特集 2013年10月31日

書き出し小説大賞・第35回秀作発表

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書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)
雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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書き出し小説秀作発表第三十五回目である。

明日はハロウィンだそうである。また奇妙な西洋の風習が定着してしまった。ハロウィンで言う「トリックオアトリート」とは「お菓子をくれないとイタズラするぞ」という意味だそうである。明らかに強迫である。日本はおもてなしの国である。せめて「和菓子などいただけましたら玄関先の掃除でもさせていだきます」くらいの謙虚さが欲しい。それでは今回も奥ゆかしい書き出し作家たちの秀作をご紹介いたします。

書き出し自由部門

かゆい、というのは、どうしてこんなにまぬけなんだろう。
xissa
情熱と冷静のあいだ。
戦地から帰還すると、新作は準新作へと張り替えられていた。
TOKUNAGA
戦地に行ってから借りるんだった。>
思い切りブランコを漕ぐと、爆撃機の編隊と自転車の吉村が交互に目に飛び込んできた。
TOKUNAGA
視界の落差!
私は出世できた。モンスターを倒す体力も、モンスターを育てる優しさもなかったおかげで。
ふみ
得てしてそういうものかもしれない。
博士は捨て犬に点Pと名付け、首に鎖をつけ杭につないだ。
黒船鬼太郎
鎖を半径rとすると……
キンモクセイだけを嗅ぎたいのに、銀杏が肩を組んでくる。
義ん母
金(モクセイ)さん銀(杏)さん
カフカに倣い、私は引きこもりの兄に林檎をぶつけた。
夏猫
もう!ザムザ兄ちゃん!
スタジオで出番を待つ間、「黄金の廊下」というバンド名の由来について二度説明しなくてはならなかった。
空想庭園
「で・す・か・ら~~っ!」
胸にチョコレートの心臓を埋め込むと、我が愛しのロザリーは百年越しの呼吸を始めた。
ZERU
甘菓子風伝奇ロマン。
検索窓にピンクのカーテンをつけた家内は「可愛い言葉しか検索しないでよ」と甘えながら言ってきた。
松っこ
状況な見えないがイチャついてるのは分かった。
彼女はプレパラートをひと舐めし、弄ぶような手つきで対物レンズを上げ下げした。彼女が "しぼり" に手をかけようとしたときには、その場に居た男子生徒は皆限界に達していた。
りっちゃん
ああん、僕の細胞膜が……っ!
虫刺されがハートの形に膨れたのを機に、光生は禁じていた自涜を再開した。
小夜子
抒情豊かな自涜ネタ。
ねえ。あの日、あの2人用の顔ハメの前を通りかからなかったら、私たち今でも仲良し3人組でいられたのかな。そう言って彼女は涙を落とした。
chiko
無意識に順列が出てしまった。
眼鏡拭きをベランダに干したところで、目が覚めた。
らんぐあげ
なぜか汗びっしょり。
祖父のお葬式はプロジェクションマッピングを使った簡素な形式のものだった。
ヒロエトオル
未来を予見!

今回もバラエティに富んだ秀作が集まった。

TOKUNAGA氏の作品は両作品とも語り手の視界が追体験できる。準新作の作品は「静」ブランコの作品はダイナミックな「動」のビジョン。ふみ氏の作品にはゲーム世代の処世術がうかがえる。黒船鬼太郎氏の作品は理系の秀作。義ん母氏、嗅覚に訴えつつ季語も入っているとう見事な作品。松っこ氏の「検索窓にピンクのカーテン」という発想はどこから来たのであろうか。にわかにはイメージできないながら、それが全体の文意には適っているという絶妙な作品である。ヒロエトオル氏の作品、ありえる近未来。冠婚葬祭におけるテクノロジーに生じる「マヌケさ」をずばり言い当てた。

それでは今回の規定部門、モチーフは「鉄道」であった。書き出し鉄道マニア(書き鉄)たちの作品を早速ご紹介しよう。

規定部門 モチーフ「鉄道」

通過列車の窓が8mmフィルムのように僕を映した。
大伴
見事な比喩。
彼女と一緒に乗る電車がのぼりで、一人で乗る電車がくだりだ。
もんぜん
彼女が降りればのぼりもくだり。
私の心のざわめきに合わせ、地下鉄の穴が無音を響かせている。
merumo
ゴォォォーーー……
がたんと揺れた電車の中、眠ったふりで最寄駅をやり過ごす。一気に人が減った車内からは同じ制服はすべて消えていた。
夏目
そっくり親子がひと組だけ。
私はその日、日帰りの家出を決行した。夜と朝の狭間のホームで始発を待つ。
けーと
「日帰りの家出」がいい。
ハトが乗り、次で降りた。
哲ロマ
見事な間。童謡の一節にも感じる。
前のシートが回転し、座っていた猿の親子と向き合った。
おかめちゃん
バナナくれた。
電車に乗ってすぐ、車内モニターでクイズの答えだけを見た。
紀野珍
そこから問題を推測。
「出発進行」とつぶやいてから、父は毎日洗濯機を回す。
ウチボリ
ポケットの中を指さし確認。
昨日の右腕はまだ、白線の内側にあった。
義ん母
超短ホラー。鮮やか。
「終電がなくなりそう」と言って彼の肩に頭を預けると、彼はズボンのポケットからダイヤグラムを取り出した。
おかめちゃん
い・け・ずぅ~
役目を終える列車に、多くの撮り鉄たちがシャッターを切っている。そんな中、列車にやさしく問いかけ始めた青年に、私は目を奪われていた。
おどげっつぁん
語り鉄?
窓ガラスに映る自分の顔を見ながら、1小節しか思い出せない歌をずっと歌っている。
xissa
あなたのループソングは?
乗客の数だけ性癖がある。
TOKUNAGA
痴漢ばかりが変態ではない。
リニアがトンネルを抜けるとそこは名古屋だった。口の中に放り込んだホタテの貝柱はまだ固いままだ。
あだんそん
ほぐれる頃には新大阪。
「送っていくよ」にえくぼを見せて断るあの子は、改札を抜けてからこちらを振り返ったことがない。僕が塩の柱になるからなんだと思う。
撫でない子
彼女の思いやりは僕の思い込み。
運転士が消え、車掌が消え、そしてついに線路が消えた。もうどこへでも、行ける。
実話
見下ろせば街灯り。
夕暮れをためて透ける、少し伸びた坊主をみている裏でアナウンスが流れる。私は実家の庭先で吠えるあいつを思い出していた。
MEIA
少し伸びた坊主頭に金色の縁取り。
幽霊列車が、旅行社の旗をなびかせて、黄泉比良坂をゆっくりと登ってゆく。ネズミのチッチが、嬉しそうに笑う。
ボーフラ
怪奇ファンタジーな世界観。
マッチョに寄りかかり、起きてはまたマッチョに寄りかかりを繰り返していると、目の前に座る別のマッチョが席を譲ってくれた。
炎の文房具屋さん
マッチョ専用車両。

今回のモチーフではマニアックな鉄道ネタが集まるのではと予想したが、そうでもなかった。しかし常連組から最近の新人さんまで、鉄道にまつわる日常の風景や抒情を感じさせる作品、またネタもの、フィクションとしてよくできた作品など幅広い秀作が集まった。

大伴氏の作品、見事な比喩はそこから読み手のあらゆる記憶と感覚を呼び起こす。もんぜん氏の作品もそれだけで語り手の恋慕とふたりの距離感を表した秀作。夏目氏の作品は実はこの後にも続く文章があったが「同じ制服はすべて消えていた」が印象的で以降を削らせてもらった。これでも充分成立すると思う。哲ロマ氏、ミニマムな笑いに成功した。おかめちゃん氏の二作品は爆笑ネタと微笑ネタで実力を見せつける。ウチボリ氏、父のキャラが最高。あだんそん氏、時間経過をホタテの貝柱で表現した時点で勝利。撫でない子氏の作品、過不足ない一文に多くのテクニックが詰まっている。最後の「塩の柱」もキマっている。MEIA氏「夕暮れをためて透ける少し伸びた坊主」のレトリックに巧さを感じさせる。炎の文房具屋さん氏、今回一番笑わせてもらいました。

では次回のモチーフを発表する。
次回モチーフ
理系
ここ数年、幅広いジャンルの小説で理系的なキャラや文体、また物語が流行っている。ネット、ケータイ、ゲームなど現代の住環境を顧みると当然かもしれない。これまでの書き出し小説にもいくつかそういった作品はあったが、今回は意識的に募集してみようと思う。とは言っても内容の論理性や厳密さを競うものではない。今回の自由部門で選んだ黒船鬼太郎氏の作品のように、なにかしら作品に中に理系的なノリ、ニュアンスが含まれていればオッケーである。それはキャラであってもいいし、状況であってもいいし、文章全体の構成であってもいい。従来の文系作品とはまた違ったクールで新鮮味のある作品に期待する。

今回募集期間はいつもより長く締め切りは11月13日の正午、発表は11月15日を予定している。下の投稿フォームから自由部門、規定部門を選択し応募して欲しい。力作待ってます!

最終選考通過者

かりを/アイアイ/ねもっ血風クン/suzukishika/wabisuke/上田羊/もけもけ/のだ/ミミズグチュグチュ/なんちゃって菓子屋/とこま/ヨ太郎/TL125/ゴロ/みつる/七天抜刀/武者大路/ぬけさく/じゃいこっち/ウウタルレロ/ZERU/ババア伝説/チャハン/
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