おじいちゃんたちはよく花の写真を撮っている。それは、年を取って性欲がなくなると花がきれいに見えるから、という話を聞いた。ということは、おじいちゃんたちにとって花はセクシーの対象なのではないだろうか。グラビアアイドルに取って代わるもの、それが花なのかもしれない。
おじいちゃんにとって花はセクシーなのか?
おじいちゃんになりきって花にアプローチをかけてみることにした。
シンプル・イズ・ベストをモットーに日々精進中。旅先では早起きをして、その街のゴミ収集の様子を観察するのが好き。
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おじいちゃんのコスプレをする
おじいちゃんになりきるためには、おじいちゃんっぽい格好をしないといけない。
イメージでは、
・帽子を被っている。
・ポロシャツを好む。
・ポロシャツはズボンの中に入れる。
といったポイントが考えられる。
先日見かけたおじいちゃんの団体も、大体そのポイントを押さえていた。
おじいちゃんたち。全員帽子を被っている
このようなおじいちゃんの格好を目指すために、私とミスター林は三軒茶屋で待ち合わせをした。三軒茶屋のSEIYUでおじいちゃんっぽい洋服を探すのだ。
おじいちゃんになる前のミスター林
目指すは3階紳士ファッションのフロア
おじいちゃんたちが買い物をしていたら、どういう服を選ぶのか参考にしようと考えていた。しかし、私たちの他に客の姿はなく、自分たちのイメージで洋服を探さなければならない。
おじいちゃんの気持ちになって、紳士ファッションのフロアを物色した。
いい感じだけど、少し派手か
ああでもない、こうでもないと2人で検討を重ねた結果、次のような格好が完成した。
ミスター林じいさん
淡い色のポロシャツにループタイをあしらうスタイル。もちろんポロシャツはズボンの中にインしている。そして、熱中症対策としてタオルを頭に巻き、首にかけたニコンの一眼レフカメラもおじいちゃんには欠かせないアイテムである。
サントスじいさん
ミスター林と色違いのポロシャツを着用。ループタイとタオルはお揃いだが、タオルを腰にかけることで差別化をはかった。バミューダパンツの中にポロシャツをインさせて、ベージュのハイソックスを着用。全体的に淡い色でまとまってしまったので、エンジ色の帽子で引き締め効果を狙っている。
こうして、私たちはおじいちゃんになった。
ここからは心もおじいちゃんになりきって、花にアプローチをかけていく。
おじいちゃんになって花を撮ろう
私たちは三軒茶屋のSEIYUから世田谷公園に場所を移動した。公園に行けば花があるじゃろう。
花を植え替えました
目論み通り、世田谷公園には素敵なお花畑があった。「花を植え替えました」と看板に書いてある。8月ぐらいまでが見ごろで、次回の植え替えは9月の予定だそうだ。植わっている花の名前も丁寧に書いてある。「インパチェンス、ジニア、ニチニチソウ、ペチュニア、メランポジウム」。これらの花の名前が、おじいちゃんにはグラビアアイドルの名前のように見えるのだろう。そう意識すると、「インパチェンス」は「インリン・オブ・ジョイトイ」と見えなくもない。インしか合っていないが。
話が逸れて申し訳ないが、久しぶりにインリン・オブ・ジョイトイのことを思い出して検索をかけたらこんな子守唄が出て来た。
http://youtu.be/g59Yx0iEvYk
エロテロリストとして一世を風靡したインリンも、今や一児の母なのだ。インリンが歌う子守唄を聞きながら、かつてのM字開脚にしばし思いを馳せる。
いや、インリンのことはいいのだ。
目の前に広がるお花畑にカメラを向けよう。
まずは、ミスター林じいさんが、メランポジウムにアプローチをかけた。
メランボジウムを激写する林じいさん
身を乗り出して被写体に迫る林じいさん
おじいちゃんになったミスター林が、無言でファインダーをのぞいている。ファインダー越しに見える世界はどう見えるのだろう? 甘美な世界が広がっているのだろうか?
終始無言のまま、ミスター林が撮影したメランポジウムがこれだ。
『生命力・夏』 by 林じいさん
黄色いメランポジウムたちの強い生命力がじわじわと伝わってくる1枚である。背景に控える惚けたメランポジウムたちが、その生命力に色気を添えているのが分かる。
ミスター林の1枚を受けて、私もお花畑にカメラを向けた。
撮影にはマスクが邪魔
素顔でお花畑を激写
ミスター林がメンポジウムをモチーフに選んだので、私はニチニチソウをメインに撮影することにした。薄紫色のニチニチソウには、メランポジウムにない大人の色気を期待したい。
『それでも咲き続ける』 by サントスじいさん
先ほどのメランポジウムと比べると、少し弱って見える薄紫のニチニチソウたち。酸いも甘いも知った女性の、その疲れた横顔にふと見え隠れするセクシー。そんな色気を写し出すことに成功したと思っている。
水周りもセクシーなのでは
お花畑で撮影をしていると小さな虫が沢山寄ってくることに気づき、私たちは撮影場所を移動した。世田谷公園には大きな噴水があるのだ。
ミスター林がカメラを構えて水場に近づいていく。
水場に近づくミスター林
おじいちゃんの格好になってから、2人とも動きがおじいちゃんっぽくなっていることに気づく。腰を屈めゆっくりと水場に近づくミスター林の姿は、おじいちゃんのようでありコソ泥のようでもある。頭に巻いたタオルがほっかむりに見えるからだろう。
そんな林じいさんが撮影した1枚がこれだ。
『夏の終わり・そして輪廻』 by 林じいさん
夏の強い日差しに照らされた水面に静かに浮かぶ蝉の死骸。熱く激しかった季節の終わりを予感させる1枚である。情熱的な恋は一度終わりを迎えるが、その後にはやがて実りの秋がやって来る。
生きろ! そして、恋をしろ。
オッケー。
私も水場にカメラを向けよう。
アグレッシブなスタイルで
ミスター林の「生きろ!」というメッセージに感化されて、アグレッシブな撮影スタイルで水場にのぞんでみた。この水場から伝わるセクシーは、どんな様子だろう?
『ほとばしる』 by サントスじいさん
溢れるばかりの衝動を押さえようとするけどほとばしってしまった。そんな瞬間を激写した。
荒削りで、不器用で、時に乱暴だけど、それでも愛する気持ちだけは純粋で。そんな甘酸っぱい恋の初心者を象徴したつもりだ。
私の「ほとばしる」を受けて、ミスター林もシャッターを押す。
『たぎる』 by 林じいさん
もう押さえきれない。青春の血潮が一気にたぎった瞬間をとらえた1枚だ。
アグレッシブの代償
アグレッシブな撮影スタイルを選択したことで、腰から膝にかけて激痛が走った。イタタタ、と思わず声がこぼれてしまう。本当のおじいちゃんになったら、このような腰や膝の痛みが日常的になるのだろう。それはそれで気が重いが、とりあえず今、変な格好で撮影をしたことを大いに悔やむ。
そんな私の姿を見かねたミスター林G3(じーさん)が、少し休みましょうと声をかけてくれた。体にまとわりつくような蒸し暑さが限界に達していたので、私もその提案に乗った。
私たちは撮影会を一旦中止して、水辺に腰掛ける。
おじいちゃんになった2人の姿を記念撮影しましょう、と林G3がカメラのタイマーのスイッチを押す。しばらく待つがなかなかシャッターが降りない。無言でカメラに向かいシャッターが降りるのを待つ。シャッターが降りない。ずっと無言。
おかしいな、と林G3がカメラに手を伸ばした瞬間、カシャッとシャッターが降りた。
セルフタイマーとのタイミングが合わない
機械とのタイミングが合わず、なかなか記念撮影が出来ない2人。多分、実際の老後もこうなるのだろう。
2035年、夏
記念撮影のくだりでリアルな老後を垣間みてしまった2人は、噴水を眺めながらそれぞれの思いに浸った。
今日は病院に行く日だったかのう?
わしは明日が病院の日じゃよ
公園の茶屋でひと休み
噴水を眺めているのにも飽きたので、公園の茶屋へと場所を移動した。本格的な休憩を取るためである。
茶屋に向かうと本物のG3が上半身裸で体操をしていた。
本物のG3
その姿を見て、私たちが必要以上に老いを意識し過ぎていたことに気づいた。そうなのだ。今のG3たちは元気なのだ。そういえば、冒頭で紹介したG3の集団もみんな元気だった。猛暑の中、だれる素振りなど全く見せず、颯爽と街を歩いていた。
先ほどちょっとアグレッシブな格好をしただけで体が痛くなった自分を恥ずかしく思う。
先輩G3たち
茶屋には先客として先輩のG3たちがいて、缶コーヒーを飲みながら会話を楽しんでいた。
私は2人分のかき氷を買った。すると、林G3がかき氷にカメラを向ける。
『ブルーハワイ、そして情熱の赤』 by 林G3
すっかりおじいちゃんになりきった林G3は、かき氷にまでセクシーを感じるようになったのだろうか?
私がかき氷をかき込み始めると、再び林G3がカメラのシャッターを切る。
『夏も俺も、これからだ』 by 林G3
『恍惚』 by 林G3
『眉間の皺の数だけ恋がある』 by 林G3
私がかき氷を食べる姿を一心不乱に撮影する林G3。もしかして、私の姿にもセクシーを感じているというのか。
そのことについての言及は避けて、私たちは無言でかき氷を食べ続けた。
『恋をあきらめた訳じゃない』 by サントスG3
かき氷を食べ終えると、私たちは世田谷公園を後にして、おじいちゃんとしてお昼ご飯を食べようと蕎麦屋に入った。
私はもり蕎麦を頼み、
お昼はもり蕎麦
林G3は悩みに悩んだ結果、カツ丼セットを注文した。
カツ丼セットを頼む林G3
今から20年後の自分たちを想像しながら蕎麦をすする。20年はあっという間にやって来るような気がするし、まだまだ長いような気もする。もし、覚えていたら、20年後にあの噴水で同じように記念撮影するのもいいかもしれない。その頃、私や私を取り巻く世の中はどうなっているのだろうか?
などと、センチメンタルな気分に浸りながら蕎麦を食べ終えると、林G3が「やっぱりカツ丼はやめるべきでした。もう胃がもたれてる」と反省していた。
私たちのG3への道は、すでに始まっているのだ。
『胃もたれを感じる夏』 by サントスG3