足下のおしゃれに対する意識が高い
お昼過ぎにJR八王子駅に着いた。休日のため人がたくさんいるが、マンホールを見に来たのは我々だけかもしれない。
マスターがマンホールの魅力に目覚めたのは10年ほど前。デザインに様々なバリエーションがあることに気づいたことがきっかけだ。
マンホールポーズをキメる二人
「マンホール」で検索するとわかるが、世間には本気でマンホールの画像をコレクションしているサイトがいくつかある。しかし、こちらのマスターは市井の愛好家といったスタンスだ。
八王子駅前ターミナル
「珍しいものは、なぜか都心より郊外に多いんです。足下のおしゃれに対する意識が高いせいでしょうか。八王子にもカラーの絵柄付きマンホールがたしかあったはず」
道中の電車内で、これまで撮った中でもとくにお気に入りの写真を見せてもらった。
お伊勢参り
おお、これはもはやアートの領域ではないか。「汚水」のはずなのに、「お粋」に見えてくる。
コアラ
あれ、東松山にコアラなんていましたっけ?
「意外ですよね。こども動物自然公園というところに7頭いるんですよ」
自治体の市章やシンボルなどがあしらわれている
さて、まずは八王子駅の北口を歩く。すると、どうだろう。画一的なイメージしかなかったマンホールが、こちらから秋波を送ったとたん、じつにいろんな表情を見せてくる。
どの子がタイプ?
「ふつうは気にしないで踏むのかもしれませんが、僕は感情移入してしまっているのでマンホールはよけて歩きますね」
タバコの吸い殻を拾うマスター
これほどデザインにバリエーションがあるのは日本だけで、外国人が写真を撮っている姿も何度か見たそうだ。
「あっ、マンホール跡だ。これは珍しい」
パッと見、何を撮っているのか分からない風景
以前、同じようにマンホールを撮影している時、たまたま通りかかった女子高生に「何を撮っているんですか?」と聞かれたことがあったらしい。
「マンホールです」と答えると、その女子高生も同じように撮っていたそうだ。いい話である。
「八王子の市花のヤマユリですね」
初の絵柄付きマンホールをゲット。このように、マンホールには自治体の市章やシンボルなどがあしらわれていることが多いという。
ところで、マンホールと路面のブロックがずれている点が気になる。ここはきっちり合わせてほしいところだ──と思いながら歩いていると…
きっちり合っている!
やはり、作業員の方の性格が出るのだろうか。ちなみに、中央のマークは八王子の市章だ。と、そこへ全面絵柄物件と出会う。
何やら人形のようだが
「これは『車人形』といって、八王子に古くから伝わる人形劇の意匠ですね」
マンホールが自治体のPR媒体となっているのだ。どうせなら、電車の中吊りのように広告枠として売り出せばよいのでは。
蓋と受け枠のセットで約6万円から9万円
2時間ほど歩いた。しかし、肝心の「カラーの絵柄付きマンホール」が見つからない。
ちょっと休憩
なお、マンホールウォッチングは、そのまま街ウォッチングにもなる。今回、一番インパクトがあったのは下のバーだ。
「俺.com」
入りたいような入りたくないような。女性店主がやっている姉妹店「私.com」もあるのだろうか。
そのまま南口に回って少し歩くと、おお、ありましたよ!
いきなり2つも!
「これですよ、我々が探し求めていたものは」とマスター。先ほど見つけた車人形のカラー版だった。
圧倒的な華やかさ
奥のものはカラーリングが違った
興奮気味にシャッターを押すマスター
ところで、なぜ色なしと色付きがあるのだろうか。八王子市役所の下水道課に聞いてみた。
──南口のカラーの絵柄付きマンホールはいつごろ設置されたんですか?
南口の再開発に合わせてなので、平成21年ですね。
──なぜ、ここだけカラーにしたんでしょうか?
詳しくはわかりませんが、再開発ということで目を引くデザインにしたかったのではないでしょうか。
──やはり、お値段もお高いんでしょう?
このタイプだと、無色のものは蓋と受け枠のセットで約6万円から9万円です。カラーは特注となるので、それよりかなり高くなると聞いています。
「気にしたことなかったなあ。こんど見てみるよ」
いずれにせよ、目的は達成した。日はまだ高いがマスターと祝杯を上げよう。向かったのは、道路を挟んですぐの昼からやっている銘店街「八王子ロマン地下」。「酒処 きずな」という店に入った。
マンホールに乾杯
ご主人に聞いてみた。「道路の向こう側にカラーの絵柄付きマンホールがあるのをご存じですか?」
「気にしたことなかったなあ。こんど見てみるよ」
気のいいご主人だったが、営業時間が午前11時から0時まで、客がいれば2時、3時になることも、朝は仕入れもある──というので、ひたすら体が心配になった。
その後、立川と国分寺の駅周辺も巡ってみたところ、どちらにもカラーマンホールがあった。
色なし(立川 ※市花はコブシ)
色付き
色なし(国分寺 ※市花はサツキ)
色付き
マンホールをイメージしたお酒を作って下さい
ところで、マンホールマスターの本業だが、じつはバーのマスターなのだ。そこで、最後にお願いした。マンホールをイメージしたお酒を作って下さい。
高円寺のBar葉蔵
「マンホールですね。わかりました」
さすが、マンホール好きだけあって話が早い。
真剣な表情でマンホールと向き合う
「こちらが、マンホールです」
「うまい!」
焼酎をコーヒーで割って、少し炭酸を加えたという。
「マンホールの下に流れているいろんなものをコーヒーで表しました。さらに、それが発酵した状態が炭酸です」
文字にするとややキツいが、味は本当においしい。お酒を飲みたいけどコーヒーも…という時に最適だ。「メニューに加えたらどうですか?」と言うと「加えません」とのことだった。
マンホールだけに奥が深い世界
マンホールの蓋が総じて丸いのは、「定幅図形なのでズレても落ちない」「転がして運べる」などの理由があるようだ。いずれにせよ、マンホール好きと巡るマンホールの旅は楽しかった。マンホールだけに奥が深い世界である。「マンホールのような人だね」。いつか、そんな風に言われてみたい。