ナス、ブロッコリー、ミョウガなどを購入
彼が最後に料理をしたのは3年前だ。「カレーダイエットをやろうと思って作ってみたんです。でも、引っ越してからは冷蔵庫もなくて。あと、自分の料理を人に食べさせるのは初めてかも」。
スーパーの前で待ち合わせた。
達人、よろしくお願いします
彼は、ふだん外食オンリーである。とくに、ラーメンと肉が好物だ。「最近食べた料理は?」と聞くと、こんな写真が送られてきた。
ラーメン屋の坦々麺
会社の売店で売っている弁当
パスタ。本当に作れるのだろうか。やがて、食材を買い終えた達人がスーパーから出てきた。
こんなかんじでいきます
買った食材はナス、ブロッコリー、ミョウガ、シーチキン、そして乾麺。なかなか微妙な取り合わせである。
締めて763円
ミョウガの使い方はわからないが、何となく春らしいイメージだったので買ってみたそうだ。
ミョウガの断面に感銘を受ける達人
いよいよ、調理開始だ。あらかじめ用意したエプロンを渡すと、はにかみながらも若干嬉しそうに着てくれた。
では、始めます
3年ぶりの入刀にキッチンの空気が張りつめる
次にミョウガを切りながら達人が言った。「へえー、きれいな断面なんですね。初めて見ました」。
たしかに、こういう切り方はあまりしない
塩は後から目分量で
ブロッコリーを茹でるか否かでさんざん逡巡した挙げ句、「茹でよう」とつぶやいて鍋に投入した。
茹で上がる
ナスのへたをそっと取り除く
次に達人は熱したフライパンに油を敷くと、おもむろにブロッコリーの切れ端を入れた。理由を聞くと、「油の温度を確かめるんです」。達人としての勘が冴えわたる。
プロっぽいテクニック
「ジュッ」という音を聞くと、深く頷いて野菜を入れた。
ざるの中でのびゆく麺が気になるところだが…
火力の微調整もお手のもの
ここで、ナスのへたも混じっていることに気づき、達人にその旨を告げる。「あっ、間違えました」。
そっと取り除く
野菜を炒めたのちにパスタを投入。最後にシーチキンを入れたら完成は近い。
隠し味みたいなもんです
「春のうきうきパスタ ナスの生焼け風」完成
さて、「テキトー料理の達人」による人生初パスタが完成した。
じゃーん
これが、初めて作ったとは思えない、ふつうにおいしそうな一品なのだ。さすが達人と言わざるを得ない。
いただきます
おお、味つけはなかなかいいし、シーチキンのアクセントも効いている。ナスが生焼けなのと麺がパサッとして焼きそばっぽくなっているのが若干引っかかるが、おいしいですよ、達人。
自身でも食べてもらって感想を聞く。「イメージよりちょっと塩が足りないかな。60点ぐらいですね」。
完食
今回の料理に名前を付けるとしたら? 「じゃあ、『春のうきうきパスタ ナスの生焼け風』で」。
達人にとってパスタとは? 「うーん、塩加減です」。
同じ食材でプロにパスタを作ってもらう
この後、「食材の取り合わせに無理があったかなあ」と首をひねる達人を、とあるお店にお連れした。
高円寺にオープンして7年。イタリアンの名店として名高い、「バール タッチョモ」だ。
嬉しい外飲み席も
出迎えてくれたのは、店長の秋元貴明さん(36歳)。料理人歴18年のベテランシェフである。
好きなパスタはプッタネスカです
同じ食材を渡して、「イタリアンの達人」にパスタを作ってもらおうという寸法だ。「ミョウガはちょっと難しいですね」と笑いながら、手際よく調理を始める店長。
ナスの切り方もお洒落
この食材に加えて、ディルというフレッシュハーブ、鷹の爪、にんにく、カットトマト、アンチョビ、白身魚のアラだしも使いたいという。プロならではのアレンジだ。
オイルと水分をよく混ぜるのが大事
ミョウガは味の主張が強いので水にさらしておく
他にも、「オリーブオイルににんにくの香りをよく移す」「ナスは常に動かしながら炒めるときれいな焼き目が付く」「ブロッコリーは麺を上げる1分前ぐらいに投入」などのコツを教えてくれた。
パスタとは「オイルと水分のバランス」
そうこうするうちに、「イタリアンの達人」によるパスタが完成した。
お待たせしました
じゃじゃーん
「白身魚のアラだしがアクセントになって、ディルとミョウガでさっぱりとした味わい。『初夏のさわやかな大人パスタ』というイメージです」
まずは、「テキトー料理の達人」が試食する。
めっちゃおいしいです
たしかに…すごい
食材とソースのハーモニーが絶妙である。そして、1袋100円の安い麺でも本格派の味になることにも驚いた。
店長にとって、パスタとは? 「うーん、オイルと水分のバランスですね」。
ちなみに、こう見えて自宅ではまったく料理をしないそうだ。「冷蔵庫すらありませんから」。両達人の主義が合致した瞬間だった。
「パスタ前」と「パスタ後」の世界
かくして、「テキトー料理の達人」の初パスタ調理体験が終わった。料理の世界は奥が深い。「『パスタ前』と『パスタ後』では、世界がまるで変わって見えますね」。彼はそうつぶやくと、残った食材を手に下げて晴れ晴れとした顔で帰っていった。