに勧められるままに7cmアップシューズに挑戦した。
人生初の180cmへ。
人生初の180cmへ。
計算上、いま182cm(中敷きが潰れるので、理論値よりはちょっと低い)
計算上、いま182cm(中敷きが潰れるので、理論値よりはちょっと低い)
ずっとつま先立ちに近い状態になるのは辛そうだな、と思っていたが、わりとそんなほどでもない。思っていたよりはずっとラクだ。
足の裏の角度は、これぐらいで床と水平。けっこう角度ついてる。
足の裏の角度は、これぐらいで床と水平。けっこう角度ついてる。
それよりも、あきらかに履く前と視点がちがう。さっきまであまり気にして無かった一番上の棚の靴が、はっきり意識に入ってくる。

背が高くなった分、視界が拡張されている感じ。これは確かに面白いな。
おや、西村さん、背が縮んだ?
おや、西村さん、背が縮んだ?
僕より4.5cm高かった西村さんだが、今はわがすにだが僕の方が目線が高い。
負けじと7cmアップを履く西村さん。
負けじと7cmアップを履く西村さん。
「はいどーもー、オール巨人巨人です」
「はいどーもー、オール巨人巨人です」
182cmと186.5cm。履くだけで二人して身長180cm越えだ。そこそこでかいぞ、僕ら。

7cmアップするだけでこんなにテンションが上がるとは。

背が高くなる靴、すごい。

女性もハイヒール履いたらこんなテンションになっているのだろうか。

少なくとも今、僕らはウキウキだ。

外を歩くと発見がある

このウキウキ気分のまま、靴をお借りして外を歩いてこよう。(特別にお願いしました)
オール巨人巨人、外へ。
オール巨人巨人、外へ。
外を出ると、また新たな発見がある。

たとえば、7cm低かった頃にはまったく気にならなかった街頭の立て看板のカドが、チラチラと視界に入って気になるとか。
この辺がとがってて気になる。
この辺がとがってて気になる。
あと、西村さんが「なんか歩き方が変になります」と言い出した。

そう言われると、なんとなく僕もそんな感じがする。
こんな歩き方になる。なぜか手も変。
こんな歩き方になる。なぜか手も変。
足の裏は中敷きの傾斜を感じているのに、見えている風景は平地なのが原因なのかもしれない。
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知ってる場所に行くとなお面白い

実はここまで歩いている間に「ふだんあんまり歩いてない場所だと、自分が大きくなってるか判断つかなくて、実感無いなあ」という会話をしていたのだ。

それなら、普段からよく雰囲気を知ってる場所に行って自分の巨大さをより体感しようではないか。
コンビニで背が伸びたのを実感しよう。
コンビニで背が伸びたのを実感しよう。
残念ながら店内での撮影許可がとれないので店外からの写真しかないが、棚越しに大巨人西村さんの表情がハッキリ見える。でかいぞ。
進撃の西村さん。
進撃の西村さん。
これだけ身長が高くなると、棚の向こう側にある商品が見えたり、一番上の棚に積んであるカップラーメンのラベルがはっきり認識できた。

自分の大きさを体感したいなら、コンビニがお勧めだ。

銀座駅は巨大さ体感スポットだ

企画会議で、どこか巨大さを体感するのによいスポットは無いか相談していると、西村さんが「銀座駅は天井が低いから、身長が高くなったらどこか頭を打つ場所があるんじゃないか」と提案してくれた。

なるほど、あの駅は至るところに「頭上注意」みたいな注意書きがある。
確かにかなり低いぞ、銀座駅。
確かにかなり低いぞ、銀座駅。
ちなみに靴を脱ぐと、まだ頭上にわりと余裕。
ちなみに靴を脱ぐと、まだ頭上にわりと余裕。
だが、7cmではまだ頭を打つにはちょっと足りない。あともう一歩、大きくなる必要がありそうだ。

今こそ、究極兵器の出番ではないか。
12cmも借りてきてました。
12cmも借りてきてました。
実は7cmだけでなく、TALL SHOESで最大の12cmアップ靴もお借りしていたのだ。

ただ、この靴だけ他より価格が高いので、我々も少しビビって外では履かずにいたのだ。
普通の靴と12cm靴。これだけの差が!
普通の靴と12cm靴。これだけの差が!
これで西村さんは180cmをも越え、191.5cmに。

残念ながら僕では12cm靴でも微妙に頭を打つには足りないようなので、ここは涙を呑んで西村さんに全てを託すことにした。
さあ行け西村さん。あそこに頭上注意の警告があるぞ。
さあ行け西村さん。あそこに頭上注意の警告があるぞ。
「おい、なんだこの駅は。低すぎて頭を打つじゃねえか」
「おい、なんだこの駅は。低すぎて頭を打つじゃねえか」
やった。見事に頭を打った。190cmなら、銀座駅は頭を打つのだ。

大巨人は銀座駅で降りてはいけない。
なんかトリック写真っぽいが、単に靴を履いただけ。
なんかトリック写真っぽいが、単に靴を履いただけ。
ちなみに、靴を脱ぐとまだ頭上はスカスカ。やはり12cmの威力は絶大である。
ここでも。大巨人にとって「頭上注意」は本当に危ない。
ここでも。大巨人にとって「頭上注意」は本当に危ない。
銀座は危険が一杯だ。
銀座は危険が一杯だ。
西村さんも頭上注意をさんざん堪能したようなので、さっきからずっと12cm靴を履きたそうにしていた編集部藤原くん(カメラマンとして同行してくれていた)にタッチ。

実は藤原くん(176cm)、お店にいたときから僕たちと同じぐらい興味津々に靴をチェックしていたのだ。よほど履きたかったに違いない。
藤原くんのこんな笑顔、初めて見た。
藤原くんのこんな笑顔、初めて見た。
基本的に大人しい藤原くんが、まさかの満面の笑顔でWピース。

背が高くなって、頭上注意に頭を打つだけで人はこんな笑い方をするのか。

今度からサミットとか全員この靴を履いて銀座駅で開催すればいいと思う。

背が高くなる靴は、とにかく楽しかった。

どこがどう、という説明は難しいが、なんだか魂の根源が揺さぶられるような楽しさなのだ。

「体が大きい」という生物学的な優位を努力無しで入手できたことによる喜びなのかもしれない。

気になる人は、とりあえず『TALL SHOES』さんで試してみて欲しい。本当に楽しいから。

『TALL SHOES』
看板も背が高すぎて隠れてしまってる。
看板も背が高すぎて隠れてしまってる。
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