特集 2013年3月16日

痛くても美味いバゲット調べ

痛くても食べたいバゲットはどれだ。
痛くても食べたいバゲットはどれだ。
小麦粉がものすごく好きだ。うどんやパスタは大好物だし、お好み焼きなら毎日でも食べられる。パンも全般的に美味い。ただ唯一、今まで苦手にしてきた小麦粉食がある。バゲットだ。
口中の粘膜が弱いのか、とにかく硬いバゲットをかじると口の中が傷ついてすぐ血まみれになるのだ。上あごの辺りとか。
しかし、口が傷だらけになるのが避けられないのであれば、せめてダメージを受けてなお食べたいぐらい美味しいバゲットが食べたいのだ。美味いバゲット、どれだ。
1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。(動画インタビュー)

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> 個人サイト イロブン Twitter:tech_k

バゲットを食べ比べに来ました

ということで、無料の公開講座を提供している市民大学『シブヤ大学』で、バゲットを食べ比べる『みんなで、利きバケット!』という授業をすると聞き、お邪魔してみた。
廃校になった原宿中学校の校舎を再利用した施設が会場。
廃校になった原宿中学校の校舎を再利用した施設が会場。
入った瞬間にもうパン屋気分。
入った瞬間にもうパン屋気分。
元中学校の家庭科室に案内されると、すでに室内はパン屋の前を通りかかった時の、ある種暴力的なまでに美味しそうなあの匂いで充ちている。
時刻は14時。事前に「お腹を減らして参加してください」と言われていたので、朝食も抜いているうえに、この匂いだ。この時点でもう口の中のダメージなんかどうでもいいから食べさせてくれ、という気持ちしかない。
今回の講師、平岩高弘さん。
今回の講師、平岩高弘さん。
バゲットの前で笑顔のダンディが、今回の『利きバゲット』の講師の一人、平岩高弘さん。
古くからデイリーポータルZファンの方はもしかしたら見覚えがあるかも知れないが、実は平岩さんはデイリーポータルZをウェブマスター林さんと運営していた元ニフティ社員だ。
いまは別の会社でお勤めだが、ニフティに居た時は、自前で材料を買い込みバゲットサンドを作って職場で振る舞うという、趣味の給食業者のようなことをしていた人である。
現在はその趣味をさらにつきつめて、「Baguette Life」というバゲット情報サイトも運営されている。
パン作りのプロ、田中みなみさん。
パン作りのプロ、田中みなみさん。
平岩さんが食べる側の講師として、もうおひとり、パン技術研究所を出てパン教室を主宰されている田中みなみさんも、パンを作る側の講師としていらしていた。

パン気分盛り上がりまくり

ここにいる全員、空腹とパンの匂いで微妙にそわそわしてる。
ここにいる全員、空腹とパンの匂いで微妙にそわそわしてる。
利きバゲットの受講生20名が席に揃う頃には、机の上のバゲットその他諸々も準備が整っていた。
見た目もサイズもかなり違うバゲットが5種類。平岩さんが厳選したバゲットの美味しい店5件から当日の朝に調達してきた、そりゃもうどう見たって美味いだろうというものばかりだ。
空腹時には辛抱たまらん写真その1。
空腹時には辛抱たまらん写真その1。
辛抱たまらん写真その2。美味そうだが、トゲトゲ部分が結構な凶器にも見える。
辛抱たまらん写真その2。美味そうだが、トゲトゲ部分が結構な凶器にも見える。
AからEまで5種類。見た目も違うが匂いも違う。早く食べ比べたい。
AからEまで5種類。見た目も違うが匂いも違う。早く食べ比べたい。
他には、エビやチーズ、オリーブオイルなど、バゲットと一緒に食べたい食材ベスト5にランクイン確実な魅惑のアイテムが。
このままではそろそろ人間としての尊厳が…的な空腹を抱えたままだが、まだ食べられないのだ。まずはバゲットの基礎知識講座から、である。
ところで、この時のメモを読み返したら、取材中であるにもかかわらず「空気読め」と書き殴ってあった。よほど空腹だったらしい。
バゲットの詳細説明。
バゲットの詳細説明。
このクラスト野郎が口の中を傷つけるのか。(空腹で気が荒い)
このクラスト野郎が口の中を傷つけるのか。(空腹で気が荒い)
スライドでバゲットの名称説明などを説明していただく。クラストが皮の部分で、中の白いふっくらしたところがクラム。クラストのひび割れがクープ。これだけ知ってるだけでもそこそこバゲット通になった気分である。
フランスパンの名称はサイズで決まるので、たとえばバゲットより細ければフルートやフィセル(ひも)という呼び方になり、太ければバタール(中間)やパリジャン(パリッ子)になる、というのも初めて知った。
ところで、僕が最も気になるのはサイズよりもパンの硬さである。
硬ければ硬いほど口の中でささくれてダメージを与えるはずなので、それをなんとかして数値化できないものかと思うのだ。
「パン硬度8かー。もしかしたら怪我するかもなあ」とか「おっ、このパンは硬度3か。それなら気軽にかじれるぞ」とか購入の目安になるではないか。

…という話を基礎講座の最中にぶつけてみたところ、やはり平岩さんも同じようなことを考えたことがあるとのことで、硬さを計測する用の道具をすでに購入されていた。
これが硬さ計測機
これが硬さ計測機
この計測器の先をパンに突き刺し、クラスト(皮)を貫通した時点での力を計測すれば表面の硬さを数値化できるではないか、というアイデアだ。
ただ、パン自体が基本的に柔らかいので、皮を貫通しないままにずぶずぶと計測針が沈み込んで上手に計れなかったとのこと。残念だ。
サイズはノギスで計る。この見た目は食べ物じゃなくて建材っぽい。
サイズはノギスで計る。この見た目は食べ物じゃなくて建材っぽい。

俺より強いバゲットに会いに行く

各種チェック項目。上記に加えて人体への攻撃力も確認しつつ食べたい。
各種チェック項目。上記に加えて人体への攻撃力も確認しつつ食べたい。
座学を終えたら、いよいよ実食である。
ただ食べるだけでは利きバゲットにならないので、講座側で準備していただいたチェックシートに感想や情報を書き込みながらいただく。
まずは食べる前に「見た目の印象」、「クラストとクラムの感じ」などを5段階でチェックする。
まだ食べられないのに、すごい勢いで手が伸びた。
まだ食べられないのに、すごい勢いで手が伸びた。
平岩さんから「じゃ、まずは手触りでクラストの硬さなどチェックしてください」と言われた瞬間、参加者全員がけっこうな勢いで中央のバゲットに手を伸ばした。食べられないのであればせめて感触だけでも、という気持ちなんだと思う。少なくとも僕はそうだった。

次のチェック項目ようやくお待ちかねの、食べてみての評価ポイントだ。
ザクザクと等分作業。高まりまくる期待感。
ザクザクと等分作業。高まりまくる期待感。
あっという間に分断されるバゲット。
あっという間に分断されるバゲット。

決戦の火ぶたは切られた

これが対戦相手だ。
これが対戦相手だ。
無事にカットも終わり、それぞれ5種類のバゲットが配られた。
他の参加者の皆さんはテンションも最高潮だが、僕一人だけが微妙に緊張している。空腹と匂いですっかり忘れていたが、だってこれ食べたら口の中がすごく痛くなるに決まっているのだ。
怪我するのはすでに確定事項なので、あまり晴々ともしていられないだろう。食べるけど。ものすごく美味しそうな匂いがしてるし。

あと、すごく申し訳ないので先にお詫びしておきたいが、ここからしばらくスクロールし続けても、おっさんがおっかなびっくりパンをかじってる写真しか出てこない。本当に申し訳ない。
再度言っておくが、僕は本当に口の中のダメージに弱いのだ。他の参加者の皆さんは美味しそうにサクサク食べておられたので、普通はそういうものだと思う。
やがて来る痛みに対する恐怖で明らかに腰が引けている。
やがて来る痛みに対する恐怖で明らかに腰が引けている。
Round A Fight !
覚悟を決めてかぶりつきます。
覚悟を決めてかぶりつきます。
ちょっと痛いけど、わりと大丈夫!そして美味い!
ちょっと痛いけど、わりと大丈夫!そして美味い!
Aのバゲット、思っていたほどは硬くない!クープ(ひび割れ)の部分で少し上あごを削った感じだけど、さほどダメージはない。
あと、中がしっとりもっちりしていて、かなり食べやすい。空腹なのはもちろんあるだろうが、するするといくらでも入りそうな味。いきなり美味しいのに当たった感じだ。
Round B Fight !
さっきよりは気楽にかじれるようになりました。
さっきよりは気楽にかじれるようになりました。
あ。痛い。いまぜったい口の中切った。
あ。痛い。いまぜったい口の中切った。
いやでも美味い美味い。これすごい美味いって。
いやでも美味い美味い。これすごい美味いって。
BのバゲットはAよりも少しザクっと硬い。あと、クラストのざらざら感が強い。その分だけ攻撃力も強いのだろう。あきらかにAより痛い。
しかし、それもすぐ気にならなくなるぐらい美味い。クラムはふっくらしてるし、なにより小麦粉の味と香りの強さにビックリした。これはバターとか塗らずにそのまま食べたい美味さだ。
Round C Fight !
どう見ても「痛いの怖い」という顔だ。
どう見ても「痛いの怖い」という顔だ。
ふんふん、さっきぐらいの痛さだな(ちょっと慣れた)
ふんふん、さっきぐらいの痛さだな(ちょっと慣れた)
硬さに関しては、このCのバゲットの方がBよりも上。が、普通のバゲットより細めサイズなのが有効だったのか、口中のダメージはそんなでもない。あと、表面がちょっとなめらかなのも食べやすい。
クラストの部分が特に味が濃い感じ。カリカリサクサクしていて、この食感が好きな人はたまらないんじゃないだろうか。
Round D Fight !
Dのバゲットは最初から刺さりそうでだいぶ怖かった。
Dのバゲットは最初から刺さりそうでだいぶ怖かった。
予想通りの激痛。気分的には「香ばしいやすり」を食べてる感じ。
予想通りの激痛。気分的には「香ばしいやすり」を食べてる感じ。
Dのバゲットは見た目通り、香ばしさ優先の味わいだった。C以上に硬くてザクッとした歯応えで、ここまでくると僕は正直あまり好きではないタイプだった。
Round E Fight !
最後の一つということで、もう痛いのはしょうがないという諦観。
最後の一つということで、もう痛いのはしょうがないという諦観。
ラストに来た!超痛いけど超美味いヤツ!
ラストに来た!超痛いけど超美味いヤツ!
クープが激しく割れてないので油断していたが、表面の硬さはこれが一番だった。それに対してクラムの柔らかさもこれが一番だったので、噛むごとにパリパリしたクラストが硬くて薄い刃みたいになって口中で暴れまくった。主に上あごがダメージ甚大。あと、舌もちょっと傷がついたっぽい。
しかし、しっとりしたクラムにうっすらと酸味があって、複雑な味がする。これはバターと合わせると痛みなんか気にならないぐらい夢中で食える。
さっきまでは「Bのバゲットが圧勝かなー」と思っていたが、勝負は分からなくなってきた。
食べながら、自分の感想をチェックシートに記入していく。
食べながら、自分の感想をチェックシートに記入していく。

さらに美味しくいただくために

いろいろ出てきた。
いろいろ出てきた。
バゲット自体の味を確認するために「バター無し」と「バター有り」だけでシンプルにもぐもぐかじっていたのだが、5種類が一巡した頃合いで、冷蔵庫から美味そうなモノが次々と出てきた。
これも乗せて食べて良いと言われた瞬間に、参加者の皆さんから「ヴォオ」という聞き慣れないどよめきが起きた。バターだけでも美味しかったんだけど、それでもたぶん、みんな色々と乗せて食べたかったのだ。
ここから先はもう利きバゲットではない。もはや単なるパン祭りである。
パン祭にて大フィーバーの巻。
パン祭にて大フィーバーの巻。
盛り上がりすぎて、聞いてない。
盛り上がりすぎて、聞いてない。
タマゴマヨネーズやクリームチーズ、ハムに野菜、ツナマヨ、タプナード(オリーブとアンチョビのペースト)などを組み合わせて「ぼくのわたしの考えた最強バゲットサンド」を作る遊びが大流行である。
最初にバゲットの味を確認しているので、Cのバゲットの味にはこの具が合うんじゃないか、とか、Eのバゲットはこれとこれを乗せたらより美味くなるはずだ、みたいなマッチングの妙がテーブルのあちこちで生み出されていたのがすごく面白かった。全員、バゲットの達人っぽい。
いいバゲットオブザイヤー。
いいバゲットオブザイヤー。
基本的にまずいという概念が存在しない食べ物。
基本的にまずいという概念が存在しない食べ物。
美味いんですが、トマトが口の中の傷に沁みてます。
美味いんですが、トマトが口の中の傷に沁みてます。

答え合わせもしておく

ろくろを回しているように見えるが、実はバゲットを抱えている図。
ろくろを回しているように見えるが、実はバゲットを抱えている図。
我々参加者がパン祭りで盛り上がっている間にチェックシートが回収され、どのバケットが人気だったかなどの集計が行われていた。
で、まずはA~Eのバゲットがどのお店のものだったのかの答え発表である。
!
A…渋谷『VIRON』
B…武蔵小山『nemo Bakery&Cafe
C…参宮橋『LA SAISON
D…広尾『SAWAMURA
E…三軒茶屋『LA TERRE
どれもバゲットの名店として知られるお店だそうで、平岩さんから店名が発表されると、「ああ、あそこだったかー」「食べたことあったのに」というような声も聞かれた。
恥ずかしながらバゲットを避けてきた身としてはどのお店も知らなかったのだが、とりあえず今後自分がバゲットが食べたくなったらBとEのお店に買いに行けば満足できると思う。僕が痛くても食べたいのはこの2つだ。

あとは、参加者の好みのバゲットの集計結果もこの場で発表された。
バターなしならこの結果。
バターなしならこの結果。
バターをつけると結果が大きく変わってくる。
バターをつけると結果が大きく変わってくる。
最終的にトータルでこんな感じ。
最終的にトータルでこんな感じ。
バターの有る無しでがらっと評価が変わるのは面白い。
「好きなバゲットを3つ選ぶとすると」という問いに対して、今回の参加者の皆さんは、AのVIRONとDのSAWAMURAに高評価を寄せていた。
これらの結果を合わせて分かることは、やはり皆さん、僕ほど口の中の痛みに弱くない、ということだ。
最後はみんなでバゲットを手に記念撮影。
最後はみんなでバゲットを手に記念撮影。

取材もしました、というアリバイ写真
取材もしました、というアリバイ写真
食べてるばかりでは記事にしにくいな、ということで、ちゃんと平岩さんにお話も聞いていた。
ただ、その話の大半は「パン屋さんに行ってどんなことを喋ったらバゲット通っぽく見えますか?」とか記事にするとびっくりするぐらい頭の悪くみえそうな内容だったので、今回は全面的にカットすることになった。
ちなみにそこに関しては「一次発酵の時間を聞くとプロっぽいよ」「バゲットを引きちぎった時の手応えを、このバゲットは引きが強いね、と表現するとツウな感じ」と良さげな言葉を教えてもらったので、これは個人的にパン屋で使おうと思う。

今回の授業を開催したシブヤ大学では、他にも様々な授業を開催しています。興味のある方はこちらもチェックすることをオススメします。

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