特集 2014年8月24日

こまかすぎて伝わらない“こわいもの”

我らが日曜たのしさ一万尺にTBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」との連携企画が登場です。では、構成作家の古川 耕さん、お願いします!
我らが日曜たのしさ一万尺にTBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」との連携企画が登場です。では、構成作家の古川 耕さん、お願いします!
高所恐怖症とか閉所恐怖症といったメジャーな「こわいもの」ではなく、「え? 君、そんなのものがこわいの?」という、マイナーすぎて他人になかなか共感してもらえない「Myこわいもの」。

今年6月、面白半分にそれを我々の番組「ウィークエンド・シャッフル」で募集してみたところ、来るわ来るわ、特殊でニッチな「Myこわいもの」の数々。

「子どもの書いた字がこわい」「ボーリングの玉が出てくる穴がこわい」「新しいコンビニが出来るという情報がこわい」「しゃぶしゃぶがこわい」etc……
共感は出来ないけど、理解は出来なくもない。そんな投稿の数々を聞いているうち、「人間っていろんな人がいるなぁ」とアホの子みたいな感慨が心の底から沸き上がってくる、なかなかよい放送となりました。

賢明なるデイリーポータルZの読者諸氏にもぜひこの感慨を共有していただきたい。そこで今回、番組に届いた投稿の中から、前回の放送では取り上げきれなかったものをいくつかご紹介したいと思います。
(左・宇多丸)ヒップホップグループ「ライムスター」のラッパーにしてラジオパーソナリティ。映画の知識と敬語、低姿勢に定評がある。


(右・古川 耕)構成作家。文房具ライターとしても活動し、お気に入りボールペンの投票企画「OKB48総選挙」の総合プロデューサーもつとめる。



TBS RADIO ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル(土曜日22:00~24:30)



前回の放送までに届いたこわいものメール&コメント

私は服などについているボタンが苦手です。

ボタンのついた服を着ることは出来るので、日常生活に支障はありませんが、出来れば目にしたくないし触りたくありません。
物心付いた頃からこんな状態で、人には理解されないだろうし自分でも上手く説明出来ないので、このことは墓場まで持っていこうと思っていました。

ところが数年前、ネットで偶然「ボタン恐怖症」という単語を目にし、目から鱗が落ちました!
嫌がらせのように添えられているボタン画像に焦点を合わせないように気をつけて、ボタン恐怖症についての記事を読み漁ると、今まで誰にも言えなかったあるあるネタの宝庫でした。

例 ・落ちているボタンをティッシュにくるんで捨てる
・取れかかっているボタンはより気持ち悪い
・なぜかジーパンのボタンは平気

「ひとりじゃない!」
そんな思いに満たされて、だいぶ気が楽になりました。
その後もボタンに対する嫌悪感に変化はありませんが、それに名前をつけてもらえると自分の中での納まりがいいです。
ラジオネーム:春巻
「こわいと思っているのは私だけ!?」という心の叫びと、そこに共感してもらった時の心の安らぎは、どうやら我々の想像以上のものがあるようです。実際、この企画へのリスナーの前のめり感はちょっとケタ違いで、なんだかちょっといいことをしているような気持ちにさえなりました。
自分の人生で克服できない怖いものが2つあります。
2つの共通は光モノです。

<1つ目>
野外に放たれる夜間のレーザーライトが果てしなさ過ぎて怖いです。

夜空ってどこまでも広くて暗いですよね。
それが宇宙の素の姿に一番近い状態だと思うんです。
そこにレーザーライトを放つ行為は、宇宙が望んでいないと思うんです。

室内のレーザーライトは全然平気です。
大きなコンサートホールで、ミュージシャンの演出で使用されるレーザーライトは室内で完結する光で、区切りがあると思えるので安心して見れます。
ただ、夜間の野外フェスとかで放たれるレーザーライトは怖いです。
20年以上前、自宅付近にレーザーライトを夜空に向けて放つパチンコ店があり、近くを通過するたびに恐怖してました。
あのパチンコ店が潰れてくれてホッとしてます。

札幌市では「雪まつり」があり、大きな雪像にレーザーライトを設置し、夜空にむけてライトを放ちます。
ライトアップという名目で、恐怖演出をするのです。
最近はプロジェクションマッピングになって、無意味なレーザーライトがを見ることが無くなりホッとしてます。
視界に入ってこなければ怖くないもんですよね。


<2つ目>
室内照明のスイッチひもの揺れが怖い。

昔の室内照明には蛍光灯にひもがついていましたよね。
スイッチをON・OFFするたびにひもが左右に円を描く感じで揺れるわけです。
ゆ~らゆ~らゆれるリズムと、ひもの動きが、いつまで揺れているのかわからない。
人間がまたスイッチひもを触ると同じ動きを繰り返すところが怖い。

電気をつけるとき、消して寝るときが怖くて怖くて耐えられません。
私が幼いころ、あまりにも怖がって泣くので、両親は天井照明のひもを切りました。
壁のスイッチだけを利用して生活していた時期があります。
昨今は照明技術が発達し、室内照明のスイッチがリモコンになってくれたおかげで快適な生活を送っています。
ラジオネーム:ライトが怖い
「宇宙の素の姿」「宇宙が望んでいない」こういう、個人の生活感とはまったく異なる巨視的なスケールがいきなり持ちだされかと思うと、その舌の根も乾かぬうちに「電気のひもがこわい」という生活感の塊のような恐怖が出てくる。この理不尽さも本企画の醍醐味です。
細かすぎて伝わらない私だけの怖いもの、ですが、私はアニメなどのキャラクターの着ぐるみが本当に怖くて仕方がありません。

昨今、流行っている「ゆるキャラ」はもちろんのこと、国民的な認知度を誇るアニメキャラ、浦安のあたりにいらっしゃるセレブマウスなど、すべての着ぐるみが恐怖の対象です。
子供のころは別に怖くはなかったのですが、成人してからのあることがきっかけで恐怖を感じるようになってしまいました。

あるとき、近所のショッピングセンターに買い物に行ったのですが、ちょうどゴールデンウィークのころで、ショッピングセンターでは子供向けのイベントが多く催されており、連日ヒーローショーなどが行われているようでした。
子供がいるわけでもない私はとくに関心もなく、自分の買い物を済ませようと2階の本屋さんに行きました。
目当ての雑誌を見つけ、それを持ちながらぶらぶらと本屋さんをひやかしていたところ、雑誌コーナーの向こう、ショッピングセンターの通路で、白くて巨大なものがゆさゆさと揺れておりました。
あまり目が良くない私は、あれはなんだと目をすがめて見ていたのですが、雑誌コーナーに阻まれてどうにも正体がつかめません。白くてゆさゆさと揺れる物体がまさに私のすぐ近くに来ようというところだったので、雑誌コーナーから出て、その物体がなんであるのか確認した私は、激しい恐怖を感じました。

白くてゆさゆさと揺れていた物体は、イベント会社の社員とおぼしい女性に手を引かれて歩く、キティちゃんだったのです。

キティちゃんは視界が悪いのか、手を引く女性に誘導されながらもおぼつかない足取りでイベント会場に向かうところでした。まるでこれから大舞台に向かう、年老いたお師匠さんのようでした。
アンバランスなほど巨大で妙に軟らかそうな頭は左右に揺れ、まったく感情を感じられない黒い瞳がショッピングセンターの蛍光灯を反射させて不気味に光っていました。

自分がいるあまりにも日常的な空間に、異様な雰囲気をまとったキティちゃんが侵入してきたのが恐ろしく、それから、他の着ぐるみも怖くて近寄れなくなりました。
この話をするとオーバーだよと馬鹿にされるのですが、私にとっては真に恐怖の対象が着ぐるみなのです。たぶん、伝わらないと思うのですが……。
ラジオネーム 片岡ハイジ
この文章の見事さたるや! 投稿者にとっていかにこの出来事が鮮烈で重大だったのかが、描写の巧みさからもうかがい知れます。
私がこわいもの「戦隊ものや仮面ライダーなどがショッピングモールなどで行うライブイベント」。

私が小学生の時の話です。地域の大きな催し物に参加した際、何をするでもなく歩いていた私は、風に吹かれた控え室とは名ばかりの簡易テントの中を目撃してしまいました。首の上だけ知らないおじさんのヒーロー達が、これもまた首の上だけ知らないおじさんの敵達と、扇風機の前でぐったりしています。
ショックでした。テレビで毎週繰り広げられている戦いは嘘っこだとわかっていたにもかかわらず、です。

ここでの私が受けたショックは、何も汗だくのオッサンが子供の夢を打ち砕いたとかそういうわけではなく、「2次元でも3次元でもない、本当でもないが嘘でもない、非現実感のとても高いキャラクター」を、「その場にいる周りの大人全員が暗黙のうちに許容し、しめしあわせ、つきあっている」はずなんだけれどそれが、「風がちょろっと吹くだけで崩れてしまう危ういバランスでなりたっている」光景がめちゃくちゃ気持ち悪かったんです。怖かったのです。

お陰様で今でもそこらへんのファンタジー処理がうまくできず、先日もみなとみらいで偶然はちあわせたアイドルのライブイベントでさえ、横を通っただけで嫌な汗をかいてしまいました。
ラジオネーム:貫く棒の如きもの
これもまた素晴らしい名文。そして自己の恐怖に対する深く鋭い考察です。ここまでモノを考えられるからこそ恐怖が増えてしまう……我々は思ったより生きにくい世界に住んでいるのかもしれません。
私の怖いものは、「細くて尖っていない先端」です。

特に、不必要に長いピアスのネジが最悪です。
満員電車の中で、自分の前に立っている女性が髪の毛をアップにしていて、その人の耳の裏を見たりなんかしたら、膝の力が抜けて座り込みたくなります。
もし、あのピアスのネジが針のように尖っていたら何の問題もありません。
針だったら気をつけるでしょう。

でもあのネジは刺さらない形状だから、みんな油断してませんか?
満員電車でギュウっと押し付けられたりなんかして、万が一それが首の裏にグリグリ突き刺さってしまったら……

このトラウマは多分、小学校低学年の頃に起因していると思います。

私はその時「小学◯年生」的な雑誌を読んでいました。
そこに東京タワーの特集をしていたのです。エッフェル塔より高いけど軽い、などというウンチクがあれこれ。
その中に、「東京タワーのてっぺんは尖っているように見えるけど、あれは円くて長い鉄棒です。頂上は平らで、大人が立てる広さがあります」と。

しばらくして、いたたまれなくなるぐらい怖くなりました。
そこに立っていてふらついてる自分を想像してしまったのです……
ラジオネーム:スズキ
ピアスのネジと東京タワーの話が、繋がっているような繋がっていないような……何度読んでもよく分からないのですが、切実さだけは伝わってきます。
私の恐怖症は「草むら」です。

草むらと言っても、ちょっとした草むらであれば問題ないのですが、大きな草むらがとても苦手です。
「この草むらの中にはどれだけの虫や生き物がいるのだろう?」と想像してしまうのです。

頭の中に、草が一切なくなったときの風景をイメージし、そこに虫やら蛇やらがウヨウヨしている映像が駆け巡ります。

そんなこと想像しなければいいのに、怖いもの見たさなのか、なぜか勝手に思い描いてしまいます。
そのため、毎朝鳥肌を体中にまといながら出勤しております。

ちょっと変わっているかもしれませんが、共感していただける方がいらっしゃると大変嬉しいです。
ラジオネーム:ピータン
これは難易度高い! 絵面をうまくイメージ出来たとしても、それがなぜ「こわい」という回路に繋がるのか。謎は深い。
人に理解されにくい怖いもの、それは換気扇です。

回転していて危険だからというわけではなく存在そのものが不気味に感じます。写真で見るのも怖いです。

今は子供の頃ほどひどくはありませんが、回転する羽根がむき出しのものや駆動音が大きいもの、サイズが大きいものは今でも怖く感じます。
天井に取り付けるような羽根が見えないタイプの換気扇でも、駆動音や吸い込む音が大きいものはダメです。

子供の頃は、夢に何度も出るほど恐れていて小学生時代にスイミングスクールに通っていたのですが、そこの室内プールの壁に大きめの換気扇3つ並んで設置されていて、その真下のプールサイドを歩くのがすごく怖かったのを覚えています。換気扇の形や音、空気を吸い込むという機能、その場を動かずにいるその感じが気味悪く感じるのです。

でも、同じような回転する羽根を持つ扇風機は大丈夫です。ヘリコプターやプロペラ機も怖くはありません。
ただお店の路地裏に並べて置かれているようなエアコンの室外機はかなりきついです。
その場所からすぐに離れたいと思ってしまいます。
ラジオネーム:カラショウ
換気扇やサーキュレーターはこわいのに、扇風機やプロペラはこわくない。この、完全に恣意的な線引きもまた「Myこわいもの」によくある特徴でした。

ここでお知らせです!

「こまかすぎて伝わらない“こわいもの”特集」の第2回目が、8月30日夜10時からの「ウィークエンド・シャッフル」で放送されます!!
そこで、この場を借りて皆さまからも「Myこわいもの」を大募集。

下記の投稿フォームから、あなたが今まで胸に秘めてきたとっておきの「Myこわいもの」を送って下さい。
採用された方は、来週の放送、もしくは8月31日のこちらのページに掲載させて頂きます。
(「ラジオに電話で出てもいいよ!」という方は連絡可能な電話番号も忘れずに)
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