木彫りの地味さ
観光地のおみやげにありがちな木彫りの人形。そんなに需要があるのか、みやげ屋には大きいのから小さいのまで(なぜか)揃ったりしている。
そんな単なるみやげ屋の賑やかしかと思っていた木彫りだが、部屋を探したらひとつあった。日光みやげの木彫りの三猿。
これは日光の。手で掘ったのだろうか、結構細かい。
高さ5センチに満たないかなり小さな木彫りではあるが、かなり細かい細工が施されている。いかにも日光のお土産だ。なんかふつうだなあという感じだ。
ポーランドみやげ
これは僕がポーランドに行ってきたときのお土産。どこがポーランドと関係あるのかは未だにわからないが、多分現地ではめでたいモチーフなのだろう。
日光の三猿と比べて、ざっくりとした彫り具合だ。しかも木彫りなのに絵の具がべっとり塗られて木目が一切出てない。木彫りの新しいパラダイムと言うべきか。
これで確かひとつ600円くらいはずだ。高いと思いながら買ってしまった。
買っちゃいましたね
しかも6つ買った。人にあげるつもりで買ったが、結局惜しくなって全部所持している。僕の中で彼らは家族という設定。
翻って、先日ギリシャに旅行に行った人からも木彫りのお土産を貰った。今度は犬だ。
ギリシャみやげの木彫りのパチンコ
一体なぜこの有り様に…
またもやざっくりとした彫り具合。細かいところはペンで書いてごまかしてあるのが高度だ。これがヨーロッパ木彫りのスタンダードか。これも6ユーロ(600円くらい)と結構する。
木彫りなんて…とバカにしていたが、もしかしたら、この木彫りのみやげというのは密かに売れまくっているのかもしれないという気がしてきた。木彫りビジネスに手を染めたい。
木彫る
ポーランドのひよこもギリシャの犬も「こんなのオレでも彫れるだろ!」という思わされる、挑発的な大雑把さだ。
何も知らないくせに批評してはいけない。できるだろと思ってしまった自分に責任を取るべく、切り出しナイフと木材を買ってきた。
切り出しナイフを購入
力山という名前が力強い
切り出しナイフを使うのははじめてだ。丁寧に「力山」という名前も刻印されている。装備すると「ちから」が20%アップしそうな気がする、理由もなく力強そうな名前だ。
学生時代に使った彫刻刀は、使い出すとどんどん細かい作業になってしまいそうなので、今回は切り出しナイフを用いた一刀彫りにすることにする。
3種類あれば大丈夫だろう
作るものを決めていなかったので、何もかもわからずいろいろな木を揃えた。ゆくゆくはビジネスに繋げてつもりなので安い方から使おう。
目指すは洋風木彫り
前のページで見たヨーロッパみやげの木彫りの良さをまとめると、大胆な彫り具合と色使いだろう。本当にそれがヨーロッパスタイルなのかは知らないが、日本のように細かく彫られてるのがすごい!という価値観はそこに見られない(ので僕にもできそうだ)。
というわけでまずは檜材をのこぎりで適当な大きさに切る。あんまり大きいと彫るのが大変そうだからだ。言い換えると、なんとなくだ。
のこぎりで切ると
なんか見たことある形になった
で、なんとなくのこぎりで切ってみると、スマートフォンと同じくらいのサイズになった。そうかスマートフォンか。
行き当たりばったりだが、簡単そうなので木彫りフォーンを作ることにした。
角を落とす
ものの数分でできた
完成した。彫る、と言っても角を少し落としただけだ。造作も無い。握ってみると、掌に馴染む。もうこれ以上は彫らなくていい、という気がしてくる。ただものぐさなだけじゃない。
ただこれだけだとスマートな木の板に過ぎないので、ヨーロッパ式木彫りに習って、色をつけよう。
やすりをかけて
べべっと色をぬる
木彫りフォーン完成
木彫りフォーンが完成した。彫るところより色を付けるほうに時間をかけてしまったくらいだ。木彫り初心者向けの造形と言えよう。
新しい木彫りフォーン
一見、小学生の夏休みの工作かと思う出来だ。しかしヨーロッパの木彫りがアレなのだから、これで十分良くできたほうではないか。
参考にした機種がバレバレなのはさておき、薄目で見るとまるで本物のスマートフォンである。印象派の絵画みたいですね、と言って欲しい。どこにも繋がらないけど、24時間会話は無料だ。
薄目で見ると、某フォーンなのでは
裏のマークは木。あるいは堕カリフラワー。
もうすこしがんばろう
さすがにカラーリングに手間をかけたとはいえ、材木の角を落としただけで木彫りを名乗るのは図々しい。
もう少し彫る手間がかかりそうなモノを……と探すと、ちょうどいい物があった。七味唐辛子のビン。今度はこれに挑戦しよう。
偶然にも同じサイズの材木があったので。
先程と同じように、角を落とすようにして円筒形に削っていく。調子よくシュッシュと削れるのが楽しい。なんてやっていたら調子よく刃先で親指の皮をめくった。血は出なかったがなんかの汁が出た。
キャップの部分は溝のように彫る。くるくると木を回しながら刃を当てていくのが職人のようだ。汁出し職人だ。
さながらミニこけしか
出来上がってみるとこけしのようになった。大雑把な彫刻とポップなカラーリングって、そういえばこけしそのものだなと気がつく。
でも、これから色を付けると七味唐辛子になるはずなのだ。色を付けていく。
絵の具の赤をそのまま塗る
我ながら下手さに驚く
木彫り七味唐辛子
木彫りの七味唐辛子が完成した。当然中から七味が出てくるような細工はされていない。基本はただの木の円柱だ。
字のしょぼさが光る
古代遺跡から発掘された七味のレプリカ…のような不格好さではある。最大の敗因は文字が難しかったこと。なんだか小学生の言い訳みたいだ。
それでも一応、薄目で見ると本物(あるいは模造品)のように見えるはずなので試して欲しい。
フォアグラの一刀彫り
工業的なかっちりしたデザインはけっこう彫りやすい(が、色を塗るのが大変)ということがわかった。今度はもっとぼんやりしたものにしよう。イマジネーションの木彫りだ。
ところで先日はじめてフォアグラを食べた。ジューシーでやわらかく、贅沢な味だった。そんな思い出を材木にぶつけてみるのはどうか。たしかこんな形だった、という記憶があるうちに削っていこう。
唐突ですみません。
木にフォアグラ描いて少し切なくなる
そんな思いを振り切るように削り、彫っていく
ゼロからスタートしたときと比べるとだいぶ慣れてきて、サクサクと進むようになった。心の中を空っぽにして落ち着いて彫る瞬間も出てきた。
仏師の「仏像を彫るのではなく、木の中におられる仏様をお迎えするのだ」という言葉になぞらえるならば、木の中にいるフォアグラ様を救い出すような気分だ。なんなんだそれは。
フォアグラ
フォアグラの削りかす
なんだか記憶よりだいぶ厚く、豪勢なフォアグラなってしまった。ただ色合いを見るとこの時点でかなりフォアグラだ。
このままだと木目が丸出しなので絵の具でカバーしたい。フォアグラの脂っぽさを示すような淡黄色にする。
よりフォアグラへと近づいていくために……
これが木彫りのフォアグラだ
すごくやりきった気持ちになった。思い残すことはない、これが木彫りのフォアグラだ。
ご覧下さい フォアグラです
裏返すと焼き目が付く仕様
かわいい動物で有終の美を飾る
もはや木彫りのフォアグラで頂点を極めた気分でいる僕だったが、一応おみやげにあるような動物の人形も彫ってみたい。
犬のパチンコをよく見ると顔の所は別パーツになっていることに気がついたので、それを真似て動物の人形を作りたい。
サイズは一回り大きめか
こんな感じの猫を彫りたい
ギリシャみやげが犬だったので、モチーフは猫にした。並べたらきっと良い感じだろう。
最後くらいはちょっと複雑なものにチャレンジしたい。
顔を丸く彫っていく
猫といえば目元口元がポイントだろうな
よし……
……
豚になった
フォアグラ以外は無理なのか。
ミケランジェロ先生、ロダン先生、僕にちょっとでいいから彫刻の力を貸してください。
木彫りのフォアグラの第一人者から君たちへ
自分で見て総合的に一番良かったのは木彫りのフォアグラだった。多分木彫りのフォアグラを作ったのは僕がはじめてだろう。時流が向いてきたら木彫りのフォアグラ職人になろうと思う。
確かに木彫りのフォアグラの需要はないかもしれない。だがどんなときも希望を捨ててはいけないのだ。